第11章、魔女の誕生日➀
夢を見た。目覚めが悪くなるような、見たらどっと疲れるような、そんな夢だ。
(きっと、イーラが言ってきたことを延々と考えて眠りについたせいだ。)
ギアは指先で己の額に触れ、重い頭を支えた。
昼食後。昼前には帰ってきたギアに、イーラはダニエルたちとの会話を語って聞かせた。
「―――だからね、ギア!」
お節介なリスは、うざったらしいという気持ちを隠そうともしない青年の真正面から告げる。
「アリシア様に本気で振り向いてもらいたかったら、旦那さんを忘れてもらうんじゃなくて、旦那さんと同じくらい幸せにしますってところを見せなきゃ!」
「…そんなこと、分かってる。」
ぶっきらぼうに呟く。
「いーえ、あんたはぜんっぜん分かってないわ!」
イーラは仁王立ちし、ぴしゃりと言い放つ。
「あんた、旦那さんより自分を見てもらおうと必死じゃない! …あたしも、何とかアリシア様に旦那さんよりギアを見てもらおうとしてたけど…、ヌヌとダニエルの話を聞いて、それじゃ上手くいかないって分かったわ!」
イーラは熱くなって話す。
「あんたは…あたしたちは…、もっとアリシア様の気持ちに寄り添うべきね!」
「…。」
「好きなんでしょ?男として見てもらいたいんでしょ? だったら、一人前のカッコイイ男になる努力をしなきゃ!」
「~~~っ。」
ギアは怒りで顔を真っ赤にした。
「余計なお世話だ!!そんなこと、お前に言われなくても…っ!!」
しかし、ギアはそこで怒鳴るのをやめた。イーラが自分を思って言ってくれていることを、心の隅では本当は分かっているからだ。ただ、あまりにもお節介が過ぎるので、苛立ってしまった。
「…ごめん、熱くなり過ぎたわ。」
イーラもお節介が過ぎると自覚したのだろう。少し気まずそうに尻尾と耳を垂らした。
少し間を空けて、イーラが口を開く。
「…あたし、あんたのこと応援してるの。何があっても、あんたの味方になるって決めてるの。」
「…分かってる。」
ギアはため息を吐いた。お節介が邪魔に思える時もあるが、イーラは、いつだってギアの一番の理解者であろうとしている。
「ギア。」
イーラは真剣な目でギアを見上げた。
「アリシア様、言ってたわ。弟子だから一緒に住んでいるの…って。」
「…。」
「一緒にいることが…いつも近くにいて好きって言うことが、良い方法じゃないかもしれない…と、あたしは思うわ…。」
そう言うと、イーラはどこかへ去って行った。おそらく、森に行ったアリシアの元に行くのだろう。
ギアは、頭をかきむしると、夕飯の支度をしにキッチンへと歩を進めた。
そうして、その夜、ギアは夢を見たのだ。
それは、ギアが魔女になる夢だった。
夢の中では、魔女が死ぬ方法が失われていないのか、それとも発見されたのか…、ともかく、アリシアーレンが亡くなっていた。もしかしたら、夢では、ギアとアリシアーレンの立場が逆転していたのかもしれない。アリシアーレンが人間で、寿命がきて、ギアをおいて亡くなったのだろうか。
ギアは、泣いて、泣いて、泣いた。悲しみで胸が押しつぶされそうだった。しかし、自分は死ねなかった。なぜかは分からなかったが、アリシアーレンが死んで、自分だけが生きることを強制された。
それがあまりにも残酷で、悲痛で、ギアは泣いた。泣いて、泣いて、泣いて…。
―――悲しみの果てに、「死にたい」と願った。
目が覚め、ギアは夢の皮肉さに嗤った。
夢の中で「死にたい」と思ったことに対して「何を馬鹿なことを」、「自分がそう思うなんてありえない」と、夢の一切を否定する気持ちがある反面、アリシアーレンが死ぬ悲しみだけが強く頭に残り、「もし自分が本当にアリシアーレンの立場だったら」という考えに引っ張られた。
ギアは悩みに悩んだ挙句、ある決断に至った。
そして、その決断を、アリシアーレンの誕生日に彼女に明かすことにした。




