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スクーターを作ろう

 狩人ギルドから帰った僕は早速見学の最中に思いついたスクーターについて考えてみようとパソコンの前に座る。


「まずは下級魔石一個でどのくらいパワーが出るかの検証は必要だね」


 坂道や発進のときは比較的大きな力が必要だからね。

 一回巡航速度に達すれば、それほど魔力も使わないと思うけど、それでも回復速度を上回る速度で走らないように制御しないといけない。

 場合によっては複数の魔石が必要になる可能性もある。

 しかも向こうのバイクと決定的に違うのがベアリングの存在だ。

 この世界にはベアリングを作る技術はないからね。

 軸受の摩擦のせいで、十分な速度が出ない可能性もある。


「次に考えるのはどういう形にするかだね」


 スクーターだし通常の二輪にするかそれとも三輪にするか。

 いっそのことスクーターじゃないけど四輪にするか。

 一人乗りの小型自動車なら三輪スクーターとそんなに重量は変わらない気がする。


「構造としては三輪が妥当かな?」


 二輪だと強度に不安がある。

 なにしろ部材の殆どが木だ。

 一部鉄を使って補強が必要だろうが、できれば最小限にしたい。

 鉄は高いからね。

 とすると三輪のように構造上一輪多ければ体重も分散されるし、立体的構造の方が強度を稼げるであろう。

 それ以外にもこの世界の人は二輪車というものを見たことがないはずだ。

 その状態で二輪車にちゃんと乗れるかと言われると無理としか答えようがない。

 僕が最初に自転車に乗ったときは何度もころんだからね。

 バイクで転ぶと怪我はともかく壊れた時の経済的負担が半端ない。

 スマホをそのままエンジン代わりに乗っけるのはいいが、魔導板はガラス製だ。

 大きなショックを与えるとそのガラスが割れかねない。

 ならばひっくり返ることのない三輪か四輪が良さそうだ。


「とは言え四輪だと舵取りが難しいんだよね」


 ハンドルを回すとタイヤの向きが変わる。

 車輪が一本の車軸でつながっている馬車では、どうやっても左右には曲げられない。

 独立した車軸が必要だが強度が確保できるだろうか?


「まあ三輪だって前輪は独立しているから出来ないことはないかな? というか出来ないと三輪車すら作れないよね」


 ここはまあ、できると仮定して仕様を決めていこう。


「次は駆動輪だね。普通に後輪? それとも前輪駆動にするか?」


 三輪で前輪駆動ってうまく制御できるのか?

 わからんから後輪でいいや。

 今の馬車のような一軸だと回転機構もひとつでいいけど、デファレンシャルギアがここの技術では作れないだろうなぁ。

 金属部品も大量に必要だし。

 できれば左右の車輪は別々に動かしたい。

 車軸一本の馬車は小回りがきかないからねぇ。

 小回りがきいて手軽に走れるやつが欲しい。

 とすると全輪が独立して動く必要があるのだけど、まあ、これもできるとしよう。

 前輪ができるんだから後輪もできるよね。

 ただ全部を独立させるとなると、魔石一個でどうやって力を伝えればいいものか?

 魔法の力というやつは距離が離れるほど大きな魔力を消費する。

 距離の二乗に反比例して魔力の及ぼす力が減衰するからだ。


「後輪は左右に向ける必要はないから、車軸を真ん中まで伸ばせばいいか」


 んで、真ん中に魔石を配置して、左右の車軸を回転させるっと。

 左右は基本的に同じ力を掛けるか、旋回方向に合わせて左右どちらかに強めの力をかければ旋回性能もよくなるだろう。


「次の問題はサスペンションか」


 これは難問だ。

 まずスプリングの生産が難しいことだ。

 この世界の技術力では、車体を支えられるほど強力で耐久力の有るスプリングを作るのは難しい。

 スプリングなら僕のパソコンのキーボードにも使われているけど、細くてそれほど耐久力を求められていないから作れるようなもので、バイクや車などに利用しようとするととたんに難しくなる。

 均一な鋼鉄を手作業で作るのは難しいからね。

 どこか一箇所でも不均一な場所があれば、そこからスプリングは破断する。


 今の技術では完全に均一な素材なんて作れないのだ。

 また、問題は強度だけではなく、金属製品がとてつもなく高価ということに尽きる。

 貴族が使っている馬車だってスプリングは使われておらず、台車の上にスライム製のゴムっぽい素材を敷いてその上に車体を乗っけるような構造になっているらしい。


「とりあえず座席にスライムゴムのクッション敷くだけでいいか」


 なにか問題があればその時考えよう。

 馬車より高速に動かそうと思えばタイヤやサスペンションの存在は不可欠だろうが、同程度の速度ならとりあえず不要だからね。


「まずは個人用の三輪バギーっぽいものでも作ってみるか」


 荷物が軽ければそれだけ低い強度でも問題はないし、パワーが低くてもそれなりの速度は出るだろうし。


「大体の構造は決まったから、次はソフトウエア面だ」


 ここまでは全然魔導士爵とは関係なかったけど、ここからは僕の専門分野だ。


「まず必要なのはエンジン部だね」


 魔法の力は石を飛ばしたりすることもできるから、物体を任意の方向に動かすことももちろんできる。

 後輪から中央に伸ばされた車軸を任意の力で回転させることだってできるはずだ。

 もちろんやろうと思えば、逆回転だってできる。

 これがギアチェンジなしにできるのだからどちらかと言えば電動バイクに構造は近いか。

 この車軸に近い部分に魔石を配置するか魔導線を車軸まで伸ばせばいいだろう。

 というか魔導線を使うなら車軸を中央まで伸ばす必要はないね。

 まあ、ある程度車軸が強度を保つには有利かもしれないから、その辺はやってみて考えよう。


「次はアクセルとブレーキだね」


 とは言え僕はバイクに乗ったことがないんだよなぁ。

 普通のスクーターだと右手のグリップがアクセルで、左右のレバーがブレーキだっけ?

