第15章、レフィアの指導⑥
暑くて溶けます。
皆さま、身体にお気を付けてお過ごしください。
魔法薬学では、レフィアの指示した魔法薬をギアがどのくらい完成度が高く作れるか、テストが行われた。どれほど魔法薬の知識を持ち、また、製薬の腕があるかという、ギアの知識量や技量が問われたのである。
これに関しては、最速で合格が出された。
元々ギアは、アリシアーレンからお墨付きをもらうほど秀でており、ギア自身も一番得意な分野であると感じている。レフィアも、「わたしより上手だな」と感想を零した。お世辞を言うタイプではないため、きっと、本心だろうと受け止め、ギアはさらに自信を持った。
レフィアから新たに教わることもなく、魔法薬学の回は終了した。
翌日には、魔法武器の製作に入った。
しかし、魔法薬学とは一変して、開始早々にギアは行き詰った。
理由は単純で、ギアは、今まであまり魔法武器の製作をしたことがなかったからだ。
すでに完成されている道具に魔法をかけることは今まで何度もしてきたが、材料から魔法をかけて道具を作ることは、今までで一度もなかったのである。
ところで実は、前者と後者では、扱う魔法のレベルに差がある。
魔法を使わず、一般的な製法で作られた物に対して魔法をかけるのはそう難しくない。ただ、強度を上げる魔法や保護魔法をかければいい話だからだ。ただし、炎や水、雷といった、“ただの物が持ちえない”特殊な効果を付与する場合は、決して容易とは言えないが。
しかし、それでも、素材から魔法を用いて作り上げる方法の難しさには、遠く及ばない。この場合、材料を選ぶ段階で、使う素材と魔法との相性を考えなくてはならないし、重ね掛けする魔法の相性もある。同じ効果の魔法でも、素材が度重なる魔法に耐えられるとも限らない。何より、工程のあちこちで魔法をかけるため、順番を間違えないようにするには気を張る。要は、頭も精神もかなり疲れてしまうのだ。
(構想の段階で、どのような目的でどのように使うか、その完成形をより強くイメージしないと…。より緻密な計算と計画が求められて、思っていたより難しいな…。)
しかし、出来上がりを見てみれば、性能は圧倒的にこちらの方が良い。道具が出来上がった後でのみ魔法をかける場合より、“少なくとも”三倍は高い付与効果を持つ。
とは言え、そこまでの高い性能を道具一つに求めることはそう多くない。ゆえにそう作る機会もなく、アリシアーレンもそう判断して、ギアに対して軽く教える程度に済ませていた。
「師匠が得意で、わたしも叩き込まれたものだ。アリシア様やロッド様から、お前は飲み込みが早いと聞いて、ぜひお前に教えてやりたいと言っていた。…タイミング悪く、研究から手が離せなくなって、師匠自ら教えることができなくなってしまったが。師匠は残念がっていた。」
それを聞いたギアは、今まで以上に熱心に取り組んだ。
エデリオンは、周囲からの評価が高く、かなり優秀な魔女だと聞いている。ギア自身も、確かに優れた魔女のように感じていた。そのような人物から期待されているとあれば、頑張らないわけがない。
もともとギアは、学習意欲が高く、負けず嫌いだ。自分の苦手なこと、己に不足していることがあると感じれば、努力して克服しようとするタイプである。ましてや、魔法武器の製作という、やりがいとロマンのある修行だ。ギアは、打ち込まずにはいられなかった。
…しかし、魔法武器の製作は、一朝一夕でできるものではない。その上、エデリオンの合格ラインを達成せねばならず、まずはレフィアのお眼鏡に適うものを作らねば、エデリオンに送って評価してもらうことはしないと言われてしまった。数日かかって作り上げたものをレフィアに見せては、却下を出される、その繰り返しだ。
悪いことに、口下手なレフィアは、どこが良くてどこがダメか、改良・改善のためのアドバイスをほとんどしない。それもまたギアを困らせ、早々に行き詰まる原因となった。
「…悪いが、わたしは主観を交えた意見も判断も苦手だ。…お前らしさを失わせずに、良いところを伸ばして悪いところを指摘するなど、難しい。」
レフィアはふっと笑った。
「師匠やアリシア様は、とても良い先生だろう? わたしには無理だ。」
ギアには、それが自虐に見えた。
「…レフィアが得意なことって何だ?」
突然の質問に驚くこともなく、レフィアは少し考えて答えた。
「…そうだな、戦うことと、逃げて隠れることだろうか。」
それは、レフィアの過去を思えば、意外でもない答えだった。
そして、ギアはその答えに納得し、また、閃いた。
「なら、俺と手合わせをしてくれ。課題に頭を使うのに疲れて、気分転換がしたいと思っていたんだ。」
レフィアは少し考えるように視線を落とした。だが、すぐに顔を上げ頷いた。
「ああ…そうだな。師匠も、気分転換に身体を動かすことは大事だと言っていた。」
ギアはレフィアに笑みを向けた。
「エデリオンさんの指示による修行だけじゃなく、レフィア自身の技術も学べて、一石二鳥だ。」
その言葉にレフィアは一瞬、僅かに目を開いた。そして、苦笑した。
「そうか。わたしも、お前に教えられることがあったか。」




