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魔女の敵  作者: 紀ノ貴 ユウア
33/52

第10章、迷いと決意④

 前回書き忘れましたが、この「魔女の敵」は、水曜日の15時に更新したいと思います。そして、毎週更新を目指します。

「何してんのよ、リリ…。」

 ヌヌとルージが天を(あお)いだ。

「ぁ~…。ごめん、イーラ。」

 変わらないテンションで(あやま)るリリに、イーラはため息を()いた。

「まったく…。」

 (あき)れつつも、イーラは(おこ)らない。リリに少し()けているところがあるのは、すでに理解(りかい)している。

「ふふ。」

 アリシアーレンは、荷物(にもつ)確認(かくにん)していたが、やはり絵本は入っていない。

「あ、アリシアさん、欠片石(かけらいし)が完成したから、それも入ってるよ。」

「これのことね。」

 そう言って小袋(しょうぶくろ)を持ち上げるアリシアーレン。ヌヌとルージが(うなず)く。

(とど)けてくれてありがとう。では、おやつにしましょう。」

「「「わーい!」」」「わーい。」

 (よろこ)ぶ動物たちを()れ、アリシアーレンはキッチンへと向かった。



「それじゃあ、ヌヌたちは帰るねー。」

 おやつを楽しんだ後、ヌヌとルージが帰る支度(したく)を始めた。

「そこまで送るよ。」

 イーラがそう(もう)し出、四匹はアリシアーレンの家を出た。


「ねぇ…、アリシア様にギアを見てもらえるいい方法ってないかな?」

 イーラがそう切り出すと、三匹は頭を(かし)げた。

「どういうこと?」

「アリシアさまは昔から、ギアのこと見てるよね…?」

「えーと…ほら、ギアはアリシア様のことが好きでしょ?でも、アリシア様はギアのことをまともに取り合ってくれなくて…。あたし、もどかしくってっ!」

 ルージとヌヌが、納得(なっとく)した様子(ようす)(うなず)いた。リリはぼーっとしている。

「ああ、そういうことか。」

「なるほどねー…。」

 二匹は考える仕草(しぐさ)を見せる。

「アリシアさんは魔女(まじょ)だからなー。旦那(だんな)さんのことがずっと好きだって聞くし…。」

無理(むり)じゃない?アリシアさま、ギアのこと弟子(でし)とか息子(むすこ)とかしか見てないでしょ?」

「そうなんだけど…。」

 イーラは、んーっとうなる。

「いくら好きだからって、()くなって何百年も()つのに、どうして(かたく)なに自分のことが好きな(オス)を、新しい相手として見てくれないのかなって…。ギアだって、何回フラれても一途(いちず)(おも)い続けているくらいアリシア様のことが好きなのに…。」

(たし)かにねー。いつまでも悲しむくらいなら、別な相手と一緒(つがい)になった(ほう)が幸せだと思うんだけどなぁ。」

 ルージはイーラの意見(いけん)賛同(さんどう)した。

 しかし、ヌヌは首を横に()った。

「ヌヌは、アリシアさまの気持ちが分かるな。ヌヌも、もし好きな(オス)がいて、夫婦(つがい)になったのにその(オス)が死んだら、ずっとその(オス)だけを好きでいるもん…。」

