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農業機械

 まず向こうの農業機械について考えてみよう。


「といっても農業系はあんまり知らないんだよねぇ」


 なにせ農業とは全く関わりのない人生だった。

 精々幼稚園の芋掘りとか小学校でヘチマやじゃがいもを植えたくらい。


「耕運機? トラクター? コンバイン? チェーンソーは武器か? 農機具か? 草刈機なんかもあるといいかもね」


 これ以上は思い浮かばん。

 まてまて必要な農作業に合わせて開発すればいいんだから、既存の農機具に拘る必要は無いだろう。

 まず必要なのは正規の畑を広げる機械か?


「いや、結局広げても面倒が見れないのでは意味がないな」


 畑を広げれば当然人手がかかる。

 種を蒔いてしまえば収穫までほとんど手がかからない焼き畑とは違う。

 肥料のすき込み草刈り、水やりなんかも必要かもしれない。

 手をかけた分収穫できないと大損だからね。

 焼き畑程度なら収穫できたらラッキーで済むけど、ちゃんと育てた麦が収穫できないのはきつい。

 なんか焼き畑でいいような気がしてきた。


 いやいや、初志貫徹。

 まあ実用化できるかどうかは別にして、考えるだけ考えてみよう。

 いざ必要になってから考えたら手遅れになりかねないからね。

 麦の世話で手がかかるとすれば草取りかな?

 この辺じゃほとんど水やりなんかやってないからね。

 雑草だって水をやらなくたって元気に育つんだから、麦もまあよっぽどの日照りでもない限りちゃんと育つようだ。

 元々米と違って乾燥には強いからね。


「水やりはいいとして草刈り機は欲しいね」


 根っこまで抜けるといいのだがそんな物が作れるのだろうか?


「あとは麦刈り機か」


 だがこっちは焼き畑でも必要なわけだから、畑による優位性はない。

 なら焼き畑の方の面積増やしてそっちを効率化したほうがいいかも。

 いや、放置した畑だと刈り入れが面倒になる可能性がある。

 雑草も放置だから、それを避けたりしないといけないからね。


「種まきは正条植えをしたいよね」


 種まき機も必要かもしれないが、これも作り方は知らない。


「塩水選って麦でもできるんだっけ? でも大陸の奥側じゃ塩が貴重だからねぇ」


 塩水選で使った塩水だって再利用できるかもしれないが、砂や籾殻なんかが交じるだろうし、食用にするためには濾過したり煮沸消毒するかもう一度塩の状態に戻す必要があるだろう。

 液体のままじゃ保存性や使い勝手が悪いから、やっぱり塩に戻すしか無いだろうなぁ。

 塩水を煮詰めて塩を取り出すとなると燃料の薪が必要になるし人手もいる。

 収穫量が手間を上回るだろうか。


「これもやってみるしか無いが、最初にそれだけの塩を買ってやって元が取れるのか?」


 塩水選ってそもそもどれだけの塩が必要なんだ?

 それになんか塩を配ったら塩水選する前に食っちゃうかもだし。

 鍬なんかは数が決まってるから盗難にあってもすぐわかるけど、塩水選はどのくらい塩が失われるかわからないからね。

 塩水選後は水洗いが必要だし、選別から漏れた麦にだって塩水が付着するからいくらかの塩分が失われる。

 その失われる塩代が得られる麦の価格に見合うかだね。

 って、塩水選は農業機械関係ないじゃん。


「農業機械の代表はやはり耕運機やトラクターだろう」


 耕運機があれば畑を人手をかけず効率よく耕せるだろう。

 将来正規の畑を増やすこともできるし。


「害虫駆除なんかは出来ないだろうか?」


 FCSを応用すればできそうな気もするが、排除するのにレーザーは使えないよなぁ。

 農機具にレーザーなんか使ったら、FCSの秘密がバレてしまう。

 かといってそれ以外の駆除方法が取れるか?

 水流を当てたくらいじゃ死なないだろうし、火球じゃ他に延焼しそうだし。

 レーザーは使い勝手が良いんだがなぁ。

 うん、これはお蔵入りだね。


「とりあえず『自動車』を改造すればトラクター代わりにはなるだろう」


 車の後ろに耕すやつとか種を蒔く機構を取り付ければなんとかなるか?


