5話 懇切丁寧な拷問的教育
【8次元/神界】
頭を抱えたファルファッラは一つの答えにたどり着いた、と言うか、もうそれしかない。
「8次元人になってもらうしかないわね……! 特訓は覚悟してもらうわよ……ッ!」
ファルファッラも想定外の術音痴の2人。
どう鍛えれば、普通になるか考えに考え、考え抜いた末――こうなった。
『土は砂 砂利坂なれば 草泥へ 起伏富むなり 秘境となるや! 天地改竄法!! 創造神パルヴァーネ!!』
5.7.5.7.7の5節完全詠唱でファルファッラが歌術を披露する。
赤銅色だった神が黄金に輝き、その歌と共に、雲の一部が地面へと変貌したが、砂、登坂、泥、樹木など、まともな地形は無い。
「まずは走れ」
「え?」
「何で?」
「喧しいッ!!」
突如ファルファッラの神気が爆発する。
信長と帰蝶は、体が飛ばされそうになり、雲にしがみつく。
「返事は『はい』か『承知』だけだ! さっさと行け!」
ファルファッラが神性を爆発させ怒鳴った。
タダでさえ創造神の5節完全詠唱の後なのだ。
少々疲れて、気が立っており――という事もあるが、どちらかと言うと、信長と帰蝶の、余りの才能の無さに失望し鬼の形相、魔神となった。
「オラァ!! その程度でへばって金玉ついてんのか!?」
「ついてないであります!!」
懸命に崖を飛び上がりながら帰蝶が抗議する。
病気の体から一転、魂ゆえに健康体となった帰蝶は、『帰蝶』の体を『乗っ取った帰蝶のお陰』で飛び回れる運動神経だけは抜群の体になったが、そんな事に恩義を感じている暇はなかった。
「返事は『はい』か『承知』だけっつっただろッ!!」
「(無茶いわないで!)承知!」
帰蝶が汗だくで返答する。
先の通り『本来の帰蝶』が5次元空間の形態形成場で、未来の帰蝶が鍛えて身に着けた能力がダウンロードされているのだが、それでも追いつかない猛特訓だった。
当然信長はついていけない。
「何だその千鳥足は! そもそも、いつになったら蚊取り線香ぐらいになるんだ!?」
「カトリセンコー!? が、頑張って! いる! でありまぁすッ!!」
信長は蚊取り線香が何かは分からなかったが、信長の指先からは蚊取り線香の10分の1ぐらい、結局、お線香の灰が崩れ落ちた。
走りながら『火燎神ケレベック!』と唱えた末の成果だ。
「帰蝶ッ! 貴様は運動能力はともかく、術はせめて小便くらい勢い良くださんか!!」
「しょ!? は、はい!」
「信長ぁッ!――
『火燎神ケレベック!』
『火燎神ケレベック!』
『火燎神ケレベック!』
『火燎神ケレベック!』
『火燎神ケレベック!』
――こうだ! わかったか!?」
ファルファッラが眼と髪を赤く輝かせ、火炎弾を連射して爆撃の嵐で信長を攻撃する。
神が発射する火炎弾だ。
隕石レベル、大災害級の火球が襲い掛かる。
なお魂でも火傷するが、それは完全治療してもらえる。
ただし、火傷の記憶は消えないのでツライ。
「『火燎神ケレベェェェックッ!』分かったかと聞いているんだ!!」
今度は手を頭上に掲げ、さっきとは比較にならないサイズの火炎弾が作られたと思ったら、そのままのサイズで10個に分裂し、指10本から同時発射し襲い掛かった。
「おわぁッ!? し、承ち熱ギャァァァッ!?」
逃げ場もなく、信長が黒焦げになった所で今度は目標が帰蝶に変わった。
ファルファッラの目と髪が青色に爛爛と輝く。
神性が溢れかえって乱流となる。
「避けてみろ!『水灑神ペタルデス!!』死ねぇッ!」
猛烈な水流が、ファルファッラの腕の動きに合わせつつ拳に纏わりつき、手を開くと共に各指に細く凝縮された。
「死ねって目的が……キャアァァァ!? あっ?」
10本の指から放たれた水圧カッターが帰蝶の魂をサイコロステーキに変えた。
ドサドサと魂が崩れ落ちるが、信長も帰蝶も死んではいない。
動けないだけだ。
「よかったな。運よく魂で怪我できる体で。いいか? 今の攻撃が地上だったら獣の餌になってたぞ。食べやすい大きさでな! 信長は丁度いい焼け具合だ!」
炭になっても生きている信長が、口を動かそうとするが、顎がボロッと取れ落ちた。
超火力だったが故に表面だけが炭で、崩れて見えた中身は生だった。
帰蝶は運よくそっち方面に向いていた右目が、その光景を見てバラバラになったまま気絶した。
信長も普通だったら死んでいるが、ここでは死ねないのでこれでも生きている。
アニメだったら間違いなくモザイクがかかるダメージで、生き地獄といった方が適切か。
『月明り 照らし賜うは 闇の月 光群がり 骸に帰せよ 月光闇癒法! 暝朧神バーバチカ!!』
