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謎の化粧箱軍団

第三者視点の途中から第1王子リュドヴィック視点に変わり、

その後しばらく第1王子視点が続きます。


 その日、王宮では奇妙な化粧箱を持ち込む貴族が相次いだ。

 施された装飾は全て違えども、持ち手が付き全く大きさ形の同じそれは、同じ目的の元作られたとわかる。

 もっと目端の利くものがいれば献上の儀でフラルーク公爵が献上したものと形やサイズがそっくりだと気がついたであろう。

 事実何人かはそれに気がついた者がいて、注進に走った者もいた。


「リュドヴィック様、大変です」


 執事長は入出の許可とほぼ同時に声を張り上げた。


「何事ですか。朝っぱらから」


 第一王子リュドヴィックは、まだ朝の支度中。

 本来ならこれからゆっくり朝食を摂ろうかというところだ。


「フラルーク殿下の派閥の者たちが、奇妙な化粧箱を持ち込んできたのです」

「なんだと。それはまさか……」

「恐らく陛下にご献上されたものと同じものかと。化粧細工は違っているものの、その形はまさしく陛下がお持ちのものと瓜二つ」

「それはやはり魔導具なのか?」


 ディミトリとの会談の後、彼自身も例の化粧箱に関する特許について公文書を見に行ったのだ。

 まさしく彼が言うとおりに魔導具として登録され、特許料もとんでもない金額になっていた。

 その後も特許料についての報告がある度、その金額の大きさに驚いていたが、何より陛下の物以外見かけたことがないのがもっと驚きだった。


「やつはあの魔導具を自派閥の領地にしか売っていない。ならば王都や我らが派閥では見かけなかったのもうなずける」


 だがなぜここに来て大量に持ち込んだ?


「隠す必要がなくなったからか?」

「そう拝察いたします」


 侍従長も同じ意見か。


「まさか向こうは、もう詰めにかかっているということでしょうか?」

「そこまではなんとも」


 私が王都に呼び出されたのは、御用商人から売上が落ちているからなんとかしてくれとの陳情を受けたからだ。

 昨日の夜到着し本日からどういう状況なのか確認しようという矢先にこの騒ぎだ。


「私が来るのに合わせてということか?」


 日和見を決めていた貴族達も決着が近いと、それぞれこれと思う派閥に取り入り、ほぼすべての領主が派閥を選択。

 結果、フラルークの派閥は第二王子と多くの中立領地を取り込み私の派閥とほぼ同じ大きさとなった。

 当然王都の派閥もほぼ二分。

 昨日の今日で一斉に決行したというのか?

 それを私の派閥に気が付かれずに?

 フラルークの派閥については、監視の目を緩めたつもりはない。

 しかも現在フラルークは領地にいるはずだ。

 一体誰が私の到着を知らせ、今日の決行を決め、それを全員に通達したのだ。

 こちらに全く気取らさせずに。


「やられたな。これはディミトリの時と同じではないか」


 あいつは宴が始まるまで皆の離反に気が付かなかった。

 私は今になるまでこれほど例の魔導具が浸透しているとは気が付かなかった。

 貴族がひとりひとつ持つ魔導具など魔導書以外存在しない。

 魔導書だっていわゆる汎用の魔導具だからね。

 あれはそれに匹敵する、いやそれをも上回る魔導具だというのか?

 そうでなければあの特許料はありえない。

 魔導士ギルドの管理するシーケンスをいっぱいに書いた魔術書でもあの特許料は払えない。


 魔導具の値段というのはほとんどが魔石とシーケンスの値段だ。

 あの特許料から推測される販売代金からすると、とてつもなく有用かとてつもなく巨大なシーケンスを収めた魔導具となる。

 たしかにあの箱いっぱいに魔導書が収められているとすれば、普通の何倍いや何百倍かのシーケンスが書かれているかもしれない。

 シーケンスの値段はその文章量と効能に準拠するから、それだけを見ればありえないことではない。

 しかしそれを作ったのがまだ当時七歳のアルカイトだという。

 そんな馬鹿なことがあってたまるものか。

 大人だってそんな量はそうそう書けないはず。

 しかも個別のシーケンスを何個もならともかく、連携して動くとなると、大勢の魔導士爵が何年もかけて作る大規模術式くらいしか無い。


 もちろん下級魔石では発動さえ出来ない代物。

 中級魔石を複数個同期させて起動させるような複雑なシーケンスだ。

 しかし魔導具として登録されている以上、下級魔石を使っているはずである。

 まさか下級魔石を複数連動させるシーケンスなのか?


「いやいや、たしかに下級魔石の相場は上がってはいたがそれほどでもない。王都にいるフラルーク派閥の貴族全員が複数の下級魔石を同期させる魔導具を持っているとすれば、買い占めでもしない限り集められないはず」


 同期といっても一つ二つではほとんど威力が変わらないだろうからね。

 せめて数十個は欲しい。

 攻撃魔法でそれなりの威力を出すにはそのくらいは必要か?

 買い占められていたら私の耳に入らないわけがないのだが、それもない。

 魔石はそんなに使っていないのか?


「あの化粧箱が何なのかの情報は?」

「それがあれを使用する場合は、派閥のものだけで部屋にこもり作業するため、どのように使っているかもわからず」

「間者を放ち、何の魔導具か至急探らせろ」


 嫌な予感がします。

 あれはフラルークの、いや、アルカイトの切り札。

 それを曲がりなりにも見せてきたということは、見られるだけなら問題ない、あるいは多少機能がバレても問題ないと思っているのか?

 つまり私に知られてもどうにも出来ないと侮っているということか?

 舐めた真似を。

 向こうは詰めに入っていると思っているのだろうが、見事躱してみせよう。

 ここからは総力戦だ。


「それから陳情を上げている商人を呼べ。大至急だ」


 陳情を聞くため王都に来た瞬間を狙ったのだ。

 なにか関係あるはずだ。


「イエス・ユア・ハイネス!!」


 侍従長が慌てて部屋を出ていく。

 商人たちが集まるまでまだ時間がかかるであろうから、私は手早く食事を済ませ、謁見の準備を始める。


 いよいよ大詰め。

 またまた知らぬ間に追い詰められていく王子様。

 まさかメール一本で一斉蜂起のタイミングを通知したとは夢にも思わない第1王子派閥。

 気がつけば完全包囲されようかという状況。

 一発逆転なるか。それともここで潰されるのか。

 第1王子様の今後益々のご活躍をお祈り申し上げますw


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