「いやいや。あの鎌を何個も付けたようなやつを作れるか? 作れるとしても鉄は足りるのか?」


 あの土をかき回す部分。

 すごく鉄を使いそうだ。

 家庭菜園用ならともかく、商業用の農園だとある程度の広さを一度に耕せないとなぁ。

 そうなると鉄の使用量もうなぎのぼりに増えるし。


「まてよ。魔法があるんだから魔法で土を耕せないかな?」


 いわゆる土魔法だね。

 畑を耕すのに土魔法を使うってのはラノベとかでも時々出てくる手法だし、いけるのではないだろうか?


「問題は出力と持続性か」


 中級魔石ならなんとかなるだろうけど、下級魔石で魔力が足りるか?

 ローラーを回すのであればほぼ接触できるが、土を耕すとなれば少し距離が空くだろう。

 下手に土と接触すれば魔石や魔導線が傷つくからね。

 ある程度離しておく必要があるだろう。

 だが距離が離れればそれだけ魔力の消費が大きくなる。

 場合によっては多数の魔石が必要になるかもしれない。

 鉄と魔石、コストが安いのはどっちだろう?

 実際に必要な量がわからないとなんとも言えないか。

 だが考えてみたら塩水選でかかる費用より数段高くなるのは確実だろう。

 耕運機でそれだけの人件費を削減できるか?

 農奴の人件費は安いからねぇ。

 下手をすれば百人規模で削減できないとコストに見合わないかもしれない。


「駄目だ。貴族なら一人分の労力を肩代わりできれば相当の節約になるが農民の場合とんでもなく効率化しないと割が合わないぞ」


 農奴と下級士爵程度の貴族でも、平気でコストが百倍とか違うからね。

 魔導具を使うより、一時的にどこかからか農奴を借りてきて一気に畑作りしたほうが安いかもしれないな。

 大人数を移動させるのは難しいかもしれないが。

 鉄や魔石の値段がもう少し下がればなぁ。

 実際のところスマホやパソコン、自動車の普及で下級魔石の値段は上昇傾向だ。

 農産物のように頑張れば増やせるってもんじゃないしね。

 魔物を、それもある程度強い魔物を倒さないとパソコンなんかに使える魔石は手に入らない。

 スライムなんかからも魔石が取れるけど、とても使い物になるほどの力は引き出せない。


「まてよ。狩人なんかはスライム魔石の粉末でそれなりの効果を上げているんだから何とかならないだろうか?」


 基本的にひとつの魔導板に複数の魔石をつないだ場合、そのつないだ魔石の分だけ同じ魔法が発動する。

 パソコンとして使う場合は同じプログラムが同じように動いてしまうので、画面なんかは重なってしまいまともに使えなくなるだろう。

 だがもっと単純なもの、例えば火球なら一個の火の玉でも百分の一の威力の百個の火球でも熱量は同じだ。


「スライム魔石をたくさんくっつけて、威力アップが出来ないだろうか?」


 いや、そういうのを試していないはずがないよな。

 なにか落とし穴があるかもしれない。

 ちょっと先生に聞いてみるか。

 僕は先生宛にメールを送る。

 返事はすぐに来た。


「えっと、スライムの魔石クラスになると魔導書を読み込むだけの魔力が得られないか理解するだけの知能が失われるため、魔法が発動しない? つまり魔導書の文字が読めないから使い物にならないと」


 ハンターが実用的に使っているのは直接精霊に思考で指示しているからか。

 ということは魔法使いなら使いこなせるってことだね。

 農民に魔法使いの訓練をさせる?


 うん、無理だね。


 簡単にできるんなら貴族だってもっと出来る人が増えてるよ。

 ハンターにはハンター独自のノウハウがありそうだし、そもそも使えるのは皮膚の強化だけ。

 自在に操れるわけじゃないみたいだしね。


「とすると、魔物の養殖?」


 これは反社会的行為だね。

 国内法でも重罪だ。

 これを領主がやったら領地のお取り潰しでもおかしくない重犯罪だ。

 許されているのはスライムとか一部の下等魔物だけ。

 スライムは各家庭の汚物曹とかに放しているからね。

 適当に増えたところで潰してスライムゴムとかスライムゼリーとかスライムフィルムとか作るらしい。


「魔石の供給量を簡単に増やす手段はないか」


 FCSを使えば一網打尽にできるかもしれないが、流石にFCSを一般公開はできないし、ファンタジーなダンジョンじゃないんだから魔物が無限リポップするなんてこともない。

 ちゃんと生物や質量保存の法則に従い、普通に親から生まれ成長していくので、乱獲すれば当然数が減る。


 鉄ならどうだろう。

 採掘はともかく、自動車のおかげで運搬は効率化しているはずだ。


「まあ、いくら効率化しても、採掘量が変わらないんじゃ意味ないよね」


 ダイナマイトでも発明されないと大量採掘は無理かな?


