99. 襲撃
雷鳴のような歓声が大地を震わせ、兵士たちの武器と甲冑が太陽の光の下で眩しく輝いていた。
「包囲網をさらに締めろ! 今、決着をつけるぞ!」
一人の騎兵が叫びながら拳を握りしめた。
「もう少し耐えればいい! あの怪物さえ抑え込めば勝利だ!」
ラマンの指示に従い、騎兵たちは素早く陣形を再編し、フェルトゥスたちに向かってゆっくりと近づいていった。彼らの足音が地を響かせ、空気を満たした。
敵の弱点を把握したからといって安心できるわけではなかった。一人一人が依然として強力だった。
不必要な犠牲を払う必要はない。
ラマンが城壁の上から力強い声で命令を下した。
「騎兵隊! 敵を城壁の方へ誘導しろ! 重装歩兵隊、出動! 奴らを完全に囲め!」
彼の声が風に乗って戦場全体に響き渡った。
厚く重い甲冑に巨大な盾、そして鋭い斧槍で重武装した重装歩兵隊が前進を始めた。彼らの足取りは地震のように重みを感じさせた。
騎兵隊がフェルトゥスたちを城壁へ圧迫して追い詰めると、重装歩兵たちはその周りを円状に囲んで陣を張った。
やがて、円形に密集して配置された重装歩兵たちが重厚な盾を立て、ニルバスとフェルトゥスたちを完全に閉じ込めることに成功した。
「中央へ押し込め!」
指揮官が歯を食いしばって叫んだ。
「今度こそ終わりだ!」
残り少ないフェルトゥスたちが必死に重装歩兵に向かって突進したが、彼らの攻撃は厚い盾の壁に阻まれ、無駄に散った。兵士たちの斧槍に次々と倒れていった。
しかし、ニルバスは次元が違った。
彼は依然として剣を握りしめ、空っぽの黒い瞳で兵士たちを睨みつけていた。その視線だけで周囲の空気が冷たく凍りつくようだった。
「う… うあぁぁ…」
口から漏れるその音は人間のものではなかった。低く荒々しい、獣のような唸り声。
稲妻のように素早く駆け寄った彼の剣が虚空を切り裂き、一人の重装歩兵の盾を粉々に砕いた。
「ぐわぁっ!」
「うわっ! …この怪物、普通じゃないぞ!」
「奴、強すぎる! どうやって防げば…」
他のフェルトゥスたちとは違い、ニルバスの一撃は厚い盾を壊し、甲冑を軽く引き裂くほど破壊的だった。
イヒョンは城壁の真下で繰り広げられる状況を見て、今回の一度でこんな奴らの攻撃が終わらないかもしれないと思った。
「ラマン卿、ニルバスはただ殺さず、生け捕りにするのはどうでしょう? 奴を捕まえて調べれば、この連中についてもっと多くの手がかりが得られるはずです。」
ラマンはイヒョンの提案を聞き、しばらく顎を撫でて考えに沈んだ後、ゆっくりと頷いた。
「おっしゃる通りです。こんな怪物たちを初めて見ましたが、これが最後だとは断言できないですからね。」
ラマンが戦場に向かって再び声を張り上げた。
「奴は殺すな、生け捕りにしろ!」
その命令に兵士たちが一糸乱れず動き出した。網が空を覆い尽くし、ニルバスに向かって降り注いだ。
「網を浴びせろ! 動きを完全に抑え込め!」
網がニルバスの体を絡め取ったが、彼は荒々しく体を捩って網を引き裂いた。そして自分を取り囲む重装歩兵たちに猛然と襲いかかった。
「ぐあぁぁぁぁ!」
奇怪な咆哮を上げて突進するニルバスが瞬時に盾を粉砕し、一振りで兵士たちを倒した。血が噴水のように噴き上がり、悲鳴が四方に響き渡った。
「うわぁっ! こ… このクソ野郎!」
倒れる兵士が歯を食いしばって絶叫した。戦場の空気がさらに重く、息苦しい緊張に染まっていった。
その時、重装歩兵の後方から隊列を再編し、騎兵隊を追っていたベルティモが包囲網を突破して中へ入り込んだ。
「この怪物は俺が引き受ける!」
ベルティモが低く咆哮するように叫んだ。黒い気を発し、狂気に染まったニルバスを前にした彼は、深く息を吸い込み、斧を引き抜いた。
