33 黒女との闘い
「ナイス!きゅうちゃ!」
邪気の逃走が防がれたのを見て、剣奈が玉藻に叫んだ。
ゴゴゴゴゴ……
バリバリバリ……
邪気がうなった。氷華が砕けた。逃走が叶わなくなった邪気が、敵をせん滅する方針に切り替えたのだ。
邪気は凍らされ大地に縫い付けられた身体を砕きながら無理やり引きはがした。剥がれた暗黒粘体、それはすぐに本体に吸収された。
邪気が…… 黒女がゆらりと立ち上がった。それはまるで、暗黒の人形のようだった……
ビュッ
黒女がいきなり暗黒触手を剣奈に、勢いよく射出してきた。不意打ちにより、剣奈を貫き倒そうとしたのである。
「ん♡」ヒュッ
樋鳴りの音がした。剣奈が抜刀から左逆袈裟斬りを放った。白黄の刃閃が描かれた。
ズバッ
ブワッ
剣奈に向かって勢いよく突進してきた暗黒触手は、剣奈の抜刀斬り上げにより、存分に斬り裂かれた。斬られた暗黒触手は、来国光の刀身を覆う剣気に浄化され、黒い塵となって空中に四散し、消滅した。
ゴゴゴゴゴ
ビュ ビュ ビュ ビュッ
黒女を覆う粘体から、多数の暗黒触手が勢いよく打ち出された。剣奈に迫りくる黒き禍々しき暗黒触手。その数、十本。それらが同時に剣奈の頭に、顔に、喉に、胸に、腕に、腹に、足に向かう。
「ん♡」タッ
「スラッ、スラッ」
ヒュンヒュン
剣奈は同時に突き進んでくる多数の暗黒触手から距離を取るため、つま先で地面を蹴って後方に跳んだ。跳びながら、来国光を左逆袈裟斬りで切り上げ、さらに右から左へ、横一文字に水平に刃閃をきらめかせた。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ
来国光の刀身から、四本の白黄の飛針が飛んだ。ケントスペシャルスプラッシュ――鋭い剣気針を放つ業である。
それぞれの斬撃で二本づつ、計四本の白黄飛針が放たれた。それら四本の飛針は向かい来る四本の暗黒触手に突き刺さり、深く貫いた。
ブワッ
飛針に貫かれた四本の暗黒触手が一瞬にして黒塵となり、空中に溶けた。迫りくる暗黒触手、残六本。
「ん♡」タッ
後方に跳んだ剣奈は、着地と同時に床を蹴った。今度は向かい来る触手に向かって駆けた。猛烈な勢いで、六本の暗黒触手が剣奈に迫る。
「ん♡」ヒュン
剣奈は暗黒触手の手前で右足を踏ん張って急停止した。急停止で溜めた力を、回転の力に変えた。右足を軸にしながら、再び左逆袈裟斬りの刃閃を飛ばす剣奈。
ブワッ
切り裂かれた二本の暗黒触手が、黒塵と消えた。迫りくる触手、残四本。
「ん♡」タッ
剣奈は刀を振った勢いのまま、コマのように回転していた。その勢いを殺さず、右足で強く地面を蹴って前に跳んだ。迫りくる四本の触手の中央に向けて。
「ん♡」ヒュン
剣奈の周りに四本の暗黒触手が見えた。剣奈は黒女本体めがけ、一直線に跳んでいた。剣奈の身体は体幹を軸にした回転と、前方への跳躍により、まるでスクリューの様に勢いよく回転する螺旋の動きを見せていた。体の外側に向け、来国光の刃筋をたてながら。
ブシュゥ ブワッ
迫りくる四本の暗黒触手が、次々と屠られた。斬り裂かれた暗黒触手は、黒塵となって空中に散じた。
剣奈は飛んでいた。繰り出した十本の暗黒触手をすべて黒塵と変えられ、人型の姿だけになった黒き闇の粘体、黒女本体に向かって。
ググググググ
黒女を取り巻く暗黒粘体が波立った。そこへ剣奈が飛ぶ。
「ん♡」タッ
剣奈は空中で足裏に薄い剣気結晶を作り、それを軽く空中で蹴った。剣奈の飛ぶ方向が、ベクトルがわずかにズレた。
「ん♡」
ヒュン
樋鳴りの音がした。剣奈はすれ違いながら黒女の脇腹を斬った。巫女の生身の身体には刃先が届かぬよう、暗黒の邪気だけを斬るよう、絶妙の刃捌きをもって。
ブワッ
黒女の左脇腹の邪気が滅した。巫女の肌が現れた。
「ん♡」タッ
ヒュン ヒュン ヒュン
剣奈は空中でとんぼ返りをするように着地した。そして背後から黒女に無数の斬撃を飛ばした。
左逆袈裟斬り、唐竹斬り、右逆袈裟斬り、逆一文字切り、逆風の太刀……
あらゆる方向から、黒き邪気に向かって剣奈の斬撃が飛ばされた。巫女を覆う暗黒粘体はどんどん斬り裂かれ、浄化され、黒塵となって消えていった。
ゴゴゴゴゴゴ
おぞましき暗黒粘体は、あらわになった巫女の裸身を覆い隠すように脈動を始めた。しかし……
「ん♡」
剣奈が巫女に抱きついた。暗黒粘体が覆い隠さんとする巫女に。そして…… 巫女を抱きしめながら祝詞を唱え始めた。




