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86. 乱入

イヒョンは頭を下げて伯爵に感謝の挨拶を伝えた後、落ち着いて言葉を続けた。


「その日の会議で、オルディン団長は誰かの手によって死んだわけではありません。」


広場がざわつき始めた。


誰も口には出さなかったが、数多くの市民たちがエスベロがオルディンを毒殺したと思っていたのだ。


壇上に座ったルカエルの顔色が赤く青く変わっていた。


伯爵がそばにいなければ、今すぐ駆け寄ってイヒョンを殴りつける勢いだった。


イヒョンは平然と話を続けた。


「彼は長い間、結核という肺の病で苦しんでおられました。息をするのも苦しく、言葉を一言発するのも大変だったでしょう。」


イヒョンは視線を転じてエスベロを見つめた。


「その日、オルディン団長が亡くなったのは……純粋な偶然だったのです。」


一方、壇上に座った彼は目を閉じて少し頭を垂れていた。


少し曲がった彼の背中が、まるで数年間の重荷を背負ったように重そうに見えた。


「オルディン団長が亡くなったその日の会議中に、激しい喀血が起きて、そのせいでその場で命を落としたのでしょう。しかし、当時オルディンに新しいお茶を贈っていたエスベロが毒殺の濡れ衣を着せられ、殺人者として追われることになったのです。」


