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92. シエラ

執務室の扉がゆっくりと開き、重い蝶番の音が静かな部屋の中に軽く響いた。入ってくるのは、他ならぬ伯爵だった。


その後ろに続く二人。右側に立つ男は、軍人らしい顔つきではなかったが、鋭い目つきと余裕のある微笑みが印象的なラマン・ヘルバルだった。そして左側には、銀色のローブの上に紫色のマントを羽織った若い女性、伯爵の直属上級神官シエラが立っていた。


食堂で彼女を遠くから見たときは気づかなかったが、こうして近くで対面すると、年齢はセイラよりせいぜい一、二歳上くらいに見えるだろうか? 若さを超えて、まだ幼さが残る顔立ちだった。それでも彼女の存在感は決して軽くなかった。


雪原に染み込んだ雪の花のように真っ白で冷たい肌。この世のものとは思えない、繊細に輝くガラスの欠片のように透明で、壊れやすそうだった。


髪の毛は銀白色の糸のように肩まで流れ落ち、彼女の歩みに合わせて柔らかく揺れた。光が触れるたび、その銀色の束の間に淡い紫色の波が周囲に広がっていくようだった。


夕暮れの空の最後の残照が消えゆくその瞬間にしか捉えられないような、夢幻的な色合いだった。


そして瞳はさらに幻想的だった。


その中には永遠に燃え続ける炎が閉じ込められたような、赤い宝石のような深みが宿っていた。視線が合えば、その中に隠された力に吸い込まれそうな気がした。


星と月の象徴が刻まれた紫色のマントが動くたび、その下の青みがかった銀色のローブが静かに翻った。まるで霧のように軽いヴェールがかけられたようで、彼女の身のこなしに合わせて柔らかく揺れた。杖を握った手が少し動くたび、肩から腰へ続く曲線の上に銀糸で刻まれた文様が淡く現れ、光を放った。


