第8章、確執③
今回「古の魔法書と白ノ魔女」の更新はありません。
「…うーん……。リシアは…すごく人間を嫌っているから…。」
歯切れの悪い答え。
続けて、内緒話でもするようにレンは小さな声で話し出す。
「リシアは、お父さんとお母さんに虐められていたんです……。」
ギアはその一言で凄まじい衝撃を受けた。
「リシアのお父さんとお母さんは800歳に近かったんですけど、〈赤い光の蝶〉はどうやって現れるのか教えられていなかったから死ねなくて…。人間はどんどん力が強くなって、魔法使いはすぐに魔女を捕まえて閉じ込めてしまうから、外の世界は怖いし…。それで、リシアのお父さんとお母さんはすぐに喧嘩して、リシアにも怒鳴っていたみたいです。リシアのお父さんもお母さんも、『人間が〈死のレシピ〉を奪ったせいで』ってよく言ってて、二人に怒られるリシアもだんだん『幸せじゃないのは全て人間のせいだ』って思っていくようになったのかもしれないって…クレアルナが…。」
レンの話を要約すると、リシアの両親は〈死ぬ権利〉が与えられるはずの年齢だったが、人間が〈赤い光の蝶〉についての情報を奪い消滅させたせいで死ねないことに絶望を感じて怒りっぽくなり、また、魔女を都合の良いように扱う人間たちの脅威にさらされてストレスが溜まり、その怒りの矛先がリシアにも向いていた……そして、両親の口癖である『人間のせい』という言葉は、理不尽な虐待を受けるリシアに刷り込まれ、リシアも『不幸は全て人間が招いた』と考えるようになった……ということらしい。
(人間嫌いはやっぱり〈赤い光の蝶〉が原因か…。)
もし、人間が〈死のレシピ〉を奪わなければ、人間が魔女を閉じ込め人間の都合の良いように扱わなければ―――人間が魔女を追い詰めなければ。もしかしたら、リシアの家族は精神を病んでリシアを虐待するなんてことが起こらなかったのかもしれない。
ギアは何だか申し訳ない気持ちになった。
しかし、それと同時に、疑問も浮かんだ。
「なぜ魔女は……そんなに死にたがるのかな。」
それはギアの純粋な問いだった。
「―――。」
その言葉を聞いたレンは、目を大きく見開きぱちぱちと瞬きをすると、ゆっくりと目を開けた。
その目は、穏やかな虚無―――諦めの色が浮かんでいた。
「―――ギアさんは、一度も死にたいと思ったことがないんですね。」
それは、とても重みのあるトーンだった。
「あまり多くの人間と関わったことがないのでよく分かりませんが…人間は〈死にたい〉と考えることはないんですか?」
ギアは言葉に詰まった。この言い方から、レンも〈死〉を望んだことがある可能性を察したからだ。
「…人間も死にたいと思う時はあるよ。」
そう返したが、ギアは一度も死にたいなどと思ったことはなかった。
かつて自分の村が襲われ、親が殺され、友が殺され、魔女に拾われ……それら幼少期の出来事は、ギアに〈何としてでも生きる〉という気持ちを芽生えさせ、その後の体験はその思いを強くした。生きることに必死で、死にたいなどと思う余地などなかったのだ。
そんなギアの心を悟ったか気付かなかったか、レンは話を続けた。
「そっか、ヒトそれぞれですよね。」
(まぁ…人間より魔女の方が死にたがりが圧倒的に多い気はするけど。)
「…生まれてこなければ良かったのに、死んでしまえばいいのに、」
急に呪詛を吐き出したレンに驚くギア。しかし、レンはギアに向かって言ったのではなかったようだ。宙を仰ぎ、小さな声で言葉を紡ぐ。
この章は④まであります。




