第11章、魔女の誕生日③
「アリシア、話があります。」
食事を終え、真剣な顔でそう切り出したギア。イーラは空気を読んで、二人から離れた。
「どうしたの?」
アリシアーレンは聞く姿勢を取った。
「…。」
ギアはアリシアーレンの傍に跪いた。
「アリシア、愛しています。」
「…。」
アリシアーレンは、困ったような笑みを浮かべながら黙っている。
ギアは、「ですが…」と言葉を続ける。
「あなたが亡くなった旦那さんを愛しているのは理解しています。その気持ちが、これからも続くだろうことも…。」
(くやしいけど。)
「それでも俺は、あなたが好きです。あなたと一緒に生きていきたいんです。…あなたが死にたいと思っていることを知っていても。」
「…。」
アリシアーレンは、悲しそうな表情でギアから目を逸らした。
(魔女と人間では、生き死にの価値観が違うもの……私がどれだけ死にたがっているか、この気持ちが分からないのも無理ないわ…。)
「…夢を見たんです。」
唐突な話題の切り替えに、アリシアーレンは思わず視線を戻した。
「その夢では、俺が魔女で、あなたは魔女ではありませんでした。あなたはとっくに亡くなっていて、俺は一人でした。俺は…その夢で少しだけ理解したんです。あなたが旦那さんを想って死にたいと思う、その気持ちが。」
「…!」
アリシアーレンは驚いた。ギアはいつだって生きることに真っ直ぐで、アリシアーレンが死にたがっている気持ちが理解できないと思っていたことを知っているからだ。
「まあ…。」
思わず、そう声を零したアリシアーレンに、ギアは苦笑した。
「俺、その夢から覚めた時に思ったんです。もし現実が夢と同じ状況だったら、アリシアを失った悲しみの中で、アリシアのことを忘れるのは無理だ…と。でも、夢と現実は違います。僕は人間で、あなたは魔女。そして、僕もあなたも今、こうして生きている。だから…こう考えたんです。アリシアの悲しみを埋めるように、あなたを幸せにしたいって…。」
アリシアーレンは複雑な表情をしていた。瞳の中の星がゆらゆらと揺れ動いているのが分かる。
ギアは、頭を垂れた。
「アリシア、今まですみませんでした。」
突然の謝罪に、アリシアーレンは困惑し、うろたえる。
「俺に振り向いてほしいばかりに、あなたの気持ちを無視するように告白し続けてしまいました。はっきり言って…悔しかったんです。俺はこんなにアリシアのことが好きなのに、まともに取り合ってもらえず、亡くなった男ばかりを想われていることが。」
アリシアーレンは苦い顔をした。つい先日もイーラに、まともに取り合わないことを指摘されたばかりだったからだ。
(あなたは…本当に、私を“そういう意味”で好きなのね。)
アリシアーレンは、ギアの気持ちに向き合わなければと腹を括った。
「あなたと生きたいという俺の気持ちは変わりません。ですが安心してください、俺は、俺が死んだ後もあなたが生き続けるようなことを強いたりはしません。」
アリシアーレンはきょとんとした顔をする。
ギアは、真剣な眼差しでアリシアーレンの目を見つめる。
「俺が必ず、魔女が死ぬ方法を見つけ出します。」
「…!」
アリシアーレンの表情が変わった。今までにないほど星がキラキラと輝いている。
(死ねる方法を…探してくれる?ギアが…?)
今までアリシアーレンが頼んだって、ギアは頑として首を縦に振らなかった。そのギアが。
「死ぬまでに、必ず見つけます。あなたを残して死にはしません。―――俺の生涯を、あなたに捧げます。」
(魔法使いの俺だからこそ、できることだ。)
アリシアーレンの亡くなった夫は、魔法使いではないが魔法の研究をしていた人間だったと聞いたことがある。アリシアーレンが誰よりも愛する夫にできなかったことを、ギアは成し遂げようと誓った。
「ギア…魔女が死ねる方法を探してくれるのは嬉しいけど…私は―――」
あなたの想いに応えることはないでしょう。その言葉を言う前に、ギアはアリシアーレンの手を取った。
「今はまだ、受け止めないでもらって結構です。ただ、俺にあなたを想う気持ちがあることを、認めていただけませんか?」
アリシアーレンは、その揺るぎない目を見て、大きく息を吸って吐いた。
「…分かったわ。」
ギアはほっとした顔で微笑むと、アリシアーレンの手を離し、立ち上がった。
「それで…もう一つ、話があるんですが。」
自分の席に戻りながら話すギア。今までの緊張感はなくなり、どこか躊躇うような素振りで切り出す。
「なぁに?」
「えっと…。」
先ほどまですらすらと愛を語っていた口とは思えないほど、ギアは口ごもる。
しかし、急に肩を駆け上がってきたイーラに頬をペチペチと叩かれたことで、ギアは覚悟を決めたように口を開いた。
「この家を、出ようと思うんです。」
この章はまだ続きます。
〈追記〉2025/9/17
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