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第8章 「スコアの力」

 第8章 「スコアの力」


 豪快なそのフォームがマウンド上で躍動する。

 神島友久。

 長身から投げ下ろすその『ストレート』は、伸びもキレも申し分なかった。

「ストライィィィク! バッターアウト」

 あっさりと二者連続三球三振。神島はマウンド上で。

「顔見知りの奴らばっかりやが、対したレベルじゃねぇな」

 ストレートはこの日『148㌔』を計測。

 しかし、その球を見たベンチの受験部員は。

「速い。中学全日本代表で見たときよりも、ひと冬越えてパワーアップしてやがる。これまで6球全てがストレート。神島は、まだ武器を使ってない。」

「ああ、全日本では140前後の真っすぐを投げていたが。もう高校でも全国レベルに十分通用する150㌔に迫る球速だ」

 未来は神島を真剣な表情で見つめる。

 ベンチに座る未来のすぐ傍には、短髪小柄の優馬の姿。

 優馬も背中を丸めながら、呆然と神島の球を見つめる。

 状況をまるで傍観者のように見つめてしまう優馬に、未来は声をかける。

「優馬。よく聞いて。チャンスは最低三回。9回までに完全一人も出塁がなかったとしても、三回は打席が回ってくる。もちろん、こちらが勝っている場合は9回裏の攻撃は行われないけど、その場合でも3度は打順が回ってくる。」

「そういう計算になりますよね」

 未来は真剣な表情で淡々と続ける。

「4回打席が回ってくるとするなら、優馬は7番打者だから、7人が9回までに出塁しなければ打席は回ってこない。勝っている場合だったら、8回までに7人。」

「ってことは……みんな頑張るように、他7人の尻を叩けと?」

 真面目な表情で少し失笑を堪えながら。

「そうじゃないわ。神島の今日のこの調子と内容を考えたら、おそらく4度目の打席は回ってこない。だから」

「なんとか、自分だけで7回塁に出ろってこと?」

 再び真面目な顔を崩さずツッコミを入れる。

「なんで、そういう計算になる」

「で、ですよね」

 頭を掻きながら優馬が言う。

 3打席。今日の優馬に与えられた数少ないアピールの打席。

「しっかりあのボールを見ておくのよ」

 まるで監督さながらの命令をする未来。

 それを見ていた他の白組の受験部員が。

「おいおい、二人とも。もしかして付き合ってんの?」

 それに、優馬は激しく動揺するが。

「つ、付き合う? 僕が? 霧島さんと!? ……」

 それに何のリアクションも取らない未来が。

「悪かったかしら? 付き合ってても? 私達は、既に知り合いなの。ボーイフレンドにアスリートとしてのアドバイスを送るなんて当然だと思っているけど?」

「き、きりしま……さん? ……」

 未来の発言に、驚き落ち着かない優馬。

「こんな冴えないやつがよ。あーあ羨ましい」

「まぁそんなところだから。」

 淡々と答える未来。

「き、きりしまさん? 僕たち何なんですか?」

 優馬が小さな声で言うが。

「今は、適当にあしらってた方がいい」

「僕は言い訳の材料に過ぎないってことですか?」

「そういうことにしておいて」

「そんなぁ……僕ただでさえ勘違いが多いんですから」

 優馬がそう言うと。

「あなたはただの『純粋無垢な野球少年』だから」

 さらに、未来が言う。

「とても真っすぐで、天然で、人を疑うことを知らない。まるで……」

 そこで、言葉を止めて。

「そういうところが、お姉さんに似たのかしらね」

 優馬は笑顔になりながら。

「そうかもしれないですね」

 そうこうしていると。

「ストライィィク! バッターアウト! チェンジ!」

 あっさり1回裏の白組の攻撃が終わってしまう。

 未来はスコアに三振を表す『K』の文字を3つ。

 スコアに書き記す。

 結局初回は三者連続3球ストレート三振。わずか9球で初回を終えた。

「さぁ、優馬頑張ってくるのよ!」

 優馬はグラブをはめて二回表の守備に就いた。その後3回裏まで、ゲームは膠着状態に。

 初回、二回、3回表とスコアボードに『0』が並び、いよいよ3回裏。

 優馬の第一打席を迎える。

 ベンチの中で、未来は優馬に声をかける。

「優馬。ストレートしか来ない。ここまで初回、二回、あっちは全てストレートをインコースとアウトコースに投げ分けて三振を取っているだけ。球種が読めるのなら、コースを予想すれば、バットに当てることは出来るはずよ。神島がちょうど投球練習をしている。それに合わせて、振ってみて」

