爪弾く甘い歌声
爪弾く弦の音はリュートの胴にて震え、はるかな思い出の世界を再現する。
私は人間の娘のように時を忘れて楽を楽しむ。ちっぽけな安っぽい思いすら楽しみながら。
……。
……。
私の爪弾く音と彼の甘い声色が重なる。
中々の腕だがこれはどうだろう。少し悪戯に音色に趣向を凝らしてみる。
彼の語り口に合わせて剣戟や酒場の盃が合わさる音を模して靴を鳴らし盃を軽く手に取って叩いて余興としてみた。
彼は難なく私の音に合わせてくる。定命の人間の癖に生意気な腕だ。
まぁ長生きするということは必死さが無いということでもある。
永遠に飽きて習得した私の腕では本職の情感には負ける。心が足りない。
大人しく範奏に回る。彼は私の少々強引な音合わせに理解を示してくれたようだ。
御互いの拘りがぶつかり合い、時には優しく手を取り合い、私たちの音は酒場の盃の打ち鳴らされる音、小さなざわめき、感極まった涙、獣脂の油の焼ける臭い。そして腐った肉の放つ味と混ざっていく。あの時の仲間たちとの喧騒の時代に私の心を誘ってくれる。
そういえば私に楽を教えてくれたのはカリンとシルディールだったな。
前者はヴァイオリンやリュートやギターラ。後者はオカリナやハーモニカ。そして二人ともフルートを得意とした。
ピーターのほうが先と言えば先なのだが当時の私には彼の音についていくことは不可能であったため、之は除外していいだろう。
カリンとシルディールは本当に楽しそうに楽を奏でる娘たちだった。
戯れにフルートを取り出し、音を変えてみる。
複雑な機構を持つ機械の笛は見た目に反した透き通る音を放つ。
詩人は複数の楽器を習得しているが、生涯の寿命の関係で専門とする楽器は一つが定めだ。
要するに彼に敵わないと認めた形になる。悔しいが。
彼もまた予備のカスタネットとタンバリンを出してきた。今度は彼が範奏を担当するつもりらしい。
今度こそ定命の者には負けぬぞと思う人間らしいちっぽけで安っぽい気持ちと、エルフの良い音楽を愛する本来の気持ちが私の中でせめぎ合う。
私たちの音は周囲の香りと溶け込み、人々の涙と微笑みを伴って星々にと捧げられていく。




