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オークの軍団

主人公視点に戻ります。

 父上や母上、そして愛しのマリエッタと夕食後のお茶を楽しんでいる時、その知らせが飛び込んできた。


「殿下! 騎士団長より急ぎ本宮にいらしてくださいとのことです」


 入ってきた侍女は息も切れ切れだ。

 騎士団長は相当急がせたらしい。


「騎士団長はなんと?」

「只今第一王子のリュドヴィック様が離宮へ突然訪問し、オークキングの討伐に失敗したと陳べているとのことです!!」

「なん、だと?」


 さすがの父上も唖然としている。

 他の王子が離宮に尋ねて来るだけでも異例なのに、オークキングの討伐に失敗?

 わけがわからないんですけど。


「わかった。すぐ行く。侍女長! 先触れを!」


 あの説明でわかったんですか!?


 さす父。


 なんて、わかったのは緊急事態ってことだけでしょうねぇ。

 侍女長が飛び出し、メイドに命じるのを横目で見ながら僕は馬鹿なことを考える。

 いいじゃん、現実逃避したって。

 僕、わかっちゃいました。

 追い詰められた第一王子が、一発当てようと無茶したんでしょうねぇ。


「すまないが我はここで席を外す。ルミナリエ、子供たちを連れて地下へ」

「はい、こちらのことはお任せください」


 いつもはぽやぽやの母上も表情が硬い。

 他の夫人方は? って実家に帰っちゃいました。

 息子達を連れて。

 まあ、こんな田舎よりはいいよねぇ。


「おかーたま?」


 そんな雰囲気を感じたのか、マリエッタが不安げに母上にすがりつく。


「頼んだぞ」


 父上は席を立ち、侍女長が先触れを務める。

 僕はさらにその後に続いた。


「アルカイト、そなたは地下に」


 辺境の地はいつ魔物に襲われるかわからないから、各家々に地下室がある。

 もちろん離宮にもあるが僕の行くべきところはそこではない。


「ご一緒させてください。なんか僕が必要になる気がします」

「……いいだろう」

「あなた、アルカイト、ご無事のお帰りをお待ちしております」

「おとーたま、おにーたま、いってらっしゃい」


 母とマリーの見送りで僕たちは本宮へ急ぐ。


「僕、なんかやりすぎちゃいましたか?」

「気にするなとは言わんが、そなたが悪いわけではない」


 自分がやった結果ですからねぇ。

 反省はしているが後悔はしていないってやつですか。

 やらなきゃこちらの身の安全は保証されませんから。

 次はもっとうまくやれるように反省するのが僕のやるべきことでしょう。


「ありがとうございます」

「礼には及ばん。すべては当主である我の責任。今は状況を確認し、対処するだけ。後悔は後ですれば良い」


 後悔は先には出来ませんからね!

 後でするなら多少遅れても構わないでしょう。


「公爵様が到着なされました」


 侍女長の告知で扉が開けられ、父上と僕が中に入る。


「あれ? なんでアンジェリカまで?」


 ふと後ろを振り返るとアンジェリカがしれっと中に入って扉を閉めていた。


「そりゃあ、私はアルカイト様の侍女ですから」


 まあいいか。

 彼女はすでに成人。

 自分の行動の責任は自分で取るべき。

 まあ、ここで一番不相応なのは僕なんだけどね。

 どうやら見張りの騎士以外ここにいるようで、会議室は狭苦しいというか暑苦しいことになっていた。

 そんな中、さわやかかわいい僕がいたのでは場違いにも程がある。

 そこ笑うところだからね。

 父上が入ったのに騎士たちはこちらを見ない。

 見ているのは中央に囲っている人物のようだ。


「リュドヴィック殿下と、あとはどなたでしょう?」

「徽章からして軍団長ですね。この国だと騎士百名以上兵士千人以上のトップに与えられる地位です」


 騎士一人で百人力とか千人力とか言われているので、一万から十万人分の戦力ですね。

 それだけの戦力で討伐失敗とかオークの群れどんだけ~


「それが負けたんですか?」

「それもボロ負けっぽいね」


 千人以上いたはずなのに、ここにいるのは二人だけ。

 しかも救護員が動き回っているふうでもない。

 恐らく他は全滅か、散り散りになったか。


「騎士団長! 説明を」

「で、殿下! 失礼いたしました! 今より三十分ほど前、リュドヴィック殿下が離宮へ先触れもなく訪問され、オークキングを含むオークの巣の討伐に失敗。軍団長とともに、退却。至急王都へ連絡してほしいとのことでした」