「はい」

 バットを持って構える優馬。

 神島がマウンドで投球動作に入る。

 振りかぶり。足を上げ。腕を振る。

 優馬はバットを引いて、勢いをつけるための予備動作――テイクバックをとり。

 タイミングをとりながら。

 ボールが来るであろう位置でスイングする。

「ブンっ!」

 とバットが空を切る音。

 すぐさま神島のボールがキャッチャーの須藤のミットに収まり。

「バンっ!」

 大きな音を立てる。

 そのスイングを見ていた未来が。

「そのタイミングじゃ、神島のボールは当てられないわ。」

「え?」

 ベンチの前のすぐ近くで未来はそう告げる。

「神島のストレートは、球速150㌔に迫る、伸びのある直球。それにあの長身から投げおろす感じをみると、フォームの腕の振りからボールを放す指先が相当見えづらくなる。つまりは……」

「見づらくなるってことは……眼鏡をかけろってこと?」

 そんな的外れな発言に未来は。

「そういうことじゃない。体全体が遮蔽物となって、見えづらいところから、突然ボールが来るということ。つまりは打者が感じる『印象』の話よ」

「印象ってことは……見えると思って打てということ?」

「そういうことでもない。」

「そ、そんな」

「タイミングの話よ。見えづらいのは仕方ない。でも、見えない訳ではない。見えてから対応するには、振りだす時のテイクバックの始動を幾分早めておくこと」

「早く……テイクバックをとる?」

「あなたのお姉さんは、技術的なことまでは教えてくれなかったのね」

「なんでも、考えないで感覚でやっちゃう人でしたから」

「あのお姉さんの弟であるのなら、きっとあなたも、少し考えれば出来るはずだわ」

「具体的にテイクバックをとるタイミングは?」

 再び神島が投球練習で動作を起こす。

 マウンド上で振りかぶり、足を上げたところで。

「ここよっ!」

 一瞬を見逃さないように、素早く指摘する。

 神島は腕を振りボールを投げる。

 キャッチャーミットにボールが収まる。

「足を上げ始めたところでタイミングをとるの。さっきは、腕を振ろうとしたタイミングで動き始めて、テイクバックを取っていた。コンマ何秒の違いだけど。そのコンマ何秒の遅れこそがバッティングにおいて『命取り』となるの」

 感心しながら聞いていた優馬が。

「き、きりしま……先輩、アドバイスありがとう」

 たどたどしく『先輩』と口にする。

「スイングを見る限り、悪くはないわ。スイングした時に、ややバットの先端が、ボールを下から打ち上げるような形になってしまっているのが少し気になるけど……下からでるとフライになってしまう危険性があるから。でも、まぁ、タイミングをうまくとって、そのスイングなら……角度がつけられれば……」

 といいかけた所で言葉を止める。

 そのスイングで。あの柱時計までボールを飛ばす。

(出来るのかしら……この子が)

 とそこで未来は魔球録が置いてある机の方を見る。

(私がなんとか力を与えて……導くしかない)

