1話 迷い、一切なし
やりたいことと好きなことを詰め込んだ作品となっています!
既視感はどうか寛容にスルーしてください!
澄みきった空気に色を付ける桜。
雲ひとつない晴天に、穏やかな気分になる。
その道路には新しい学生服に身を包んだ若者が、期待と不安がごちゃ混ぜの顔で歩いている。
その生徒を一人残らず飲み込んでいく学校、侯ヶ崎高校。
新入生の誰もが落ち着きなく、うごめいていく中、一人の青年が、正門の前で足を止めた。
校内と外界を隔てる門の手前で、青年は拳を強く握り締め、目を爛々と輝かせた。
外から中へ拭きぬける強風に、桜は散り、舞っていく。
しかし、それに刃向かうかのように仁王立ちし、生気の宿る黒髪も、その風になびかない。
一つここで深く深く息を吸い込み、そして少しためてから、吐き出した。
そしてそのまま、強気に笑ったまま、校内への一歩を踏み出した――。
「続いては、入学生代表の言葉。冬蔵 嗣人くん。お願いします」
入学式を行っている広めの体育館。
ずらりと入学生が緊張に硬くしながら並び、その後ろに彼らの先輩が慣れた様子で並ぶ。
式は順調に進んでおり、今から入学生代表の言葉である。
「はい」
感情を感じない返事を聞き、その場の全員の視線が彼に集中する。
しかし、感情のなさだけで注目したのではない。
ここで言葉を述べるという事はすなわち、主席入学という事になる。
同級生は彼を超えるという事を意識し、先輩たちは彼を引き入れようと熱い視線を送る。
それらの視線を一身に浴びつつ、彼は壇上に上がり、浅く一礼する。
マイクのスイッチを確認すると、紙を広げることなく、静かに語りだした。
「私は、この学校の風紀委員に入ろうと思います」
一気に会場がざわつく。
それに構わずさらに彼、嗣人は続ける。
「この、各人が能力を持つ時代。
何かしらの組織に属し、その組織能力の恩恵を受ける、この時代。
その訓練として、高校までの義務教育があります」
ここで軽く咳払いをする。
ざわめきは次第に静まり、皆が彼の言葉を聞く。
「だからこそ私は、風紀委員に属し、次の世代を担うものとして、厳しい訓練を受けたいと思います。
自らを磨き、それにより光る。
これを目標に、これからの三年間を過ごしたいと思います」
そして、と、少し間を取る。
「これは、私だけの思いではありません。
今年度の入学生全員が、思っていることです」
マイクから離れ、大声、しかし感情は読めない声で
「切磋琢磨。これを私たちの座右の銘とし、努力を重ねていきたいと思います」
浅い礼と同時に、盛大な拍手が沸き起こった。
彼はそれを気に留める様子もなく、自分の席に戻っていった。
「ありがとうございました。続きまして生徒会長の言葉。
桓市 武留さん。お願いします」
背高く、細く、眼鏡をかけた青年が、壇上に上がり礼をする。
途端、彼の背後から強い光が新入生に降り注いだ。
多くのものが目をくらませ、目を押さえている。
そして武留会長は、おもむろにマイクの電源を入れた。
「これが、これからあなた達が過ごす、この学び舎からの洗礼だと思ってください。
この学び舎では各委員会が、学校の頂点に建とうと、しのぎを削っています。
授業以外の時間は、常に警戒していてください」
ここで、新入生を見渡す。
そして二人の人物に目を留める。
「意識が高いものは、私の不意打ちにもとっさに反応したようです」
多くのものが目を押さえ、うめいている中、代表の言葉を読んだ嗣人と、仁王立ちしている男子は、きちんと起立していた。
武留会長は、仁王立ち男子を指差し
「そこの君。壇上に上がってきてください」
と、指示した。
しかし、その男子は微動だにしなかった。
そこでもう一度指示をして、壇上に上がるように言う。
すると、その男子の隣にいる、目くらましから回復しつつあるふわっとヘアーの女子が、声を出した。
「彼! 気絶しているみたいです!」
静かな静かな保健室。
カッと目を見開くと、白い布団を跳ね除け、起き上がった。
瞬時に髪形を整えると――崩れてなどはいないのだが――ベッドの上で仁王立ちした。
もちろん、靴下でベッドの上に乗っている。
上靴はきちんとベッドの横に置いてあった。
彼は、直立不動で思い出す。何があったのかを。
最後の記憶は……。
「あ、俺、気絶してしまったのか。
っていうことは……!」
上靴を履くのも忘れて、保健室を飛び出す。
まだ慣れていない廊下を曲がり、靴を履くのもそこそこに外に出る。
そこは、お祭り騒ぎだった。
様々な装飾がなされた看板を手に、上級生達が下級生を囲んでいる。
その看板には、風紀委員や美化委員。体育委員に植物委員と、委員会の名前がそれぞれ書いてあった。
要するにだ。委員会への勧誘をしているのだ。
直立男子はざっと見渡し、目当ての委員会がないのを確認すると、入学式の時に配られた地図で唯一、場所を覚えたところへ向かう。
階段を駆け上がり、無駄に前転したり、後方伸身宙返り4回ひねりを決めてみたりしながら、ようやくたどり着いた。
そこにはお目当ての、目標の、生徒会本部室があった。
入り口で、いつものように、仁王立ち。
軽く髪型と服装を整えてから、ノックもなしに突然扉を、力強く開けた。
中にいた三人の人物が、ビクッと肩を上げる。
慌てて取り繕うように、向かい側に座る男、生徒会長桓市 武留が手を組み、肘を机の上に乗せる。
「君は……確か、あのときの気絶少年か」
その言葉を無視し、ずかずかと生徒会室の中に入っていく。
「俺を! 生徒会に入れてください!」
深々と頭を下げる。
なんともいえない微妙な沈黙。
机の配置から、正面に、会長。
右手に丸坊主、左手に角刈り。
そして、真ん中には、動く気配を見せない黒髪を会長に向けている、男子。
そんな状況になっている。
つまりは、むさくるしいのだ。
その沈黙に耐えかねて、会長が重々しく口を開く。
「君、名前は……?」
ゆっくり顔を上げて、ゆっくり腕を組み、そして完成、直立不動。
「俺の名前は、嵯峨 大仁です!」
「そうか……。大仁くん……か」
おもむろに立ち上がり、そして後ろの窓から外を眺める。
「大仁くん」
振り返る。
武留会長がスポットライトに照らされる。
もちろん、自分の能力で照らしている。
「君に、生徒会に入る覚悟と実力があるか、試させてもらおう」
いかにもなセリフを吐き、いかにもな照明に照らされている今の状況。
誰か、早く突っ込みを。
そう思う丸坊主と角刈りであった。