 マニュアル車だとクラッチやシフトチェンジなんかが有るのだろうが、今回は考えなくていい。


「さて、バイクと同じにするか。それとも車を参考にするか」


 バイクの場合をちょっと考えてみよう。

 右手のグリップをアクセルだとした場合、それを回せるようにする他、戻したりする機構が必要になる。

 そんな複雑な機構が作れるであろうか?

 作れるとしても、コストが掛かったり製造に時間がかかったりしないだろうか?

 複雑な機構というのはそれだけ手間がかかるってことだからコストと量産性に疑問が残る。

 ブレーキレバーだって金属にしないと強度的につらそうだし。

 それに魔導線をよく動くハンドルに取り付けるのは強度的にどうなのだろうか?

 これもやってみて確認するしか無いだろうが、やってみて駄目だったら再設計が必要になる。


 車の場合はどうだろうか?

 アクセルペダルとブレーキペダルがまずは必要だ。

 ペダルだから前後のブレーキを使い分けできない。

 三輪だし、そんなに速度も出ないだろうから後輪ブレーキだけでいいかな?

 後ろ側に重心位置をとれば、ブレーキの効きも問題ないだろう。

 旋回中に下手に前輪ブレーキ掛けるとそのまま斜め前に転倒しそうだし。

 三輪でサスペンションもないとバイクみたく斜めに車体を傾けられないからね。

 それに将来四輪車を作ったときに同じ操作方法のほうが混乱も少ないだろう。


「なら、右足アクセル左足ブレーキにしておくか」


 左足ブレーキは推奨しないみたいに言われることも有るようだけど、それはこれまでそういう操作が標準で、慣れたものを変えるのは間違えやすいというのが主な理由で、最初からこの操作にしておけば踏み間違えたりすることもあるまい。

 ペダル方式ならキーボードのでかいやつみたいな構造を木で作れるだろうし、反発剤もスライムゴムが使えるはずだ。

 つまり金属部品はいらない。

 せいぜいペダルと軸との接続に釘を打つ程度か?

 魔導線もハンドルまでのばす必要はないから、強度の問題は考えなくていい。


「よし、アクセルとブレーキは車方式にして、駆動輪もブレーキも後輪でいく」


 ブレーキは逆回転力を与えれば簡単にできるからね。

 ディスクブレーキだのドラムブレーキだの作る必要がないのは嬉しい。


「魔法で制御するんだからアンチロックブレーキシステムなんか装備できないかな?」


 とは思ったが、滑るほど速度が出たときに考えよう。

 回転数と物体の速度が検知できれば制御プログラムは簡単にできるだろう。


「次に必要なのはウインカーやブレーキランプかな」


 実際のところ馬車程度の速度ならいらないのだろうけど。

 馬車にだってついていない。


「これも馬車以上の速度になったり渋滞するくらい普及したら考えるか」


 試作機はできるだけシンプルにしとかないと、時間がかかっちゃうからね。

 ヘッドランプは車体前方に魔導線を伸ばして光魔法でいいし、当分はなくてもいい。

 雨よけとかもまだいいだろう。

 とりあえずは車体にアクセルブレーキだけ付けた三輪車でいいだろう。

 ハンドルは操作方法統一のため車と同じ円形ハンドルにしよう。


「あとは魔力切れがわかるように魔力計を表示できるようにしておく必要があるかな?」


 いきなり魔力切れになったら、アクセルもブレーキも効かなくなるからね。


「魔導線が切れたりすることも有るだろうから、緊急ブレーキくらいは必要かな?」


 まあ馬車程度の速度なら足で止められないこともないか。

 これも必要になったら考えよう。


「っていうか、これってほとんど、遊園地のゴーカートだよね?」


 車体の他はハンドルとアクセルとブレーキしか無いのだから。

 スクーターを作ろうと思ってたらいつのまにやらゴーカートを作ってたでござる。

 どうしてこうなった?


 スクーターと言えば日本ではお手軽な交通手段ではありますが、自転車すら乗ったことのない異世界の人が乗りこなせるかわからなかったので、とりあえずこんな形になりました。

 普通自動車の免許取ればおまけでついてくるので、自分もスクーター買おうかなとか思ったこともありますが、乗ったこと無いしヘルメットうざいし、2段階右折めんどいし、歩道走れないしと意外と制限多くて自分の行動範囲なら自転車のほうが利便性が高いということで、買うまで行きませんでした。

 ただ、結構近所に坂道あるので、電動自転車が便利かなとか思っていますが、数少ないw 運動の機会でもあるので、坂道でおばちゃんに追い越されながら、普通の自転車で頑張っていますw


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