ビキニアーマーはお好きですか?
階段を上がるとすぐ左右に扉が複数並んでいるのが見えた。
「この辺は酔っ払いを放り込む個室だね」
そう言うと若女将はドアをひとつ開けて見せてくれた。
二畳くらいでほぼベッドしか無い。
「こっちのバー側の階段から上がると酔っ払い用。向こうの食堂側から上がると家族用や団体用になってる」
なるほど合理的だ。
「こっちは口さがない野郎どもはタコ部屋なんて呼んでるけどね! カネを払うまでは出られないからって。まあ、タコなんざ見たこともないけど」
「タコはこの間見ました。大変美味しゅうございました」
「あらまあ、そりゃあ酔狂な。何でも足が八本もあってぐねぐねヌトヌトとしているこの世のものとも思えない化け物のような生き物って話じゃないか。それを食ったのかい?」
「はい。見た目は確かに化け物みたいですけど、軽くボイルすると赤くて綺麗ですし、吸盤なんかはコリコリして美味しかったですよ?」
赤かったことからマダコではないね。
マダコは茹でると茶色っぽくなるし。
「そうなのかい? 私も海の近くに行ったら食べて見ようかな?」
兄上が興味深そうに話に混ざってくる。
「あー。漁師料理なので、普通の食事処では出していないかもしれません。後で食べられるところを紹介いたしますね」
客が来ればグレスタール大公もお喜びになるだろう。
兄上なら訪問するのに身分の不足はないし。
「そうしてくれるとありがたい」
「はー、商人様ってのはみんなこんなに酔狂なのかねぇ」
「別に酔狂ってことはないですよ? 食べ物なんて、その土地その土地で変わってきますし、それしかなければそれを食べるしか無いですから。その土地の人が食べているものであればいくら見かけが悪くても食べられないものではないってことですからね。口に合うかどうかは別にしても」
「商人様ならではの感覚ってやつかね。あたしらはここから外に出たことがないからね。せいぜい吟遊詩人が詠ってくれるか泊まりに来た商人に話しを聞くくらいで、しかも吟遊詩人も商人もそんなに遠くから来たという話は聞かないし。そういやあんたたちはどこからこっちへ?」
この辺は田舎でどん詰まりだから、基本的には近隣の領地としか行き来がない。
旅人が途中で通過するために立ち寄る場所ではないから、まあそんなものだろう。
「王都です」
「あれまあ。王都から来た商人なんて初めて見たよ。王都はどんなところだい?」
「僕はあんまり外に出してもらえなかったのでよくわからないんです」
「まあ、こんなに小さいんじゃ親御さんも心配するわね。うちの子だって、まだ敷地から出していないし」
この国の基本的な建物は、一区画をロの字型の建物で囲うように建てるのが一般的だ。
中央には井戸と広場があり、そこで洗濯や炊事などの家事を行ったり、倉庫や作業場や工房だったり、小さな子供の遊び場だったりする。
一区画まるごとの建物なので結構広く、基本的に一族郎党すべてがその建物で暮らす。
家の外壁は石やレンガ積みで強固に建てる。
いわゆる家の壁が一種の城壁になっているというわけだ。
町に城壁が無い代わりに、個々の家が堅牢に作られている上、地下室もあって何かあればそこに逃げられるようになっていた。
正直なところ治安はあまり良くない。
科学捜査が有るわけでも監視カメラが有るわけでもないから、犯罪を犯しても現行犯か多数の証人でもいなければ捕まえることはほぼ不可能だ。
なので町の中を一人で子供が歩き回るなんてことはまずありえない。
日本なら小学生の子供が一人で電車通学するのは普通の光景だが、海外に行けば親が送り迎えしないといけない国が大多数で、日本の現状を聞いて驚かれることもしばし。
元の世界でもその程度であるのだから、倫理観が中世並みのこの世界ではそれ以上に注意が必要であった。
僕が答えられそうにないので兄上を見上げる。
「そうですねぇ。とにかく人は多いですよ? この町の数百倍はいるかと。あと貴族も多いですね。王宮と貴族街だけで街の半分を占めます」
「はー。ここの数百倍も人がいて、お貴族様だけで街の半分も使っているのか?」
「王宮と貴族街はだいたい同じくらいの大きさでしょうか」
なんとそんなにあったのか。
ざっと、街全体の四分の一が王宮かよ。
確かに広いなぁとは思っていたが。
王宮の中には庭園や池や森に川まであった。
