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第九曲 夢乃とルイの『1日』

♪♪♪♪♪♪


「本当にごめん!」


先程、集合場所に決めた武器屋の前で、手を合わせて僕等に向かって謝る夢乃。僕達は何に謝られているのか分からず首をかしげた。


「どうしたの? なにかあった?」


涙目になっている夢乃をなだめる様に声をかける。


「実は……宿がとれなかったの……ごめんなさい!」


「「「え?」」」


僕と爽、サーシャさんまでも思わず聞き返した。


「じ、じゃあ! 俺達今日野宿ってことか!?」


冗談じゃないぞ!と爽が不満の声をあげる。確かに僕も爽と同じ気持ちだった。夢乃を責めるつもりはまったく無いけれど、この疲れきった状態で1度もやったことのない野宿で夜を明かすなんて、本当に冗談じゃない。


「それは大丈夫! 宿は、取れなかったんだけど街外れにルイさんが住んでる家があるみたいだから、そこに泊めてもらえるって!」


「トーべ村ですね! あの村の人は皆良い方ばかりなのでゆっくり過ごせると思いますよ!」


さっそくトーべ村に行きましょう!と張り切って先導するサーシャさんに僕らはついていく。因みにスズさんとは武器屋で別れた。


「ねぇ夢乃、どうして街の中の宿取れなかったの?」


僕としては、布団で寝れればそれで良かったのだが少し気になったので宿を取れなかった理由を聞いてみた。


「じ、実は……」


夢乃は、少し言いずらそうにしていたが、すぐに今日どんなことがあったかを話始めた。


♪♪♪♪♪♪


武器屋で楽達と別れてから夢乃は、ルイという青年と共に宿を探しに歩いていた。


ルイは、魔導師になるための勉強をしている薬師で、魔力を高める効果があるというローブを着ている。


「これから宿探しと街の案内をさせて頂きますルイと申します」


ルイは、夢乃に向かってお辞儀をし丁寧に挨拶をした。


「えっと、栗山夢乃です。よろしくお願いします」


夢乃も丁寧に挨拶をし、お辞儀をした。


(少し苦手なタイプかも……)


「では、参りましょうか夢乃様」


ルイは、かけている眼鏡を指で押し上げ、夢乃に優しく笑いかけた。


(あっ優しい人かも……)


「あっあの……呼び捨てで良いですよ?」


「いえいえ! そういう訳にはいきません! 夢乃様は来訪者なのですから! 」


ルイは先程までの落ち着いた調子ではなく、少し声を張り上げて言った。


「それでは行きましょう! いざ! 素晴らしい宿探しへ!」


(な、何か燃えてる……! 思ったより明るい人なのかな?)


イマイチ、ルイの性格が掴めないまま夢乃とルイの宿探しが始まった。


♪♪♪♪♪♪


「うわぁ! 凄い! 美味しそうな匂いが色んなところから!」


「ここは、この大都市で1、2を争う食べ歩きスポットなんです!」


夢乃達は、宿を探す前にお昼を済ませようということで、この食べ歩きスポットへやってきた。夢乃は、目を輝かせショーウィンドウに並べられている料理の食品サンプルを眺めてる。ルイは、ここら辺で一番評判の良いお店をグルメガイドブックで探している。


「夢乃様! こちらのお店などいかがでしょうか!?


「あっ! 良いですね! でも、こっちも捨てがたい! 」


夢乃とルイは、ガイドブックを、見てどの店にするか吟味し、結局でた結論は……。


「色々なお店で、少しずつ食べるのはどうですか?」


「もともと、食べ歩きスポットですしね! 承知しました! ではそう致しましょうか!」


「わぁーい!」


2人はいい匂いのする方へ引き寄せられていった。


♪♪♪♪♪♪


夢乃とルイは、食べ歩きを終えて広場のベンチでひと息ついていた。


「ふぅー、お腹いっぱい!」


「夢乃様、そろそろ宿探しに戻りませんか?」


ルイがここら辺の地図を見ながら聞く。


「そうですね。 2人とも頑張ってるだろうし、行きましょう!」


そう言って膨れたお腹をさすりながら再び宿探しに戻る。食べ歩きスポットを抜けると、次は商店街が広がっていた。お店は様々なものがあり、元の世界にもあったようなお店もあれば、見た事の無いお店もある。


(ダメだ! こっちにも誘惑がぁ!)


