黒い結晶
黒い灰が、
西通りをゆっくり舞っていた。
侵食体は消えた。
だが。
嫌な気配だけが残っている。
レイは崩れた石畳へ近づき、
黒い結晶を拾い上げた。
冷たい。
なのに脈打っている。
まるで生きているみたいだった。
「それ、
触って大丈夫なのか」
副団長が低く聞く。
「分からない」
レイは結晶を見つめる。
普通の侵食結晶とは違う。
形が整いすぎている。
内部構造も異様だった。
「……加工されてるな」
エルドが顔をしかめる。
「結晶って作れるものなのか?」
「自然物なら、
こんな均一にならない」
《解読》が反応する。
情報が流れ込む。
侵食流。
核構造。
そして。
「術式……?」
レイの表情が止まる。
結晶内部へ、
細かい刻印が埋め込まれていた。
侵食を安定化させる術式。
しかも。
「教会式だな」
空気が止まる。
副団長の目が変わった。
「……待て」
「見間違えじゃない」
レイは静かに続ける。
「結界術と同じ流れだ」
騎士たちがざわつく。
「教会が侵食体を作ってるってのか!?」
「断定はまだ早い」
だが。
侵食を制御しようとしている人間がいる。
それだけは確実だった。
副団長が低く呟く。
「……上層部か」
レイの視線が向く。
「心当たりがあるのか」
「教会内部でも、
侵食研究をしている連中はいる」
副団長の顔は苦かった。
「だが表向きは極秘だ」
「その時点で十分怪しいな」
その瞬間。
後方で悲鳴が上がる。
「っ!?」
騎士たちが振り向く。
避難していた住民の一人が、
突然苦しみ始めていた。
黒い侵食が、
腕へ浮かび上がっている。
「侵食反応!?」
空気が張り詰める。
副団長が叫ぶ。
「近づくな!」
住民が倒れる。
全身が痙攣していた。
レイの目が細くなる。
「……結晶か」
侵食結晶が、
微かに脈打っている。
共鳴していた。
つまり。
「侵食は感染するのか……?」
住民の身体へ、
黒い筋が広がっていく。
騎士たちが後退る。
恐怖が一気に広がった。
「どうする!?」
「斬るのか!?」
混乱が広がる。
だが。
レイだけは、
侵食された男を見つめていた。
黒い筋の流れ。
侵食速度。
魔力反応。
そして。
「……まだ間に合う」
副団長が振り向く。
「何?」
レイは侵食結晶を見る。
「これ、
侵食を“流し込んでる”だけだ」
「つまり?」
「逆流させれば止められる」
騎士たちが息を呑む。
副団長の目が細くなる。
「……できるのか」
レイは静かに結晶を握り直した。
「やってみる」