「王都への連絡は?」

「すでに王都駐在の文官に連絡し、陛下には連絡済みとのこと。近隣の当派閥領主にも一報を入れております。また斥候を出し、オークが近隣に近づいていないか確認中です」


 騎士たちはスマホやドローンを持っているから、見つけたらすぐに連絡が入るであろう。


「うむ。とりあえずできそうなことは終わっておるか。ならしばし語り合う時間はあろう。なあ、兄上。なぜこのようなことに」


 父上はうなだれる第一王子に問いかける。


「そなたに一矢報いるにはこれしか無いと思った」

「違います! 私めがこの討伐をそそのかしたのです! 殿下に罪はありません」


 老騎士が庇い立てするがそんなものなんの意味もない。


「だとしても、それを受け入れた兄上の罪は重い。わかってますね?」

「ああ、この身にかけて罪を償おう。死んでいった騎士や兵士たちのために」

「覚悟はよろしいようで。申し訳ありませんが陛下の裁定が下るまでお二人は罪人として扱わせていただきます」

「ああ、当然だな」


 陛下の許可なしに上級魔物を討伐しにいって失敗した上、近隣の町や村、下手をしたら王都まで巻き込まれかねない事態。

 許されざる罪だ。


「では、なぜこのようなことになったか経緯をお話ください」


 王子が語ったことによると、商人や文官たちは、手の施しようもなく追い詰められていて、魔導士爵は役立たず。僕たちがまだ手を付けていないか影響が限定的な騎士たちを頼ることとしたらしい。

 そして老騎士がかつてこの辺の土地を上級魔物から開放した後、その周辺部を調べたところ、オークの巣を見つけたのだそうだ。

 オークの巣は砂鉄や鉄鉱石のかけらなどがよく見つかる川の上流にあり、ここを開放すれば鉄鉱石の鉱脈が見つかるかもしれない。

 そうでなくともオークの上位種で上級魔物に分類されるオークジェネラルの存在を確認したのを思い出したそうだ。

 オークの巣は当時他の上級魔物討伐で少なからぬ被害を受けた騎士団では対応できず、また開放された土地がかなり広い範囲に及んだため当面討伐は必要無しとされ、そのまま忘れ去られた存在だった。

 上級魔物を討伐するか鉄鉱石の鉱脈を発見すれば、それだけでも名誉なものであるし、それによる報奨や鉄鉱石の利権があれば巻き返せると考えたらしい。


 窮鼠猫を噛んじゃいましたか。


 確かに騎士を商人や文官ほど追い詰められなかったのは僕の失態ですね。

 騎士まで追い詰められていたらこんな無謀なことをしなかったでしょう。

 FCSを渡せばその力の差がはっきりしたでしょうけど、だからといってFCSは公開できませんでしたけどね。


「オークの巣は思った以上に大きく強大になっていました」

「恐らく我らが斥候を出した辺りはすでにオークの支配地域になっていたのでしょう。派遣した斥候は帰ってこず、我らは奇襲を受けました」


 軍団長が王子の言葉を引き継ぐ。


「その後複数体のオークエリートにオークマジシャン、オークジェネラルと配下のオークに囲まれたため、撤退すべく一点突破を図ろうとした時オークキングが現れましたが、間一髪血路が開き、私めと殿下がこうして逃れてこれたのです」

「……」


 壮絶な戦いに皆は言葉もない。

 恐らく残った皆は全滅したであろうことは間違いない。

 いくら知能が高いと言っても所詮は魔物だからね。

 人質を取るなんてするはずもない。


 ぶ――――――


 誰かのスマホがブルった。


「おっ。失礼」


 騎士団長がスマホを取り出しメールを確認する。


「馬で一時間ほどのところに野営するオークたちを発見したそうです」

「うむ。いくらオークの足が遅いとは言え、明日の昼には到着するな」

「それに相違ないかと」


 団長が父の言葉にうなずく。


「もう日は暮れているが避難は可能か?」

「これからとなると厳しいでしょう。道はある程度整備されたとは言え、魔物が出なくなったというわけではありません。騎士団の護衛が必要ですが、オーク共が夜襲をかけてこない保証もありません」


 オークは知能ある魔物だ。

 いや、魔物は総じて普通の獣より知能が高い。

 しかも上級魔物に率いられたオークの軍団であるなら人間と同じような策をとってもおかしくない。

 現に第一王子の軍団は罠にはめられ奇襲をくらい全滅した。

 今騎士を護衛に当てたら、残ったものでは対応できなくなる可能性がある。


「ならば、近隣の町や村に伝えよ。オークの群れが近づいている。地下に逃げ延びよと」

「はっ!」


 領内の緊急連絡網に電話をかけ、緊急事態を告げる。

 これで、町の中ならそこから近隣へと伝わるだろう。


「念の為兵士に町中に知らせるように通達。通り道にある村々は斥候が帰ってくるときに伝えさせます」

「わかったそれでいい。誰か、兄上と軍団長を客間に。一応軟禁という形を取らせていただきます」

「ああ、温情感謝する。我が弟よ」

「武運をお祈り申し上げる」


 二人は会議室から連れ出される。


「さて、どうしたものかな?」


 父上の顔がより厳しくなる。

 僕たちの戦いはこれからだ!

 って、なんか毎回言っている気がする。

 打ち切りはいつでしょうか?


 かの有名な「僕たちの戦いはこれからだ」のセリフ。

 数えてみたら4回も喋っていましたw

 4回打ち切られてもおかしくない所業ですが、まだもうちょっと続くよ。

 とは言えそろそろ終りが見えてきた本作品。

 あともうちょっとですので、ここで打ち切らないで最後までお読みいただければ幸いです。


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