「なんとかなると思う」

 そう告げる。

「なんとかなる、ですか。アドバイスありがとう。霧島先輩」

 未来はさらに。

「それと優馬。優馬は相手の投げてくるコースを読むことは出来る?」

「読む? 投げた時に? 叫ぶって事ですか? 『アウトコース!』『インコース!』って!?」

「そうじゃない。投げる前から、何がくるのかを予想すること」

「え、そんな事ってできるの?」

「出来るも何もしてない打者は、おそらくいないわ。頭で考えていなくても、無意識のうちに感覚的に体が動いて、反応してるの。」

「反応?」

「見逃し三振などで、バットが届くはずだったアウトコースのストレートを見逃してしまい、何故バットを出さなかったんだろうと後悔したことはない?」

「あ! それあります」

「それは無意識にインコースを狙っていたり、別の球種に狙いを定めてしまっている時がそうなの」

 未来が知りうる野球の考え方。そのノウハウを。

 一打席目の優馬にしっかりと伝えるように話す。

「霧島先輩。すごく考えてるんですね」

「優馬のお姉さんは、天性の感覚でどうにかしてたみたいだけど」

「でも、どうやってコースを読めばいいんですか?」

「それは……」

 すると未来は一つ深呼吸しながら、パッチリとした目を一瞬瞑って。

 そしてスイッチが入るように、パッと目を開いて。

「私が指示するわ」

「え!? 霧島先輩が!?」

「そうよ。優馬良く聞いて。配球は球種やコースを動かしたり続けたりして、打者の狙いを外すように組み立てられる。優馬は相手の事も自分の事もよくわかってないみたいだから、優馬は読まなくていい。あなたはただ私の言う『コースだけを』ストレート一本のタイミングに合わせて思いっきり振り抜けばいい」

「わかりました。具体的には、どうやってコースの指示を?」

「いい? 優馬。一度で覚えてね。」

 未来は真剣な表情でハッキリとした口調で伝える。

「狙え = アウトコース」

 復唱するように優馬が。 

「狙えはアウトコース」

「飛ばせ = インコース」

「飛ばせは、インコース」

「そして一番打ちやすい、『打て!』=真ん中付近のボールよ!」

 声を潜めながら、力強く未来が伝える。

「わかりました! 『打て!』は真ん中付近のコース!」

 優馬の口元に人差し指をピシリと立てて。

「しっ! 声が大きい。これはあくまで私達の作戦であって、相手に知られるとかなりやりづらくなる。」

「そ、そうなんですか。でもこの方法、なんだかずるっぽくないですか…?」

「そんなことはないわ。相手のサインを盗み見ているならともかく、私は相手のコースを読んだだけ。予測するだけよ。とはいえ、相手のキャッチャーは神島の相棒らしいから、私の指示が伝達されている事が知られるとやりづらい。あくまで何も考えてないあなたに対して油断してくれているという構図が都合いいのよ」

 今度は優馬が小さな声で。

「じゃあ、僕は先輩の声をしっかり聞いて、思いっきりバットを振ればいいんですね?」

「そうよ。タイミングの事も忘れずに……」

 いよいよ神島の投球練習も終わり、ベンチの前にいた優馬が。

「霧島先輩、行ってきます」

「優馬。お姉さんの叶えたかった夢。きっと叶えるから」

「叶えるから?」

 未来は言い直して。

「いや、一緒に叶えよう」

 その言葉に。

「はい」

 一言呟いて打席へ向かう。

 バッターボックスに入る優馬。

 3回裏。ノーアウトランナーなし。7番打者新堂優馬。

 小柄な背中が、バッターボックス上で強い意志を纏って。 

 マウンド上の神島が。

「ようやく、出てきおったか。根性あるやつ」

 優馬は神島を見つめて、少しあどけない表情をするが。

 すぐに真剣な顔つきに変わって。

「打つよ……神島くん」

 その様子に、ペンを握りその時を待つ未来。

「さぁ、動かすよ。未来を」

 未来は思考を巡らせる。神島が投げる初球の球。

(球種は100%ストレート。今日それしか投げていない。コースはおそらく……)

 神島の性格を考える。これまでの性格。

 キャッチャーの須藤が、ミットでコースを要求して構えるが、それに神島は首を振る。

 須藤の要求のコースに指示に従わない。

 別のコースを要求するとようやく神島は頷き。

(間違いない……真ん中のコースにストレートがくる)

