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魔法戦争の代償─ハーヘル隊─

召喚獣の姿は、長い両腕に脚は左右に2本ずつ、それに関節は4つ以上はあるもので胴体に比べ細さはあるがゴツゴツして盛り上がっている部分が幾つもあった。それが筋肉のようなものだと分かりやすく、変わった色合いも相まって、この世では無い世界から呼び出されて来た化け物だと思わされる。それに身体はちょうど息を吸ったあとの引き締まった腹の辺りが、硬く感じて透けた中身の方から蛍光色がもれている。それがまるでダイヤモンドの様に見えたのだが、そこに流れるほんの少し黒みがかかった蛍光色のピンク色の揺れる血液を見ていると外部と内部が別々の印象を与えて、まるで何千年前に絶滅した大きな昆虫が豪華な香水の瓶を抱えている様で滑稽に映った。しかし、直ぐに息を吐く瞬間から段々と出っ張ていく腹の動きのあとに見えた緩みから来るズレは、やはり皮で出来ていると印象付けるものだった。


「...おぉい」


部隊を指揮する団長(隊長の愛称)がその召喚獣から目線を外さず直ぐ側にいる兵士に呼びかけ、それに兵士は戸惑った返事をしてから目線を左右に振って動揺を示した。それに気配で気づいている団長は彼を見ずに呼び止めた理由を口にし始めた。


「俺がな..ヤツを引っ張って時間を取る」


「..あぁ...はい!」


「その間にお前らは、他の者と召喚士からの注意を避けて..路地で待機しろ。一人一人別々だ。それから..俺の合図を待って! 召喚士の位置は確り見とけ。俺の居所もな」


「はい! ..えぇ団長は、どういった..」


突然出された作戦に兵士は..えっ? といった感じで反応してからその内容の出発点は兎も角、終着点が想像出来ずに困惑した態度を見せる。


そんな態度を見せる兵士に団長は説得力を持たせるためにやや力んだ表情で話しを続けた。


「あの化け物...ここは初めてなんだろ?」


「...」


「不安だろ..居心地いい異界から..この見知らぬ場所に突然呼び出されたならな...化け物だろうと人だろうと一緒だろ。


だったらよ? その自分を呼び出した親が急に居なくなったら...


不安どころじゃ..ねえだろ?」


「..ぇ.ええ!」


「...うん。それに..この世の空気は、アイツに取っちゃ..かなり不味いんじゃねえか? ..それに重力もな。


そんな所であの化け物は...


何分間持つかな?


ただでさえ異国で..アイツからしたら余程俺たちの方が気味が悪い。そこで相談しようと自分を呼んだ親を見たら..死んでる。


化け物でも心は有るんだろ? 心臓があるんならな」


「そこで我々の出番..ですか?」


「..足だ。足を狙え? それだけだ」


「その見込み...明確ですか?」


この兵士の問の時、団長は自分を見る兵士に目を遣って一言答えた。


「いや...淡い願望だ」


そう言ってから改める感じで背筋を伸ばすと団長は、軽く息を吸ったあと、


「..俺がヤツの懐に飛び込む形で惹き付ける。


5秒だ! お前らは各自別れて安全な場所に待機しろ! それから俺の動きをよく見とけ! 


"..あの親もな?"


俺は、やれる事はやる。


..もしもの時は...分かってるな?


..絶対助けるな。..よし! 行けぇ!」


..と大声と小声を使い分けた。


それを聞いて後ろにいた兵士たちが一斉に周りに大きく飛んで各自は走って目に入る他の兵士の姿を避けるようにして空いている路地へと退避した。


「....よし..おい! 化け物! ..てめぇの..相手は、俺だ」


団長は、各兵士が自分の持ち場を見つけたことを確認すると目の前にそびえ立つ召喚獣に近付き目を向け叫んだ。


「ほら。どうした? 珍しいか? そりゃそうだろうな。ここは..初めてだろう? 下界って言うのかな?


まぁ色々不安はあるだろうけどな。


そんなおまえぇ..わぁ。


邪魔なんだよ? なあ? いいからさっさと来いよ?


怪物野郎。何してる? ほらほらこっちだよ?


おいでおいで..


来い! 来い! 来い! 来いよ? 


