風はまだ、どこかで
祭りは終わり、町に静けさが戻る。
それでも境内を渡る風は清らかで、どこかやさしかった。
あの夜、風とともに昇った祈りは、いまも空に溶け込んでいる――
風はまだ、この町をめぐり続けていた。
*
三日間にわたって繰り広げられた町を挙げての祭りは、地域のニュースでも大きく取り上げられた。
それ以来、風守町を訪れる人の姿は、少しずつ増えている。
祭りの最終日、「送り宮」を終えた夜。
私は一人、風守神社を訪れていた。
境内には、まだかがり火が焚かれ、淡い明かりが揺れている。
神域に足を踏み入れると、風は穏やかで、澄んだ気配をまとっていた。
私は立ち止まり、ただ風に耳を澄ませていた。
「んー、ええ風やわぁ。空気が澄んでて、すっきりしてるな」
背後から聞こえた声に振り返ると、加奈が立っていた。
「うん。加奈も、感じる?」
私がそう言うと、加奈は静かにうなずく。
「……葵も、きっと喜んでくれてる」
風は、答えることなく、境内を静かに巡っていた。
けれど確かに、この町を包み続けている。
*
二学期が始まった。
まだ夏の名残を含んだ風が、窓からそっと教室に入り込む。
陽射しは強いままだが、山から吹き降ろす風には、わずかに秋の気配が混じっていた。
教室には、祭りの余韻が静かに残っている。
生徒たちのざわめきの奥に、どこか浮き立つような空気があった。
あの夜――
風の神事に関わった私や颯、加奈は、いつのまにか「時の人」になっていた。
とくに風巫女として祭壇に立った私は、視線を集める存在になっている。
羨望と憧れ。
そして、ほんの少しの嫉妬。
颯は相変わらず飄々としていたが、今ではまるで有名人のような扱いだ。
それでも、不思議と私の心は穏やかだった。
あの日、風の中で確かに触れたもの――
それは今も、自分の内側に静かに息づいている。
忘れられていた祈りは、再び町をめぐり、
誰かの想いと重なりながら、風となって流れていく。
そして今日も、風はそっと彼女の髪を撫でていった。
それは、物語の終わりではない。
新しい季節へと踏み出す、はじまりの風だった。




