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帰ってきた父上

 農業改革で無駄な思考実験を繰り返していたら新月は終わり、王都に行っていた父上が帰ってきた。


「おとーたま、おかえりなさい」

「おお、マリー。元気そうで何より。少し重くなったか?」


 マリエッタの出迎えに、マリーを抱き上げてデレデレの父上。

 重くなったはセクハラです。

 という年齢じゃないね。


「うん、おいしいもの、いーぱいたべたの!」


 今年の正月はいつもにも増して美味しいものが出たからね。

 それというのも領の経済状態が良くなり道が整備されたおかげだね。

 つまり僕のおかげだw

 マリーが喜んでくれて僕も嬉しいよ。


「アルカイトは何かやらかさなかったか?」

「ひどいなぁ、いつもやらかしているわけじゃないですよ?」

「アンジェリカ、本当か?」


 なぜアンジェリカに訊く。

 そんなに息子が信じられませんかね?


「とりあえず問題行動には発展しませんでした。『僕の考えた最強の農業改革案』はお蔵入りだそうです」

「それは何よりだ。こう次々に仕事が増えてはたまらん。アルカイト、本当にお蔵入りになったのだな?」

「今のところはですね。対費用効果が見合わなそうなので」

「今はということは、いずれ見合うようになるということか?」

「まあそれには何年もかかりますよ。例えば農奴たちを『パソコン』や『自動車』の製造に大量動員して開拓の人手が足りなくなったりしない限り、日の目を見ることはないですね」

「ということは『らいせんす』生産を始めていなかったら?」

「その場合は農作業を効率化して更に農奴から『パソコン』生産に人員をまわす必要があるので改革案が使えると思います」


 なるほど、その手があったか。

 農奴をもっと稼げる仕事につければいいんだよね。

 そうなれば開拓を効率化するために農機具を提供しても元が取れる。

 農業人口が減れば効率化しないと生産力が落ちるわけだから資本を投入せざるを得なくなるわけだ。


「いらんいらん。今更『らいせんす』の取り消しなどできんし、どうせこの領地で物を作っても、運搬に時間と金ががかかるからな。すぐに『らいせんす』生産の要望が上がる」

「なら他領にその農業機械の『ライセンス』を売ればいいのでは? 他領だって量産しようとすれば人手がいるはずですよね?」

「……い、いや。うちとは違って職人の数も多いし、魔石にも限りがあるからな。農奴から手配しなくても十分間に合うはずだ」


 まあ、結局魔石の産出量で量産できる数が決まってきますからねぇ。

 魔石さえなければいくらでも量産できるのだが。


「そうですか。残念です。『僕の考えた最強の農業改革案』は、やはりしばらくはお蔵入りですね」

「ああ、我の平穏のためにもそうしてくれ」

「そうですか。ならなにか別のものを考えてみますか」

「しばらくは考えんでいい! そうだ、マリーや。アルカイトに遊んでもらいなさい。アルカイト、お前はしばらく新しい案の作成は禁ずる。マリーと遊んでやれ」

「やったー。おにーたま、まりーとあそんでくれりゅ?」

「もちろんいいとも!」


 マリエッタと遊ぶほうが優先だね。

 新規開発は当分いいだろう。

 いきなりたくさん売り出したところで、買い取る資金もないだろうし。

 借金が低利子でできるとはいえ、それも金額が増えると利子が膨らむからね。

 限界はある。


「我には他にやるべきことが山ほどあるのだ。それを解決するための案ならともかく新しいことまでは手が回らん」

「陪臣か新しい文官が雇えればいいんですがねぇ」

「それは我が王になるか侯爵にでもならないと難しいだろうな」


 ん?


「父上、このままの稼ぎなら侯爵の地位買えません?」

「なに?」


 父上が考え込む。


「過去の例を考えれば買えないこともないな。買える領地がどの程度のものになるかわからんが、うちの場合領地からの税収は関係ないからな。『ぱそこん』等の『らいせんす』料や、そなたの収入から差っ引かれる販売手数料だけで、十年もあれば小さな町くらい確実に買えるだろう。何ならここを買い取ってもいい」

「なら少なくとも侯爵になれそうなことをアピールして若い文官や騎士を雇えないでしょうか?」


 文官が増えれば好景気で膨れ上がった事務作業もこなせるようになるし、騎士が雇えれば交易の頻度も上げられる。

 もちろん魔導士爵が増えれば開発も進む。


「うむ。考えてみよう」

「侯爵になれなくても、もっと大きな土地に封ぜられれば、どうせもっと文官が必要になりますからね。今から唾を付けておきましょう」

「はあ、また仕事が増えたな」

「ご愁傷様です?」

「いやまて、我が声をかけるからそなたが選別せよ。どうせ魔導士爵ももっと必要なのだろ? いっそのことそなたが雇えばいい。それだけの収入はあるし、我の下につくのであれば、そなたが雇った文官でも我が使うのに不都合はあるまい」

「それはそうですけど」


 先生やカイゼルさん、ライアンさんもすでに僕の臣下だ。

 更に増やしても問題はないはず。


「もし永代貴族となれなかった場合、我が雇えば、我の引退後雇った者たちはどうせそなたが引き取ることになる。そなたの兄たちの稼ぎでは無理だろうし。途中で主人を替えるより、最初からそなたにしておいたほうが良かろう」