夢乃は、誘惑に負けないように頭を振って雑念を振りはらおうとした。が、ある店に気づき、吸い込まれるようにその店に入っていった。


「申し訳ありません。私もあまりここら辺は来ないもので、ですがここを真っ直ぐに行って商店街を抜ければ…………夢乃様!?」


地図に印などをしながら宿の場所を確認していたルイが夢乃の方に目を向けた。が、当然そこに夢乃は居ない。


「どこに行ってしまわれたのだろう……」


若くして薬師でありながら魔法の研究もしている天才、ルイはその頭脳をフル回転させて考えた。


(ここら辺は、服やアクセサリー等が多く揃っている。若い女性であれば必ず入りたくなるだろう……)


ルイは、周囲の店を見回し女性が行きそうな店を探す。


(夢乃様は、いきなり召喚されてしまわれた来訪者様だ、服の替えなども持っていないだろう。よって服屋に間違いない!)


眼鏡を中指で上げ、自信満々に服屋の扉を開ける。


「夢乃様! そろそろ宿を探しに参りましょう! ってあれ?」


確実に居るという確信を持っていたルイだったが、そこに夢乃の姿はなかった。そこには、ルイを冷たい目で見る服を買いに来ている客と、引きつった笑顔で「いらっしゃいませ」と言う店員だけだった。


その後も服屋やアクセサリーショップを何店か回ったルイだったが、結果は変わらず冷たい視線と引きつった笑顔を浴びるだけだった。


(何故だ! 何故見つからない! 一体どこへ行かれてしまわれたのだ……。ここら辺で普通の女性が行きそうな店は全て行ったはず……。)


ここでルイは、さっきから自分は、『普通の女性』ならという考えで夢乃を探していたことに気がついた。


(そうか! 夢乃様は、異世界から召喚された来訪者様だ! つまり『普通の女性』ではなく『特別な女性』考えろ……夢乃様ならどの店に入るか……。)


そしてルイが導き出した答えは……。


(食べ歩きの時の食べっぷりを見るに、夢乃様は恐らく食後のデザートを求めてあのオシャレなカフェに入ったに違いない!)


ルイは、その店の扉に1度手をかけたがすぐに放し、その隣の店の扉に手をかけた。


(普通ならここでオシャレなカフェに入る……だが! 夢乃様ならばオシャレなカフェよりきっとこのドーナツ屋に入るはず! )


「今度こそ見つけましたよ夢乃様!!!」


勢いよく扉を開ける。心の中で叫ぶ筈だった言葉が勢いあまって声に出てしまった。だが、ルイはそんな事は気にせず店内を見回した。


しかし……店内には夢乃の姿はなく、ルイの目に映ったのは、今日何度目になるか、冷たい視線を浴びせる客とと引きつった笑顔で接客をする店員の姿だった。


♪♪♪♪♪♪


ルイは、深いため息をつきながらさっきまで座っていたベンチに座った。


「夢乃様……どこへ行かれてしまわれたのだろう……


ガックリと肩を落としてうなだれる。


(私がしっかりと目を離さなければ……。はっ! まさか何か危険な事に巻き込まれてるのでは!?)


そんな事を頭の中で考えていると、どこか聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。


「そんなにうなだれてどうしたんですか?」


「いえ、少し人を探してまして……」


女性の声にルイはうなだれたまま答える。


「あれ? ルイさん人探しもしてたんですか?」


「はい……あれ? 何故私の名前を?」


名乗ってもいないのに女性が自分の名前を呼んだことに驚き顔をあげる……そして、そこにはラケットケースを肩にかけ、金色のバッチをワイシャツの襟につけた女性、ルイの探していた夢乃が立っていた。