建物も庭や別宮が何個もあり、たくさんいる王子たちがひとりひとつの宮をもらっても大丈夫なようになっているらしい。
他にも騎士が常駐する宿直宮や舞踏会やパーティーなどのための館や、客人を泊めるための館、馬房、馬車を止める車止めなんかも有るわけだから、広いのも無理はないか。
王宮は王とその一族の居住地というだけでなく政治や社交場でも有るのだから。
僕は後宮と本宮くらいしか行ったことないけど。
「ここの領主様の離宮も大きいと思ってたけど、王都にくられべたら全然小さかったんだね」
「まあ、そうですね。今は貴族も増えてだいぶ建て増ししているとは聞いていますが」
この町には貴族が泊まれるような宿屋も家もないからね。
基本的には離宮内の客室を私室に改装して使ってもらっているが、それでも足りなくなりそうなので、急遽建て増ししているところだ。
この町は貴族街を作るほど貴族がいなかったため、土地がなく離宮内の敷地の一部を貴族のために開放して建物を立てている。
まあ、完成まではまだ一年位はかかるだろうけど。
「その御蔭で、うちも繁盛しているよ。よその土地から職人が何人も来て泊まっているからね。そら、そっちの家族用団体用はほぼそんなのでいっぱいだ」
貴族の家を建てるのも公共工事の一種と言えよう。
この土地が潤えば、税収も上がり、うちの領地もウハウハになるって寸法だ。
まあ、人頭税や所得税はとっていないから麦その他農産物や塩などの専売による利益と、キャラバンの護衛代金などが主な収入源で、交易頻度が高まればそれだけ護衛依頼が増えて、物資の消費も激しくなるので税収が上がることになる。
「ここ数年で急に景気が良くなったからねぇ。いい領主様が来てくださって大助かりさ」
いやぁ、照れますねぇ。
僕の領地改革案が元になっているかと思うとこういう素直な感謝は心にしみる。
「ここが選定の儀に選ばれたときは、いつ破綻するのかって皆戦々恐々としてたから、まさかここまで持ち直すとはね」
選定の儀に選ばれるってことは破綻してもいい、いや、破綻させたいって言われているようなものだからね。
「まあそんな感じで、団体用は埋まっているから中は見せられないんだが構わないよね?」
「ええ、そこまで無理は言いません」
「そういやあんたらどこに泊まってるんだい? 宿屋はうちしか無いはずだけど」
「今は領主様のところでお世話になっています」
うん、そっちは嘘じゃないね。
「そらたまげた。あんたら大した大店なんだね。さすが王都の商人様は違うねぇ」
「王都でお世話になっておりましてそのご縁でご招待いただいたのです」
兄上が嘘八百を並べ立てる。
「そんな大店がこんな弱小ギルドに来なさるとは。やぱり酔狂なのかね」
「いえいえ、誰も目をつけていないところにこそ商売のネタは有るのですよね? 兄上」
「ああ、その通りだ」
「よくわからないけど、そんなもんかねぇ」
「みんなが知ってて狙っているところでは競争が激しいですからね。競りだって競合相手が多いほど値が釣り上がるでしょ? 安く買って高く売るのが商売人の基本ですから、競合相手が少ないうちに手を出すのがいいんです。まあ、その分リスクはありますが」
「小さいのに大したもんだ」
「今日はそのネタ探しなのです」
「そうかい。ならしっかり案内しないとね。次はギルドでいいのかい?」
「はい、お願いいたします」
「ギルドは家の裏手だが、さすがに家の中を通すわけにはいかないから外を回ってもらうが構わないかね?」
「もちろん問題ありません」
僕たちは一旦食事処を出て裏手に回る。
「こっちが狩人ギルド本体だね。左が解体場でその奥に蒸し風呂、真ん中が保存庫、右手が競り市だね」
作りとしては倉庫だね。
天井が高く獲物を吊り下げたり、素材を積み上げたりできるようになっているようだ。
左の解体場ではさっき持ち込まれたのであろう獲物が、吊り下げられているところだった。
「あれは!」
しかし僕の目を惹きつけたのはそっちではない。
「『ビキニアーマー』だと!」
そう。
ビキニアーマーを着た一二歳から一七歳位の美少女が三人もいたのだ。
いや、他にも同じ歳頃の半ズボンを履いた少年や大人が合わせて七人ほどもいたけど、そっちは目に入っていなかった。
ビキニアーマーを着た美少女なんてゲームやアニメの世界ならともかく、現実にいるとは思わないだろ普通。