「それはいいのですが、士爵の権利って僕でも買えるんですか?」


 三人の魔導子爵は籍を移しただけだけど、基本的に一旦主を決めたら移籍することは殆どない。

 先生たちが例外なだけだ。

 籍が移ると給与の支払いはその主になるからね。

 下手に臣下を増やして給与が払えないと、主が訴えられることになる。

 そうなれば財産を処分して無理矢理にでも払わされる。

 それでも足りなければ、領地没収ということも無いわけじゃない。

 副団長なんかのように王からの報奨で士爵位をもらった場合は、主は自分で、給与は国の支払いになるけどね。

 僕は領地持ちじゃないからその辺どうなるんだ?


「そなたほどの収入があれば全く問題ない。士爵が士爵を自分の金で叙爵するというのはあまり例がないが皆無というわけでもない。特に稼げる魔導士爵なら助手や生産の手伝いとして叙爵することがあったはずだ」


 なるほど。


 魔導士爵なら稼ぎに大きな違いがある。

 文官や騎士は基本固定給ですからねぇ。

 地位や能力に応じて多少の変動はあるが、極端に給与がアップするなんてことはまず無い。

 騎士なんかでは英雄的な働きをしたとかでないとありえないのだ。

 うちの副団長以下三人みたいにねw

 彼らには士爵を任ずる権利が与えられたから結局それは給与が倍近くになったのと同じことだ。

 叙爵用途限定だけど。


「わかりました。良さそうな見習いを何人か見繕ってください。面接して決めます」


 で、駄目だったらお祈りメールでお断りするんですね、わかります。


「うむ。派閥の者に打診しておこう」


 これまで魔導士爵が何人も技術移転で来たけど、彼らは基本的に領主の魔導士爵だから引き抜けなかった。

 伯父さんもだね。

 王都へは情報がもれないように販売や技術移転はしていないから、そっちからは訪れる人はいない。

 王都の貴族なら先生みたいに引き抜けないこともないんだけど知り合う機会がないし、情報統制の観点からも、こっちに骨を埋める気のない人は呼び入れることは出来ない。


 今、選考対象になるのは領地にいる見習い達だね。

 領主に叙爵されるか王に叙爵されるか、平民に落ちるかの中に、僕に叙爵されるかの選択肢が増えるってことだ。

 特に平民落ちしそうな人は必死になるだろう。

 いい人が来てくれるといいのですが。


「じゃあ、僕は準備をしておきますね」


 長い付き合いになるのだから見習いとして数ヶ月雇うとして、筆記試験とかもいるかな?


「おにーたま、まりーとあそばないの?」


 悲しそうに僕をみつめるマリエッタ。


「うっ、もちろん遊ぶよ! 父上、選別は後でもいいですよね?」

「ああ。こっちもすぐには準備できん。まずは打診して希望者を募って、希望者を他領に出して問題ないか審査があるだろうからな」


 まあ、いくら見習いだからって誰も彼も外に出られたら困るよね。紹介して問題を起こしたら紹介者の責任になる世界だし。

 慎重になるし時間もかかるのはうなずける。


「わかりました。しばらくはマリーと遊んで、ゆっくり準備します」

「そうしてくれ。本当に緊急の時以外、変な案を持ってこないように」

「前向きに善処します」


 僕は前向きなのは確定的に明らかな返事をしてマリエッタと庭に向かった。

 ちょっとそこ。

 なんでため息付いてるのかなぁ。

 アンジェリカ君。

 前向きに善処しますは、父上の前では殆ど使ってないからスルーしてもらえたんだから、余計なことを言わないように。


 今回のタイトルは「帰ってきた」でググると最初に出てくるのが「帰ってきたウルトラマン」のwikiページになるくらい有名な作品のオマージュw

 自分が初めて見たウルトラマンシリーズも帰ってきたからでした。

 当時のウルトラシリーズではコンピュータから出力される紙テープ(穿孔テープなどとも呼ばれる)をそのまま読み取ったり、後ろでオープンリールが回っていたりランプがピカピカ光っていたりして、子供心ながらワクワクしたものです。

 将来実際に使うことになるとは微塵も思いませんでしたけどw

 今では触ったことは愚か見たことすらない人が多いだろう紙テープ。

 自分も使ったことはありますがさすがに直では読めませんでしたw

 頑張れば読めたんでしょうけど、頑張れませんでしたねw


 汎用機の世界は更新が遅く、自分が働いていた頃も結構古い機械があり、実際の業務では現役でした。

 紙テープはもちろんのことパンチカードやオープンリール、8インチフロッピー等々。

 テレックスなんかも有ったかな。

 「HDDは魔導書の中に」のあとがきにも書いたように40センチくらいあるリムーバブルHDDは圧巻でしたw

 なにせ円盤がむき出しでしたからねぇ。ウェディングケーキの土台並みの大きさw

 これでよくエラーでないよなとか思ってたら、結構頻繁にクラッシュしてましたw

 バックアップ用だったのでさほど影響はなかったのでしょうが。


※誤字修正。

マリエッタ[・]->マリエッタ[。]

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