彼の斧刃はすでに敵の血で染まって赤く輝き、甲冑のあちこちが無数の傷で裂けていたが、彼の眼差しには不屈の意志が燃え盛っていた。
「ニルバス… お前の最後は俺の手で飾ってやる!」
彼は歯を剥き出しにしながら、斧を一気に握り直した。その気勢が周囲の空気を圧倒するほど強烈だった。
部下たちが慌てて彼を止めようと叫んだ。
「大将、危ないです! あいつは普通の怪物じゃないんですよ!」
しかし、ベルティモは毅然と手を振って彼らを制した。
「下がっていろ! これは俺の戦いだ!」
彼の声が戦場を切り裂き、響き渡った。周囲の兵士たちがひるみながら後退する中、彼の視線はただニルバスだけに釘付けだった。
ニルバスの空っぽの瞳がベルティモを睨みつけた。彼の剣がゆっくりと虚空を切り裂き、脅威的な気を発散した。
「お前が犯した数々の悪行を思えば、お前を楽に送ってやるわけにはいかないな。」
ベルティモが低い声で呟いた。彼の胸中で怒りが沸き立つのを感じた。
斧が陽光を受けてきらめく瞬間、ベルティモは猛然とニルバスに向かって突進した。
ベルティモの斧を軽く受け止めたニルバスの剣が風を裂きながら彼の肩を狙った。
「くっ!」
ベルティモは素早く身を低くして避けた。剣刃が甲冑を擦り、火花を散らすと、彼は歯を食いしばって姿勢を正した。
ニルバスが再び猛攻を浴びせた。
彼の剣が連続で空気を切り裂きながら飛んで来て、ベルティモは斧を構えてかろうじて防いだ。
―ドン!―
巨大な金属の衝突音が四方を震わせた。
「こ… この怪力とは!」
ベルティモが歯を食いしばりながら心の中で叫んだ。彼の腕に凄まじい圧力が加わり、筋肉がぴんと張りつめた。
ニルバスの力は人間の限界を超えた怪物のものだった。
「う… は… が… かく。」
ニルバスの口から奇妙な声が漏れた。その音は人間の言葉ではなく、闇の囁きのように聞こえた。
彼の剣が再びベルティモの胸元を狙って飛んで来た。
ベルティモが体を捻りながら斧を振り回した。
「受けてみろ!」
彼の斧がニルバスの太ももを掠めて通り過ぎた。
黒い血が噴水のように噴き出したが、ニルバスは構わずさらに押し寄せた。
「こ… この怪物め!」
ベルティモが驚きに後ずさりながら呟いた。
続いてニルバスの剣が彼の脇腹を掠めると、ピリッとした痛みとともに血が甲冑を濡らした。
「ぐっ!」
ベルティモが痛みを抑えつけ、再び斧を振り回した。
ニルバスの胸を狙った強力な一撃だったが、ニルバスは素早く剣で防ぎ、反撃に転じた。
剣刃がベルティモの脚を深く斬りつけた。
「く…!」
ベルティモが膝を折って崩れ落ちた。脚の力が抜けていくのを感じた。
その隙を狙ったニルバスが体を飛ばしてベルティモに覆い被さろうとした。
「今だ! 網を撃て!」
まさにその瞬間、指揮官の鋭い命令が下った。兵士たちが一斉に網を投げると、突進してくるニルバスの体に網が蜘蛛の巣のように絡みついた。
ついにニルバスを制圧することに成功した。
「捕まえたぞ!」
一人の兵士が歓声を上げて叫んだ。
しかし、ニルバスはまだ網を引き裂こうと身悶えし、抵抗を止めなかった。彼の体から噴き出る黒い気が周囲をさらに陰鬱に染め上げた。
ニルバスが網に絡まって動きが鈍くなったその瞬間、兵士たちが素早く鉄鎖を投げて彼の体を完全に縛り上げた。
続いて降り注ぐ無数の槍と剣刃がニルバスの体を棘だらけのように貫いたが、彼はまだ耐え続け、倒れる気配を見せなかった。
「こ… この怪物みたいな奴め!」
長い間もがいた末に、重ね重ね絡みついた網と鉄鎖が彼の動きを徹底的に封じた。
ニルバスは鎖を断ち切ろうと必死にもがいたが、そうするほど武器と鉄鎖が肉を抉り、傷をさらに深くした。
「う… うあぁぁ…」
彼の咆哮が徐々に静まっていった。
「ニルバスを生け捕りにした! 全軍、陣形を再編せよ!」
