第4話 私の歌を聞けー!ですわ!
しばらく一人と一匹?が道を進むと、光が見えてきた。
「あっちの方に、部屋があるみたいですわね。」
「気を付けてよ…ここは…」
目玉ちゃんの言葉を無視して、元伯爵令嬢はずんずんと走って行ってしまう。
「はぁーー。知らないよ…」
暗い道を抜けると、そこには――
「豚がいっぱい!ですわー。」
わー、わー、わー…
元伯爵令嬢の声が、石造りの部屋にこだました。
部屋には人の体に頭が豚の魔物―オークがたくさんいた。
かれらは部屋の反対側にある道の前で、ひしめき合って横になっていた。
まるで養豚所のような風景である。
だが、眠っていた彼らは元伯爵令嬢の声で、目を覚ましたようだ。
「あーあ。」
うぉーーーー
うわーーーー
という雄たけびとともに、オークたちは元伯爵令嬢に向かってきた。
彼らは、恐ろしくのろかった。
元伯爵令嬢たちのところに来るまで、時間がかかりそうだ。
「あの方たち、頭の上にハートがありますわ!」
「何わけわかんないこといってるのさ。逃げるか、戦うかしないと。君が起こすから、奴ら怒ってるよ。」
ズレたラファエラを呆れたように横目でみた後、目玉ちゃんはオークたちを見やる。
ここのオークはのろいが、耐久力も攻撃力も高いので、倒すのは厄介だ。
魔術なしで突破なんて…
まずいなぁと目玉ちゃんは思った。
「申し訳ないことをしてしまいましたわ。でも、大丈夫!」
元伯爵令嬢は、襲い来るオークを前に、胸の前で両手を握り祈るような姿勢で――
「はぁーはぁーな~るぅ~、あ、だいちぃーの~」
歌いだした。
(私が、天使も嫉妬するほどの美声で、またお眠にして差し上げますわー)
ぐぁぁあーーーー
いやぁぁぁあー
(ふふ。みなさまの歓声が聞こえますわ。でも、これで――)
「は、は、あなぁる~だ、ぁいちをーーーーーー、はぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー」
元伯爵令嬢は目をつむり、悦に入った様子だ。
彼女は歌というにはあまりにも害がある高音を発した。
――一瞬の沈黙
(完☆壁!ですわ)
元伯爵令嬢が満足げに目を開けると――
オークたちはみな横になっていた。
ぴくぴくと、しびれたように痙攣している。
「ふっ、みなさま私の美しい子守唄に、寝入ってしまったようですわね。あら、目玉ちゃんは…」
元伯爵令嬢があたりを探すと、目玉ちゃんは道に落ちていた。
「まぁ、眠ってしまったのですわね。ふふっ」
そう言って、目玉ちゃんを拾い上げると、
「寝てない!」と大きな声で目玉ちゃんが叫んだ。
「しーーーーーー。みなさま、起きちゃいますわ。」
「起きるわけないだろ。あんなのくらって、みんな、痙攣してんの!」
「痙攣させてしまうほどの美声で、申し訳ないですわー。なんせ、私、オペラのアリアに選ばれたことも…」
「冗談じゃないよ。君がアリアなんて。僕が目玉じゃなくて耳だったら、消滅してるところだよ!」
悲しいかな、目玉の意図は、ラファエラに伝わることはない。
「これで進めますわね。ところで…頭にハートをつけている豚さんは、何なんですの?」
「は?」
目玉ちゃんは伸びているオークの方を見た。
「目玉ちゃん、あなた、目玉のくせに目が悪いんじゃありませんの?ほら、この方とか。頭に透明な、クリスタルのようなハートが10個ありますわ。この辺ですわよ。」
元伯爵令嬢は、痙攣しているオークの頭上を一生懸命指していた。
「見えないよ。呪いの影響じゃないの?」
「呪いじゃありませんわ。私、完璧なまでに祝福されてますの。」
ラファエラは華麗にポーズを決めてそう言った。
「まぁ、なんでもいいけど。ハートってことは、HPか何かじゃない?」
「HPってなんですの?」
「元気度みたいなものだよ。」
「つまり全部透明なハートのこの方は…すごく元気!ということですわね!」
「いや、元気がないんじゃ…」
「よかったですわー。他の方にも見えるんですのよ。このハート。なんだかわかってすっきりですわ。」
「いや、知らないけど…」
「では、先に進みますわよー!」
目玉はつっこむのをやめた。