この怪物やろぉ..ぅうわぁぁぁー!!」


挑発に突然かぶりつくように前に向かって来る召喚獣に直ぐさま団長は顔をひきつらせ後ろに逃げ出した。


それでも団長はさっき兵士たちが散らばって身を潜めている路地は確り把握しており、その場所を避けるように走り何とか召喚獣を都合のいい場所へおびき寄せようとしていた。


しかし、巨体に似合わない余りの召喚獣の脚の速さは団長の予想超え見る見るその背中へ近付き、


団長が2度目の角に曲がり建物と建物の路地に入ると今度は小さめの路地であった事から召喚獣は大地を踏み鳴らし建物を破壊するように入り込んで来て、辺りにレンガのえぐり削られ壊される怒号の音が響き渡る。


その衝撃は次第にその一帯を揺らし始め、各地の路地に待機するそれぞれの兵士たちは、足を震わせ団長の無事と一刻も早くこの状況を気抜けたい気持ちでいっぱいなっていた。


「くそぉぉ! ..」


2つ目の路地を出て真横に見えた建物の看板に意識がいった時、背中に召喚獣の圧と熱い息を感じた。団長は、これ以上、いくら走っても無駄だと覚悟した瞬間、彼は叫び..それが上半身から下半身に伝わると力強く上に飛んだ。


恰も良い時速でどんどん高さを伸ばし


15.16メートルほどに達した時、彼はほんの少しだけさっきまでの緊張感が緩和されている事に気づいた。


そんな気持ちで下に顔を向けると半壊以上の建物が何件も目立ちその真ん中で召喚獣は8本の両脚を折り曲げたような形になっている。


団長は、少しだけ気の抜けたダルさを感じながら上空で左右に目をやって路地裏で待機する兵士たちを探し、ため息をついた瞬間、彼の身体は恐怖を察知したように引き締まった。


「まずい!!」


団長がそれを口した頃には、もう召喚獣は飛び上がって恐ろしい速さでこっちへ向かって飛んで来ていた。距離はあと5メートルほどだった。団長が咄嗟に風の魔法を使い前方に飛ぶ方向を変えようと両手を後ろに向け緑色の光を放ったと同時に召喚獣の頭部分が軽く揺れ幾つもある穴から謎の糸が無数に..サァァー!というような音を立て噴出され、それが団長の裏に触れる。が、間一髪で噴出された糸の範囲を切り抜けるように、勢いよく前方に突き出す形で飛んでいた。


「うわぁぁぁ!」


ごく自然に。彼は目をつぶって両腕で頭部を守るようにして叫んでいた。その後ろをスレスレで召喚獣が突き抜ける。


その気配が一気に上の方へ遠くなると団長はハッとして目を見開きさっき見た看板の屋上が直ぐ目の前に来ていることに気がつき、身体に力入れもう一度、風の魔法を使い受け身を取ろうとしたが、間に合わずに投げ出されるようにレンガ造り地面に叩き付けられた。


ズザァー! ズザァー!


団長の身体は回し転がり擦られ派手な音を立てる。ようやく勢いがなくなり16回転目で正面が見えると団長は身体に力を入れその流れを止めた。


心臓が鳴り。汗でベタベタになっている顔の額に手を当て滑らせてから身体を右向きにしてから立ち上がった団長は鼻息を荒くして頭上を見上げた。確り目を見開いて。聴覚を張って。意識を集中させて..


空から音が下りて来るのを待っていた。


3秒後。その音が重そうな黒い物体とともに落ちて来た。


「..頼む」


団長がそう口を開き...結んだ瞬間、落ちて来る召喚獣が.初めて..ガァァァ!という鳴き声を出し団長の居る屋上に向け頭部を前にした体勢に変える。


ガレキが凄まじい勢いで砕かれ飛び散る音で地鳴りが一帯に響き渡り、沈んでいく建物半分と召喚獣に砂煙がもの凄い早さでその一面を覆い、視界が全く見えない状況が出来てしまった。


これに兵士たちは全く身動きが取れず、降りかかる粉塵に対して只、無闇に顔を左右に振った動作をするだけの混乱で、何をどうすればよいのか忘れそうになっていた。


「ぐぁ..どこだ! 召喚獣のやつ...バカみたいに暴れやがって」


その異界の化け物を呼んだ召喚士もこの状況にあたふたさし、ちょうど噴水広場がある大通りで(..とはいっても大通りには不釣り合いな小さい楕円形のもので、真ん中の天使の掲げる両手から水が噴射されそれを周りのプールが受ける形のちゃっちいもの)身を守るだけで必死になっている上に視界まで砂煙で遮られ、イラつきはじめていた。


