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こんなこともあろうかと

 「こんなこともあろうかとこれを用意しました」


 僕は中級魔石を仕込んだスマホを取り出します。


「ぼん! 中級魔石なんてお持ちなんですか!?」


 文官の一人が僕に怒鳴るように言い募る。

 貴族でもない者に中級魔石を与えるのも持つのも禁止されている。

 つまり一般的には犯罪なのだ。


「我が与えた。責任は我にある」

「それを受け取った僕にも罪はあります。ですが今はそれどころではありません。使いますよ、父上」

「ああ、頼む」


 僕はFCSの設定を少し変え、ドローンとともに窓から飛び立たせる。


「みなさんも一旦ドローンを回収してください。中級魔石に換装して、アプリをアップデートするんです!」

「「「「イエス・ユア・ハイネス!!」」」」


 皆が一斉に敬礼し、ドローンを回収し始める。

 そうこうしているうちに僕のドローンが最前線に到着。

 小さくオーク達が見えたところで、FCSが敵を捉える。


「す、すごい!」


 照射時間〇・〇一秒、照射間隔も〇・一秒で同じ。

 だが照射魔力はその約一〇〇〇倍。

 木でできた盾が爆発し、その後に隠れていたオークの頭ごと弾けていく。


「何という威力だ」


 下級魔石による攻撃は殆ど見えなかった。

 まあ、目の中、眼窩で爆発が起きていたからね。

 だがさすが中級魔石。

 威力が違う。

 射程距離も違う。

 その殲滅能力はまさしく桁違い。

 それでも一〇秒あたり九〇体しか倒せない。


「ん? 三千程度なら五分もあれば全滅じゃね?」


 と思ったことが僕にもありました。


「思った以上に魔力の減りが早いですね」


 出力は高いが吸収力まで千倍とはいきませんでしたか。

 魔力は空中に漂っている物を吸収しているから、いくら下級魔石より吸収効率がいいとはいえ、この減り方を見る限りせいぜい数倍から数十倍程度がいいところだろう。

 しかも今は上空を飛んでいるので魔力密度が低くなっている可能性がある。

 生物に近いほど多くの魔力を発しているので、そこから離れるととたんに魔力密度が下がるのだから。


「魔力がどんどんなくなっていきます!」


 アンジェリカが魔力計を見ながら思わず叫ぶ。


「ここまでですかね」


 僕は一旦ドローンを撤退させます。

 その間に他のメンバーもドローンを帰還させたようで、自分の持つ魔導書や魔導具の魔石を外してFCSに換装を始めていた。


「みなさん、急いで! 他の騎士も呼び戻して魔石を順次交換して対応しましょう!!」

「「「はい!」」」


 手際よく魔石を交換し、アップデートを済ませたカイゼル機が窓の外へ飛び出していく。

 次はライアンさんだ。

 流石に現役魔導士爵は手際が良い。

 少し現場から遠ざかっていた先生は少し時間がかかっていたが騎士たちよりは早く終えていた。

 もちろん文官は魔石を持っていないので周囲の警戒や、外に出ている騎士たちなどへの連絡に務める。

 順次攻撃ドローンが窓から飛び出していると、騎士たちが戻ってきた。

 室内が一気に暑苦しくなる。


「魔石を外して、待機していてください!」

「「「はい!」」」

「誰か、俺のも外しておいてくれ!」

「こっちもだ」


 騎士たちはたいてい魔導書と攻撃用の魔導具を持っているからね。

 そうこうしているうちに僕のドローンが帰還。


「誰か魔石を貸してください!」

「おう、これを使え!」


 僕は受け取ったFCS用のスマホの魔石と交換する。


「アンジェリカ、空になった魔石は、誰のかわからなくならないように管理しておいてください!」

「は、はい」


 アンジェリカは手際よくカードを作り、名前を書いてその上に魔石を乗せることで管理することにしたようだ。

 当然そこに置かれた魔石の名前は僕のだね。

 その後もうひとつカードを書いて横に置く。

 今僕に魔石をくれたひとの名前だ。


「魔力がもうない。帰還する」

「こっちもそろそろなくなる。くそ! 数が多すぎる!!」


 すでに魔力を使い果たしたものが何人もいるようです。

 仕方ありません。

 少し威力を落としますか。

 僕はFCSのパラメータを少し弄ってから、ドローンを飛ばした。

 そしてさっきよりも高度を上げて接近し、一旦後ろに回ると、そこから攻撃開始距離まで近づいた。


「お、行けそうですね」


