11話 領地へ
正直に言うと、物凄い大事になった。
飛ぶ鳥を落とす勢いの将軍がいきなり辞表を提出した、というのが結構衝撃が大きかったらしい。何か悪い事でもして辞めさせられたのでは? という噂も立ったらしいし、部下達からも質問責めにあったりした。…質問攻めにして来た部下からは慕われてたのかなぁ、と貰える領地で働かない? みたいに勧誘をしていたら、後方支援担当の文官や領地に常駐する貴族の私有軍の人員から締めて数百名、軍からごっそりと引き抜く事になって、それもそれですわ謀反!?みたいな騒ぎになったりした。無論、ボーゼスが部下から引き抜いても良いよって言ったという事もちゃんと喧伝して、身内が全然いない身の上なのが知れていたのも功を奏したのか最終的には事なく終わったのだけれど。まぁ、部下達にもこの先統一がなっちゃったら仕事にあぶれるだろうね、という事を話したりして当人達も危機感を持ったからそんな大量の人間が動く事になったんだけど、うちの隊は出来る人間が多いから、他所のボンクラどもに比べたら仕事にあぶれる可能性が低いとは思うんだけどね。まぁ、新設貴族家の家臣という身分も結構美味しいかもしれないという判断もあったんだろうし、気心の知れている人材が揃ってる方がやり易いしで僕としては有難いことだよね。
結局、軍を退役していきなり伯爵として陞爵されて、領地に関する引継ぎが終わって、部下達が正式に着任して体制が落ち着くのに半年程掛かった。それが早いのか遅いのかは僕には分からないけれど、のんびり出来るのは良いことだ、と領主の館とは別に地元の業者に建ててもらった小さな一軒家に僕と紙袋さん、そしてエレーナは住み着いた。元々はここの領主の別荘が建っていたのだけれど、悪趣味だったので一度バラして小さな一軒家にしてもらったのだ。家の前には小さな畑があって、畑と家の地下には食料庫やら何やらに使うちょっと広い地下室がある。崖自体、土地の業者と紙袋さんの魔法で滅多なことじゃ崩れない様に補強したし、地下室からクネクネと階段を降りていくと、崖下にある、他の所からは覗けないロケーションなプライベートビーチと船着場があったりして、本当に隠れ家的な感じに出来上がっていた。
「絶対領主としての仕事する気ないですよね? タケト様。」
「うん。僕の部下達は仕事がとても出来るから、よっぽどの案件が無い限り全部丸投げする。この十五年以上、ずっと働いてたからね。お金は領地の収入がゼロになっても十年以上養える程あるし。」
「え?」
エレーナに最近確認した口座の残高を教えると、絶句してフリーズした。…紙袋さんも真っ赤になってフリーズすると暫く帰ってこないけど、エレーナもそういう所は一緒だな。
呆然としつつもブツブツと何某か呟いているエレーナを放っておいて、僕は鍬を担いで畑へと歩き出た。そこには麦藁帽子をかぶった紙袋さんが畑の横に置いた丸太の上に腰掛けて待っていた。
「何を植える?」
「そうだね、すぐ出来る奴が良いね。あの村とは天候が違うだろうから同じ物が育てられるとは限らないから、今日はまず耕して肥料を鋤き込んで、近場の村に何が良いか聞きに行こう。」
「さすがだな、タケト。」
そうしてこの小さな家での暮らしは始まった。一年経つ頃には複数方面から攻めていた小国群が全て陥落し、オブリン国による大陸統一が成されたし、このままだと一生呼び出さないような気がすると一度呼び出したらその後ダンジョンに帰ると外に出られなくなるし、と居ついたディップを足代わりにして王都に年に一、二度行ったりしながら気が付いたら紙袋さんやエレーナに子供が出来たり、何故かディップまで卵を産んだりして子育てをしながら十年ほどの時間が過ぎた。気が付いたらとかいったけど勿論僕がエレーナとディップに手を出しただけだったりする。紙袋さん公認だから良いんだよ。うん。
たまに遊びに来るようになったボーゼスが、隠居するから近くの土地を売ってくれと言ってきたり、引っ越してきたら来たで奥さん(老獪な女魔術師だった)共々みんなでダンジョンに遊びに行ったり、普通に海水浴をしたり近くの森で獣を狩って来てバーベキューをしたりと楽しい暮らしが続き、子供が成人となってからは僕もそんな年ではないのに子供に領主を受け継がせて隠居した。
どうやら僕の子供は真面目に領地経営に携わるらしい。僕の部下達も徐々に早期リタイヤして楽隠居し始めていたし(そりゃ僕がこんな近くで遊んで暮らしてるのを見ればそうしたくもなるよね)、部下達が上手い仕組みを作って領民の暮らしは良く、でも税収も結構たっぷりで儲かるような仕組みを作ろうとしてたのを進めたいんだとか。まぁ、領地からあがるお金については僕個人の口座とは別に領地としての口座を作らせて貰ってそこで出納管理をしてもらっていたのだけれど、既に莫大な金額になってるのを僕の子供は知らないからね。僕だって一応何日かに一度は報告書を貰ってそれにちゃんと目を通していたし、紙袋さんも元々は王族でそういった領地経営に関する教育も受けていたから、たまに抜き打ちで監査に行ったりとかしてたからね。
エレーナの子であるリドリーは成人した後、僕の元部下の子供の所に嫁に行った。旦那のほうが少し年上だけれど、うちの領地の陪臣の家の長男の嫁だから、苦労する事も無いだろうしね。苛めたら十倍にして返すからな、と部下を弄ってやったけど、あいつならそんな心配はしなくてもきっと大丈夫。嫁さんも元々は僕の部下の一人だしね。こっそりと多額のお金をリドリーには持たせてあげた。身分証の口座とは別に隠し口座というか、領主権限でこっそりと作ってもらって振り込んでおいたんだよね。本当に困るまで隠しておいて、いざって時に使いなさい。使わなかったら子供が成人した時に引き継いであげなさい、と言い聞かせておいたけど、リドリーはしっかり者だから、家が傾いてもなんとかするんじゃ無いだろうか。腕一本でも食っていけるよう、剣術を少しと魔法をがっつり紙袋さんとディップが仕込んでたからね。




