7話 復活! 信長&帰蝶(?)
【8次元世界下界/尾張国 清須城 儀式の間】
『魂よ 朽ちた肉体 黄泉帰り 悪鬼共から 救い給うや! 蘇生回帰法! 兤陽神パーピリオー!』
杖を持った中年の人間が、5.7.5.7.7の5節完全詠唱を発動させる。
本来人間の限界は5.7.5だが、才能優れる歌術士なら5.7.5.7までは凄く頑張ればいける。
しかし5.7.5.7.7は無理だ。
人には、歌単体だけでは、到底成功不可能な5節完全詠唱。
故にこの術を成功させる為に、可能な限り準備を整えた。
術式で描いた家紋や、四方に配置した宝玉、供物、財宝、自分以外の巫女達の術力、そして術をサポートする家宝の杖。
聖水で清めた部屋、御札で不純物の侵入を防いだ壁、神を称える歌術とは違う祝詞。
更には近親者の血液に、復活させる本人の肉体の一部、今回なら遺髪だ。
それでいて、かがり火で酸欠寸前まで追い込んで、意識を朦朧とさせ、その代わり精神を肉体から解き放つ。
死ぬ寸前まで己を追い込んで完成させるのが、人による5.7.5.7.7の5節完全詠唱なのだ。
神界でファルが散々披露し連発した大歌術は、軽いダッシュぐらいの疲労で済むが、これが神と人の差であろう。
「グッ! ダメか!?」
一方、破壊をもたらす歌術ではないのに、中年の術者は苦しそうである。
歌術の難易度と神性の圧力に負け、身体が悲鳴を上げる。
「グググッ! ……あっ?」
もう駄目だと思ってた所に、急に力が抜けた。
身体ではなく術の圧力が消え去った。
「し、失敗か……ッ!? ん?」
失敗かと思ったが違った。
部屋の天井が6色に輝き光輪を作り、その中に黄金、白銀、赤銅の六芒星が、光のスピードとは思えぬ遅さで地上の床に到着し、そのスピードに反した爆風が壁の一部を破壊しつつ、新鮮な風と空気が吹き込み、そのまま光の布を引っ張り上げた。
爆風の粉塵から現れたのは、時空神ファルファッラによって下界に降ろされた、織田信長と斎藤帰蝶が立っていた。
「……あ、下界におりたのか。あっ!? ど、どうも、親父殿っぽい人? ワシ、いや某は三郎信長です。あ、下界というのは、今まで神界にいたので……!?」
「……初めまして、違うわ!? いえ違わない? あ、えっと、あのその、妻の斎藤帰蝶と申します。あっもちろん、妻とは記憶上の関係ですが……!?」
2人とも下界に降臨してからの挨拶を何も考えていなかったので、慌て過ぎて、余所余所しいにも程がある言葉を発した。
将来の覇王信長と、その妻帰蝶とは思えぬ0点の挨拶であった。
「……」
「……」
沈黙が場を支配した。
両陣営とも『どうしよう?』との思いが強い。
特に、呪文を発した側の方は、術の成功にも驚いたが、もっと驚いたのは、記憶に残る信長ではない事と、何故か2人も復活させてしまった、歌術事故とでもいうべき現象に戸惑っていた。
信長(っぽい人)が復活するのは、まだ理解できる。
その為の準備と歌術を実行したのだから。
だが帰蝶まで復活するのは想定外にも程があるし、そもそも術力不足に触媒不足で本来不可能なのだ。
(これは成功なのか!?)
何も起きないなら失敗と断定できるが、何かが起き過ぎている。
失敗とも成功とも言えない何とも判断の難しい光景が広がって、信秀っぽい人はどうすれば良いか困った。
その時、そんな状況を見越してか声が響いた。
≪聞け。我は創造神パルヴァーネ≫
ぼやけたパルヴァーネが声と共に降臨した。
周囲に響くのか、脳内に響いているのか、ここにいる全員に均等に聞こえる、尋常じゃない圧力を伴った声が響き、信長と帰蝶を除き一斉に跪いた。
信秀っぽい人は柴田勝家っぽい人に肩を支えられながらである。
勝家は壁の破壊音に異常を感じ飛び込んだのだが、想像とは違いすぎる光景に戸惑っている所に、創造神の言葉である。
よく信秀っぽい人を支える判断ができたものだが、さすがは柴田勝家っぽい人か。
信長と帰蝶は別に跪く必要性を感じなかったが、周りがそうする中、突っ立っているのも居心地が悪いので皆に倣った。
≪まず、この者は『織田信長』で間違いない。ただし、お主等の知る信長ではない。彼は別次元からの来訪者。本来復活させたかった『織田信長』は復活できぬ。それは分かっておろう?≫
≪は、はっ! それは十分理解しておりました! ただ、今の苦境を跳ね返すには愚息の力しか無いと判断し、無理を承知で歌術を行った次第でありますが、まさか創造神からの言葉を賜るとは!! ……今、別次元と仰られましたか?≫
≪うむ。次元にも色々な形が存在する。その中の一つで早々と命を失った2人を連れてきたのだ≫
≪そうでしたか!≫
正体が3次元人と言うのを、一応伏せたパルヴァーネ。
余り情報は与え過ぎない方が良い、との判断だ。
≪少々こちらにも事情があってな。彼らは別次元では英雄になる者だった≫
≪……え? 『だった』とは?≫
≪それはこ奴の存在に関わるので言えぬが、まぁ特異な才能を秘めているのは間違いない≫
≪わ、わかりました。あっ、もう一つ伺っても宜しいでしょうか!?≫
≪隣の斎藤帰蝶だな?≫
