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魔女の敵  作者: 紀ノ貴 ユウア
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第14章、ロッドの指導⑪

 喜ぶ一人と二匹に、ロッドは首を(かし)げる。

「…どういうこと?」

 ギアは勝ち(ほこ)った顔で「あれを見てください」と、ロッドの家の方角を指差した。


 そこには、砂が落ち切った砂時計があった。


(おかしいわ、まだ十五分から十分くらいはあるはずよ。)

 はっとしてギアを見るロッド。

(まさか、砂時計をいじった…?!)


「俺がクラーラに言った優先事項はこれです、―――ゲーム開始直後に砂時計をいじって、砂が少しだけ早く落ちるようにすること。」

 ギアはクラーラへと視線を向けた。アイコンタクトをとってクラーラはにっこり微笑(ほほえ)む。

「ええ、ギアの仲間であることを(さと)られないように、基本的にロッド陣営(じんえい)として動くよう指示されました。あとは、ギアやイーラがどうしようもなくなった時、最後の手段として逃亡の手伝いをするようにと。」

 ロッドはしてやられたという顔でため息を()いた。

「なるほどね。――これは確かに、アンタたちの勝ちよ。」


 ロッドの言葉に、ギアとイーラ、クラーラは喜んだ。他の魔獣たちも、「良かったな」と口々にギアたちを(ねぎら)い、共に喜んでくれた。



 ギアたちのテンションが落ち着いたタイミングで、ロッドが口を開いた。

「なぜクラーラを選んだか、理由を聞かせてちょうだい? アンタのことだから、別なのを選んだと思っていたのよ。」

 ギアは(うなず)く。

「ツーデルトやダニエルは組みやすい相手だし、コリンやリリは、敵になると厄介(やっかい)です。彼らのうち一匹でも味方にしたら、きっと心強い。…だけど、そのメンバーは、ロッドに見抜かれやすいメンバーでもあると考えました。ロッドに勝つには、もう少しひねった作戦の(ほう)が良い。そして、俺たちの作戦に乗りつつ、柔軟(じゅうなん)に動いてくれるメンバーがいいと。それが一つ目の理由です。」

 ギアはクラーラを見つめる。尊敬の目だ。

「二つ目は、クラーラは目立たないけどとても優秀な魔獣だと気付いたからです。」

 それを聞いて、コリンとダニエルがパッと喜んだ顔をする。ロッドもニンマリと笑っている。本人より(うれ)しそうだ。

「続けて?」

「クラーラは、あえて直接答えを教えようとしないで、ヒントを出してくれるんです。俺を成長させるための、言葉だったり、行動だったり。――一番最初の日、かくれんぼをした時もそうでした。クラーラは、やろうと思えばもっと上手く隠れて俺を(まど)わすことができたと思うんですが、見つけるのが難しいダニエルやコリンを俺が見つけられるように、ヒントとしてあえて分かりやすい隠れ(かた)をしてくれたんです。…これに気付いたのは、もう少し後になってですが。」

「あら、それも気付いていてくださったんですね。」

 クラーラが尻尾(しっぽ)を振る。

「俺が課題で(つまず)く時や、もっと上手くいく方法を探している時、ペアでなくても、そっと助けに入ってくれただろう? クラーラと関わった後は、なぜか不思議と上手く気がして、それで分かったんだ。目立たずにそっとサポートしてくれる優秀な魔獣だということをね。」

 それを聞いたロッドは、うんうんと(うなず)きながら語る。

「クラーラは一歩引いたところがあるから…。そこがまたこの子の魅力ではあるのだけど…。やっぱり騒がしい(ほう)が何かと目立つでしょう? 個性が()もれてしまうのよね。でも、アンタもクラーラの良さに気付いてくれて良かったわ。」


 そして、雰囲気(ふんいき)を変えてギアを見据(みす)えた。


「ギア、アタシが初日に言ったことを覚えているかしら? ――アタシが教えることは、魔獣との協力、これ一点だけだと。」

 ギアは真剣な表情で(うなず)く。

「アタシは毎夜、その日の最終課題として魔法決闘を課していたけど、戦闘スキルを(みが)くよう(きた)えたつもりはないわ。あくまで、魔獣の個性を知って、その魔獣の長所を自分の使いたい魔法に上手く活かせるかどうかを見てきたわ。」

 確かにそういう修行だったとギアは思った。


 毎日、一日の成果(せいか)を見せる場として、魔法決闘の課題を与えられていた。しかし、日中の細々(こまごま)とした課題は、全く戦闘に関係のないものだった。魔獣たちとの遊びがその筆頭である。

 振り返ってみても、やはり、一番の目的は“魔獣との協力”であったと言える。


「―――合格よ、ギア。アンタは見事、クラーラの個性を見つけ、それを活かしてアタシに勝って見せた。アタシのところでの修行はこれで完了。」


「―――!?」


 驚いたギアの代わりに、イーラが訊ねる。

「え?合格?完了?明日もあるんでしょ?」

 ロッドは「いいえ」と首を振る。

「最終試験として今日と明日を予定していたけど、今日で十分。明日にはここを発って、次の魔女のところへ行きなさい。」

 目を開き、感極まった様子のギアに、ロッドはお茶目にウインクする。

「アタシは、魔獣と協力する(すべ)を身に付けて欲しくて、この修行内容と方法にしたの。アタシの一番得意な分野で、イーラという魔獣がいるアンタにも関係があることだから。あ、もしも、アタシとの決闘や勝負に運よくアンタが勝ったとしても、アタシは合格を出すつもりがなかったわ。つまり、アンタの成長が見られない限りは、難癖(なんくせ)つけて、まだ修行は続けるつもりだったのよ。…でも、期待以上だったわ。」

「…!」

 ギアは驚く。ロッドが自分に対してこんなに素直に()めてくれたことはない、と思ったからだ。

「さ、これでアタシのところでの修行はおしまい。荷物をまとめておくのよ。…ふふ、次の魔女は厳しいわよ?せいぜい頑張りなさい?」




 その夜、修行を()めくくるにふさわしい(うたげ)(もよお)された。

 ロッドやロッドの魔獣たちと一緒に過ごす、新鮮で(にぎ)やかな日々もこれで最後かと思うと、少し(さみ)しい気持ちがしたが、ギアはそれを言わなかった。



 そして次の日。ギアとイーラは、ロッドの魔獣たちとひとしきり遊んだ後、次の修行を始めに、その指導担当の魔女の元へ移動した。

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