「えー?どうして?」

 ルージは無邪気(むじゃき)に話の詳細(しょうさい)(もと)めた。

「えー、言葉にするのむずかしいな…。何と言うか…やっぱり、ずっと好きだから…。」

「え、でも別に、()くなった相手を好きなままで、新しい相手も好きになれない?」

「いやー…、ムリかな…。だって、夫婦(つがい)(えら)んだのはその(オス)だけじゃん?」

「好きになれば、新しい相手とも夫婦(つがい)になれるじゃん。」

「いやいやいや、そうじゃなくて…。うーん、やっぱり説明(せつめい)がむずかしいよー!」

 ヌヌが頭を(かか)え始めた時、それまで話に参加(さんか)していなかったリリが声を上げた。

「ダニエル。」

「へ?」

 何の脈絡(みゃくらく)のない言葉に、一同(いちどう)はリリを見る。

「ダニエル、来た。」

 リリは短い(うで)である方向を(しめ)した。

 三匹がそちらに目を向けると、こちらに(もう)ダッシュしてくる(おおかみ)がいた。目つきが(するど)く、今にも小動物を()りそうだ。

「「「ひいいいいい!!!」」」

 リリ以外の三匹が悲鳴(ひめい)を上げた。ルージは、大きな身体をできるだけ丸めて頭を手で(おお)っている。

「くおぉぉぉぉぉら!!!」

 四匹の目の前で急ブレーキをかけて止まったダニエルは、(いきお)いよくリリを怒鳴(どな)りつける。

「リリ、テメェ!肝心(かんじん)(モノ)(わす)れて行ったら、わざわざ(たの)んだ意味(いみ)がねーだろうがっ!!」

「ごめん。」

「ほんとーに反省(はんせい)してるんだろうなっ?!」

 ダニエルは息を(ととの)え、イーラに向き合う。

「悪かったな、これ、ロッドからあんたへのプレゼントらしい。リリに(たの)んだんだが、こいつが(わす)れて行きやがった。」

「聞いたわ、絵本だって。わざわざ(とど)けてくれてありがとう!」

「いや、(よろこ)んでもらえて何よりだぜ。」

 ダニエルは背中(せなか)風呂敷(ふろしき)をイーラの前にどっかり下ろした。

「あんたがこいつに()れて小さくなるよう(ねん)じれば、あんたが(はこ)びやすい大きさになるぜ。」

「分かった。ありがとう。」

 イーラがお(れい)を言った。ダニエルは(うなず)き、ヌヌたちへ向き直る。

「帰るところだったのか?」

「うん。でもその前にちょっと話をね…。そうだ、ダニエルにも聞こう!」

 ヌヌがこれまでの話をダニエルに語る。


「―――でね、ダニエルとしてはどう思う?」

 ダニエルは真面目(まじめ)な顔で答える。

「オレは、アリシアさんやヌヌに共感(きょうかん)するな。」

「ふーん、どうして?」

「まず、オレたちの間で、夫婦(つがい)に対する価値観(かちかん)(ちが)うな。」

 ダニエルは淡々(たんたん)説明(せつめい)する。

(オレ)(ヌヌ)は、魔女(まじょ)感覚(かんかく)が近いんだろうな。唯一無二(ゆいいつむに)と思える存在(そんざい)を、そいつと一生を()()げる覚悟(かくご)相手(つがい)(えら)ぶ、という思考(しこう)だ。唯一無二(ゆいいつむに)だから、そいつの()わりなどいないし、()くなったから新しい相手と幸せに、なんて考えることもない。」

「じゃあ、ずっと悲しいままでいいの?」

「何も、悲しみが悲しみだけで構成(こうせい)されているわけじゃない。亡くなったことは(たし)かにとても悲しいが、相手との幸福な思い出もある。悲しみもまた、幸福の(あかし)なのさ。」

「ふむむ…。」

「何を幸せと考え、(かん)じるかは、各々(おのおのちが)うだろう?そっとしておいてやるのが一番だと思うぜ。少なくとも、オレがアリシアさんだったら、そう思う。」

「ヌヌも…かな。」

「そっか…。」

(考え(かた)がこんなに(ちが)うのか…(むずか)しいな…。)

 ダニエルらの話を聞いてもなお、イーラは、ギアとアリシアーレンが(むす)ばれて()しいという思いは変わらなかった。

「じゃあさ、もしも…もしもだよ?自分の好きな相手が死にたがっていて、自分はそれを止めたい時、みんなはどうする?どうやってとめる?」

 イーラの()いに三匹は顔を見合わせ、ウンウンと考え()む。

「その好きな相手って…夫婦(つがい)じゃないってことでしょ?」

 ヌヌが質問(しつもん)する。口にせずとも、(だれ)の話か(さっ)しているようだ。

「そう…。」

「…う~ん…。」

 ヌヌとルージが頭を(かか)える。そんな中、ダニエルが(むずか)しそうな顔をしながら言葉を(はっ)する。

「その場合(ばあい)、相手が死にたがっている明確(めいかく)な理由が分からないと、何とも言えないな。」

「死にたがる…理由?」

 イーラは不意(ふい)()かれたような衝撃(しょうげき)()けた。

「ああ。その死にたがっている相手っていうのが、アリシアさんのことを言っているなら、どうしてアリシアさんが死にたがっているか、あんたは…あんたらは、知っているか?」

