クエスト4.ハーレム系主人公から逃れよ!
河部と沙羅は、無事に冒険者登録を終えた。
「すっかり忘れてたけど、さっきこの建物に入った誘拐犯の少年は、どうしたんだろう?」
「Eラン...じゃなくて総理、彼は誘拐犯ではなく冒険者なのでしょう」
「さすがにわざとだよね!」
「はて、なんのことでしょう」
沙羅は相変わらずのすまし顔だ。
「彼とは、サブロー様のことですか?」
受付の女性、ジニーが話に入った。
「知ってるのか?」
「それはもちろん!彼はSSSランクの冒険者です。知らない人はいませんよ」
「そうなんだ.....。今どこにいるの?」
「先程、7階のVIPルームへ行かれました」
「SSSランク、凄いですね」
沙羅は珍しく、感心した様子だ。
「ただSが増えただけだ。もしかしたらEランクより下かもよ」
河部はつまらなそうに言う。
「それは無いです。ただSOSのように、何かの頭文字を取った可能性はありますね」
川部はそれを聞いて、少し考える。
「SSSランク.....さっき、死んだ、魚、とかどうだ?」
「刺身に、したら、最高、ですね」
「おお!さすが僕の秘書。上手い返しをするね」
河部はハハハと笑った。
しかし、ジニーは青ざめた顔で言う。
「.....川部さん、後ろ.....」
河部は、慌てて振り返る。
見ると、SSSランク冒険者、サブローが1階のロビーに戻っていたのだ。取り巻きの美少女達もいる。
サブローは怖い顔で河部たちを睨んだ。
「死んだ魚が......なんだって?」
そんな状況の中、沙羅は至って冷静だ。
「総理、彼はかなり前から私たちの会話を聞いてました」
「気づいてたなら言ってくれ!」
「総理、ここは持ち前の名演説を。私はその間にここから脱出します」
「そうだな。って逃げるのかよ!」
「総理の演説は良い時間稼ぎになります。いや失礼、そういう事ではなくて.....」
「もう分かったよ!僕も逃げる」
川部は踵を返し、急いで出口の方へ向かった。
「あ、総理!待ってください!」
沙羅も慌てて後を追った。
2人は組合会館を出て、大通りをひたすら真っ直ぐに走った。
沙羅はチラリと後ろを振り返る。
「総理、サブローさんが追いかけてきます」
サブローと美少女達は、かなりの速さで2人を追いかけている。
「くっ、ここまでか。沙羅、ここは僕に任せて、君は先にいけ!」
「はい、では行かせてもらいます」
沙羅はためらうことも無く、足早に裏道へと逸れていった。
「お、おい!」
川部は1人、大通りに立ち尽くす。正面から、SSSランクの少年サブローと、それを取り囲む美少女達が近づいてくる。
「あれ、1人か?」
サブローは拳を構え、走る速度を緩めない。
河部は慌てて説得を試みる。
「そ、そこの君!僕の話を聞いてくれ!僕は日本国首相......ぐはぁ!!!」
河部はサブローの強烈な拳を受けて、地面に倒れこんだ。
「あ.....ちょっとやりすぎたかも。案外弱かったから.....」
サブローは申し訳なさそうに呟く。
「サブローさん!そんな人ほっといて私とデートしましょ!」
「いや、サブローとデートするのは私よ!」
「その....私とじゃダメですか?」
取り巻きの美少女達は口々に言う。
「そうだな!せっかくだし、今日はみんなでどこかへ行こう!」
サブローと美少女達は、倒れている川部を気にすることも無く、そのままどっかへ行ってしまった。
河部は大通りの真ん中で1人、倒れていた。いつの間にか日は傾き、空は美しいオレンジ色に染まる。
大通りの人通りは少ない訳でもないが、道のど真ん中で倒れるあやしい男性に、手を差し伸べるものはいなかった。
「総理、総理!!大丈夫ですか?」
河部の瞼が僅かに開く。
「おお、沙羅か。僕を置いて逃げるなんて酷いな」
「総理が逃げろとおっしゃったんです。しかし......少し悪かったとは思っております。すみません」
沙羅の無表情な顔は、少しだけ申し訳なさそうだ。
「いいよ。だって僕は日本国首相だからね、秘書の1人も守れないようじゃ首相失格だ」
河部は沙羅に微笑んだ。
すると沙羅は、すぐにいつもの真面目顔に戻る。
「総理、では早く立ち上がった方がよろしいかと。暗くなる前に宿を取らなければなりません」
「鬼か!」
「......どうぞ」
沙羅は河部にそっと右手を差し伸べた。
「あ、ありがとう」
河部はその右手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「とりあえず、組合会館へ戻りましょう。ジニーさんが良い宿を教えてくれると思います」
「そうだな」
夕焼け色に染まる街並みの中、2人は組合会館へと戻っていった。
クエスト4.ハーレム系主人公から逃れよ! 【沙羅のみ達成】
誠に申し訳ございません!!「総理、どうやらここは異世界のようです」は、ここで休載、とさせていただきます。
1話の冒頭で申しあげた通り、この作品は「何となくの思いつき」で書き始めたものであり、やはり時間的、ネタ的に無理が生じてしまいました。
もし時間的、ネタ的余裕が出来たら、再開するかもしれません。
先が気になると言ってくださった皆様、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございましたm(_ _)m
この小説を読んで、皆様に少しでもクスッと笑って頂けたなら、とても幸いです。
追伸: 私が過去に書いた短編「この小説を読んではいけない。」サクッと読めるので、もし良ければ見てみてください。




