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妹とプレゼン

 その後数日かけてブレーキの強化、魔導線配置の最適化、プログラムの細かい調整を行い、僕専用機として改装も行い、初号機は初号機改となって離宮に帰ってきた。

 今日はその初お披露目である。

 招待客は父上に母上と妹のマリエッタもいる。


「みなさま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。これから新しい魔導具『自動車』の公開試乗会を初めます」


 わーぱちぱちぱち。


 誰も拍手してくれないので、心の中で僕だけ拍手した。

 なんでみんなそんな怪訝な顔しているんですか?


「『じどうしゃ』とは何だ?」


 そっかー。

 自動車って言葉がないからわからなかったか。


「馬がなくても走ることのできる車です」

「馬車から馬を外したものということか。それにしては小さいな」

「下級魔石の力ではこれ以上だと色々制限がかかるので。最大乗車人数は二人までですね」

「二人乗りはずいぶん少ないな。御者が乗ったら一人しか乗れんではないか。しかも後ろの座席は随分狭苦しいし」

「基本的には一人乗りで、もう少し広くすることも出来なくはないですけど、速度や移動距離とのトレードオフになります」

「しかも屋根も壁もないな。それではいい見世物になりはしないか?」

「屋根も壁も重くなるので下級の魔石では厳しいと思います。幌のようなものは被せられるかもしれませんが」

「では、乗るような貴族はおらんだろう」


 父上からの評価は散々だね。


「基本的に貴族が乗ることを考慮していません。乗るとしても騎士が町の警備に使うとかですかね? このように小さいので小回りがききますし細い路地にも入っていけます。馬より維持コストが安く、毎日何時間乗っても大丈夫で、馬の全速力には及びませんが、そこそこの速さで一日中走れます」


「馬より持久力に優れ安く運用できるということだな」

「はい。なので基本的には庶民の足代わりに売っていこうと思っています。椅子の代わりに荷台を付けたり荷車を引けるようになっていますので。荷が敏速に運べるということは輜重部隊にも使えるでしょう。馬なら定期的な休憩はもちろんのこと餌や水なんかも大量に必要ですが、これなら乗っている人間の分だけですのでだいぶ少なくて済みますし」

「確かに輜重部隊で馬に運ばせると、馬の餌と水だけでかなりの量を占めるからな」


 馬で物資を運ぼうとすると、餌と水のせいで思ったより少ない荷物しか運べなかったりする。

 特に戦いに赴くときなどは途中で補給できないことも多いから、全部持っていこうとするとかなり効率が落ちるのだ。


「これがあれば町の中の移動や荷物運びだけでなく領地間の荷運びも便利になるでしょう」

「なるほど。一見の価値はあるな。まあ実際に運用してみないことにはその有効性はわからぬが」

「まずは町の商人に売って、使ってもらいましょう。すでに『スマホ』を持っているところならこの車体と運転『アプリ』だけで済みますので、かなりお求めやすくなっています。まあ、運転している間は他の『スマホ』機能は使えなくなりますが」


 ながら運転は許さん!

 ってわけじゃなくて単にマルチプロセス化出来ていないってだけだけどね。

 電話やメールが来たら、アイコンが点滅して知らせてくれるから、車から外せば普通にスマホとして使えるし、まあいいかなと。

 早くなんとかしたいんだが、マシンパワーも十分じゃないし、四倍速マシンの歩留まりが良くなってからかな。

 いや、グラフィック機能が先か?

 向こうの世界だって八ビット機でもグラフィックは表示できたんだ。

 解像度も低く八色とかそんなしょぼいものであっても。

 どちらを先に手を付けるか悩ましいところだ。


「まあ、取りあえず動くところを見ていただきましょう」


 僕は用意した初号機改に乗り込む。


「アルカイト、あなたが乗るのですか?」


 母上が心配そうに声をかけてくる。


「もちろん開発者が乗らないものを売ったり出来ませんからね。大丈夫です、カイゼルさんで散々テストしましたから」


 カイゼルさん()というのがポイントだね。


「では行きます」


 僕はスマホをセットして始動キーをつぶやくとフロントパネルに計器やスイッチが表示される。

 アクセルをゆっくり踏むと初号機改はゆっくり動き出した。

 もちろんカイゼルさんサイズでは足が届かないので、僕用に高さや位置を調整してもらっている。

 初号機改はハンドルの位置や座席の位置なんかもある程度調整できるようになっているからね。

 僕はさらにアクセルを踏み込み、一気に最高速度まで上げ、ブレーキング。

 バックで方向を変えて、みんなのところへ戻る。


「まあ、こんな感じです」

「おにーたま、すごいです、はやいです」


 おお! マリーから大絶賛を受け鼻高々です。


「ちょっと乗ってみる?」

「えっ、のりたい! おかーたま、のっていいですか?」


 妹様が期待に満ちたお顔で母上に訴えかける。

 か、かわいい! 

