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2話 引き寄せ、そして反復せよ

 仁王立ちして、大仁だいじが立っているのは、生徒会本部室前廊下。

 軽く肩を回したり、屈伸をして準備をしている。

 相対するは、角刈り頭のキリ眉男子だ。

 こちらは準備などせず、ただただ嫌そうな顔をしているだけだ。


「な、なんで僕がこんな役回りに……」


 なんとも、見ていて可哀そうになる様子。


「しかたがないだろう。今うちで、まともに戦えるのお前しかいないんだから」


 武留たける会長が、二人の戦いの舞台である廊下を、いい感じに照らしている。

 会長というよりは、もはや裏方の役回りではあるが。


「あの、すみません。もう一度名前聞いてもいいっすか?」


 前屈しながら聞く。


「僕かい? 僕は八所やどころ 逸勢はやなりだよ。

 ……って、聞いているの?」

「え、聞いてなかったっす。もう一回お願いします」

「もうやだこの後輩……」

「おっと、早くも精神攻撃か!?」

「会長、うるさいですよー」


 準備段階に飽き始めた会長の茶々に、丸坊主の男子がゆるーく突っ込みを入れる。

 丸坊主男子の方は、もはや見る気もないのか、なにやら資料を読んでいる。

 角刈り男子――逸勢はやなりは、慕われていないのだろうか。

 それとも、信頼の現われなのか。


「で、角眉先輩。こっちは準備万端っすけど、始めますか?」

「角刈りとキリ眉あわせちゃったか……。

 なんか、これから先、本名を呼ばれない予感がする……」

「もしかして、大仁の能力は、精神攻撃なのか!?」

「あ、違うっす」


 落ち込む逸勢を尻目に、武留会長とそんな会話をする大仁。


「で、どうするんすか? やるなら早くやりましょう!」


 手をバキバキ鳴らす。

 一見して不良な大仁が、袖をまくり、拳を鳴らすと、それはもう一端のヤンキーだ。


「そうだね……。もう、これ以上準備段階で、精神を削られたくはないよ」


 苦笑いしながら、それなりの戦闘体勢。

 こちらは、大仁とは違って喧嘩が強そうにも、運動が出来そうにも見えないが。


「では、ただいまから、生徒会入会審査兼エンターテイメントの、能力バトルを始める!

 正々堂々、自分の力と能力ちからで戦うように」


 武留会長が会長モードに入り、宣誓を行う。


「では、戦闘用意……始めッ!」


 真っ先に、大仁が逸勢へ向かい走っていく。

 その姿勢は既に、右拳を振りかぶっている。

 それに、足が速い。廊下をかなりの速度で駆け抜ける。

 あまりの速さと唐突さに反応が遅れた逸勢へ、疾走の勢いを乗せた拳が放たれる。

 体勢を崩しながらも、なんとか構えた両手で受け、歯を食いしばって耐えた。

 数歩後ずさり、既に変色した腕をさする。

 その隙を逃さず畳み掛けるかと思いきや、大仁も飛びのき、大きく距離をとった。


 互いに、長く息を吐く。

 見かけ上では大仁の優勢。

 しかし、まだ互いに能力を見せ合っていない以上、勝負は拮抗状態であった。


「なるほど。能力を使わなくても何とかなるくらいに、身体を鍛えているのか」


 感心し、難しい顔でうなずく。

 資料を読んでいた丸坊主男子も、いつの間にか読むのをやめていた。


 次に動き出したのは、またもや大仁だった。

 しかし今度はその場を動かず、少し低い体勢をとった。

 逸勢は直感的に、能力が使われると確信した。

 だが、うかつには動けない。

 その能力の発動条件も何もわからない状況で下手に動く、など。

 そんな時、不意に、逸勢が動いた。

 いや、逸勢が動かされた(・・・・・)

 見えない何かに服を思い切り引っ張られ、腹に狙いを付けている大仁の元へ、真っ直ぐ引き寄せられる。

 逃れようともがくも、進行方向は変わらない。

 まるで、落ちるのがわかっていても行くしかない、ジェットコースターのようだった。


「な、なんだこれ!!?」


 やっとそれだけ言うと、ノーガードの腹に一撃を受けて崩れ落ちた。

 が、うかつだったと大仁は思うことになる。

 能力のわからない相手に接近戦を挑むのは、愚策だったのだ。

 追撃を喰らわせようと、狙いをつけたとき、冷や汗まみれの手が大仁の足を触った。


「はぁ……はぁ……」


奥歯をぐっと噛み締めて、なんとか口にする。


「反復……せよ……!」


 空気の流れが一変し、逸勢が触っている大仁の足へと風が集まる。

 そして、筆をクロスしたような刻印が、大仁の足へ黒々と刻まれた。


「くそっ!」


 手を振り払おうとするが、体が言う事を聞かない。

 聞かないどころか、勝手に動いていく。


「ぬおおおおおお!!!」


 力をこめて抵抗するが、一瞬も止めること叶わない。

 そうして大仁は、直立し、そして深々と頭を下げた。

 それだけに留まらず、再び顔を上げて、また深々と下げる。

 また上げて、下げる。上げる、下げる。上げる、下げる。

 上下、上下、上下、上下、上下、上下……。

 その動作をずっと、繰り返す。


「会長……勝負あり……かな?」


 前かがみになり、左手で腹を押さえながら立ち上がる。


「ああ、そのようだ。

 勝敗確定! 八所やどころ 逸勢!」


 廊下を照らしていた会長の光が、宣言と同時に一気に落とされた。



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