第4章、祭りと儀式②
今回も「魔女の敵」と「古の魔法書と白ノ魔女」を同時更新しています。
次回からは片方ずつに戻ります。
「名前を呼ばれた者は前に進みなさい。ルウシャ様とアリシアーレン様が力を授けてくださるよ。」
静まり返った広間の中、優しい声でウィスカルが告げた。
始まるよ、とギアはイーラに目配せした。イーラは頷き、前方を見る。
魔法石がはめ込まれた祭壇の奥には、アリシアーレンとルウシャ、その後ろには、数名の神官が立っている。その神官の手には、ギアが予め渡しておいた袋の中身…あの透明な魔法石を乗せたクッションが大事そうに抱えられている。
一段降りたところには、ウィスカルが立っており、その目の前には六人の子供たちが。一人だけは、14、15歳くらいの少年だが、その他は10歳くらいの少年少女だ。
壁沿いには神殿関係者、後方には子供の保護者が見守っている。
まず一人目の子供が名前を呼ばれた。他の子より一回り大きい少年は、よく通る声ではっきりと返事をし、神官に誘導されて前へ進み出る。
二人の魔女が慈愛に満ちた笑みを向けた。それに対し、少年は背筋を伸ばし、事前に教えられた通りに深々とお辞儀をした。
「目を瞑りなさい。」
ルウシャが少年の額に何か文字を書くように指で触れた。アリシアーレンが神官から魔法石を受け取り、少年の手に握らせながら自身の手で包み込んだ。アリシアーレンが少年の手を通して魔法石に魔力を流しているのだ。その証拠に、魔法石は少年の手の中で光をあふれさせている。
「「〈伝え伝え、魔法の力。この世の不思議に、あなたは触れる。〉」」
光が一層強くなった。しかし、それも徐々に弱まり、パキンという音と共に消え失せた。
アリシアーレンが手を離した。少年は手を開いて見るが、そこには何もない。
(上手く吸収されたわね。)
砕けた魔法石が残らず吸収されたことを理解したルウシャは、少年の手首に腕輪をはめた。
「これで魔法が使えるようになるわ。しっかり学べば、それだけ多くのことができるから頑張りなさい。」
ルウシャの言葉に、少年は嬉しそうに笑った。
「はい!」
少年は深く一礼した。そして、神官に誘導されて神殿の奥へと姿を消した。これから神殿で魔法を学ぶために、その手ほどきを受けるのだ。また、魔法使い見習いの証である神殿衣装もそこで受け取る。
こうして、次々と子供たちが神殿の奥へと姿を消した。
震える声で返事をした少女、張り切りすぎて声が裏返った少年、階段で転んで涙目のまま儀式を受けた少年、魔女二人に見とれた少女…。
そして、少し虚ろな目の物静かな少年が最後だった。
ウィスカルはこの少年が気になっていた。話を聞く時以外、ずっと下を向いているのだ。他の子が転んだ時も、一瞬だけ顔を上げたものの、すぐに表情を変えずにうつむいた。この儀式で子供たちは大抵、緊張か期待の表情を浮かべるのだが、この少年だけは、そのどちらでもないのだ。
「チャド」
「…はい。」
順番が回り、返事をするも声が小さい。
アリシアーレンとルウシャも、少年の様子がおかしいことに気付いた。アリシアーレンが魔法石も持たずにチャドの手を取る。ルウシャもチャドの頬に触れ、顔を覗き込んだ。
「お姉さま。」
「そうね。…ねえ、あなた―――」
アリシアーレンが話しかけたその時。
「〈捕縛〉。」
チャドが魔法を発動させた。
~魔法使いのメモ~
☆欠片石…透明な魔法石。〈見習いの石〉とも呼ばれる。魔女が作る人工石で、自然にある物ではない。また、その原料も作り方も魔女のみが知る。希少な材料を使うのか、数はそれほど多くない。魔女の魔力にのみ反応し、この石を取り込むことで、魔法使いは魔法が使えるようになる。