バーバチカは現れたが、グロテスクな光景を見せられて気絶寸前だ。
だが仕事はしていった。
以前ファルファッラが歌った暝朧神バーバチカの『月光闇癒法』5.7.5.7.7バージョンに応え、身体が凄い勢いで体が再生されていく。
だが痛いし、特にグチョグチョとした気持ち悪さが最悪だ。
気分ではなく、ここまで損壊した体が元に戻る感覚が、信長と帰蝶に例え様のない不快感を与える。
「……術なら、もっとこう一発で簡単に復活できんのか?」
「えぇ。これはちょっと、体がつなぎ合わさる感覚が……」
やっと回復した2人が最初に発する言葉からして、ファルファッラの攻撃や、回復の痛みより、気持ち悪さが上回った様だ。
それはそうだろう。
どんなケガであっても、ささくれ程度であっても、瞬間的に治るケガなど存在しない世界が3次元世界なのだ。
「そう? そんな状態になった事ないから理解できない感覚だけど、一応あるわよ?」
ファルファッラが『何を当たり前な事を』とでも言いたげな顔で答えた。
当然信長達はイラっとする。
「あるの!? ならソッチにしてくれ!?」
信長が抗議するが、ファルファッラは聞いていない。
「どの属性神も攻撃から防御、回復、補助ができる。『回復はこの神の限定』って事は無いけど、バーバチカちゃんが、一番マシだと思うわよ? 例えばケレベックちゃんは肉体を一旦灰にしてから再生させるけど、そっちの方がキツイんじゃないかしら? 『鳳凰再臨法』って言うんだけど」
「鳳凰……知っている記憶があるな。灰の中から蘇る明由来の神獣だったか。選ばれし者の元に舞い降りるとか……」
「へー。上様は物知りですね?」
「勉強した……みたいだな」
まだ記憶の整理が全然終わってないので、断定はできないが知識としてはあった。
だがファルファッラが付け加えた。
「その一面もあるけど、不死、再生の化身でもあるのよ。8次元のこの世界ではね。死期を悟ると自ら炎に入り灰となって再臨するの」
「灰の中……一旦消し炭って事ですか……」
「……ん? その概念の鳳凰に関する歌術と言う事は、火葬して復活させる……?」
「鋭い! 大正解~!」
「……できれば暝朧神バーバチカ様でお願いします」
あまりにも好ましくない回復法に、2人は難色を示した。
言葉の通りなら、一旦燃やし尽くしてから蘇らせるのだ。
仮にその歌術が必要な場合、重体でしかありえないので痛みもクソもないだろうが、嫌には違いない。
「ま、何事も経験ね。歌術を覚えるついでに全属性の神の回復と攻撃、防御に補助と特訓のついでに色々人体実験で教えてあげるわ!」
「えっ」
「ほら休憩は終わり! 走りながら神の名を唱えつつ、私からの攻撃をよけなさい! 『風飄神ペルホネン!』」
唱えた瞬間足元の雲が渦巻き、足から脳天、脳天から天空に逆方向に雷が上り、スタートの合図のピストルとは比較にならない轟音が信長たちを貫いた。
「ギャギャギャギゲゲゲッ!」
「イべべエベヴヴヴガガッ!」
雲の上に居るならではの現象であり、雲上では回避不可避の極悪歌術だ。
なお、3次元空間でも雲から宇宙方面への雷の放出はあるので、雲の上立つ時は注意しよう。
「こんな静電気程度でいつまで痺れてる! さっさと走らんかッ!!」
「セーデンキ!?」
「は、はい!!」
【100年後――】
あれから100年。
信長は120歳、帰蝶は100歳になっていない。
時空神ファルファッラの加護(?)のお陰で見た目は成長していない。
むしろ、成長期的には若いままの方が都合がいい。
そのお陰で信長も、5次元空間と、更にここで成長した帰蝶に匹敵する身体能力を手に入れていた。
もちろん術も大幅にパワーアップした。
「ついに、ついに蚊取り線香になったぞッ!! いや! これはソレ以上だ!」
煙草ぐらいの火種を指から出した信長は大喜びだ。
「小便以上の水が指からでましたッ!!」
指先から蛇口を5分の1捻った水道水ぐらいの、チョロチョロとした勢いで水を噴出する帰蝶も大喜びだ。
「ヨクヤッタ」
泣いて喜ぶ信長と帰蝶に対し、ファルファッラは棒読みだ。
(100年修業して、こんな事ってある!? パルヴァーネ様!?)
神様も驚く信長達の術音痴ぶりには、神たる己も参ってしまった――
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作画担当先生は、八坂たかのり(八坂考訓)大先生だ!(旧Twitter @Takanori_Yasaka)
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