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猫魔ケットシーと異世界ダンジョン ~最弱なケモノは如何にしてダンジョンマスターになれたか~  作者: 深海のレモン
第1章  猫たちの非日常的ダンジョンライフ
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第12話 ハッピースマイルタウン




 ファイヴが住んでいるダンジョン螺旋魔塔ヘルタースケルターから、歩いて2時間ほどの所に冒険者達の集う町ハッピースマイルタウンがある。


 ファイヴはジャイアントボアを撃退してから、町に来るまでに廃墟の城で幽霊に追いかけられたり、殺人蜂キラービーの巣を掻い潜ったり、森の中で狼の群れに襲われたりと大変な目にあった。


 逃げきれたのは猫特有の身軽さと素早さのおかげである。

 しかしこの時はまだ、本当の恐怖は知りませんでした。


 猫魔ケットシーのファイヴはようやく憩いの町ハッピースマイルタウンに到着した。


 綺麗なお姉さんが土産屋をやっていたり、小さな子供たちが遊んでいたり、冒険者たちが酒場に入り浸っていたりとずいぶん賑やかで楽しそうな町である。


 町の入り口付近で冒険者ギルドがあって町を訪れる旅人達も多い。


 レストランもたくさんあるので薬を買ったら腹ごしらえをしましょう。

 人間以外にも獣人たちの姿も見えます。

 様々な種族がこの街には住んでいるようですね。

 さて魔法薬局あどこにあるのでしょうか?

 そうこうしてる内に町の路地裏に入ってしまいました。

 そこは凄い寂れた場所でバラック小屋が並んでます。

 いわゆるスラム街というやつです。

 そこに住んでる住民達も人相の悪い輩ばかりです。


 なんだかえらく治安の悪そうな場所に来ちゃったので、大通りに戻ろうとしたのですが、そこでふと足を止めました。


 ゴミだらけの暗い広場に誰かいます。このスラム街の住人の子供達でしょう。


 ガラが悪くて不良っぽい風貌のガキどもが、ドラム缶の中に火を焚いて、それを取り囲んでいます。


 そして彼らが一斉にこっちを見ました。



「おい見ろよ。猫が二本足で立ってるぞ」



「にゃ?」



「ケッ、生意気だな」



「にゃにゃにゃ!?」



「おい! よく見るとアイツ金を持ってるぞ!

 奪って遊ぶ金にしようぜ」



「シャーー!」



「うわ! こいつ威嚇してきたぞ!」



「かまうな。所詮は猫だ。ボコボコにしたれ!」



 ガキどもが鉄パイプやギザギザのナイフを持って迫ってきました。

 ですが所詮はどんくさい人間なので撒くのは簡単です。


 ぴょん! ぴょん!


 高い壁やフェンスを悠々と飛び越えて走っていく内に、いつの間にか不良たちはいなくなっていました。


 さて魔法薬局はどこにあるのでしょうか?

 どこか建物に入って人間に聞いてみましょう。


 自分はモンスターなので言葉は通じないですが、身振り手ぶりで意思疎通を図りたいと思います。


 ふと赤いネオンサインのギラギラした看板が目に入りました。


 なんて書いてあるのか分からないけど、この看板の店の主人に聞いてみたいと思います。



「お忙しいところ失礼します……にゃ……!?」



 勢い良く玄関を開けて店の中に入ってみましたが、そこで異様な光景を目にしました。


 店の中は赤一色です。そして照明の光も赤色です。


 ボックス席がたくさんあって、お客の男性たちが若い女の子に囲まれながら酒を飲んで談笑してます。女の子達もミニスカだったり胸を強調する服を着てます。



「あら、新しい会員さんかしら?

 ようこそメアリーの居酒屋へ。

 私がこの店のマスターのメアリーよ。

 貴方はとってもラッキーね。

 今なら入会費用はたったの15000ペラよ」



 とカウンターにいた赤いドレスの女性が話してきました。



「あら~、この猫のお兄さんカッコイイわ~」



 そういってミニスカのお姉さん達がすり寄ってきました。

 彼女達に手を引かれてボックス席に連れて行かれました。



「あの、違うんです。僕はちょっと道を聞きたいだけで……」



 そういったけど、無理やり席に座らされました。

 両サイドに女の子達が座って、僕が逃げられないようがっちり抑え込んでます。

 メニュー表を渡されました。

 ビールが2000ペラ。

 ワインが3500ペラ。

 カクテルが2500ペラ。

 料理の単品もそれぞれ2000ペラ以上します。

 完全にぼったくりです。



「まずは女の子達の指名料として15000ペラ頂くわね」



 と店の女主人メアリーが言ってきました。

 まったくの誤解です。



「だから自分は飲みに来たんじゃないです!

 道を聞きたくて入っただけなんです!」



 ぼったくられる前にファイヴは慌てて立ち上がり、女の子達をかき分け、なんとかボックス席から抜け出した。


 ところがサングラスのいかついお兄さんが出口の前に立っている。



「お客さん、冷やかしはダメですよ。

 どうしてもって言うならボックス席キャンセル料として、

 50000ペラ頂きます」



「そ、そんな……あわわわわわ……」



 背後からは赤いドレスの女マスターがじりじりと迫ってきます。

 正面にはサングラスをつけた怖いお兄さんが腕組んで仁王立ちしてます。

 こうなったらば逃げるすべは一つしかありません。

 普通のネコのふりをして脱出しましょう。



「にゃあ!」



 寝転がって腕をぺろぺろ舐めてみます。



「そんなバレバレの演技をしても無駄ですよ」



 サングラスのお兄さんにあっさり見破られました。



「見たところ、おたくはFランクのダンジョンモンスターの、

 ケットシーですね。

 ダンジョンマスターさんの目を盗んで風俗店通いですか?

 肝が据わってますね。

 なんならおたくの職場ダンジョンに毎日請求の電話してもいいんですよ。

 職場ダンジョン上司マスターに知られたらどうなるでしょうねぇ」



「違います、違います、違います、違います!」



 必死に叫んだのですが、人間には「にゃあにゃあ」と鳴いているようにしか聞こえないようです。



「うふふふふ。さあ子猫ちゃん、どうするの~?」



 メアリーが腕を組みながら迫ってきます。



「本当に違うんです。自分はただ道を聞こうとして入っただけなんです!」



 と必死で言い訳をするのですが、やはり人間には「にゃあにゃあ」と鳴いている風にしか聞こえないわけです。



「しかたないわね~。

 どうしても払えないなら、うちで働いて稼いでもらうしかないわ」



 とメアリーが言った。



「そうですね。ではこの猫には麻薬の運び屋をやってもらいましょう。

 うまくやれば一回で借金をチャラにしてやるぞ」



 とサングラスのお兄さんが言った。

 そんな……麻薬の運び屋だなんて……。

 どうしてこんなことになってしまったのでしょう。

 自分はこの町に薬を買いに来ただけなのに……。

 マチルダ様……たすけてください……。






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