目が惹きつけられるのは自然の摂理だ。
「か、彼らはハンターですか?」
「ああ、そうだね」
「あんな薄着というかほとんど裸で大丈夫なんですか?」
「あっはっはっは。確かに見慣れないとそうなっちまうか。あいつらはね、スライムの核を粉末にしたものをスライムゼリーに混ぜて全身に塗っているんだ。そうすると皮膚が下手な革鎧より頑丈になるらしいよ。まあ、使いこなすのはけっこう大変だって話だが」
なるほど、魔法か。
精霊は人の意思をある程度読んでくれるから、極めると意志の力だけで魔法が使える。
いわゆる魔法使いと言われる人たちのことだね。
普通の人だと魔導書の補助として、例えば狙いをつけるとか、威力を調整するなどといった一部を意志の力で補う程度であるが、魔法使いと言われるレベルになると全てを意思の力でこなせる。
ハンターも似たようなことができるということであろう。
「それにしてもその上からなにか羽織ればいいのでは?」
「上になにか着ると、そっちに魔力が抜けて効果がなくなるらしいよ。それにこの時期は暑いからね。さすがに冬だと革の服にするみたいだけど」
「女の子も混じっているみたいですけど、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ではないさ。ハンターってのは魔物のいる森の中に踏み込んでいくから、死亡率も高くてね。男だ女だっていってられないってことだろ。まあ、さすがに子供を産んだら引退するみたいだが」
「なるほど。だから女性はみんな子供なんですね」
子供の面倒を見ながら狩りにはいけないし、基本的に貧民層は多産だから子育てが終わった頃には狩りに行ける体力は残っていないだろう。
「ところで彼らはなんでここでたむろっているのですか?」
「解体はうちの連中がやるからね。解体で肉を駄目にしていないか、取れた肉の量をごまかしていないか毛皮を傷つけていないか監視してるのさ」
これも治安の悪さの弊害だね。
この世界の人は基本的に身内しか信じない。
隙を見せれば騙されるしちょろまかされる。
「うちも初めから付いている傷を確認しておかないと後で揉め事になるからね。ああして確認しながら解体しているのさ」
「それならハンターが自分で解体すればいいのではないですか? 何かそうしてはいけない理由でも?」
「向こうが必要と思う解体とこっちが必要と思う解体の仕方が違うからね。腹の毛皮を使いたいのに腹を真っ二つに切られたんじゃ売り物にならんだろ? 傷の状態や毛皮の模様によって刃を入れる部分も違ってくるし、内臓が必要なのに捨ててきちまうとかね。あいつらは狩りの専門家だが、商売の専門家じゃないから、売れる部位や処理の仕方がわからない。なので血抜きだけして速攻でもってこいって言ってあるんだよ」
獲物の状態や売り方の変化によって解体の仕方が変わるというわけか。
そりゃあハンターでは対応できないな。
肉だって、バラだのロースだの色々分け方が有るわけで、それを適当に切り分けられたのでは使い物にならないというわけか。
ファンタジー定番の解体スキルなるものがあればまた違うのかもしれないが、この世界にそんなスキルはない。
「どんな獲物が取れるかは運次第なところがあるからね。それをいちいち全部覚えて練習するより、こっちに任せてもらったほうが手数料が取られるとは言え、よっぽど高く売れるからね」
「狩りって運次第なんですか? 狙って狩ったりはしないんでしょうか?」
「ある程度は狙えないこともないらしいが、広大な森や草原を探し回ったり、罠を仕掛けたりするわけだから、見つからないときのほうが多いし、罠だって狙った獲物がかかるとは限らないしね」
ファンタジー小説を読むとすぐに獲物が見つかるような気がするけど、実際の狩りとなるとボウズになることも多いのだろう。
「じゃあ、これを狩ってくれという依頼みたいなものはないんですか?」
見たところクエストボードのようなものはなさそうなので聞いてみた。
「無いね。依頼したって狩ってこられるかは、それこそ神様でもなきゃわかりっこないしね。せっかく狩ってきても、かち合ったらどうするってのよ。その代わり競りで高値がついたものの情報なんかは教えてるよ。獲物だって持ってこれる量に限りが有るからね。できるだけ高値で売れそうなものだけ持ってくるなり狩るなりできるからね。高く売れそうにないものはわざわざ持ってこないで、自分らで消費するって選択もできるし」