「夢乃様!!! どこへ行かれていたんですか!?」


「ふぇっ!?」


突然肩を掴まれ素っ頓狂な声を上げる夢乃。ルイは次々に自分がずっと夢乃を探していた事を語った。


「ごめんなさい! 勝手に動いて心配かけさせてしまって……」


夢乃は、頭を下げてルイに謝罪した。


「いえいえ! 夢乃様がご無事で安心しました! 私こそ失礼しました取り乱してしまい……」


対抗するようにより深く頭を下げて謝罪するルイ。


「いやいや! なんでルイさんが謝るんですか!? 私が全部悪いんですから頭を上げて下さい!」


「いえ! 夢乃様の方こそ頭を上げて下さい! 夢乃様が上げるまで私はあげません!」


「なんで対抗しようとするんですか!?」


お互いに深く頭を下げた状態で続くやりとり、だが彼女達は、忘れていた……このやりとりをしている場所が『広場の中心』であることを。


ザワ・・・ザワ・・・


あたりが騒めきだし、ようやく2人は顔を上げた。そして、夢乃にとって異世界に来てから初めてで、ルイにとって本日何度目になるか、沢山の冷たい視線を浴びていた。


♪♪♪♪♪♪


「それで、一体どこへ行かれていたのですか?」


「えっと、スポーツショップです!」


あの後、足早に広場を後にした2人は少し広い公園でに居た。


「スポーツショップですか?」とルイが不思議そうに尋ねる。


「はい、私テニスやってるんで、そういうお店見つけるとつい入りたくなっちゃうんです」


「なるほど……それであの様なカバンを持ち歩いていた訳ですね。」


ふむふむと、スポーツにあまり詳しくないルイは何やら手帳を取り出してメモをしている。


「そこで、お店の店長さんが『来訪者のお嬢さんには好きな物サービスしてあげるよ!』って言ってくれて、お言葉に甘えて頂いちゃいました!」


夢乃のは、嬉しそうに貰ったテニスラケットを取り出した。見た目は、赤をベースとしたラケットで凝った装飾や模様もない。一見普通のラケットの様にも見えるが、夢乃がグリップを握るとガットの部分がほのかに黄色いオーラの様なものをまとっている。


「ほう……このボールを跳ね返すところに魔材まざいで加工がほどこしてありますね」


「魔材?」


ルイは、「少々長くなりますが」と前置きをし、夢乃の問に答える。


「魔材というのは、魔力が込められている素材等の事を言います。基本的には、魔素石まそうせきという石と素材を加工して作ります。そうして出来た魔材で加工された物はよく、建物とかに火災対策だったり暴風対策だったりで使われたりしますね。武具等にも多く用いりますがその時は、直接武具と魔素石を加工することが多いです。魔力を持ってない人間が、魔力を持った魔物と戦うために作られたのが魔具です。これを使えば、魔力がなくても魔法同等の力を発揮することができます」