「爆弾なら頑張れば作れるかも」


 爆弾は内政チートで時々使われるやつだからおおよその作り方は覚えている。

 だかこれは無しだ。

 いずれ発明されるかすでにどこかで発明されているかもしれないが、僕はそんな大量殺人兵器に手を貸したくない。

 FCSだって秘匿しているのに。

 魔法があるせいで科学があまり発達していないからいいようなものの、今この時代に大量破壊兵器が開発されれば、元の世界と同じように世界大戦が始まる可能性がある。

 人類の倫理観がまだ育ちきっていないからね。

 元の世界だって戦争が途切れることがなかったんだから、こちらでも一度は行き着くところまで行くだろう。


 火薬は貴族でなくても使えるからね。

 まあ、魔法も平民でも使えるけど中級魔石の入手が難しく特定の少数以外に持たせるとなるととてつもないコストがかかる。

 その点火薬は量産が可能だ。

 農奴に火器をもたせて戦争するのであれば、支配階級は後方にいられる。

 今は貴族が魔法を独占しているから大規模な戦いは避ける風潮だけど、平民や農奴が大きな力を使えるのであればもちろん投入されるし、それがまた貴族と平民との戦いに発展するかもしれない。

 貴族の利益を享受している僕が手を出すべきことじゃないね。

 革命が起きて断頭台になんか登りたくはない。


「てことは、農業機械の件は無しっとことか」


 農業改革はどれも効率が悪すぎて、すぐになんとかなるものじゃなかった。

 人件費が上がらないとなかなか工業化出来ないのと一緒だ。

 オートメーション化するより工員雇ったほうが安く上がるのなら、工員雇うよね。

 少し前の中国がこの状態で、安い人件費の人員を使い単純な作業を任せることで経費を削減した。

 この国も魔導具を使うより人を使ったほうが安いから、効率化する魔導具は作られないし使われない。

 効率化を進めるには、まず中国のように富めるものから富めとばかりに、民にお金を回し人件費を上げていくしか無い。

 経費が増大すれば自然と経費を削減する方向に向かうのだから。

 今の中国はもう立派なロボット大国だ。


「しゅーりょー」


 僕は作った資料を保留フォルダに入れパソコンを閉じる。

 諦めたらそこで試合終了とか言うけど、諦めなくても試合終了のときは来るよね。

 人生どうにもならないこともある。

 こうして農業改革は没になったのであった。


 農業の機械化というやつは人件費が極端に安いと成り立ちません。

 機械を導入するコストより人を雇ったほうが安上がりだからですね。

 日本でも外国人技能実習生や時には不法就労なる安い労働力を使って生産している農家もあるようで、給与や待遇面で時々ニュースになったりしているのを見かけます。

 最近はコロナの影響で入国ができなかったり、円安の影響で外国人労働者にとっては収入ダウンとなり魅力が薄れたりと、外国人労働者の受け入れどころか、その外国人にそっぽを向かれるようになってきました.

 日本人の給与は他の先進国と比べ相対的に安くなり、世界一高かった東京の物価は、今や外国人にとっては安いと感じられるほどに。

 農業だけでなく様々な分野で効率化を怠ったため、日本全体の生産性が下がったせいですね。


 日本は昔の小作農のイメージが強すぎて、農業は個人でやるものみたいな感じになっていて、農家が土地を手放さないあるいは手放せない状況に落っています。

 大規模農業を行うには周辺の農地すべてを買い上げる必要がありますが、先祖代々の土地などと言っている人たちから買い上げるのは難しいでしょう。

 また、農地の売買はいろんな規制があって、農業関係者ではない人が新規参入するのは非常に困難です。

 なのに農業従事者は70%ほどが65歳以上で、今後急速に農業従事者が減っていくものと思われます。

 その時までに規制緩和や効率化が済んでいないと、日本の食料自給率は大幅に下がってしまうでしょう。

 ウクライナ戦争によってすでに食料輸出規制を始めている国もあり、食料が買えない、あるいはそこまでいかなくても値上がりと円安で、貿易赤字はますます大きくなるのは間違いありません。

 輸出規制や貿易赤字により食料が買えなくなった時、令和の大飢饉が起きるかもしれませんね。


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[良い点] やっと追い付いた。 滅茶苦茶面白いです。
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