いつの間にか城壁から降りてきたラマンが、地面に座り込んだベルティモに近づき、手を差し伸べた。
ベルティモはその手をちらりと見てから、自分でゆっくりと体を起こした。彼の顔には依然として自負心が宿っていた。
「ふん! あいつは死んでも惜しくない! 邪魔するな!」
「大将、申し訳ありません。私たちはこの怪物たちについてまだ何も知りません。情報を得なければなりません。」
「ふう… お前が指揮官だから従うしかないか。でもあいつをただ楽に送ってやるわけにはいかないぞ。」
ベルティモは腰を伸ばし、ラマンを真正面から見据え、疲れたため息を長く吐き出した。
「はあ… ともかく勝ててよかったよ。」
鉄鎖に縛られ、依然として蠢くニルバスを眺めていたイヒョンが、慎重に口を開いた。
「フェルトゥスたちも異常ですが、この奴は一体… なぜ他のフェルトゥスたちとこんなに差があるんだろう…」
彼の声には好奇心とともに恐怖が混じっていた。戦闘は終わったが、周囲の空気は依然として重く感じられた。
ラマンがゆっくりと首を振りながら答えた。
「さあね、イヒョン卿。でもあいつは単に操られる人形じゃないかもしれないという予感がします。一旦捕らえたのですから、後はシエラ様に調査を任せるしかないでしょう。もしかしたら私たちの想像を超えた秘密が隠されているかもしれません。」
イヒョンの視線は依然としてニルバスに留まっていた。彼から噴き出る黒い気が、彼の心を不快に刺激した。
戦闘が終了し、ニルバスが拘束されたにもかかわらず、イヒョンの胸の片隅には依然として不安感が残っていた。
プルベッラの西側の城壁から、戦闘の終結を告げる喇叭の音が力強く広がっていった。
その音が森を貫き、響き渡り、血と埃に染まった戦場に平穏をもたらすようだった。
イヒョンは無意識に胸の文様を指先で撫でた。
しかし、血生臭い匂いが風に乗って来て、負傷した兵士たちの呻きが彼の耳元に聞こえてきた。
戦闘に参加していないイヒョンだったが、緊張が解けたせいか、疲労が押し寄せてくるような感覚がした。
彼は深く息を吸い込み、周囲を見回した。倒れたフェルトゥスたちの死体が本来の人間の姿に戻って散らばっており、伯爵の騎兵隊が陣形を再び整えていた。
ラマンがイヒョンを振り返って言った。
「イヒョン卿、状況が片付いたら別邸に来てください。この件について報告する内容も、一緒に相談する事項も多いです。私はここを整理した後、伯爵様の別邸に向かいます。」
イヒョンが頷きながら答えた。
「わかりました、ラマン卿。お気をつけて。別邸でお会いしましょう。」
彼は城門に向かって歩きながら、独り言のように呟いた。
「今… 終わったのか? いや、何か腑に落ちない。いくら奴らが強いと言っても、なぜこんな少ない数でプルベッラを襲撃したんだ… そんな無謀なことをするはずがないのに。しかもルカエルとイアンに襲いかかったあの怪物めは影も見えない。」
胸の片隅で不吉な予感が依然として残っていた。
そもそもこのすべての混乱を引き起こした張本人がどこにも姿を現さなかった。
黒い霧とともに現れては消える、あの影のような存在。
まだ奴が都市のどこかで密かに潜んでいるかもしれないという想像が浮かぶと、背筋に冷たい気配が走った。
戦闘で勝利を収めたにもかかわらず、宿舎に向かう彼の足取りは鉛のように重かった。
彼はリセラ、セイラ、エレン、そしてイアンが自分を待っているはずだと、足を急がせた。
「それでも、とりあえず無事でよかった…」
宿舎に近づくと、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「イアン! イアン、どこにいるの?」
セイラの焦った声だった。その声に、すでに胸に不安が残っていたイヒョンの心がずしんと沈んだ。
「セイラ?」
