a.i─優しい悪魔とアバドンの住所─
a.i ─優しい悪魔とアバドンの住所─
─矛盾してるのは、私の中に入ってくる男どもの体液が私自身の皮膚に打つかる男どものどんな感触よりも優しく感じること。でもね。私には感情がある。
確りとした。だから。
その体液を拒もうとする気持ちがはっきり現れるの。
そうなると...もうそれは、ゆったりとした波ではなく。
私の中を酷く不快にさせる落書きでしかないの─
────
──
「助けてくれぇ!...お願いだから..助けて」
セシリアが酒場ボルカでアルダ・ラズムの兵士に犯され始めてから既に4時間以上が過ぎ、
何度も何度も無理やり飲まされ続ける酒の瓶が口元から抜かれると彼女はそう叫んだ。一定の等間隔で意識が誤魔化せず集中すると同じことを叫んでいた。
酒場の1階を支える大きな4つの柱の内、客席のテーブルが6つ置かれている場所に2つの柱があり、それが丁度いい間隔になっている。その両柱の左右に紐を括ったアルダ・ラズムの兵士は、出来た2つの縄をセシリアの手首に片方ずつに縛り、紐の張りや角度を少しずつ調整し、彼女の両手が開かれた形にして、最後にセシリアの下半身を後ろにへと下げた。すると彼女は大胆な体勢なって、まるで家畜のように見えた。
それに兵士たちは、これからこれで遊ぶんだ。といった感じで笑い喜んだ。
セシリアの身体を何人もの男がなぶり、自分好みの体勢にしようと乱暴に左右に振っては、それに逆らう動きをすれば打つ。これを何度も繰り返し、彼女が少しでもだらけるよう力を抜くと、また打つ。それから口の中を無理やり開けて、そこに酒の瓶を突っ込み飲ませる。
これを3時以上も続けても男どもは、まだ満足もしていなかった。
「おやおや? セシリア。だらしないのぉ...もうグッタリか? ダメじゃぞ。お前はこのまま兵士さんたちを満足させねばならんからなぁ...時期にワシも遊ばせてもらうからな。もうちょっと確りせい。ほら?
がんばれ..がんばれ...ハハハ」
二ズルは、セシリアの正面に立ってから屈んで彼女のベトベトになっている乳房や腹の辺りを湿らした布でそれを上手に拭き取りながら嬉しそうに喋った。
「...二..二ズルさま..どうかわたしを..あいじんに...」
セシリアは自身の喉元から下にある二ズルの頭に、身体を震わせ弱った声で懇願する。それに反応した二ズルは動く彼女の顎を見ながら顔をくねらせながら上半身を起こす。
「はぁ? おお。セシリア? お前は利口になったのう。ようやくこのワシをそのような呼び方をしてくれたか。そうか。うれしいのう。
そうじゃ。そうじゃよ?
お前はワシに感謝せねばならん。
そうかそうか...だがお前? さっき言ったこと覚えてねぇのか? お前みたいなじじいにこころなんてある訳ないってよ?
なあセシリア。お前はやっぱりクソみたいな女だ。
今さらよ。そんな態度見せても遅いんだよ。
まあ..ちっとは遊ばれる時間は伸びるかもしれんけどな?」
セシリアの懇願にも二ズルはそう冷たくあしらった。
もう彼女にそれ以上、逃れようはなかった。
必死に苦しみから避ける方法がこれ以上、無かった。
それでもセシリアの中で、暴れ回る苦しみとは違う別の違和感が徐々に大きくなっていくことを感じそれが何なのかを探ろうとする小さな集中力は無くなってはいなかったのだ。
魔法。魔術。おまじない。大事な。祈り。救い。
あの世。私。思い出。思い出。母。
モルエの子守歌。母モルエ。
彼女はこころの中でそれを歌った。
どの塊を掬い上げようかな
千切れた片手を力いっぱい掴んで
千切れた片手を離さずに引き上げよ
千切れた片手を掲げて見せよ その時間で
大事なのは場所では無いのだから
多少のズレなど なんともないの
思いがそこに在るというなら
さあ...さあ さあ
目を瞑り
...探しましょう
この子守歌をセシリアにどうにかして歌にし聞かせ伝えた母モルエは、いつも最後に彼女にこう伝えていた。
「いいセシリア? この子守歌を歌ったら必ず忘れなさい? この歌を歌ったことをね? でもね..どうしてもこの子守歌を忘れたくない日が来たら...最後にね
こう結びなさい?」
これを最初に聞いたときセシリアはこう聞き返した。
「結ぶって..なに? なにを結ぶの?」
母モルエはこの質問にこう返し笑っていた。
「..終わることよ? 終わりをつけることよ?」
セシリアは、これをずっと覚えていた。ずっと。
結ぶ文字を。
d..665..p...667。xynf
それは魔法戦争時代に存在した今では禁じられた魔術を含むもので
幾つもの種類があった。自らを犠牲にして発動させるバースト系に分類されるが、現在では史上最悪の魔術として知られる自爆魔法と呼ばれる..b-sent。
相手に呪いを掛け内部から苦しみを植えてからじっくり潰す..i-foga。
そういった様々な攻撃的なものなら まだ理解できるものだ。敵を倒すために編み出されたと受け取って。
しかし、その内のひとつに理解に苦しむ魔術が存在する。
それがセシリアが唱えようとしている魔術。
これは防御系の魔術として かつて扱われたものだが
その存在を知るものは少なかった。
特に魔術師からも重要視されず それが何の意味があるのかなどは、いちいち考えもしなかった。
強力な魔術なら幾らでもあったのだから。
では、彼女が唱えようとしている魔術は何なのか?
