第8章、確執②
今回は「古の魔法書と白ノ魔女」の更新はありません。
四日目も五日目も…、ギアとリシアが顔を合わせることも、リシアがギアの作った食事を取ることもなかった。
「やあ、レンくん。」
「おはようございます、ギアさん。」
朝食の場に現れたレンは、ギアからスプーンとフォークをもらい、それぞれの席に並べ始める。ここ数日はそれがレンの仕事となっていた。
レンはとても礼儀正しい子だ。挨拶もお手伝いも積極的にするし、リシアと違って面と向かって敵対心を露わにしない。争い事を避けるためか、ギアとリシアが顔を合わせないように常に気を遣っている。
「この前くれた羽根、ありがとう。おかげで仕事が間に合ったよ。」
ギアは先日の礼を言った。
レンとリシアが来た日は一悶着あってゆっくり話すことができなかったのだが、実は二人は、クレアルナからアリシアーレン(ついでにギア)への贈り物を預かっていた。土産品は様々(さまざま)な素材で、この近くでは手に入れるのが難しい貴重なものもあった。そして、その中にはギアが欲しがっていた〈炎の鳥〉の羽根も入っていたのだ。そこで、羽根をアリシアーレンから譲ってもらい、無事に依頼品を完成させ、送ることができた。
というわけで、リシアとレンの二人が運んできてくれたおかげだと、ギアは改めてお礼の言葉を伝えた。
「クレアルナ様にもありがとうと伝えてもらえるかな。」
「はい。」
出来上がった料理をテーブルに並べ、アリシアーレンを呼びにレンが駆けて行った。
そこにイーラがやって来た。
「おはよう、ギア。」
「おはよう。今朝の様子はどうだった?」
ギアはイーラと会話しながら、オレンジやブドウなどのいくつかの果物とトマトやコーンなどのいくつかの野菜をいくつか取り出し、風呂敷に包んだ。
「いつも通りね、まだ眠っているわ。そろそろ起きるでしょうけど。」
「頼んだよ。」
「大丈夫よ、これなら絶対に食べてくれる。」
イーラは荷物を背負い、どこかへと去って行った。風呂敷には浮遊の魔法が掛けられているため、身体の小さなイーラでも軽々(かるがる)と運べる。
イーラが行く先はリシアのテント。イーラはここ数日、リシアの食料を運ぶ役目を負っていた。
ギアが用意した料理に全く手を付けないリシア。いくら不死身と言っても、幼子が腹を空かせるような状況には気が引けるギアが思いついた、リシアに食事を取ってもらう方法とは、全く調理していない果物や野菜を渡すことだった。カットであろうとも、ギアが何かしら手を加えたものは頑なに拒否するリシアに少しでも食べてもらうためには、これしかなかった。
また、リシアに迂闊に近付けないため、ギアは食べ物の運搬を誰かに頼まれなければならなかった。レンやアリシアーレンが運ぶこともあるが、その場合はリシアが食べている間に手持ち無沙汰になってしまう。人用の料理も食べれるとは言え、生の野菜や果物の方を好んで食べることが多いイーラなら、共に食事の時間が取れ、効率がいい。ご飯は誰かと食べた方が良いと、イーラも快くその頼みを聞き入れた。率直にものを言うイーラのことリシアは仲良くなったらしい(何でも、主であるはずのギアの欠点を堂々と愚痴っているようだ)。ご飯時以外にもリシアに付き添うイーラを見るに、リシアのことを結構気に入っているのだろう。
人間であるギアだけが、リシアに毛嫌いされている状況―――。
聞くところによれば、リシアはレンがギアと交流することも快く思っていないようだ。しかし、レンに人間の恐ろしさを如何に説こうとも、レンには人間を嫌いにはなれない理由があり、リシアは納得はできずともレンが人間に近付くことを諦めているようだ。
レンは少しぎこちないものの、人間との交流を深めようとしている。ちらちらとギアを観察したり、傍によって黙ったままギアの作業を見ていたりする。自分から話しかけることは少ないが、ギアが話しかければきちんと言葉を返す。長年森の中でアリシアーレンと暮らし、あまり子供と接する機会の少ないギアから見れば、レンはとてもかわいい年下のよう。弟というのはこのようなものだろうか……ときょうだいのいないギアは思った。傍から見れば確かに兄弟のような年齢に見えるし、精神年齢からいってもそうだが、単純な実年齢から見たら奇妙な話であるのだが。
「リシアちゃんと仲良くなれる方法はないかな?」
時は朝食後。魔法の修行の時間。
特別授業としてレンと共にアリシアーレンから出された課題をこなしている最中に、ギアはレンと距離を詰めようとこの問題を口にした。互いのことを詳しく尋ね合うよりも、相談という形で話題提供した方がリラックスして話しやすいという意図があってのことだったが、もちろん、取り付く島もなくリシアに拒絶されている理由を知りたいという気持ちも強くあった。
レンは真剣な表情で答える。
〈追記〉 2023/3/26
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