彼は本能的に声のする方へ走っていった。
セイラは宿舎近くの狭い路地に立って、イアンを切実に呼んでいた。
彼女の顔は血の気が引いて青ざめ、裙裾を握りしめた手は焦燥に満ちていた。
「ルメンティア!」
彼女がイヒョンを発見するなり、駆け寄ってきた。彼女の瞳には心配とともに急迫した光が宿っていた。
「イアンが… 突然叫び声を上げて、宿舎から飛び出していったんです!」
彼女の不安げな声に、イヒョンの眉間が少し歪んだ。
「叫び声を上げた? 一体何があったんだ? 詳しく話してくれ!」
彼はセイラの肩を軽く掴んで急かした。彼の手の感触に、彼女が落ち着きを取り戻そうと努めているのが感じられた。
セイラが息を整えながら言葉を続けた。
「さっき喇叭の音が聞こえた途端、イアンが突然目を剥いて… 叫び始めたんです。まるで… 以前に墓地へ駆け出した時みたいに! 止めようとしたんですけど、力がものすごく強くて… 結局、扉を壊すようにして出て行っちゃいました!」
彼女はまだ不安に囚われて、裙をいじくり回していた。
「リセラとエレンは?」
「二人とも無事です。ルメンティア様が危険だっておっしゃったけど、イアンをこのまま放っておけないから、一人で探しに来たんです。でも、戦闘は終わったんですよね? あ… この子は一体どこへ行っちゃったんでしょう…」
イヒョンはセイラの視線を合わせ、彼女を宥めるように言った。
「落ち着け、セイラ。そうだ、戦闘は終わったよ。ニルバスも生け捕りにした。イアンは俺が探してみる。お前は宿舎に戻って、リセラとエレンを守っててくれ。」
彼の胸が激しく揺れた。よりによってこのタイミングでイアンの異常症状とは。あの怪物の力が再び彼を縛りつけているんじゃないか?
彼はためらうセイラを見て、もう一度言った。
「危険かもしれない。急いで戻れ。」
セイラはまだ心配げな目でイヒョンを眺めていた。彼女の表情には逡巡が満ちていた。
「でも、ルメンティア。戦闘が終わったなら、一緒に探す方がいいんじゃないですか?」
イヒョンが軽く息を吐きながら答えた。
「ふむ… わかった、一緒に探そう。でも、何か… 嫌な感じがするな。」
彼の言葉が終わる前に、空が一瞬で暗くなった。まるで巨大な幕が下りたようだった。
「な… これは何だ?」
イヒョンが頭を上げて空を見上げた。彼の目に映ったのは、黒い霧のようにむくむくと沸き立つ雲だった。
その雲はプルベッラの空を急速に覆い始めた。都市の広場を中心に円を描いて広がり、その中心から黒い光の筋が村に向かって降り注いでいた。
「あれは…!」
イヒョンの心がずしんと沈んだ。不吉な直感が全身を包み込んだ。肌がびりびりする感覚だった。
「行ってみなくちゃ! なんとなくあっちにイアンがいる気がする。お前は早く宿舎に戻れ!」
「ルメンティア! お気をつけて!」
彼はセイラの心配を背に、広場に向かって駆け出した。
遠くに広場が視界に入った。普段より人出は少なかったが、戦闘終了を告げる喇叭の音を聞いた人々が再び街路に出ていた。彼らの顔には安堵と好奇心が混じり合っていた。
イヒョンの予想通り、広場の真ん中にイアンがいた。しかし彼の様子は一目で異常だった。
広場の中央に膝をつき、前かがみに体を曲げたイアンの状態は明らかに異様だった。
イアンの体は休みなく痙攣するように蠢き、苦痛に悶えるように見えた。周囲の空気が彼の周りで重く沈んでいた。
しばらくして、イアンが上体を起こそうとするかのように、頭が後ろに反り、彼の胸に刻まれた文様から黒い霧が噴き出し始めた。その霧は周囲を徐々に染め、不吉な気配を広げた。
「イアン!」
読んでくれてありがとうございます。
読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。




