第10章、迷いと決意②
お久しぶりです。
長らくお休みしていましたが、そろそろ再開します。これからは、2~3週間に1度の頻度で更新しようと思いますので、ぜひまたよろしくお願いします。
アリシアーレンの星の瞳が、彼女の心の内を表すように揺れ動いた。
「私…、私は…夫を愛しているの。亡くなって数百年経つ今でも…ずっと…。この想いは変わらないわ、これからもずっと…。」
アリシアーレンは、イーラに自身の思いを語り出す。
「亡くなったあの人だけが、私の夫よ。他に誰も…そういう意味で愛することはないでしょう。」
アリシアーレンは、胸の前で輝く紫水晶に触れた。
「だから…誰であろうと、そういう気持ちには応えられない。応えられないのに傍にいては、かわいそうじゃない?もし、あの子が私に恋愛感情を持っているとなれば…もう一緒に住めないわ。だって、それは母息子じゃないもの。いくら師匠と弟子という関係といっても、家族でも恋人でもない“男女”が一つ屋根の下なんてとんでもないわ。」
「そういう…ものなの?」
動物のイーラは、イマイチその感覚が分からなかった。
アリシアーレンはイーラの言葉に頷く。
「ええ。それに、あの子は私にとって息子同然の可愛い弟子の一人よ。だって、親を亡くしたばかりの小さな時から成長を見守ってきたんだもの。そもそも、親子どころか祖父母と孫、曾祖父母とひ孫以上に年齢だって離れているのだし。あの子を恋愛対象と見れないわ。」
「で、でも、ギアはアリシア様のことをお母さんとか思ってないよ。」
しかし、アリシアーレンは首を横に振る。
「うちへ連れて来た当初、私のことを〈お母さん〉と言いかけていたことがあったわ。それに、私はあの子の危機的状況において現れた者、言わば恩人ね。恩人に対して好意を抱くことは、ある意味、自然なことよ。好意を恋と勘違いしているようにしか思えないわ。」
「それは…そうかも?」
アリシアーレンの冷静な反論に、イーラは何も言い返せなかった。
(ギア、アリシア様のこと〈お母さん〉って呼ぼうとしたことあったんだ…。)
「…さっきも言ったけど…。」
アリシアーレンはそう言い、一拍おいて言葉を続けた。
「私は、亡くなったあの人以外に誰かを夫にするつもりはないの。悪いけど諦めて、とギアに伝えてちょうだい。」
イーラはうなだれた。何だかんだ言ってもイーラは相棒のことが気に入っており、その恋を応援をしたかったのだ。
アリシアーレンは、なだめるようにイーラを撫でた。
「…動物から見れば、人間は長生きかもしれないけど、魔女から見れば、動物も人間も短命よ。……そして、本当は長命と短命は、番うべきではないの。」
アリシアーレンは、極めて真剣な顔でそう言った。
イーラは衝撃を受けた。人間の夫がいたアリシアーレンがそんなことを言うとは思わなかった。
そして不思議に思った。だから質問をした。
「なんで…そう思うの?」
アリシアーレンは、悲しそうな笑みを浮かべた。
「―――先に死ぬ方も、置いていかれる方も、苦しいからよ。」
アリシアーレンは、若者を諭す年長者の顔でイーラに微笑んだ。
「イーラ…、あなたが魔獣ではなく、ただのリスのままだったら、ギアの友として最後まで傍にいることを選んだかしら?」
「…。」
「魔獣は契約相手と同程度の寿命になる…。だから、あとどれだけ共にいられるかなんて気にせずにいられるのよ…。」
アリシアーレンの言葉にイーラは気付く。ただのリスだった頃には考えることもなかった感情に。
(そうか…。命の長さが違うと…“ヒト”は悲しいんだ。)
「…“ヒト”って複雑なんだね、アリシア様。」
適切な言葉が見つからず、そう零したイーラ。
アリシアーレンは、僅かに自虐的に笑みを浮かべた。
「―――そうね。魔女も人間も、そこは同じね。」




