第14章、ロッドの指導➀
今回から修行編が始まります。今までは1章あたり3話程度で進めてきましたが、修行編では何話になるか分かりません。
「はっ?!」
突然、景色が変わったことに驚き、目を見開くギア。
「―――よく来たわね、ギア。」
目の前の人物は、これからどう遊んでやろうかというような目でギアを見下ろしていた。
「は?!」
「…それしか言えないの、アンタ。」
目の前の人物は、呆れたように大げさにため息を吐いた。
その揶揄うような発言に、きょろきょろと辺りを見回していたギアは、不機嫌そうに顔をしかめた。
「…どういうことですか、ロッド。」
「こんにちは!ロッド様!」
身構えた様子のギアを無視して、ロッドはイーラに微笑んだ。
「いらっしゃい、イーラ。急にここに飛ばされて、驚いたでしょう。」
「ええ。ルウシャ様を訪ねていたのだけれど、着いた途端にここに飛ばされた?みたい。」
「ルウシャちゃんもねえさんも、何も言ってなかったでしょ。」
「うん…あ!」
「…ルウシャ様が、飛ばす直前に〈あなたの修行が、良いものでありますように〉と言っていました。」
「そう。その意味…分かるわね?」
ギアは一か月ほど前のやり取りを思い返す。
「…ルウシャ様は以前、俺に修行の話をしていました。その時は、修行はやらないという話になりましたが…。それを強制的にやらせるようにここに送り込んだ…ということでしょう。」
「そうよ。ルウシャちゃんは、アンタの精神を鍛える必要があると思って、何人かの魔女に話を付けたようよ。そのうちの一人がアタシってワケ。ビシバシいくから覚悟なさい。」
「待ってください。アリシアに話をしておかないと…あ。」
ギアは、はっとして己の手の中の荷物を見た。てっきりルウシャに渡すものだと思っていたが。
「これ…。」
荷物の中を改めると、そこにはギアの服や必要な道具が小さくなって詰め込まれていた。中には、メッセージカードもある。
ギアはそのメッセージカードに目を通す。そこには、〈修行がんばりなさいね、一流の魔法使いになって帰って来てちょうだい〉の文章が。
「アリシアも知ってたのか…。」
「アンタが帰りたーいなんて言わないように、ねえさんの家には目くらましの魔法がかかっているわ。修行が終わるまで、帰れるとは思わないことね。」
「そんなこと言うわけないでしょう。やるとなったら、腹を括ります。」
「あら、少しは良い顔するようになったじゃない。前まで、ねえさんからは絶対に離れてなるものかって凄まじい執着で鬱陶しかったのに。」
「うるさいです、おじさん。」
「おじさん言うな。」
「ところで、修行はどのくらいかかりますか?というか、何をするんです?」
「アタシの他に、二人の魔女のところに送るらしいわ。誰のところかはお楽しみね。アタシのところでは一か月くらいを予定しているけど…ま、アンタの頑張り次第じゃないかしら。」
(ロッドのところで一か月…。一人の魔女のところでそれくらいの修行となると…全ての修行が終わるまで、三カ月くらいはかかるんだろうな。)
「修行の内容はそれぞれ違うわ。でも、全員ルートノーダの魔女だから、大きく魔法のやり方は違ったりしないでしょうね。…アンタ、ルウシャちゃんに感謝なさいよ。アンタの修行がスムーズにいくように、ルートノーダの魔女にわざわざ話を付けてくれたらしいから。」
「分かってますよ。」
(きっと、ルウシャ様は俺の背中を押してくれたんだ。)
今回のやり方はかなり強引で驚いたが、もともと人への愛情が深い魔女だ。修行を提案したのも、ギアの成長を思ってのことだろう。
ロッドは腕を組んだ。
「アンタは今まで、他者と接する機会が少なかったでしょう。」
「いや、それなりに人と接する機会は多かったですよ。」
ロッドやルウシャとは毎年必ず会う機会がある上、山下の町にはそれなりに出掛けている。
「違うわよ。ねえさん以外と、ねえさんのいない場で、長時間過ごすことはなかったでしょって言ってるの。ましてや、他の人から何か教わることはあった?薬の作り方とか、魔法の使い方とか、ねえさんがやっている以外のこととか方法を。」
「それは…あまりないですね。」
「でしょ? …ルウシャちゃんが危惧していたのは、まさにそこよ。他の人との生活に関わる経験が少ないせいで、ねえさん以外のやり方を…考え方を知らないのよ、アンタは。アンタ、そこそこやれる魔法使いの素質があるんだから、もったいないわ。」
「…。」
「ねえさんだけから影響を受け続けるのも良くないわ。アンタはこの修行で、他者の魔法やら生活やら、何かのやり方から、色んな考え方を知るのよ。そうして、アンタは自分の在り方を見つけるの。分かった?」
「―――はい。」
ギアの真剣な表情から学びの姿勢を感じ取り、ロッドは満足げに頷く。
(この子、超頑固だけど、ちゃんと教え諭したら素直に聞くのよね。)
「それじゃ、アンタたちが寝泊まりする部屋に案内するから付いてらっしゃい。荷物を置いたら、さっそく指導を始めるわよ。…短い時間だけど、アンタがどこまでやれるか見せてもらうわ。」
「分かりました。―――よろしくお願いします、ロッド。」
「お世話になります、ロッド様!」




