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ルールの策定

 マリエッタを乗せて上機嫌になった父上より販売許可を取って、僕は実際の販売準備を始める。

 まずは交通ルールの策定だね。

 とはいっても馬車にもある程度のルールがあるからそれにいくつかプラスする感じか。


「必要なのは、『ウインカー』と『ハザードランプ』それに『クラクション』の使い方だね」


 特にクラクションの使い方は周知徹底したい。

 どこかの新興国みたいに四六時中鳴らしっぱなしのような状態にはしたくないからね。

 必要最低限に留めるように指導するとともに、鳴らし過ぎのやつは兵士に捕らえさせて罰金とお説教だ。

 ウインカーやハザードランプもきっちり使うよう指導が必要だね。

 簡単な講習と運転練習を含めて行える教習制度もあったほうがいいか。

 運転免許証やナンバープレートも発行しよう。


「そこまでする必要があるのですか?」


 アンジェリカが尋ねてくる。


「今はまだ必要ないと言えば無いね。だけど必要になってから一気にルールを決めると領地全体、あるいは国全体で一気に教え込まないといけないだろ? 今なら買った人に順次教えていけば済む。小さなルール変更くらいならメール一本で済むけど、たくさん変更があればやはり実際に集めて練習させたりしないといけないからね」


 将来的に複数の魔石を使った大きくて速い自動車なんが出来たら交通事故も増えるだろうし。

 そうなってからルールを決めても失われた命は帰ってこない。


「それはそうですね」


 僕はそんな感じでルールと罰則を作っていった。

 ヘルメットについては推奨でいいか。

 実際のところ向こうのバギーでも自動車扱いなのでヘルメットは不要だったはずだし。

 シートベルトも推奨にしておくか。

 自動的に長さを調整してくれるようなシートベルトはとても作れないから、やるとしても幅広の紐で縛るだけだし、実際それが役に立つかどうかもわからないしね。

 細い紐を使ったら食い込んでかえって危険かもしれない。

 ショックを和らげるような伸びる素材を使った紐ができれば必須にしよう。

 そんな感じで簡単なルールを決めていく。

 道路標識もセンターラインも横断歩道も信号機もないのだ。

 決めるルールもそんなにはない。


「まあ、こんな感じかな。これは父上と文官に渡して、現実とのすり合わせをしてもらおう」


 いくら良いルールでも現実に則さないと無意味だからね。

 罰則の重さなんかも、よくわからないし。


「ではルールづくりはもう終わりですか?」

「いやいや、僕たちの戦いはこれからだ」

「一体何と戦っているか知りませんが、まだやるんですね」

「ええ。今作ったのは運転する側のルールですので、販売する側のルールと製造する側のルールを決めます」

「売る方と作る方ですか?」

「はい。売る方は免許がない人には売ってはならないとか、免許を取りたい人に教習を受けさせるとか、ナンバープレートの設置と報告の義務化とか、製造する方は耐久性や信頼性に問題が出ないようにする品質管理のルールですね」


 免許のない人に売られたら、いくらルールを策定してもどうにもならないからね。

 まあ、運転アプリは個人登録したスマホ以外に入れられないようにすれば多少は抑止力になるだろうけど。

 注意すべきは製造のほうだね。


 基本的に製造に関しては特許を取らない予定だ。

 どうせスマホと運転アプリがなければ動かないしね。


 車体そのものは荷車とたいして変わらないから車体本体の特許は取れない。

 違いはスマホとアクセルやブレーキ、ウインカーやブレーキランプ程度のもので、アクセルやブレーキペダル自体の構造も知られていないわけでもないし、ウインカーやブレーキランプも単なるライトの魔法なので使用目的が違うだけでは特許を取れるはずもない。

 カイゼルさんが試作車を素早く作れたのも既存の技術の範囲だからだ。

 なので車体に関しては規格に沿っていれば自由に作れるようにする他無い。

 そのほうが奇抜な車体が出てくるかもしれないしね。

 しかもすぐにこの領で作れる限界値を超える。


 町が小さいからね。


 パソコンより大きいので、運搬も簡単ではないという理由もある。

 専売特許は基本的に自分で作って売るための権利だから、他人に作らせる場合にはその管理を自分でやらないといけないし。

 今はそれをやるだけの手が足りないのだ。

 スマホやパソコンだけで精一杯というのもある。

 そんなのやってるくらいなら、運転アプリに特許使用料を上乗せして販売したほうがずっといい。

 なので運転アプリは他のアプリに比べて少し割高になる。

 僕は製造販売使用まで細かなルール案を策定し、後は父上に丸投げしたら、何度も呼び出されて詳細を説明させられた。


 解せぬ。


 その代わり父上も領地用に何台か買ってくれた。

 騎士や従者用、文官用だ。

 その代わり馬を何頭か処分。

 購入費用はスマホが流用できるので、将来の運用にかかる費用を考えればかなりお得との試算が出たためだ。

 騎士団では時折魔物の間引きで遠征があり、馬車よりも運搬効率がいいし、馬を守る必要がないからとても喜ばれた。

 魔石がついていればともかく、外してしまえば生き物ではない車に襲いかかる魔物はいないからね。


 他にも従者を連れて行く場合にも重宝するとか。

 騎馬が与えられないから馬車で移動となり、結局馬が必要になる。

 数人でまとめて移動できるときなどはいいが、そうでないときは一人に一頭必要だからね。

 文官なんかも、いちいち馬車を用意するより車ででかけたほうが早くて便利だとの評判だ。

 馬車だと、厩から馬を連れ出し、馬車につなぎ、御者も用意しないといけないからね。

 長距離なら餌や水なんかも積み込む必要がある。

 用意した車の中にマリエッタ専用車があったのには笑ったが。

 時速制限とかの設定をいじれないようにしたチャイルドロック付きw の車だ。


 今はマリエッタと、そのお友達のリーンシアが時々庭で乗っている。

 父上が乗るときは少し最高速度を上げて乗せてやってご満悦らしい。

 もちろんご満悦なのは父上だが。

 そうやって離宮内で使いながら運用ルールを詰めていく。

 それと同時に商業ギルドや職人ギルドを呼び出し、自動車のプレゼンと製造販売運用ルールの通達。

 教習所の新設などの要求をした。

 秋口には免許取得者も増え、町中を自動車が走るのも珍しくなくなった頃、他領向けの販売も始まったのであった。


 自動車免許更新のたびに法改正の冊子もらうんですが、ペーパードライバーなのでほぼ見ていませんw

 こういうのがいるので法の徹底やルールの徹底は難しくなるんですよね!

 時々変なローカルルールが有ったりして、遠出するとヒヤッとすることもあるとか。

 最近はドライブレコーダーの装着率も上がり、危険運転やあおり運転などの証拠も残しやすくなっていますが、自分も見られているということを忘れないようにしましょう。

 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだw


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