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2章-1 チェレリア国


・・・パタン・・


扉としての役目を終えた日記は床に落ちた。

その音に、私はハッとする。


ケナンの力強い声と伸ばされた腕を掴んで、ここチェレリアに降り立った。

目の前で私の腕を掴んだまま、ケナンの蒼い瞳と綺麗なブロンドの髪、整った容姿に見惚れてしまってた。



本当に童話の王子様みたいで-・・・



「華澄か?」

綺麗な蒼い瞳でまっすぐと私を見つめるケナン。

マジマジと私を見る視線に耐えられなくなって、私は俯きながら頷く。


「・・・何だ。日記で会話してたときとは大分印象が違うな」

「え?」

「もっとうるさい奴だと思っていたが・・」

「なっ!!!」


カチンときて言い返そうとするとケナンがスッと目を細めて微笑んだ。



「ようこそ、チェレリアへ。救世主、華澄殿」



どくん。と心臓が跳ねた。


「あんたこそ・・・全然、ちがう・・」

小声で呟いた。

だって、不意打ちな笑顔や仕草にケナンのこれまでの印象が覆されそうな勢い。


「なんか言ったか?」

「何でもない・・・っていうか、手・・・離してよ!」

「ん・・?」


さっきから私の腕を掴みっぱなしのケナン。

痛いわけじゃないけど・・意識したら少し恥ずかしくなってきた。

思わず怒ったように言ってしまった。


ケナンも少し苦笑いをして手をそっと離した。



・・・・ていうか、何これ。

これじゃ、私・・・ケナンに恋してるみたいじゃない。

ありえないし。

絶対にないし!

ほら、普段そんなに美形を見慣れてなかったからきっと補整がかかってちょっと「かっこいい・・」なんて思っちゃっただけなのよ。

そのうち慣れるわ。


そう言って、心を落ち着かせてからケナンに再び向き直った。


「ここって、ケナンの部屋?」

「部屋というか執務室だな。国の書類を纏めたり、仕事をする場所だ。俺の寝室は別にある」

「はぁ――・・・」


私は天井に描かれている壮大な絵や金の装飾がされたランプを見上げた。

綺麗な天使の絵。

よくテレビの外国のお城特集とかで出てくるような内装。


「もう、別世界だわ・・・」

「何言ってんだ。お前は別の世界から来たんだろう。それよりも、前を見ろ」


上を見てる私に「阿呆か」と言わんばかりのケナンの口調にムッとして言われたとおり前を見る。

目の前にはスラッとした体型で、着ている燕尾服がよく似合う、これまた整った容姿の男の人が立っていた。


「こんにちは、華澄殿」

「こんにちは・・・」

「私の名前はサエル・テーラー。ケナン王子の執事をしております」

「サエル・・・あっ!何度かケナンの日記に登場していた方!」


優しく微笑む彼は、凄く丁寧にお辞儀をしてくれる。


「私のことをご存知なようで。とても光栄です」

「こいつは優秀な執事だ。お前の世話もサエルに頼んである。何でも言いつけるといいさ」

「そんな、言いつけるなんて・・」

「気になさらないでください。私はそれが仕事です。主のためを思って動くことが一番の仕事なのですから」

「でも・・・」

「・・・お前、随分しおらしくないか?俺に対する態度と全然違うじゃないか。普通なら俺を敬うべきだろう?」


ケナンがいかにも不機嫌です。っていう顔をして腕を組みながら言う。


「・・・だって、今更敬えって・・・出会いが最悪だもの」

「なっ?!お前、俺との出会いは最悪だと思ってたのか?!」

「そりゃそうよ!もっと誠実で優しい王子様かと思ったら、口は悪いし俺様だし、我儘だし?」

「なんだと!!!俺だってな、俺に口答えするような女は見たことも聞いたこともない!!印象は最悪だ!!」

「あら。じゃあ、お互い様だからいいじゃない!!」



やっぱり、ケナンはケナンだわ!!

さっき一瞬でもかっこいいなんて思った私が馬鹿だった!



「王子、随分白熱してるところ申し訳ありませんが、次の大臣たちとの会談まで時間がありませんよ。仕事はさっさとして下さい」


さっきまで穏やかに微笑んでいたサエルがピシャリとケナンに言い放つ。

「っ・・・言われなくても分かっている。」

ケナンは口をつぐんだ。


・・・もしや、ケナンを上手く扱ってるのってサエルってこと??

うわぁ・・敵にはしたくないタイプってことね。

唖然としてサエルを見ると、再び私に微笑んだ。

でもその目は笑ってない気がする・・・・


「とりあえず、詳しいことはまた後で話す。この執務室を右に行くと扉が2つあるからその2つ目の扉を開けるとお前の部屋だ。そこは自由に使っていい。俺が戻るまでそこで待ってろ」

「はーい」


私の返事を聞くと、カツカツと靴音を鳴らしてケナンは執務室を出て行った。


「王子の相手は大変だと思いますが、これからも頑張ってくださいね。私も密かに応援していますから」

私の足元に落ちていた日記を拾い「これはあなたが持っていて下さい」と言って私に手渡すと、サエルもケナンを追うように執務室を出て行ってしまった。


密かに応援って・・・何で応援する必要があるんだろう?


今のサエルの言葉を不思議に思いながら、私も執務室を出ようと歩き出したその時だった。





バン!!!