「それがこのギルドの大きな役割ってことですか?」
「そうだね。持ち込まれた獲物を解体保存し、競りにかける。競りや買い付けに来た商人からの情報で高値になりそうなものの情報をハンターに伝える。これがまあ主たる業務だね」
「主たるってことは他にもなにかなさっているのですか?」
「金の預かりなんかもしている」
「金貸しじゃなくて預かりですか?」
「ハンターってのは狩場の近くに集落を作るんだ。基本朝そこから出発して、狩場を回って、獲物をとったらそのままギルドにやってくる。獲物の解体が終わったら町で買い物をするなり食事をするなりするわけだが、狩りの最中に金を持ってジャラジャラさせてたら狩れるもんも狩れないだろ? 動物ってのは相当耳が良いらしいからね。なんでここで得た金は全部預けていくんだよ。集落に戻っても使える場所なんて無いからね。利子はないが手数料もなしだ。金貸しはやっていないからね」
町以外にお店はないので、使う場所もない。持ち帰る意味もないってことか。
それはともかくギルドに預貯金機能があるとは思っても見なかったな。
ファンタジー系小説でも預け入れできる冒険者ギルドが描かれていることは珍しくないが、信用度の低いこの世界で成り立っているとは思ってなかった。
「それ大丈夫なんですか? 誰かがちょろまかしたりとかは?」
「一応、双方で同じ帳簿を双方が見ている前でつけているからね。勝手に書き足したり修正したりは出来ないよ。拇印も付けているし。もし帳簿が双方で違ってたら騎士団のところに行ってどっちが書き換えたか判定していただくのさ。なんでも魔法で拡大してみれば拇印が本人のものか判別できたり、修正した跡がくっきり見えるらしいからね。まだうちはお世話になったことはないけど」
騎士団、そんなこともしてたのね。
まあ、治安維持も仕事のうちだから、詐欺被害の訴えなんかもしているのだろう。
それに一応指紋で個人が判別できることは知られているんだね。
指紋の取り方とか知ってるのかな? 知らなかったら教えたら科学捜査っぽいことができるかもしれない。
まあ、そこまで騎士団がやる暇があるかどうかはわからないけど。
「後は怪我をして狩りにいけなくなったのを雇ったりしているよ。ほれ、今解体作業しているのも元ハンターだよ。解体自体の技術はあるから、あとは高く売れる解体の仕方を教えれば十分戦力になる。食堂で肉や野菜を切り分けたり、掃除したりとか怪我の状況に応じた仕事をしてもらってる」
ほうほう。
福利厚生もあると。
「まあ、完全に寝たきりとかは無理だけど、ある程度動けるなら、それなりに仕事はあるからね」
宿屋に酒場に食事処、それにギルドといわば多角経営だからね。
仕事の種類もその分多いだろうし、顔なじみのハンターなら人柄とかもわかっているから雇いやすいのだろう。
狩人ギルド侮りがたし。
みなさん、ビキニアーマーはお好きですか?
私は大好きですw
しかしこのビキニアーマー。
防御力が皆無(意味深)であるはずなのに、ゲームの世界ではそれなりに防御力が高かったりするので謎の存在です。
防御力が無さそうなのにある、さらに防具なのに(男やある種の女性にもw)への攻撃力は抜群? という謎装備。
ストーリー上この話は蛇足なのですが、ビキニアーマー好きとして、書かないでいられようか? いやない。
ってことで書いてみましたw
そして書くのであればなぜビキニアーマーである必要があるのか、なぜビキニアーマーが防御力を保っているのか。
知識チートものを名乗る以上、論理武装(屁理屈とも言うw)は大事なので、夜も寝ないで考えましたw
結果は本文を見ての通り。
ビキニアーマーである理由は暑いから。
そしてビキニアーマー本体に防御力はなく、体に塗る魔石の粉末とスライム素材がその防御力の源としてみました。
スライムの魔石は白い粉末でそれを透明でネバネバしたスライムゼリーで溶かして塗ると、まるでラメ入りのオイルを塗った感じになるでしょう。
想像するとなんかエロいですw
しかも強化されるのはスライムゼリーを塗った場所だけ。
そう、攻撃を受けると一番弱いビキニ部分が弾け飛びますw
男性も同じ仕様なので、ハーレム状態で冒険にいかれることをおすすめいたしますw