 未来はペンを握って構える。

 魔球録に、記すその一瞬の未来を逃さないために。

 神島が足をあげた直後、大きな声で叫ぶ。

「打て! 優馬!」

 真ん中コースに合図する『打て』の言葉。

 神島が足をあげたのと同時に。

 優馬も同じくテイクバックをとって。

 その瞬間に、彼女は魔球録に未来を記す。

 数秒後に起きる未来を。

 が、しかし。

 神島の投じたボールに対し、優馬は思いっきり真ん中のコースを狙ってスイングするも……

「ストライィィィクーーーーー!」

 バットは空を切る。

 主審の郷田の声。

 投げ終わった神島が。

「おまえ、どこ振っとるんや」

 不敵な笑みを優馬に浮かべるが。

「す、すごい。早い。初めて見た。140㌔後半の球」

 するとキャッチャーの須藤が。

「140前半くらいかな? まぁまぁだな神島」

 言いながらボールを神島へ返す。神島はボールを受け取る。

 今の空振りに未来は。

(く……動けなかった……たぶんだけど、今のは使ってもうまくいかない。優馬の動き、スイング、その速さと軌道……どれをとっても、ボールがバットに当たるイメージがもてなかった)

 その時、未来の背後から。

「あら? 早速使ってるのかしら」

 ミディアムヘアーの新聞記者――荒井が声をかける。

「どう? 使い心地は?」

「全く反応できませんでした……」

「そうよね。一瞬だもんね。それにまだ、躊躇いがあるの?」

「躊躇い」

 そうだ。

 このスコアには、良くないことが起きるという――使ったものの成功やその後のチームの勝敗に応じた『リスクや代償』がある。

「どうすれば……」

 実際に自分で力を確認した訳ではない。

 スコアの力も。リスクや代償となる強制力なども。

 自分はなんのためにここにきたのか。なんのためにここにいるのか。

 それらを考え、決心する。

(やるしかない……)

「あら、決心できたのかしら? さっきとはちょっと表情が違うわ」

 マウンド上で神島がボール握り、構える。

 優馬も再び気合を入れなおし構える。

 未来もペンを強く握り。

 思考を巡らせる。

(まだ神島は優馬を甘く見ている今なら真ん中のストレートを……)

 神島が足をあげて投球動作に入る。

 未来が瞬時。

「打て!」

 真ん中のコースを合図する。

 優馬もそれに合わせてテイクバックをとる。

 神島が腕を振り、ボールが投じられる。その一瞬に。

 スコアに未来を。

 魔球録に未来を記す。

 未来はペンを走らせる。

 未来はペンを躍らせる。

 踊るペンは鮮やかに。

 書き記したその後を彩るように。

 ペンを握る右手が舞う。   

 舞う右手とともに。

 艶やかな髪の毛が揺れる。

 未来の視線の先には優馬。

 その優馬が。

 未来の記した答えを出す。バット振りぬく。

 真ん中のコースのストレートを。

「!」

 しかし。

「カンっ」

 擦るような金属音。

「ファール!」

 主審の郷田が叫ぶ。

 打球はバックネットへと飛んでいく。

 未来が躍るように記した結果は。

【Ⅴ】という記号でなんと『ファール』を表すもの。

 それを見ていた荒井が。

「面白いことするわね。確かに可能な範囲のことであるのなら、全然それは簡単に起きるわ、しかもあの子なんだかんだ言って、わりとセンスある感じの子に見えるし、当てるだけなら、無理なコースでなければ簡単にファールが打てる。そのとおりよ」