「団長は何処だ?」


身を潜める1人の兵士は、我慢できずに建物と建物の路地から顔を覗かせ団長の行方を探してはみるものの完全に視界を失ったこの状況では無理があり、どうすること

も出来ずに業を煮やすしかないのかと思った時、砂煙の先で光が発して数秒も経たずに大きな音が響き渡る。


こもった音に続き、クリアな切れるような音が円を描くように鳴る。


それは魔法だった。風の魔法。


業を煮やしていたのは兵士たちだけではなく。


召喚士も同じ。その召喚士が邪魔をする砂煙を払い除けたのだ。


一気に辺りから砂煙が消えていき視界が元通りになっていく。


兵士たちは一斉に頭上を見上げ向かいにある建物の屋上に注目し自分たちを指揮する団長を探した。


しかし、屋上のどこにも見当たらず兵士たちから不安な思いが立ち始めた。


「..まさか」


砂煙の残りが辺りにかかっていく中、そう1人の兵士ジャスが生唾を飲んだ時だった。


何度も確認した直ぐ斜めにある建物の屋上の手すり壁の奥にさっきまでなかった人影があることに気づいた。



去っていく砂煙から少しずつ姿が現れ。


それを見ていた兵士の目が捉えたのは、団長だった。


「..あ!?」


と声を漏らそとしている兵士ジャスに団長は、喉元に軽く片手を当ててから...手のひらを見せ


(そのままで..声は出すな?)


とハンドサインを出す。


数秒の間を置き、息を大きく吸い吐いた兵士ジャスは、そのサインに対し、喉仏に人差し指と中指を当ててから親指を除いた指を口元に当てた返事を返す。


(...了解しました)


一方、砂煙から解放された召喚士は、目の前に出来た破壊され尽くした建物の残骸の光景に、少し怯えて、噴水広場からなかなか動くことが出来ずにいた。


自らも武器や攻撃的魔法で戦うことの出来る戦闘のプロフェッショナルではなく。自身は異界から魔獣を呼ぶことしか出来ない召喚士であったから。


「く。おい! バケモノ! ど..何処にいる?」


その召喚獣の方は、自分を挑発した者がいた建物に向かって空から落ちたあと、激しい鼻息? を響かせながらその場に脚を折り曲げて佇んだままであった。


そういった相手の状況を団長は、砂煙が立つ前から確り把握して次の作成を練って



(南西..7メートルにある残骸に化け物が身を潜め..さっきの建物な? ..召喚士。南10メートルってとこにいる)



ハンドサインで向かいの路地にいる兵士ジャスにそう伝える。この時には既に各路地に隠れる兵士たち数名は団長の存在に気づいて安堵の表情を見せていて、ジャスは気を利かしてハンドサインで他の者に自分に注視するよう伝えていた。それから風の報せは避けるようにと。


1人の兵士から召喚獣が崩れた建物の中でじっして動かずにいることも各自に伝わり、召喚士も警戒し過ぎてパニックになっていることも分かった。



それが各自の兵士も気づいていることを知り、団長は...本題を説明し始めた。


(いいか? 向こうは、次の一手が出せずにいる。要はさっきのバケモノの暴れでこっちが死んでいなこと慌てているんだ。だから俺たちは、ただ落ち着けばいいんだ。



なあジャス? 俺はたまたまお前を見つけハンドサインを出したと思うか?)


(..はい)


(いいや。違う..たまたまじゃない。俺はお前に注視しなが屋上から屋上に飛び移って来た。何故ジャスなのか...理由は簡単だろ?)


ジャスは確り頷いた。


(そう。覚えたハンドサインの数が350以上あるからだ。


他の者は...まぁ、


─建物の隙間に見える兵士たちを見渡して─


せいぜい150ってとこか? ふふ─口元で手首を軽く外へやってから内側へ揺らす。プラスその回数─


..どうやら残りの2人も俺に気づいたようだな?


まあ余程相手の存在に集中してたんだろ。だが、その集中力が命取りになることだってあるんだ。


相手は決して..ひとつだけじゃない?