「ケナン様!近くまで用があったから、ローザが逢いに来たわ!」


大きな音がして執務室の扉が開いたかと思うと、ピンクのヒラヒラしたドレスを纏った可愛らしい女の子が入ってきた。


「はっ?!」

「・・・・・・」


大きく両手を広げて、今まさに抱きつこうとしていたのだろうか。

彼女は勢いのついた体をピタっと私の目の前で止めた。


「やだ。ケナン様じゃない・・・・あなた誰?」

「えっと・・・・乙川 華澄・・です」

「おとかわ かすみ・・?聞いたことないわ」

「・・そりゃ・・・今が初対面なので・・」

「それよりも、あなたここで何してるの?ここケナン様の執務室でしょ?ケナン様はどこ?」

「さっき出て行ったけど・・・」

「じゃあ、入れ違いかしら?せっかく逢いにきたのに・・」

「・・あの、ここで待ってたら?これから大臣との会談だって言ってから時間がかかるかもしれないけど戻ってくるはずよ」

「・・・・・・そんなこと、言われなくても待ってるつもりよ。それより、あなた。何かないの?」

「?何か?」

「私、一国の姫よ?しかもお客様よ?あなた、ここのメイドでしょ?」

「えっ、ちがっ・・・」

「あーあ、せっかく卸し立てのドレス着てきたのに早く逢いたいわ。ケナン様・・・」


ピンクのドレスの女の子は、散々捲くし立てた後疲れたのかそのままソファに座り、くるくるに巻かれた髪の毛をいじりながらため息をついた。


「・・あなた、一体・・・・」

「あら、あなた私のこと知らないの?」

ため息をついていた少女はいっぺんして、ころっとした態度で私を見上げる。


「ここに来たばかりだし・・」

「あら、じゃあ教えてあげるわ。私は隣国テレン国の姫。ローザ・スコット・テレンよ。ちなみに・・・ケナン様のフィアンセ」

「フィ・・フィアンセ?!」

「そうよ。だから、今日も逢いに来たのにケナン様ったらいないんだもの」


頬をふくらませて少女は拗ねている。


・・・・ケナンのフィアンセ。

なんて強烈なフィアンセなの・・・・この世界の人たちって個性強すぎだわ・・


「ローザ様!!」


なんて、ソファでふて腐れる少女を見ながら思っていたらまた執務室の扉が開いて、今度はグレーの燕尾服を着た男の人が入ってきた。

美人な顔立ちで思わず「綺麗」と呟いてしまいそうな容姿をしている。


この人も執事・・・かしら?


まっすぐにローザに向っていった彼を私はまじまじと見ていた。



「ローザ様!またお一人で行かれてしまうなど・・・」

「だって、早くケナン様に会いたかったんですもの」

「ローザ様のケナン様への愛は分かりますが・・・・おや?」


目の前でローザ姫を嗜めるように話していた男の人が私に目を向ける。

何だろう?

ゆるやかな物腰だけど、なんか何を考えているか読めない独特な雰囲気の人。


「そちらの可愛いお嬢様はどちらの方ですか?」

「はっ?!」


今、この人”そちらの可愛いお嬢様”って言わなかった?!


その人は微笑んだまま、私に近づいてくる。


「私はクリス・トゥイット。ローザ様の執事をしております」

「あ、えっと乙川 華澄です・・」

「おとかわ・・・?」

「変な名前よねー」


私の名前をもう一度聞いて、ローザ姫が顔をしかめる。


「名前は華澄です。乙川は苗字」

「あら、苗字が先にくるなんてもっと変わってるじゃない」

「悪かったわね!!」

「ローザ様、国によって文化が違うように名も違うものです。華澄様、愛らしい名前ではないですか」

「・・・・・・どうも・・」


なんかこの執事、調子が狂うわ。

お姫様のほうも気位が高くて・・・・・はぁ。

とりあえず一人になりたいわ。

来たばかりでこんなに沢山の人に出会って、頭整理しなくちゃ。

ここは体調不良作戦でいくかな。


「あの・・・クリスさん。ローザ姫。

私、ちょっと体調が優れないのでそろそろお暇させてもらってもいいですか?」

「あら、それは大変ね」

「あぁ、とても心配だ。部屋までご一緒しましょうか?」

(げっ、そう来るかー!!!)

「け、結構です!一人で大丈夫ですから!それではまた。ごきげんよう!」



クリスさんの相変わらずな発言に、本当に寒気がして足早に執務室を出た。











・・・・・・はぁ・・・・


部屋にたどりつくと、大きなベッドに倒れこむ。


なんかどっと疲れた。

ケナンといい・・さっきのローザ姫やクリスさんといい、周りにいないタイプなんだもん。

それにしても・・。


ごろん・・と寝返りをうつとシルクのカーテンが目に入る。

俗に言う天蓋付きベッド。


・・・お城、かぁ。



ケナンに言われた部屋に向うべく、執務室を出てから廊下を真っ直ぐ歩いた。

壁には等間隔で金の額縁に入った絵が飾られていて、大きな窓からは日が差し込んでいる。

廊下の床は大理石が敷き詰められ、ヒールのカツカツという音が響いていた。

一部屋、一部屋がかなり広く、執務室からこの部屋まで来るのにかなり遠かった。


やっと辿り着いた部屋の扉は大きくてキラキラしてた。

日記と同じ紋章が掘り込まれた扉を開けると、レースやピンクで統一された可愛らしい部屋。

一歩中に入れば薔薇の香りがして高級感溢れている。


これから新しい日々が始まろうとしている。

おとぎ話のような、空想のような世界。


私が、チェレリア国の救世主。



―――・・おばあちゃん。

    私、とうとう来ちゃったよ。



    小さい頃、おばあちゃんに聞いた おとぎの国に。



    ねぇ、私。


    大丈夫かな・・・・?




見つめていた天井のカーテンがだんだんぼやけてくる。

気だるい眠気に襲われて、抱えたままの日記を枕元に置いた。



そのまま、私は目を閉じた。








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