 盾で頭部が隠れているようなやつは狙わず、直接頭が狙える場合にのみ出力を落として攻撃するようにしたのだ。

 盾で防がれなくなった分、殺傷数の割に魔力の減り方が少ない。

 盾を構えていない角度にドローンを誘導しないといけないのがめんどくさいですが。


「戻ってきたら『FCS』の設定を変えてください! 変え方は」


 僕は設定の仕方を教える傍ら、アンジェリカにそれを紙に書いてもらう。

 紙に書いたらそれを何枚かコピーし皆に配った。


「よし、設定を変えた。出るぞ」

「盾で守られているのには攻撃しませんから、守られていない角度に回り込むようにしてくださいね!」


 パラメータを変えた攻撃用ドローンが次々飛び立っていく。


「右方よりオークの大群が接近中! 大型もいます!!」

「六番機、少し右方へ回れ! そっちから大挙して押し寄せてきている! 町の中に入れるな!」

「はい!」


 侍女軍団は俯瞰カメラでオークどもの動きを常に監視し、その報告を元に団長は突出しているところにドローンを差し向けているようだ。

 町の中に入られたら障害物が多いから殲滅するのが難しくなる他、人や建物に被害が出るかもしれないからね。


「また魔力がなくなったか。帰還します」


 団長に状況を報告して、僕はドローンを帰還させる。


「次はこれを使うがいい」

「父上?」


 父上の魔石は中級魔石としてもかなり上質のものだ。


「いいんですか? 万が一失われたら」

「魔石一個失われたとて問題あるまい。あそこに山のように転がっているのだからな」


 俯瞰カメラが捉えている映像には多数のオークが倒れている。

 もしかしたらその中にはオークジェネラルとかも含まれているかもしれない。


「そうですね。出し惜しみしている場合ではありませんか」


 僕は手早く魔石を交換し、ドローンを戦闘に参加させる。

 外した魔石は借りたひとの紙の上だ。


「群れの真ん中らへんに、すごくおっきいのがいます!!」

「なに!? こいつか? オークの群れの中央にでかいやつがいる! キングか少なくともジェネラルだ!! 誰か向かってくれ!!」


 ボスかそれに相当するものを見つけたらしい。

 ちょうど出たばかりの僕がその上空へと向かう。


「アンジェリカ! 一緒にボスを探して!!」


 たくさんのオークの中からボスを探すとか、ウォ○リーをさがせ! かよ。

 僕はカメラをズームして団長が俯瞰図で示している辺りを映し出すが、邪魔物が多くてなかなか見つけられない。

 なにせ上位種も姿形はほとんど一緒らしい。

 違うのは大きさくらいだとか。

 しかも前面は盾で覆われている。とにかく見づらい。


「いました! 右上です」


 アンジェリカが画面を指差す。


「そこか!」


 僕はドローンをその真上に移動させると急速に降下させる。

 なにしろ近いやつから勝手に攻撃しちゃうからね。

 うっかり変な角度から接近したらボスに攻撃する前に魔力切れになりかねない。


「見よ、マリエッタと遊んで培った、この華麗なテクニックを!」


 真下を映し出すカメラのちょうど真ん中にでかいオークがピタリとハマる。

 だがその時!


「やべぇ!」


 オークが何故か上を見上げたのだ。

 プロペラがあるわけじゃないが、わずかながら空気を切り裂く音がしたのか。

 それとも探知の魔法でも使ったのか。

 やつの目ははっきりドローンを捉えていた。

 まだ発射距離には遠い。

 設定は百メートル。

 二百メートルは上空だというのにそいつはこちらを、僕を見たような気がした。


「こなくそ!」


 オークが動くとほぼ同時に操縦桿を操作し横に逃げる。

 カメラがなにか飛んでくるのを捉えたが、あまりに早くてよく見えなかった。


「石です! おっきい石が飛んで来ました!!」

「はいぃい! 二百メートル以上も届きますか」


 狙いも正確なようで、うっかり近づけませんねぇ。


「うぉ! こっちからも!!」


 別の巨体オークが石を飛ばしてきたようだ。

 土魔法か?

 この辺はボス級が複数体いるみたいだね。


「アルカイト様! 少し離れていてください! 応援を回すので、皆で一斉に攻撃を仕掛けましょう」

「わかりました」


 僕はドローンを急上昇させ、石が届かないであろう高さまで上がる。

 ざっと五百メートルか?

 まさかここまでは飛んでこないよね?

 ライフルだって射程距離が数百メートルあるんだからまだ危ないかな?