と言ってこんな時に呑気な助言をする方も命取りになる。


要は、何が正解かなんて..ない。分かったな?


よし本題の続きだ。


奴らに最も近い位置にいるトーマンザルキアから伝言が伝わっている。


召喚士も化け物も特に目立った動きはしていないし..


何か狙っている感じもしないと。


油断は禁物なのは当たり前だが..よーく聞けよ?


これが作戦の最後だ。これで決まる。


じゃあ..


まず、レシィはトーマンザルキアにガレキの建物の中で休んでる化け物から目を離すなと伝えてくれ?



化け物だけをな?


..伝えたか? よし。


それから召喚士の方は...モルバとサクンの2人で動きに注視するよう伝えてくれ。


で、ジャス? お前は俺のハンドサインだけを見ていろ。


俺がゴーサインを出したら...そこから真っ直ぐ走れ。


出来るか?


..よし。


路地も含めお前の脚を邪魔する障害物はない。その位置は絶好の通り道なんだ。


で10メートル先にいる召喚士の後ろ姿が見えたら...


お前がそれなりに得意にしてる..風の手刀で切り殺せ。


狙うのは首の根元から上だけだ。余計なことは考えるな。首から上だぞ。どうだ?


やれるか?


もしも...万が一、お前が失敗したとしてもだ。


...安心しろ。俺が殺る。俺がお前の次に殺る。


だから安心しろ。


どうだ..やれるか?)


団長の長い作戦の最後に兵士ジャスは躊躇うことなく伝わるように頷く。


こうしてアルル・ダード軍59ハーヘル部隊は、この作戦の核であった部分の実行のみを残した状況がようやく出来たのだ。


それに対しイルモニカ軍が招聘した召喚士は、ただ広場で慌てふためいて何も出来ずにいて、その召喚された猛獣は自身の壊した建物の中で相も変わらず手脚を折り曲げ鼻息を荒げるだけで特に何もしようともしなかった。


しかしそれもそのはず。


それは、この猛獣には分厚い大きな頭とは不釣り合いなほどのとても小さな脳しかなく。


自身に向かって来る音(危害を察知させるような行動、過度な挑発等)に漠然と反応するだけの衝動的な動きしか出来ず、その音が消えれば自然と動かずに、何処か機械的で、対象がなければ何もしない、全く恐れる必要のない極めて大人しい存在でもあった。しかも(興奮状態を除く)立体的な物や色を察知する能力がずば抜けて障害物等を器用にを避けて歩くという習性を伏せ持つ、姿とは大変矛盾した大きいだけの虫だったからだ。


異界でもその存在は大人しく。この世で言うと...


コガネムシ。ブイブイのような存在である。


イルモニカ軍がケチって招いた偉そぶった召喚士(3級程度の)は、わざわざ異界から、かわいい虫を召喚していたのだった。



そんなことにも気づかず命懸けの作戦に出て、一瞬一瞬の出来事にも冷静さを忘れずに理論展開するアルル・ダード軍のハーヘル隊に、理想と根性論(椅子に座り涼しい顔で議論中に唐突な冗談を笑える者たちが作り上げた信念)で立ち向かおうとするイルモニカ軍には到底勝ち目等無かったのだ。このハーヘル隊は戦禍の偵察隊と呼ばれる集まりであって戦争の猛者でもあった。それと同時に臆病者の集まりとも呼ばれていた。理由は、一人では何も出来ない者の集まりであったからだ。では何故、そんな彼等は戦争の猛者とまで呼ばれるようになったのか?


それは統率力と配置である。


少佐から二等兵までに降格した一人の兵士の呼びかけに反応した彼一人一人と集まって結成されたこの部隊は、その男を前線に据えると瞬く間に臆病者から与えられた役割を確りこなす兵士へと姿を変え。最初の任務であったロコンガ侵略で見せた配置(各兵士の適材適所)を活かした機動力で自信をつけた後、幾つもの戦場で功績を残す。



もし仮に彼らが "ネス・シアド条約第54頂" が結ばれる前に結成されていたら、恐らく猛者と呼ばれることもなかったかもしれない。


「おーい!! どうしたんだ召喚獣? 何処にいるんだぁ! 出て来てこっちに来い! ..おーい!」


煮を切らした召喚士が騒ぎ始める。


これが合図になった。


団長がレッシィに前線にいるモルバとサクン、それにトマンザルキアに確認をするよう伝えると直ぐさま返事が返ってきた。


彼らから言わしたら...以上なし。


団長は、ジャスに握りこぶしを見せてから..