イヒョンとベルティモは同時に席から立ち上がった。


「閣下。」


「閣下。」


伯爵は軽く頷くだけだったが、その動作一つで部屋の中の空気が一瞬で重みを増した。彼の存在が空間を支配するようだった。


彼は無言で自分の席に近づき、厳粛な姿勢で椅子に座った。


右側にはラマンが、左側にはシエラが静かに立って彼を補佐した。二人の気配が伯爵の威厳をさらに際立たせていた。


「座れ。」


伯爵の簡潔な指示に、イヒョンとベルティモは再び席に着いた。


イヒョンは背筋を伸ばし、慎重に口を開いた。


「閣下、まず···先ほどの食事の席で私が犯した無礼について、もう一度深くお詫び申し上げます。」


彼が頭を下げると、伯爵はその様子をじっと見つめ、ゆっくりと言葉を続けた。


「すでに君の謝罪から真心を感じた。だからそれはもう過ぎ去った過去に過ぎない。」


その言葉にイヒョンは安堵の溜息を吐き、頭を上げた。肩の緊張が解けるのが感じられた。


伯爵の視線がゆっくりと左へ移った。


「シエラ。」


「······。」


少女は頭を下げて伯爵に礼を述べた後、前へ進み出た。


その態度は他の神官のように謙虚だったが、瞳の奥底から湧き上がる光は確固たる信仰を表していた。揺るぎない、落ち着いた決意が感じられた。


そして彼女は無言でイヒョンの前に立った。


彼女が近づくと、淡いラベンダーの香りがイヒョンの鼻を掠めた。爽やかで神秘的な匂いだった。


紫色のマントの裾が静かに波打ち、彼女の視線が彼に穏やかに降り注いだ。


「イヒョン卿。」


低く柔らかな声だった。しかしその中には、明確な確信が染み込んでいた。彼女の性格のように、直截的でありながら温かなニュアンスがにじみ出ていた。


イヒョンはわずかに眉を上げて彼女と向き合った。好奇心が芽生えた。


シエラは迷いなく彼の目をまっすぐに見つめ、言葉を続けた。


「あなた、地球から来たのではありませんか?」


その瞬間、イヒョンの心臓が止まったかのようだった。


脳がその言葉を認識するのに一瞬の時間がかかったが、その言葉が胸に届くのには、それよりはるかに長い時間がかかった。


『地球。』


ここでは決して聞こえてはならない言葉だった。エフェリアの誰も知らない、彼の秘密めいた故郷。


イヒョンの目が見開かれた。


予想外のその言葉に、胸の奥から何かが湧き上がる感情が掠めた。


驚き、そしてこの異世界で初めて誰かから聞く『地球』という言葉に対する、奇妙な安堵感と喜びの気持ちがした。


誰かが自分の正体を一目で見抜いたのだ。


そして彼女の赤い瞳には、敵意や同情ではなく、むしろ穏やかで冷静な光が宿っていた。彼女の性格のように、真実に向き合うことに慣れた態度だった。


ベルティモがびくりとして首を振り向かせ、イヒョンを見つめた。ラマンも微かに体を緊張させるのが感じられた。部屋の中の空気が一層重くなった。


イヒョンはしばらくの間、沈黙を守った。


彼女の声は囁きのように低く、イヒョンの胸に染み入った。


「地球なんて……どうしてそんなことを思われたのですか?」


イヒョンが低く問い返した。


声を抑えようと努めたが、すでにその中には軽い動揺が滲み出ていた。


シエラは揺るぎない視線で彼を見つめた。その赤い瞳には深い信念が刻まれていた。


「初めてあなたに会った時、馴染みのないのにどこか親しみのある気配を感じました。すぐにその感覚が、過去に知っていた方の雰囲気と似ていることに気づいたのです。」


「そして、あなたの言葉によってその感じがますます確実になりました。」


「私が言った言葉とは?」


「伯爵様の前でおっしゃった言葉です。商人連合体、共通の規律といった概念のことです。そんな考え方は、エフェリアの人々からは決して出てこないものです。それに、あなたが正体不明の勢力に追われているという点で、確信しました。」


彼女は首の下に掛かったペンダントを指で軽く包んだ。


それは単なる装飾品ではなく、遠い思い出を秘めた遺物のように見えた。淡い光がその中で渦巻いているようだった。


「私は幼い頃、地球から来たお一人に命を救っていただきました。その方は私に膨大な知識を授けてくださったのです。医学、科学、天文学、数学、世界を見る視点まで……今の私が立っている基盤は、ほとんどその方のおかげです。」


イヒョンの脳裏に無数のイメージが掠めるように過ぎ去った。彼は唇を軽く噛んでその流れを抑えた。


彼女の話は柔らかく続いた。


「その方は自分の出自を他の誰にも明かされませんでした。唯一の弟子である私にだけ打ち明けられたようです。いえ、私にさえその秘密を口外しないよう、くどくどと念を押されたのです。あの時はその理由を理解できませんでしたが、今ならわかります。」