それは
自らの思いを餌に、ある強力なものを呼んで自らの存在を別の世界へ運ぶ為の儀式...
335 375 6 d..p....あと...なんだっけ...忘れた
セシリアは残り文字が言えなかった。あれだけ自然にひとり口ずさんだスペルや数字が。あと少しなのは分かっているのだが。
「ほら! もっと腰を上げろ!」
乱暴な男の声に彼女のぼやける視界が急に意識され隅にに片付けられた椅子やテーブルが映り込んでそれが揺れていた。セシリアはもう一度目を瞑って意識を邪魔する下半身の中で暴れる弾力のある硬いものから離れようと集中する。
あとは..
(2つだよ?)
...え
(あと2つだよ? 数字を除く)
..スペルが2つ..?
(そう?)
セシリアの奥底から場違いな声が響く。
かわいらしい無邪気無な声が。
..あと2つか 思い出せないよ
(思い出せないんじゃない。意地の悪い天使が邪魔してんるんだよ?)
...そうか..そうだったんだ 最後の最後まで
全く
n?
(違う)
op?
(全然違う。離れてる?)
..a
(そう。あとひとつ?)
b?
(違う。ああー教えたいけど……貴女の意思で考えなきゃダメだからね?)
..私の意思で
(うん)
...思い出した やっと思い出したよ
(さあ 早く)
..i.....復唱 d665 p667 xynf 335 375 6 dp-a..i
これだろ?
(うん! ……よくがんばったね? さあぁ?
いってみよう!)
とても無邪気な声だった。とてもセシリアが置かれてる現状とは余りにも掛け離れた。それでも今の彼女にはそんなことはどうでもよかったのだ。今、セシリアに必要なのは、感覚を捨てることだったのだから。
彼女の全てを終わらせることだったから。
─────
───
──
セシリアの目に土が見える。恐らくそれは地面だろ。
音はあったのか分からない。聞こうとしなかったかも知れない。ただ、目の前の土に何かあるのは分かっていた。それに直ぐ反応した。目の前の土の中から何かが飛び出して来るように揺れていたし、気になって感覚は構えていた。
適当、、適当? そう適当にね、、
この ぞんざいな 事なかれ主義 ってもんが
染み付いた 時間でいきる 主導権 が離さず
離さずに、大事に 大事に、、
ミカンの皮を丁寧に剥いているところさ
"奴等の十代の伝説" を 横目で見ながら
適当、、そう適当にね
そこから出て来たのは片手だった。冷たそうな。右手なのか左手なのかは気にしなかった。どうでもよかった。ただ彼女はその土の中から上がって出て来た片手を左手で直ぐに掴み離さなかった。必死に掴み、震える片手を決して。
しかし その片手は何かに繋がれてるように一定の高さまでにしか上がらなかった。まる鍵の掛かった鎖を付けられたようにそれ以上は動かなかった。
セシリアの精神がどんどん抜けていって、おぼつかない動きになってしまい今にもそのまま倒れそうだった。
そこにまたあの声が響く。
(ねえセシリア? あとちょっとだからね? 我慢して
えーっと……まずそのまま……静止しててね。
そうそう……そのまま)
声の指示にセシリアは、何とか崩れそう姿勢に耐え持ち堪えて次に移る準備をする。邪魔になるくらい足の震えを我慢して。
(簡単にいくからね? 簡単だよ。簡単にしたから..あとセシリアの意思だけだからね。..で、その片手を左右に振る..ゆっくりでいいよ? 離さずに...そうゆっくり)
セシリアはだんだんいうことを効かなくなっていく身体に力を入れて、左手で掴んだ片手を慎重に言われた通りに左右に振って歯を食いしばる。
(セシリア。あとちょっとだからね?! えーっと……
離しちゃダメだよ! また最初からなるから.……
えー……簡単にしてあるんだけど)
..はやく
片手を掴んだ姿勢を維持するのもやっとの彼女は、その苦しさから声が漏れる。
(ああー!? 分かってる! 分かってるよ?