親指を突き出し..


その親指で自身の胸元の真ん中を突いた。


...行け。


──────

────

──


実行された団長の作戦は、召喚士の死後確認も含め2分も経たずに達成された。


その後は、ガレキの中で丸まる召喚獣を4時間ほど警戒して見張っていたが、特にこれといった変化はなく(徐々に異臭が漂い始めたことは、ともかく)、団長はトマンザルキアに叫んだ。


「よし! もういいだろう。中佐に伝えろ?


作戦は成功したとな? あと招聘できる召喚士を..誰でもいいから呼んでくれと。あの動かない化け物のことを調査して欲しいからな。


それから..


軽い怪我はしたが、問題ない。


俺たち全員...無事だとな!」



※ネス・シアド条約第54頂、いかなる時でも一兵士の命、決断は尊重されるものである。一兵士は、兵士である前に一人の存在である。ここで記する存在とは、外側と内側を持つ者であり、一つの肉体とその者の心情である。一兵士としての役目は全うするために、戦禍に置かれた場合、その者の肉体とその内側は苦痛を潜らなくてはならない。こうした中で、一人の者の肉体と内側は限界を向えることも兵士を統率する側は、これを想定する必要がある。その状況下で起こる一兵士・一つの存在としての決断(逃亡は除く自決等)を下した場合、それは一人の存在としての決意と見なし、恒久に尊重されるものである。


この条約の誕生前では、兵士はいかなる状況であっても、その任務を全うするものであり、どんな苦しみをも所属する部隊、国に自身を捧げるものである。といった絶対的な信念が当たり前であり、自決(戦禍では、敢えて数人だけ、残忍な目に合わせたあとに逃がすといった習慣があるため─どんな目に遭ったか語り継がせるため─にその行為が発覚するケースが目立った)は逃亡罪と同罪扱いされ、残された遺族は、残酷な現実を受け入れる余裕はないとしても、その代償を払わなくてはならなかった。それに対し意を唱える者(もちろん兵士を送る親族も含め)が年々に増えはしたものの、政府はこれを、鼻で笑うように触れるだけで、戦地へ赴いた者は、例え漆黒の地であっても最後まで光を求めるものである。といった信念を変えることはなかった。しかしエルレ世紀2578。当時の軍最高幹部であったギュレル。彼も政府の軍事信念を頑なに支持する者であったが、この年に起きたユイレン地方での拉致事件でその考えを改めることを余儀なくされる。この事件は、ユイレンとアルル・ダードの国境線を越境してはならないとの自軍からの散々の忠告を無視した一部隊によって起きたものなのだが、その被害者でもある彼の息子ラークリスが、自分たちを拉致した集団ルルバザン(古い部族の集まり)の前で自決しての事件消息という前代未聞の出来事が起きてしまい、この報せをいち早く聞いた者が扇動してアルル・ダード軍事施設前に大勢の者を集めて起こした、現条約に異議を唱えよ!と謳われたデモへ発展。アルル・ダード最高幹部側は、このユイレンの件を必死に隠蔽しようとするも、生き残った部隊兵数人による証言(何らかの処罰は受けているだろう)に加えユイレン地方の侵略を計画するために潜伏していたアルル・ザウバ(かつてはアルル・ダードよりも力のあった都市)のウィッチ・スケルトン(昔では珍しい魔法を操る剣士で学者でもあった者)もこの状況を見ていたという事実(何処ぞの怖いもの知らずが越境したとの情報を知り)が話しをこじらせ、ネス・シアド条約を新たに見直す声が更なる高まりを見せた。当然、自身の息子であっても一兵士による自決は最高幹部ギュレルにも影響を与え、今までの発言にこの出来事を隠蔽しようと企んだことが他の幹部からの非難へと繋がり、翌年の初めを迎える前に自ら辞任。これによって翌年2月にマーヘ・テアンの首都ネス・シアドで行われた各大陸(イルモニカのある大陸を除いた)の最高幹部が集まった首脳会議の末に、その日に締結された条約の内の1つに兵士権利条約第54頂が追加された。

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