「まぁ……魔力が無いのに魔具を使わない変わり者も居ますが……」とルイは夢乃に聞こえないように呟いたが夢乃にはしっかり聞こえていた。


「な、なるほど……と、とにかく凄いのは伝わりました!」


夢乃は、色々な事をいっぺんに説明されてよく分かっていなかったが、一応素直な感想を述べた。


「はっ! すいません! 魔材の事だけ聞かれたのに余計な事まで説明してしまい……私の悪い癖でして、このての話題になるとつい話しすぎてしまいます……」


「私もテニスの話題とかアニメの話題になると話しすぎちゃったりするのでよく分かりますよ!」


肩を落として落ち込むルイを明るく励ます夢乃。その夢乃の気遣いに気づいたルイは、眼鏡を指で上げて夢乃にお礼言った。


「それでは今度こそ! 宿探しに戻りましょう!」


「おー!」


夢乃達が再び宿探しに戻ったのは、もう陽が沈み始めた頃だった。


♪♪♪♪♪♪


ようやく大きなホテルに着いた夢乃達だったが、そこで問題が発生した。


「どういうことですか? この時間帯なら二部屋くらいまだ余裕で取れるはずでしょう?」


時刻は夕方前、普段であれば部屋は沢山残っているはずでなのだが、受付の男は部屋は満室と言う。


「申し訳ありません。騎士団様の予約が入ってしまっているので」


「来訪者様が泊まるのです、何とかなりませんか?」


ルイは必死に交渉するが、受付の男はなかなか首を縦に振らない。そんな交渉をしているとガチャガチャと鎧の音をたてて屈強な男達が入ってきた。


「予約していたカナディア騎士団の者だが……」


男達の中から団長とおぼしき男が前に出てきた。


「何かあったのか?」


男は夢乃達を一瞥して受付の男に視線を移し聞いた。


「いえ……それが……」


「来訪者様がお泊まりになるので何とか一部屋だけでも空けて頂けませんか?」


口ごもる男に代わってルイが聞く。


「来訪者? このお嬢さんが?」


男は、「ふむ……」と顎に手を当てながら、夢乃を見る。


「良いだろう。ただし……そのお嬢さんを1晩貸してくれるならなぁ」


男は、夢乃を指差し不気味な笑顔をうかべる。その言葉を聞いた他の団員も騒ぎ始めた。


「何故そんなことをしなければいけないのですか!?」


ルイが男に向かって批判の声をあげる。その批判など聞かず、男はハエを叩くようルイの顔を殴る。


「ルイさん!」


夢乃が膝をつくルイに駆け寄る。


「うるせぇんだよガキが、何故かって? 決まってんだろ、交換条件だよ。部屋空けてやるからそいつを1晩貸せって言ってんだよ」


男が膝をついているルイの髪の毛を掴み持ち上げる。


「こっちは近くの森で魔人が出たとかで倒しに行かなきゃなんだよ、だからその嬢ちゃんに癒してもらいたいんだよ。お前らもそうだろう?」


男が後ろにいる団員に聞くと、団員達からも同意の声が上がった。


「分かった! 分かったからルイさんを離して!」


夢乃は、ルイを掴んでる男の手にすがりつく。


「オーケーだってよぉ、悪いなクソガキ。ダーハッハッハッハッ!」


男はルイの髪の毛を掴んだまま大きな口を開けて大笑いする。それにつられるように団員達も笑った。


「ダーハッハッハッハッ……! な、なんだ?」


大笑いしていた男はゴクンと何かを飲み込んだ。ようやく男はルイから手を離し喉に手を当てる。


「ルイさん! 大丈夫ですか!?」


涙目になりながらルイに駆け寄る、がルイはすぐに立ち上がり夢乃の手を引いて出口に向かう。それを阻むようにニヤニヤと笑みを浮かべた男達が道を塞ぐ。


「待てよ、逃がすと思ってんのか!」


後ろから追ってきた団長のような男に今度は腹を殴られるルイ。しかし今度は膝をつかずに踏ん張っていた。


「るい……」


「なんだぁ?」


ルイがぼそりと言った言葉に男が反応しさらに追撃の拳を今度は顔に放つ……が、ルイはその拳を額で受け止めた。


「軽い、お前の拳なんてアイツに比べたらなんてことない」


「なんだと!? クソガキが! 死ねぇ! …………!」


再び拳を放とうとした男だったが、突如お腹を抑えてうずくまる。


「効き始めましたか」


「は……腹が……貴様……! 何をした……!」


お腹を抑え、膝をつきながらルイを睨む男。ルイは懐からハンカチを取り出し額から出る血を拭う。


「貴方に先程あげたアメは、腹痛効果をもたらすアメです。安心して下さい、効果時間は1時間程度ですから。まぁその分地獄のような痛みに襲われますがね、それこそ魔人の毒のように……」


男に背を向けて、笑う。その笑顔見た団員達は青い顔になって道を空ける。その顔に夢乃も若干恐怖を覚えた。


(この人……絶対に怒らせてはいけない人だぁ!)


夢乃は、ルイの顔を見ないように下を向きながら歩く。


ルイは、出口に手をかけて最後に男達の方に振りかえり一礼してホテルを後にした。



その夜、団員達は笑顔で毒を放つ魔人に襲われる夢を見たらしい。









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