「いえ、その場しのぎに過ぎないです。それに今のは確認したのに過ぎません」

「随分慎重なのね」

 しかし、その後も。

 3球目。4球目。5球目。

 容赦なく神島は真ん中のコースにストレートしか投げてこない。

 その都度未来は全て【Ⅴ】ファールを書き込み続ける。

 6球目。7球目。8球目。

 いずれも【Ⅴ】ファールを書き込み続ける。

 魔球録に記す結果の通り、しっかりとファールになる。

 荒井が苦笑いしながら。

「面白い。面白い。こんなの初めて見た。なんだか意地の張り合いとか、そういうのになっちゃう感じなのかな?」

 状況を冷静に未来が見つめながら。

「今はいいですが、バットの届かないボール球を投げられたら、スコアの力でファールにはできないですよね?」

 荒井が目線だけを未来に移して。

「やってみたら? あの子は必至に打ちにいくでしょうけど、届かないコースにファールを書き込んだら……」

「おそらく……空振る……」

 未来はスコアに【Ⅴ】を書き込み続ける。

 何度も。何度も。何度も。

 これでついに14球目となり、マウンド上の神島が。

「なんでや……なんでや……なんで、こないな根性だけのコネ野郎に、俺のストレートが簡単に当てられるんや」

 須藤がジェスチャーで、『そろそろ別のコースにしないか?』としてくるが。

 敵意むき出しの表情で。

「舐めとるんか。俺がこいつに、簡単にようファール打たれて、黙ってボール球投げて逃げるなんて真似、絶対プライドが許さへん」

 再び15球目を投げるが。

「ファール!」

 少し呆れた顔になる荒井が。

「あなたも結構大胆でしつこい子なのね」

「いえ……待っているだけです。それに……」

「いくらファールを打ったって、意味がないと?」

「そうです。チーム戦においてなら、先発のピッチャーを疲れさせるためファールを数多く打って球数を投げさせる作戦は有効かもしれませんが。」

「ふむふむ」

「これは、個人戦。アピールが必要な試合。ちまちましたその場しのぎのファールだけでは、きっと大きなアピールにならない。それにこれは、正しい使い方ではないはず」

「そうかしら? あの球を6番までは、誰1人として1球も当てられなかったのよ。でも、彼はもう一人で……」

 いいかけたところで言葉を止める。

「16球目ですね。次の球で。きっと、そろそろチャンスがくる……私は、しびれを切らした神島のチャンスボール。それを狙ってる」

 次の球がもう16球目。神島はその16球全てを。

 正確なコントロールで、全て真ん中のコースにストレートを投げ続けている。

 そこで、何か神島の雰囲気が変わる。

 痺れを切らしたのか。疲れているのか。

 何か脱力した感じになり。

 右手の5本の指先曲げながら、その指をズボンに擦る動作をする。

「何か違う……」

「そうね。何かあるわ……」

 チャンスがくるのか。それとも。

 何かを感じるのは確かである。しかし、未来の勝負の勘が。

 今、まさにこの瞬間が勝負だと。そう告げているような気がして。

「くるわ」

 決心する。

 神島は投球動作に入る。足をあげる。 

 構えの予備動作を起こす優馬。

 瞬時に彼女はペンを走らせる。

 絶対的なその思いを込めて。自信を持って。

 魔球録にその意味を表す数字と記号を書き込む。

【センターへのホームラン】

 未来が叫ぶ。

「打て! 優馬!」

 16球同じく叫び続けた『打て』の声。その声の通りに。

「きた! 真ん中のコース。しかも、今回は力のないストレート」

 球は、今までより伸びや勢いがなく。

(う、打てる)

 優馬は、そのボール。遅い真ん中のストレートに。

 バット強く振りぬく。しかし。

 そのボールはさらに勢いを失い――

 ゆらゆらと空中を揺れながら。

 真ん中に来ていたはずが、急にブレーキを利かせて、軌道を不規則に変えながら。

 アウトコースへと逃げるように落ちていく。

 バットを必死に出した優馬だったが。

「!」

 空を切る。

「ストライィィク! バッターアウト。」

 16球目にして、ようやく優馬の第一打席が、『空振り三振』で終わる。

「ああ……つかっちもうた、つかっちもうた。こないなやつに、俺の秘密兵器。」

 それを見ていた白組の受験部員達が。

「ああ……ついに出ちゃったよ」

「神島の武器……」

「ナックルボール……」

 荒井が未来が記したスコアを見つめて。

「センターへのホームランってなかなか欲張りなのね。さぁ、難しくなってきたわね。未来さん。ナックルボール。どう攻略する?」

 大きな難題が彼らに突き付けられた。

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