もう一つの結界
朝の空気は重かった。
空の亀裂は、
夜より薄くなっている。
だが消えてはいない。
黒い傷跡のように、
空へ残り続けている。
レイは村の石壁へ触れながら、
静かに目を閉じていた。
《解読》を深める。
古い術式。
劣化した魔力循環。
そして。
「……やっぱり妙だな」
リナが後ろから顔を覗かせる。
「まだ見てるの?」
「気になることが増えた」
「結界でしょ?」
「それだけじゃない」
レイは石壁を指でなぞる。
「この術式、
一部だけ新しい」
リナが眉をひそめる。
「新しい?」
「後から触られてる」
古い結界だ。
少なくとも数十年以上前。
だが一部だけ、
最近書き換えられていた。
しかも。
「……弱くされてるな」
「え?」
「魔力循環が削られてる」
普通なら逆だ。
亀裂が広がっているなら、
強化するはず。
なのに弱めている。
「壊れたとかじゃないの?」
「違う」
レイは即答した。
「意図的だ」
沈黙が落ちる。
風だけが、
崩れた村を抜けていった。
「……なんのために?」
リナの呟きへ、
レイはすぐ答えなかった。
まだ確証がない。
だが。
「もし、
結界が邪魔な奴がいるなら」
「…………」
「亀裂を止めたくない側がいる」
リナの顔が強張る。
「そんなの……」
「分からない。
だが妙だ」
レイは空を見る。
世界は壊れ始めている。
魔王軍は、
それを抑えようとしている。
そして誰かが、
結界を弱めている。
全部が繋がらない。
だからこそ、
違和感が残る。
その時だった。
遠くの森側から、
鐘の音が聞こえた。
村にはない音。
低く長い警鐘。
リナが顔を上げる。
「近くの村かも」
レイは目を細めた。
魔力が乱れている。
しかも。
「……亀裂の方向だな」
警鐘は続いている。
短く。
急ぐように。
レイは石壁から手を離した。
「行くの?」
「ああ」
「なんで」
レイは少しだけ空を見る。
「確認したい」
「何を」
レイは静かに答えた。
「他の村にも、
同じ結界があるのかを」