.……待ってよ。次は何だっけ……書いてない?
忘れてた……うん? あー!
そうだった。そうだ)
誘導する声もこの一刻を争う状況に慌てていた。予定通りにいく訳など無いのだから。事前に出来るだけマニュアルを簡略化し、セシリアを早く楽にさせたかった。それはこの声の主も一緒だったからだ。もうこれしか彼女を救う方法は無くなっていて、手の施しようも無かった。もし仮にセシリアの命を少し延ばしたところで待っているのは、更なる苦しみだけだったのだから。
(……掴んだ手を少し上げる……セシリア? その左手の手首を内側に少し上げて……捻る……そうそう! いい感じ。それから……)
セシリアは力なく言われた通りにして踏ん張り続けた。だんだん下半身から感覚が抜けていく中、残りの力に集中して。
(……それからそれか……歌の? ……って?
……そうだ?! そのまんまだ!
セシリア? それを掲げるんだよ? 歌の通りだよ?)
片手を掴んだセシリアの左手は、震えていた。もう何も残すものなど思いもつかなくとも、この冷たく痙攣しているように震える片手だけは絶対に離すものか..と。
両眼をめいいっぱいに見開き、歯を食いしばり何がなんでもこの時を。右膝が地についてそれから左の膝が続いて地面についた時、震える喉元に顎が反応して自然と口が開きかけるとセシリアの左手は空いっぱいに掲げられその左手に掴まれた片手は徐々に大人しくなっていきそこに彼女の右手も加わった。
大きな音が響く..ドン! っと。
辺りが真っ白になっていき、セシリアの膝がつく地面の土はとっくに消えてその真っ白な空間へと変わっていた。
前屈みに倒れそうになっているセシリアの肩を、誘導した声の主であろう人物が手を添えて介抱し優しく声をかける。
「……セシリア? よくがんばったね? さあ もうすぐだよ」
空間に大きなサイレンの音が鳴り、そこにはっきりと響き渡る女の声が語り始めた。
削除希望の者は、直ちにその名前を名乗るように告ぐ。
削除希望の者は、直ちにその本名を名乗るように告ぐ。
それと同時に5分後以降、その名乗った者を、規約に基づき削除準備を開始します。
開始後、削除対象の取り消しは不可能ですので、十分考慮をしてからの判断をお願いいたします。
とても機械的な。とても丁寧に語られる。が、とても冷たい印象を持たせるもの。
そこに大きな扉が開かれていくような音が全体覆い、
それによって大きく動いた空気に反動するかのようにセシリアの前髪を揺らした。
「……セシリア? さあ自分の名前を言って?」
と彼女は促し、それに応えようとセシリアは顎を震わすのだが..そこに声はなかった。
「セシリア? 大丈夫? 喋れない?」
顔を揺らすが返事がない。もう返事をしたくても、その力がセシリアにはもう残っていないのだ。それを受け止め頷く彼女は
「……セシリア? じゃあ代わりに私が言うね? いい?」
「....」
「……ふー。存在の削除を希望する者! 名前は……セシリア・ルージュディザドット・グフィト・ダングーシェ! 私の傍にいる赤い髪の……者! セシリア・ルージュディザドット・グフィト・ダングーシェ!」
小さい体の少女のような彼女は、はっきりとそう言った。復唱して。
──削除対象。セシリア・ルージュディザドット・グフィト・ダングーシェ。存在の削除。セシリア....
辺りに響く音に更に大きな音が加わり、声の形以外は何も聞こえないという空間が出来上がった。
「さあセシリア? 準備が整ったよ? ……ほんと。ほんとによく耐えた。……ごめんね? 何も……何も」
削除対象の不一致の為。削除の承認は出来ません。
要件を満たしておりません。もう1度最初からお願いします。
セシリアを慰める彼女の耳に突然、女の声が割り込んで来た。あなたの声では...それは出来ないと。
「……はぁ? 何言ってんの? セ……セシリアは……
もう喋れないんだよ? ねえ? ……見てんだろ? 彼女が今、どんな状況か……どんなことされて……ここに来たのか……知ってんだろ? おい……いい加減にしとけよ! こんな時に定めとか条約とか関係ねぇだろ!!