 僕なら二つ返事でOKしちゃうな。


「アルカイト、本当に大丈夫なんですよね?」

「はい、今のは最高速ですけど、大人の早足くらいまでで抑えますから」

「後ろでおとなしくするんですよ?」

「あい!」


 マリーが飛び跳ねながら後部座席に座る。


「マリー、前の手すりをしっかり握って、動いている間は絶対立ち上がったりしたら駄目だぞ。約束できるかい?」

「できるー」

「良い返事だ。ちゃんと座って手すりにしっかり掴まったかい?」

「だいじょうぶー」

「じゃあ行くよ」


 僕はアクセルをゆっくり踏み込んでいく。

 速度計は六キロメートル前後で固定だ。


「すごいすごい! うごいてる!」


 アリエッタは馬には乗ったことがないし、外には連れ出せないから馬車に乗ることも無いからね。


「おー、じめんがうごいてるよ!」


 うん、楽しそうで良かった。


「そろそろ戻ろうか」

「えー、もっとぉ」

「僕もそうしたいけど、母上が心配そうに見ているからね。次は母上と乗ろうか」

「おかーたまと? うん! おかーたまとのる!」

「もどるよー」

「おー!」


 曲がり角でバックで方向を変え皆のところへ戻る。


「母上、次は母上がマリーと乗りませんか?」

「ええ、私にできるかしら」

「最高速度を人が歩く速度に設定しますから大丈夫ですよ」


 フロントパネルで設定画面を呼び出し、最大速度を変更する。


「これで大丈夫です。ちょっと練習してみてください」


 僕はマリーを一度降ろし、母上を乗せる。


「『アクセル』と『ブレーキ』『ハンドル』の位置を調整しましょう」


 今は僕サイズになってるからね。

 いくら母上がミニサイズでも流石にきつい。

 調整は簡単だ。前後高さが調整できる角材が嵌っているだけなので、丁度いい位置になったらストッパーの棒を差し込むだけだ。


「どうです? 窮屈ではありませんか?」

「多分大丈夫だと思うわ」

「じゃあ、次は操作方法ですね」


 僕は操作方法を母上に教えていく。

 まあ、アクセルとブレーキにハンドルの操作だけでとりあえず問題ないからね。

 説明はすぐに終わった。

 念の為僕が後ろに乗り込んで指導しながらの運転になる。


「じゃあ、『アクセル』踏んでみてください」

「こ、こうね」


 車が動き出す。

 めいいっぱいアクセルを踏んでも、大人が歩く程度の速さだ。


「あら、あらあらあら」

「もっと左によってください」

「こ、こっちかしら?」

「逆です」

「あらあら、こっちね」

「行き過ぎです。少し戻しましょう」

「このくらい? ええ! 道から外れてしまうわ」

「『ブレーキ』を踏んでください。左足です!」

「だめー!」


 芝生に突っ込んだ。

 足が離れて車が止まった。

 うん、母上は致命的に運転センスがなさそうだ。


「マリーが母上の後ろに乗りたいといっていたので、頑張ってください」

「これ、もっと簡単にならないのかしら?」

「母上レベルはちょっとむずかしいかもしれません」


 まっすぐ走れない。

 右と左で混乱する。

 もちろんアクセルとブレーキの踏み分けが出来ない。

 これでどうしろと?

 なんか元の世界のおふくろさんを思い出すなぁ。

 テレビのリモコンはチャンネルボタンとボリュームと電源ボタン以外は一切触らない。

 間違えて、アナログ・デジタル切り替えのボタンを押しちゃって、テレビが映らないと電気屋を呼んだらしい。


 エアコンのリモコンも電源のONとOFFのみ。

 その他設定は僕がやった冷房設定と温度のまま絶対いじらずそのまま使ってた。

 もちろん冬になったらエアコンは使わず、昔ながらの石油ストーブで暖を取る。

 電話ももちろん黒電話だ。


 そうだ。


 最初の頃にとりあえずで作ったスティック操縦桿ならどうだろうか?

 あれなら棒を倒すだけだからね。

 ハンドルなんかも方向に同期して自動で動くようにすれば母上でも操作できるかもしれない。

 駄目ならお手上げだ。


「考えておきますので、とりあえず向こうに戻りましょう」


 僕は母上の膝の上に乗って、ハンドルを握る。


「母上、右足のペダルを踏んでください」


 途端にバックし始めるので、僕がハンドルを操作して、元の位置に戻った。


「操作は結構難しいのか?」

「いえ、だいぶ簡単なはずなんですが、運転に向かない人もいるようです。父上も乗ってみますか?」

「やってみよう」


 僕は父上用に再調整して、車を明け渡し、僕は後ろに回る。

 同じようにアクセルを踏み込むとゆっくり動き始めた。


「父上は問題なさそうですね。そこを曲がってバックで戻ってみましょうか」

「わかった」


 父上はいわれた通りハンドルを切って、横道に車を入れブレーキ。

 バックスイッチを入れて後ろ向きに発進させ切り返す。


「確かに簡単だな。あれは、なんでこれができんのだ?」


 僕もそう思いますが、世の中免許をとったくせに、まともに縦列駐車も出来ない人がいるんです。

 ああいうひとはどうやって免許取ったんでしょうかね?


「もう少し最高速を上げてもよいか?」

「ええ、父上なら大丈夫でしょう」


 僕は前に回り最大速度を調整する。


「とりあえずさっきの二倍にしておきました」

「うむ、マリエッタ。父の後ろに乗らんか?」

「うん! おとーたま、ありがとう!」


 マリーが喜び勇んでやってくる。


「ちゃんと掴まったか?」

「だいじょうぶー」

「ではいくぞ」

「わーい」


 マリーを載せて車が走り出す。

 父上、顔が緩みすぎです。

 強面系の父上がユルユルとか誰得?

 ゆる何とかは日常系の定番だけどゆる父は非日常系、いや、ホラー系か?

 今日は自動車のプレゼンのはずだったのにどうしてこうなった!?


 主人公の元の世界のおふくろさんとは自分のおふくろさんのことですw

 書いてあることは信じられないかもしれませんがすべて実話ですw

 他にも自転車に乗れない(乗った姿を一度も見たこと無い)。もちろん車の免許などありません。

 テレビの番組は新聞のテレビ覧で確認し、テレビの番組表は使えない。

 ビデオやDVDプレイヤーさえない。

 もちろんパソコンもスマホも使えませんしそもそも持っていません。

 みなさんのところのおふくろさんはいかがでしょうか?


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