嘘と約束
傷薬の入った木箱をセバスティアンから大事そうに受け取るとセシリアは嬉しそうに口を開いた。
セシリア「なあ?...フィルが私の顔の傷について知ってるのは分かるけど...セビィがなんで傷薬を持ってるんだい?...まるで私の顔のことを知ってたみたいにさ?」
フィル「いや!...それは..えーっと?」
セビィ「それはだな?..えーこういうときは、なんて言うんだった... フィル?」
フィル「..ぐ...偶然だ!」
セビィ「偶然? そうそれだ!
セシリア? それは偶然だよ?」
セシリア「はぁー? 偶然にしてはさ...
さっきだってわざとらしいかったし?...
やあ! セバスティアン、いったいなんのようだい?...
あのさフィル?
もう少し自然体で出来ないのか? それにさっきもさ?
あたしの裸を覗いたことを問い詰めたらさ?
にい..じゃなかったって...
それ..もしかしたら兄ちゃんに頼まれてさ...
じゃないの?」
フィル「...バレてる」
セビィ「あ..いや...それは..」
既にセシリアは、セビィとフィルの思惑を見抜いていた。
この兄弟のわざとらしい演技は、セシリアにとって滑稽であり、腹の底から笑いが込み上げてくるものであった。
ただ、何故セシリアを心配して弟のフィルに覗きまでやらせたのか..
そのセビィの本当の気持ちまでは見抜けなかった..。
セシリア「ははははは、なんだよ? お前ら! そんな簡単にしっぽ出してよ? 全く...ははははは..面白い兄弟? はははは」
フィル「..セビィ? やっぱり彼女を騙すのは難しいや...」
セビィ「..うん...あーセシリア?...本当にすまなかった...フィルに頼んでセシリアを覗かせに行かせたのは..紛れもなく、この俺だ。
...本当にすまない」
セシリア「くくくくく...だはははははは..あんたたち兄弟って本当におかしいよね?」
セビィ「許して..くれるか?!」
セシリア「許す!許す!...だってこんなに笑かしてもらったんだからさ?
許さなきゃおかしいだろ?...だはははははは」
フィル「良かったね..セビィ?」
セビィ「ふー...」
セシリア「...ところでさ? あんたたちは、セムル・ルートに住んでるんだろ? 良かったら今度遊びに行ってもいいか?」
セビィ「..あ」
フィル「...セシリア..実は、僕たち明後日にはそこを引っ越すんだよ?...昨日の夕方に、ちょうどほとんどの荷物を運び終えたところなんだ..」
セシリア「..そうか..そうだったんだ..じゃあ...もう会えないな?」
セビィ「..セシリア」
フィル「ううん! いつでも会えるよ?」
セシリア「..いつでもってさ...?」
フィル「セシリアがもし..僕たちに..」
セシリア「何処に引っ越すんだ?」
セビィ「イルモニカだ」
セシリア「..イルモニカか...じゃあもう会えないな?」
フィル「会えるよ! もしセシリアがその気があるならさ...」
セシリア「なんだよ..その気って?」
セビィ「...」
フィル「..セシリアが...セシリアが僕たちについて来るって気だよ!?」
セシリア「...はぁ?.....そんなの無理じゃんか?」
フィル「無理じゃない!」
セシリア「...お金はどうするだよ?
イルモニカ行きの金なんて..私は持ってないよ?」
フィル「僕たちが持ってる..」
セシリア「持ってるって...お前らって金持ちなんだな?」
フィル「ううん..違うんだ。セビィがね、イルモニカの傭兵2次試験に合格したんだ。それで奨励金が貰えたから僕たちはイルモニカに引っ越すんだよ!」
イルモニカ政府は、こうした傭兵志願者に対し労いの意味を込め、2次試験を合格した時点で奨励金を支給する制度を取っている。
(セバスティアンのように決して生活が潤ってる訳ではない家庭には、
(セビィとフィルの父は病気で既に亡くなっており、母は病弱な為に)
その奨励金にそういった環境も考慮され少しばかり(と言ってもセビィのような者にとって大変)上乗せされる)
この為か、毎年のように奨励金欲しさに傭兵志願する者は少なくない(だいたいそういったよこしまな気持ちの者は、1次試験の余りのキツさに音を上げるものである)。
こうして傭兵を志す者に少しでも気持ちの負担に努めることで傭兵を志願する価値を高め、最終試験に望む意気を高めるのである。
セシリア「..傭兵か? セビィは..」
セビィ「ああ、なんとか2次試験は突破できた..あとは、1ヶ月後の最終試験だけなんだ? それで奨励金も支給されたし、余裕も出来たから俺とフィル..母がいま治療の為に住んでいるイルモニカに引っ越すんことに決めたんだ」
セシリア「そうなんだ...セビィ?
がんばれよ? あんただったら大丈夫...
そんな気がする...嘘も下手だしな?」
セビィ「..まあ...そうだな」
フィル「へへ..それにセシリア?
セビィは、仕事もしているんだ? 奨励金でしょ?それに稼いだお金があるから4人でもなんとかやっていける..だからセシリア...ついておいでよ?
一緒に行こうよ?...イルモニカさ?」
セシリア「...ありがとう。
..でも無理だよ。
昨日の今日に会ったばかりの人間について行くなんて...無理に決まってじゃんか?
私は、あんたたちのこと何も知らないしさ...
分かった! さてはあんたたち..私を誘拐するつもりだな?」
フィル「誘拐だなんて?!
僕たちは...セシリアを..」
セシリア「はははは、冗談だってフィル?
さっきも言ったけど..その気持ちだけで充分なんだよ?
...だからフィル.....泣かないでくれよ?」
フィル「...だったら..だったらセシリアも...2度とあんな風に泣かないでよ...」
セシリア「...うん..分かった....約束するよ」
セシリアは馬のロウェルの上で泣くフィルに近寄りそっとフィルの頭に両手を添えると、そのフィルの頭を優しく自分の右肩にへと持っていった。
そしてセビィは、そのときセシリアが一瞬だけ
ぐっと苦しみを堪えるような表情を見せたことを見逃さなかった。




