第5話 私、ダンジョンの主とご対面!ですわ!
道を進むと、謎のトラップがいくつもあった。
ベッドのトラップにかかったり、のろい吸血コウモリに襲われたり、道で眠りこけて巨大な岩が落ちてきたり。
ラファエラは、7回は昇天していた。
その度に、
「オーホッホッホッホ」
と復活して、ずんずんと道を進んだ。
回避能力の高い目玉は、ラファエラに度々尋ねた。
「痛くないの?大丈夫?」
ラファエラは毎回痛いのである。
尋常じゃない自意識と自己愛で、精神を病まずに痛みをやり過ごせているだけで。
ドシン
「またですわ。」
大きな音を立てて、地面が度々揺れた。
「段々大きくなっているみたいですわね。何なんですの?」
「僕はわかんないからなぁ。」
目玉ちゃんはパタパタと羽を羽ばたかせた。
「良いですわねー。私にも羽があったら完璧では?いや、駄目ですわね、それじゃただの完璧な天使に間違えられてしまいますもの。」
そんな会話をしながら進んでいると、やがて広い空間にでた。
「あーーー…」
「何か、ありますわね。とんでもなく大きいですけれど。何ですの?あれ?」
空間の中央にいる何かがゴロンと動いた。
バターン
ドスン
地面が大きく振動した。
「きゃ。」
「気を付けて、あいつ、このダンジョンの主だよ。」
「主って、なんですの?」
「ダンジョンのコアを守ってるんだよ。あいつを倒さないと、ダンジョンコアは出てこない、つまり先に進めないってこと。」
目玉ちゃんの言葉を聞いて、元伯爵令嬢はダンジョンの主を見た。
(すごーく、ふくよかで恰幅の良い方ですわね)
それは丸く盛り上がった体に四肢が生えていて、それを大の字に広げている。
体は規則的に上下している。寝ているようだ。
顔は反対側で、あるのかどうかも見えない。
元伯爵令嬢は、とりあえず中央に寝転ぶ巨体の右足に登った。
「君、魔術使えないんでしょ?どうするつもり?」
目玉ちゃんは当然の質問をした。
「どうもこうも、倒すんですわ。」
「だからどうやって?」
目玉ちゃんは、羽をパタパタと焦ったように忙しなく動かしている。
会話の間も、バランスをとりながらラファエラは足の上を進んで行った。
「寝てるんですもの。今のうちに倒すんですわー!」
(完璧な計画ですわ。
さすが、頭脳明晰な私!)
ラファエラが足の付け根に到着し、胴体によじ登ろうとした。
その時。
ゴロン
巨体が右に寝返りを打った。
バターン
「あっ」
回避能力の高い目玉は瞬間、高度を上げて巻き添えを回避した。
が、ラファエラは――
(く、くるし…ていうか、痛い、痛いですわー
か、体が、ミシミシい、息もできませんし…
ちょ、ちょっとこれ…)
昇天した。
目玉ちゃんは冷めた視線で巨体を見下ろしていた。
ラファエラではどうやってもここの主―スロース≪怠惰≫の化身を倒すことはできないだろう。
魔術を使えない彼女では…
しばらくすると、
ゴロン
バターン
巨体がまた寝返りを打った。
「エラ!」
目玉ちゃんはラファエラの元へ飛んで行った。
「エラ、大丈夫?エラ!」
ペシャンコになっていた元伯爵令嬢の体が、ポンっと元に戻る。
すると、彼女は上体をバッと起こした。
「はー、はー。苦しかったですわー。」
「大丈夫?あいつがまた寝返りをする前に、移動しないと。」
「大丈夫ですわ。あの方、しばらくはあの位置で寝てますもの。」
ぜーはー、ぜーはー。
(いけませんわ。私としたことが、呼吸を整えないと…)
ふーっと吐息を吐いている元伯爵令嬢に、目玉が尋ねる。
「どういうこと?」
「つぶされている間、カウントしたんですの。どれくらいたったか。ここに来るまでの間も、何度か振動がありましたけど、あの方、10分刻みに寝返りしているんですわ。」
目玉は驚いて目玉を見開いた。
「それよりも、あの方…許せませんわ!」
そう言ってラファエラは立ち上がる。
つぶされていた間、相当苦しかったんだろう。
復活してもまた苦しくなって…かわいそうにと目玉ちゃんは思ったのだが。
「あの方…あの方……。殿方ですわ!」
ビシッと、眠っているダンジョンの主を手で示す。
「…だから?」
「殿方が、レディを組み敷いて…押し倒すなんて…。重罪ですわ!厳罰ですわーーーー!」
「自分が最初に体によじ登ったんじゃん。」
「許せませんわ…。二度と同じことをしないように、しっかり教育してやりませんと…」
ラファエラは般若のごとき顔で体をわなわなと震わせていた。
「起こしてさしあげますわーーーーー!それで、しっかり、わからせて差し上げませんと!」