「そ、それは……亡くなった旦那(だんな)さんが好きだから…。」

「“好き”がどうして“死にたい”に(つな)がると思う?」

 ダニエルが(たた)みかけ、イーラはまごつく。

「ええと…悲しいから?」

「なぜ悲しい?」

「好きだから?」

「堂々(どうどうめぐ)りしているぞ。“死んで悲しい”以外(いがい)に、何か考えられないか?」

 イーラが(なや)む中、リリが口を開いた。

「……好きな相手、会えないと、さみしい。」

 イーラはリリを見た。リリは相変(あいか)わらずぼーっとした顔をしていたが、イーラと目が合い、首を(かし)げた。

「リリ、あってる?」

 ダニエルは(うなず)いた。

(おそ)らくそうだろうな。…魔女(まじょ)は長生きな分、(さび)しい時間がとてつもなく長い。そして死ぬまでの間、(さび)しい思いはどんどん(ふく)らむ。」

「…。」

「死ねない、というのは恐怖(きょうふ)でもあるだろう。一体(いったい)いつまで苦しめばいいのか、考えるんじゃないか?」

「そぅ、だね…。」

「まぁ、他にも色々あるだろうが…。ともかく、そんな強い思いを(かか)える中、まず、アリシアさんから旦那(だんな)さんのことを(わす)れさせるのは無理(むり)だ。」

 ダニエルはきっぱり結論(けつろん)()げた。イーラは分かりきっていたことに落ち()む。

「…だけどよ、死にたいという気持ちを(わす)れさせることはできると思うぜ。」

「えっ。」

「あ~…、(わす)れさせる、というより、(うす)れさせる、の(ほう)が正しいか…?」

 ダニエルは丁寧(ていねい)に語る。

「アリシアさんが旦那(だんな)さんのことを好きで(わす)れられなくて自分を見てもらえないっていうなら、自分でその思いを上書(うわが)きしてやるんだ。過去(かこ)ではなく、今に目を向けてもらえるように。」

「どういうこと…?」

「つまり、“自分と()ごす時間は、旦那(だんな)さんと()ごした時間くらい、楽しいだろう?”っていうのを、アリシアさんに(かん)じてもらって、旦那(だんな)さんじゃなくギアに目を向けてもらうんだ。」

「…!!」

 イーラは瞬時(しゅんじ)納得(なっとく)した。ルージとヌヌも理解(りかい)したようで、手を(たた)いてダニエルを()める。

「なるほど~!」

「すごいね、ダニエル!」

 ヌヌがイーラに()り向く。

「ヌヌも、ダニエルが言ったことに賛成(さんせい)だよ! (もう)アピールしたり説得(せっとく)したりするのもいいけど、それより、こっちの(ほう)が、アリシアさまが(つら)くないだろうし、ギアにとっても幸せなはずだよ!」

 イーラは大きく首を(たて)()る。

「そうね!あたしもそう思うわ!ありがとう、ダニエル、ヌヌ、ルージ、リリも!」

 ダニエルはニカッと笑った。尻尾(しっぽ)がブンブンと(いきお)いよく()られている。

「役に立てたようで何よりだぜ。」

「ほんとうにありがとう!おかげですっきりしたわ!あとは、あたしが何とかする!」

「がんばれー!」

「がんばれー?」

 やる気に()ちたイーラに、ヌヌとリリが激励(げきれい)を送る。

「それじゃ、おれっちたちは帰るかー。」

相談(そうだん)に乗ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね!」

「「またねー!」」「じゃあな!」「ばいばい。」


 四匹を見送った後、イーラは天に(こぶし)()き上げた。

絶対(ぜったい)にギアとアリシア様を夫婦(つがい)にしてみせるわー!」

 綺麗(きれい)な青空には、大きな(くも)が、ただ(おだ)やかに流れていた。

 かつてないほど長くなりました。どうしてもここでこの章は終わらせたいと思ったので…。

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