おーい! こんな状況で天使とか悪魔だとか……どうでもいいだろぉ!!」
叫ぶ彼女に空間は答えなかった。何も。定めは定めと言わんばかりに。
「ああーどうしよう? どうするどうする? ……えーなんかない? なんかないか……落ち着け。えー。うん? また喋れるようになるまで待つって? そんな無理だよ?! もうセシリアにはそんな力残ってないよ? もう完全に壊れちゃうよ! あー分かんない。どうしようどうしよう……落ち着け……落ち着け……」
──削除対象。セシリア・ルージュディザドット・グフィト・ダングーシェ。匿名により、彼女の存在削除の許可申請を受け。たった今、特別に許可されました。これよりセシリア....
「…………えっ?」
必死になる彼女の耳に今度は、願ってもいない声が届き、その方に顔を向け口を開けた。
「……や……やた。やった! セシリア! やったよ?! 特例が出たよ! きっとバエルさまだ……
やい! 天使ども! お前らぜったいあとでクレーム入れとくからな? 覚悟しとけよ! バカヤロ……
さあセシリア? あとちょっと。あと少しだからね? もう大丈夫だから……ほんとによく耐えた。もうセシリアなら……怖くない。もう私に出来るのはこれくらいだよ……あ。そうだ」
彼女が何か気づくとセシリアに振りかけるように軽く手を回すと、裸のセシリアの身体を小さい光が渦巻いた。
「もうこれくらいだよ。私の出来ることは。セシリア……またあとで」
そう口を開いて背を向け歩いていく彼女の左右に青いローブを着た者がサッと現れたのだが、目をその方へ向けた状態のセシリアはそれに気づく訳はなかった。もう彼女は全てがボヤけて何も受け止めるこころなどなくしていたのだから。ただ微かに揺れる口元は、こう言っていた。
─────
────
───
──ありがとう
───────
─────
───
──────
その瞬間、彼女の魂がストン! と抜け落ちた。
...ストン! とね?
白い陶器。まるで大きな白い陶器。
そんな場所だった。そんな感じがした。
それが大きな皿なんて気づかなかったけど。
真っ暗ではあったけど。その皿の上は明るく感じた。
だって私は、自分がそこに立っていることが見えていたからね?
遠いところからもの凄い音がこっちに向かってるくるのが分かった。それも幾つも?
ドン! ドン! ってなんか壁に勢い余ってぶつけてる感じで..こっち向かってる。
怖くないよ? もうなんにも。なんにも怖くない。
ほらほら。こっちって気分だったな。
ドン! ドン! って
凄まじい音! それに..けたたましい鳴き声?
なんだろう? 見たこともない..化け物?
もう分かんない。なんでもいい。なんでも...
さあ? こっちだよ...って
見えたのは、大きな竜。
水しぶきで出来た竜みたいな...3匹くらい
それが壁にぶつかりながら..こっちへ
私は両手を差し出すようにして待ってた。
さあ...さあ..おいで?
ごちそうだよ。
もう耳は大きな音でやられて何がなんだか分かんなかった。
でもあの大きな竜は私のところへやって来た。
私の手前で真上にいったあと一気に...
顔を下降させて、私の苦しみも少なからずあった喜びも全ても。
皿の上に何一つ残らずに平らげた。
────
──
────
──
「おい? 代われよ。次は俺だ」
セシリアの上半身の前に立った髪を束ねたアルダ・ラズムの兵士が、もう1人の彼女の腰を掴んで背中辺りに自身の舌を這わせている兵士に促した。
「さあ? おい起きろ! 寝てんのか? ほら!」
促した兵士が顔を下げるセシリアの髪を掴んでから頬を平手打ちする。それに対して椅子に腰を下ろし酒を飲むアグロは注意して笑った。
「おい。余り殴るなよ? 顔が腫れ上がったんじゃ楽しめんだろ。先のこと考えろ..まったく。お前が楽しんだら..また次は俺なんだからな..ふん」
そんなアグロの気分をその兵士は間を置かずに邪魔をする。
「..死んでる...死んでる!」
それは一瞬だった。一瞬で空気は変わり、楽しんでいたさっきまでがなくなった。
兵士たちがセシリアの顔を覗き込み、動脈を確認した。
顔を横に振る兵士にアグロは
「..くたばりやがったか」
その奥で二ズルは、
「..チ!」
っと舌打ちをした。
セシリアが唱えたのは、
いわゆる自殺魔法だ。
それも特殊中の特殊の。