彼女は軽く頷いた。


「師匠は、地球出身という事実が知られれば命を失う可能性があることを、予め知っておられたのでしょう。」


イヒョンは軽く息を吸い込んだ。胸の内で何かが静かに蠢いていた。


「私はあなたの秘密を広めて害を加えようとしているわけではありません。だから、正直に話していただけると嬉しいです。」


その瞬間、部屋の中は緊張でも安堵でもない、全ての感情が蒸発したような虚無で満ちた。時間さえ止まったようだった。


「……その師匠はどんな方ですか? 今も生きておられるのですか? 名前は……?」


イヒョンは胸の高鳴りをなんとか抑えながら尋ねた。声に好奇心と焦りが混じっていた。


シエラは目を一度閉じて開き、答えを準備した。


その赤い瞳に、穏やかな懐かしさが染み込んだ。


「師匠の名前は『ダニエルス』です。ある日突然姿を消されたので、現在は行方がわかりません。ただ……」


「師匠の遺産は今も生きて息づいています。」


彼女は胸に手を当て、かすかな微笑みを浮かべた。その微笑みには温かさと、永遠の敬意がにじみ出ていた。


イヒョンは無言で彼女を見つめた。


暗闇の濃い夜、果てしない砂漠で道に迷い、足元だけを見下ろして歩いていた途中、突然雲が晴れて空に輝く北極星が現れ、道を導くような気分だった。


シエラは頭を少し上げて思い出を辿るようにし、再び彼と向き合った。


「あなたの視線、話し方、動き……この地の者たちとは全く違います。」


彼女は頭を少し傾げて付け加えた。


「それは……あなたがこの地の出身ではないからでしょう。」


イヒョンの眼差しが静かに揺らめいた。


彼は視線を落とした。


少し後、彼はまだ頭を下げたまま、ゆっくりと頷きながら口を開いた。


「……はい、そうです。私は地球から来ました。」


イヒョンは初めて、自分のルーツを見抜く者と対面したことになる。その事実が胸の内に奇妙な波紋を起こした。


部屋の中の全員が沈黙に包まれた。その重い静けさの中で、それぞれの思いが静かに渦巻いていた。


長い静寂を破ったのは伯爵だった。


「今日は実に奇妙な日だな。一生で初めて見る現象と存在、それに地球? 地球という世界から来た者が私の前に座っているとは……」


伯爵は軽く咳払いをして喉を整え、再び口を開いた。


「よし、シエラ。それで、この状況はどう進むのだ?」


シエラはゆっくりと体を回して伯爵と向き合った。


「閣下。まず、この方は全く違う世界から来た存在です。そして、その世界の人々はコルディウムの秩序から外れた者たちだというのも正しいです。」


「そして?」


伯爵の声は依然として穏やかだったが、その中に隠された動揺が空気中に染み込み、全員の肌をくすぐった。


「地球から来た者たちは特別です。エフェリアの人々とは根本が違うという意味です。」


シエラは少し息を整え、視線をイヒョンに向けた。彼女の赤い瞳が静かに輝いた。


「私の師匠が……遠い昔に、私に話されたことがあります。」


彼女の声は、思い出の糸を解きほぐすように柔らかかった。


「師匠は……自分でもわからない理由で、このエフェリアに落ちてこられたとおっしゃいました。元々住んでいた世界が『地球』という名前を持っているともおっしゃいました。」


イヒョンの眉がわずかに動いた。その微かな動きの中に、驚きと好奇心が混ざっていた。


ベルティモは彼女の言葉が荒唐無稽な幻想なのか、それとも自分が知らなかった世界の秘密なのか、区別がつかないようで、複雑な表情を浮かべていた。


シエラは視線を伯爵に移した。


「師匠はコルディウム、つまり感情の力を扱えませんでした。でも……その代わりに、別の種類の力をお持ちでした。」


伯爵の額に軽い皺が寄り、眉がわずかに上がった。


彼は髭をいじりながら、低く落ち着いたトーンで尋ねた。


「別の力か……具体的にどんなものだ? 魔法か? それとも予言のようなものか?」


シエラは首を振った。


「いいえ。それほどです。その力は特定の名前や技術で限定できるものではないようです。」


伯爵の皺がより深くなり、目つきが狭まった。


彼はまだ理解できないという表情で、再び尋ねた。


「限定できないとは、どういう意味だ?」


シエラは言葉を止め、イヒョンを見つめた。


彼女の視線が彼の頭からつま先まで、ゆっくりと見下ろした。


そして彼女は低く言った。


「この地の者たちは、感情を源としてコルディウムを発現させます。喜び、怒り、悲しみ……そんな感情が湧き上がる時、それが力に変わり、技術として実現します。」


彼女は自分の中に流れるコルディウムを感じるように、胸の前で手を合わせた。


「しかし、地球から来た者たちはその感情のプロセスを省略できるのです。彼らは……聞いたこともないものを想像して創造し、原理を理解するだけで新しい技術を生み出します。」


イヒョンは静かに息を吐いた。


その言葉は、彼がこの世界で感じてきた自分の独特さを正確に指摘するものだった。


感情を失ったままでも、なぜこの地で特別な業績を成し遂げられるのか。


「つまり、」


シエラは再び伯爵を振り返り、言葉を続けた。


「彼らはコルディウムを『経由せずに』その力の結果を引き出す存在なのです。まさに……知識という別の形の力を通じて。」


伯爵はしばらく口を閉ざし、彼女をじっと見つめた。


「知識か……知識ならエフェリアにも書物に無数に記録されているではないか?」


シエラは伯爵の視線を受け止めながら答えた。


「閣下、おっしゃる通りです。でも、そこに違いがあるのです。もちろんエフェリアの人々も書物に記された知識を読んで理解することはできます。しかし、それを基に一歩進めるのは難しいのです。稀にコルディウムを持つ者たちの中でそんな才能が見られることはありますが、極めて珍しいです。」


「何を言ってるのかよくわからんぞ。」


「私が初めて閣下にお会いした時にお話しした三角帆、覚えておられますか?」


「もちろんさ。どうして忘れられようか? 私の海軍の基盤となった技術だぞ。」


「エフェリアにはなかったその三角帆は、師匠が私に教えてくださったものです。その原理も詳しく説明してくださいました。通常エフェリアなら、風を操る強力なコルディウムの使い手でなければ、向かい風の中で船を前に進めるのは不可能でしょうが、師匠がお教えくださった原理を応用した三角帆なら、コルディウムの力を借りずとも誰でもそれができるのです。」


「なるほど。今になって少しわかってきたぞ。」


「はい。地球から来た者たちはコルディウムを使えない代わりに、世界の理を把握する能力に優れています。エフェリアの人々にもそんな能力が全くないわけではないでしょうが、コルディウムの力で多くのことを解決するので、世界の原理を探求する動機がほとんどないのだと思います。」


「ふむ……それならお前の言う通り、地球から来た者たちはエフェリアにない知識を抱えていて、だからこそある勢力が彼らを狙っているというわけだな。」



読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


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