≪は、はい……! 帰蝶殿の復活は無理と諦めていたのに、こうして現れましたので驚いておりますが、我々の知っている帰蝶殿とは違う様子。彼女も別次元からの来訪者で?≫
≪そうだ。創造神たる我の加護である。この苦境と、これからの躍進はこの2人なくしては不可能だ≫
≪はっ! ありがたき幸せ!≫
≪では神界よりお主らの活躍を見届けておるぞ≫
≪創造神様!! 消えた……≫
信秀っぽい人が信長達を見ると、最初は跪いていたのに、今は足を崩して投げ出している。
何か暇そうに見えるのは、気のせいでは無いだろう。
「あー、き、君達? 特に別次元の信長っぽい人よ」
「おっと。親父殿っぽい人。話は終わったので?」
「? 聞こえておらなんだか?」
「聞こえてはいましたが、知っている言葉じゃないので、内容はサッパリで」
「サッパリ!? 神言語を知らぬのか!?」
「神言語!? そんなの聞いておりませぬぞ!? ファルさん!? どうなっておるのだ!?」
≪≪『さん』も要らないわよ。気持ち悪い≫≫
≪≪ファルさん!? まさか時空神ファルファッラ様!?≫≫
創造神の降臨だけでも奇跡なのに、時空神まで降臨するとは天地崩壊級の奇跡だ。
≪≪オホン! 私は時空神ファルファッラ。そう。彼らは神言語を知らぬし覚えられません。別次元からの来訪者とパルヴァーネ様が仰っていたでしょう? 神界で色々鍛えましたが、次元の違う人には無理な事があります。しかし次元が違うからできる事もある。よく見極めて活動する事です≫≫
≪≪そうですか……? では今の神言語も聞こえてはおらぬと?≫≫
≪≪いえ、私の言葉は理解しています。私が神言語と彼らの世界の言葉を同時に喋っているので聞こえてます。具体的には『後書き』にもあるけど、鍵カッコの『≪これ≫』は彼らに理解不能『≪≪これ≫≫』は理解できるわ。『≪』の個数ね1個は理解不能、2個なら理解できる≫≫
突然、第四の壁を豪快に蹴破って説明をするファルファッラ。
神界では言語は魂で理解していたので、神言語、即ち8次元言語を理解できたが、こうして肉体を得た以上、肉体で出来る事が優先されてしまう。
故に今の環境では神言語は理解できないのだ。
あと、ファルファッラが超メタい事を言っているが、ここは8次元なので問題ない。
いいね?
≪≪流石は時空神! ご器用な事を為さる!!≫≫
(なんじゃこのお淑やかな言葉は!?)
(魔神の時とは大違いですね)
《聞こえてるわよ》
「ヒッ!?」
「ごめんなさい!?」
「ど、どうした!?」
突然、信長と帰蝶が激しく動揺したので、信秀っぽい人が驚いた。
これは《この言葉》は完全3次元語なので、逆に信秀達には理解できない。
≪≪ところで、お互い『っぽい人』って疲れるでしょう? 世界は違えど血筋は一緒。お父さんなり父上なり、本来の呼び方にしなさい。ただ帰蝶は違う。こちらの事情。死んで蘇らせる触媒も無かったでしょう? これは神の恩寵と思いなさい≫≫
(あ、私も死んでたのね。そりゃそうよね)
帰蝶は今さらながら気が付いた。
理解不能な世界に来たのだと。
≪≪っとこれ以上は地の文を書く人も面倒に思っているわよ? 文字数稼ぎと思われたら最悪よ? じゃあ頑張って奇跡を起こしててみせなさい。じゃあね≫≫
今度は第四の壁を殴り破るファルファッラ。
地の文とかメタいと思うだろうが、ここは8次元。
ファルファッラ様も《慣れなさい》と仰っている。
いいね?
「消えた……。地の文に文字数稼ぎ。よく分からんが――」
信秀っぽい人が『よく分からんが』と言おうとして、信長と帰蝶が慌てて止めに入った。
「お、親父殿! そこに触れると多分神の怒りが!」
「そうです義父上! この世界でその言葉は禁忌です! 神しか介入できない次元なのです!」
先ほど以来の警告となるが、今一度。
メタいと思うかもしれないが、それは違う。
なにせ8次元空間なのだ。
我らの常識など通用しない。
だが8次元人の信秀には通じる言葉でもある。
いいね?
「禁忌神? 聞いた事の無い神の名だが、そ、そう言う事であるなら分かった、控えよう」
信秀は、本当に危ないのだと信じ控える決心をする。
それ程までに信長と帰蝶が必死というか、死に物狂いだったので本当に危ないと信じた。
「なので、これ以降、ファルの言う通り『っぽい人』は止めましょう! 次元は違えど親子には違いないのですから!」
「わ、分かった」
信秀も身の危険を感じ、従うのであった――
【時空神ファルファッラ様のお言葉】
「会話について説明するわよ?」
「●●●●●●」通常会話。誰にでも通じる言葉。
≪●●●●●●≫神言語1。信長と帰蝶に聞き取れない言葉。
≪≪●●●●●●≫≫神言語2。信長と帰蝶にも通じる言葉。
《●●●●●●》神言語3。信長と帰蝶と神にしか理解できない神言語含む3次元語。
『●●●●●●』歌術。
【●●●●●●】場所や地名。
(●●●●●●)心の声、またはヒソヒソ声。
「ややっこしいでしょう? 鍵カッコが入り乱れる所では後書き、前書きにコレを入れとくから参考にしなさい?」