 垂直発射だからある程度減衰するとは思うが。

 念の為もう少し上がっておこう。

 さらに上昇させたとき、傍らを石弾がかすめていった。


「危なかった。上昇していなかったら当たっていたな」


 とてつもない威力と正確さだ。


「アルカイト様! 六機がそちらに到着しました! 合図とともに接近してください!!」

「わかりました」


 僕は呼吸を整え画面のオークをみつめる。

 これで失敗したらドローンを破壊され、中級魔石も失われる。

 ドローンやFCSはスマホがあればまだ何とかなるが、中級魔石が失われると、こちらの攻撃力が極端に低下するため、いよいよ追い詰められることになるだろう。

 失敗はできない。


「攻撃始め!!」


 団長の掛け声で六機が一斉に降下を始めたようだ。

 誰が誰だかわからない。

 どこにいるかもわからない。

 だが確かに一体感を感じた。

 僕はスティックを細かく操り、やつを画面内にとらえ続ける。

 ここで見失ったら二度と見つけられないだろう。

 だがまっすぐに降下すれば奴に撃ち落とされる。

 細かく前後左右に動かしながら、降下速度は緩めない。

 カメラを操作する余裕などないから、姿勢制御でカメラ位置を調整する他ない。


 見よアフタ○バーナーで鍛えた動体視力と回避能力を!

 高度計が五〇〇メートルを切った。

 もう、いつ攻撃を受けてもおかしくない。

 勘に従いスティックをスライドさせる。

 その傍らを何かが通り過ぎていく。

 三〇〇メートル。


「なっ!」


 小さめの石弾が複数飛んでくる。

 散弾かよ!

 だが、なんとか回避。

 ドローンがあっちの世界みたいな大きさなら死んでたね。

 スマホ本体は一〇センチもない。

 せいぜい五センチかそこら。

 それをかすめていくってんだから、オークの魔法半端ない。

 多分空気抵抗で揺らぐ分躱せているんだろうなぁ。

 石弾は涙滴型でもなければ、紡錘形でもない。

 回転もしていないようなので、弾道がブレるのだ。


 まあ逆に躱しにくいとも言える。

 うっかり避けるとそっちによってこないとも限らないのだ。

 二〇〇メートル!


「くそ!」


 誰かが撃墜されたようだ。

 だがそんな事を気にしている暇はない。

 一五〇メートル。


「だ、誰か頼む!」


 一〇〇メートル。

 攻撃は始まらなかった。


「盾を構えられた!」


 こちらの攻撃範囲を把握していたのであろう。

 一〇〇メートルを切る直前、攻撃をやめ盾を構えだしたのだ。

 盾があると攻撃は始まらない。


「こなくそ!」


 僕は機体を横滑りさせた後、更に高度を下げる。


「薙ぎ払え!」


 虐殺が始まった。

 急速な位置変更を捉えられなかったのか。

 オークたちの盾は上を向いたままで、追従できていなかった。

 そこを僕の攻撃ドローンが横から接近。

 オーク共を薙ぎ払う。


「よっしゃあ!」


 横からの攻撃に気がついたオーク達が慌ててそっちに盾を構えたため、上空からの攻撃に無防備になったのだ。

 攻撃が次第に激しさを増していく。

 すなわちそれは防御しきれなくなっているということだ。

 僕たちは残った機体で中央周辺を掃討していく。

 もうキングだかジェネラルだかどこにいるかもわからない。

 とにかく手当たりしだいに、レーザーを打ち込んでいく。


 すぱこーん


「いた、くないけど、操作をミスったらどうするんですか?」

「アルカイト様、もう魔力がありませんよ? 帰還してください」


 あれ?

 夢中になってて魔力計を見ていませんでした。


「わかりました。帰還します」


 僕はドローンを上昇させて、離宮へと機体を向けた。

 石弾は飛んでこなかった。


 「こんなこともあろうかと」というセリフは技術者や科学者なら誰でも言ってみたいセリフNO.1でしょう。

 ただし小説などでこれを唐突に使われるとご都合主義となじられるので使い所や使い方が難しいですね。

 今回はあらかじめ用意してあったので、ご都合主義ではありませんw

 本当ならもっと前に伏線として用意しておいて、読者が忘れた頃に出すのが効果的なんでしょうが、露骨にやると先が見えてしまうので難しいところですね。


 「こんなこともあろうかと」の元ネタは宇宙戦艦ヤマトの真田さんだと思っていたのですが、実のところ本編ではそのもののセリフは一度も喋っていないとのこと。

 元ネタについては結構よくわからないというのもあって、なかなか奥が深いですね。

 当たり前に使っているセリフも調べてみると結構思い違いや思い込みが有って、愕然とすることもしばし。

 物書きとしては言葉の正確な意味を知って書くべきなのでしょうが、正解だと思いこんでいるとなかなか調べようとは思わないのが思い込みの怖いところ。

 思い違いで書いているところもあろうかと思いますので、遠慮なく突っ込んでくださいw


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