イヒョンの言葉に、ルカエルの瞳が再び揺れ動いた。


彼は両拳を握りしめて首を振った。


歯をどれほど強く食いしばったのか、顔の筋肉がピクピクと痙攣しているようだった。


伯爵はイヒョンをまっすぐに見つめて尋ねた。


「証明できるのか?」


「言葉は簡単だが、証拠がなければ私だけでなく、オルディンとここに集まった皆を侮辱するようなものになるぞ。君がどれほど優秀だとしてもな。」


イヒョンは深く息を吐いて頷いた。


彼の眼差しに、もはや躊躇いは残っていなかった。


「もちろんです。私はオルディン団長が生前に残した個人購入リストを入手しました。普段秘密裏に買って飲んでおられた品物です。」


イヒョンは懐から紙の束を取り出した。


「オルディン団長は自分の病を知っていましたが、それが知れ渡ったら商会が崩壊するのではないかと深く心配しておられたそうです。」


その瞬間、広場が再びざわついた。


伯爵は顎を少し上げて目を細めながら言った。


「その資料を今ここで確認できるか?」


イヒョンは頷いて懐から取り出した紙の束を護衛兵に渡した。


「これが……オルディン本人が注文した薬草の購入記録と、本人確認の署名が入った文書です。」


護衛兵から紙を受け取った伯爵は静かに内容を読み、署名を確認するためにルカエルに渡した。


「ルカエル、君なら師匠の署名がわかるだろう?」


伯爵から紙を受け取ったルカエルは、師匠の署名を一目で認めた。


しかし、それを認めるのがあまりにも苦しかった。


十数年間信じてきた間違った真実と誤解、それによる葛藤と混乱、そして命を失った者たちの記憶が頭の中を駆け巡った。


ルカエルは書類を壇上のテーブルに置いて頭を垂れた。


「閣下、この署名は師匠のもの……」


ルカエルが言葉を続けられずにいると、伯爵の後ろに立っていたオットがルカエルに近づいた。


「閣下、この書類を私が一度確認してもよろしいでしょうか?」


伯爵が頷くと、オットは書類を慎重に受け取った。


彼は眼鏡を直し、細かく内容を読み込んだ。


そして書類を整えて伯爵の前に置き、退きながら言った。


「この書類の署名はオルディンのものです。オルディン団長は過去にエセンビア家とも密接に取引をされており、私どもの方に物品を供給していた商人でした。」


「ふむ……君が取引先の団長の署名を忘れるはずがないな。」


広場の真ん中、重い沈黙が降りる中、イヒョンが一歩前に出た。


「オルディン団長の肖像画と遺品の中には、彼が最期まで病に苦しめられた痕跡が残っています。」


イヒョンは落ち着いて説明を続けた。


「彼は末期の結核を患っておられました。死亡当日の会議室で過度の喀血があったのです。そしてその事実を……証言してくれる方がこの場にいらっしゃいます。」


イヒョンは首を回して広場の周りを見回した。


「その日の会議に参加しておられた方々の中、まだ目撃を忘れていない方がいらっしゃるはずです。もし必要なら、私がその方を連れて証言をお願いしましょうか?」


「ラネル・ハルカス様。」


その名前が広場に響くと、人々の間に驚きと疑問が広がっていった。


群衆を分けて、一人の老人がゆっくりと前に歩み出た。


銀色の髪が整然と輝き、少し曲がった肩がむしろ堂々と見える姿。歳月の重みが染み込んだ軍服の裾が彼をより威風堂々とさせていた。


彼の足取りに合わせて観衆たちが静かに道を譲り、すぐに伯爵の前に着くと、彼は品位を持って膝をつき、頭を垂れた。


「エセンビア伯爵閣下。お久しぶりです。」


伯爵の目が大きくなり、鋭かった視線が一瞬揺れた。


「ラネル……ラネル・ハルカス? 本当に……君か? 生きていたのか。」


伯爵の声に感嘆と安堵、喜びが滲んでいた。


「戦争の後、消息が途絶えて、死んだものと思っていたよ。」


ラネルはゆっくりと頭を上げた。目元に淡い微笑みが浮かんだ。


「すでに黄昏れゆく世代です。若者たちのことに口を挟むのは礼儀に反すると考え、静かに船に乗って生きてきました。しかし……」


彼の視線が壇上の若い商会長たちとイヒョンに向かってゆっくりと移った。


「間違った道に進むのを、知らん顔で見過ごすのは、老いぼれの良心が許さないでしょう。だから今日、この場に立ったのです。」


イヒョンは静かにラネルを見つめていて、ラネルはゆっくりと言葉を続けた。


「私はオルディン卿と最後の瞬間まで一緒にいた人間の一人です。ここにいるこのイヒョンという若者が閣下にお渡ししたその書類の束は、私が保管していたものです。彼の病状は明らかでした。絶え間ない咳、末期には血の塊が一日も欠かさず出て、骨が露わになるほど肉が落ちていきました。」


彼は広場を見回しながら深いため息をついた。


「会議当日、彼の状態は最悪で、私はその日以降、誰よりも彼の死を胸に刻んで生きてきました。エスベロが毒殺したという噂は荒唐無稽な憶測に過ぎず、イヒョン卿の言葉こそが真実に最も近いものです。私はこの場で、私の言葉がすべて事実であることを誓うことができます。」


老衰して見えるラネルだったが、彼の声は堅固で、彼の言葉には真心が宿っていた。


一瞬、広場に集まった人々のうち数人が感嘆の声を漏らした。


エセンビア伯爵は深く息を吸い込み、ラネルを見つめた。


「ふむ……君の言葉は私に少しの疑いもなく真実として聞こえるよ、ラネル。私は君をよく知っているからね。」


彼の言葉に、静かだった広場に穏やかな波が立った。


ルカエルの唇が固く閉ざされ、エスベロは無言で安堵の息を吐いた。


イヒョンの傍らに立つベルティモも軽い安堵のため息をつきながら空を見上げた。


イヒョンは無言でラネルに頭を下げた。


短く抑えられたその挨拶は、深い感謝を込めた真心のこもった表現だった。


一方、長年の都市紛争の原因を提供したルカエルは何も言わずに頭を垂れていた。


怒りに続いた自責と罪悪感が波のように彼の胸と頭を襲っていた。


『誤解だったのか?』


『本当に誤解だったのだろうか? いや、もしかしたら私もある程度知っていたのかもしれない。』


しかし、天のように思っていた師匠が突然血を吐いて倒れ死んだその衝撃、惜しさと悲しみを他人に転嫁せずに耐えられなかったのかもしれない。


すでに歳月が流れすぎ、最初のその感情がどんなものだったのかさえぼんやりとしていた。


ルカエルは両手で頭を抱え込んだ。


彼の心の中に小さな黒い穴が開いた。その穴は次第に大きくなり、中から漏れ出る暗い気運がゆっくりと彼の内面を蝕み始めた。


「私が何を……」


それは恐れだった。


罪悪感と後悔、長年の歳月もしかしたらすでに知っていた事実を否定し、無視しながら育ててきたその恐れ。


そしてその恐怖を克服するためにエスベロをさらに疑い、彼を犯人として追い立て、都市を紛争で染め上げた行動たちが今、彼に返ってきていた。


師匠を失った痛み、現在の混乱が呼び起こした恐怖、そして自責による自己嫌悪。


このすべての感情が絡みつき、彼を蝕んだ。


胸の中で渦巻いていたその恐怖が、ついに彼の目から漏れ出し始めた。


その光景を見守っていたリセラが突然大きな声で叫んだ。


「みんなどいて! コルディウム暴走よ!」


人々の視線が一斉にリセラに向かった。


リセラはエレンとイアンの手を掴んで広場の真ん中に出て、イヒョンの顔をちらりと見て、周囲に向かって再び大きく叫んだ。


彼女の眼差しは不安に染まり、エレンとイアンを握った手には緊張感が宿っていた。


「コルディウム暴走だって! みんな避けて!」


広場のの人々が混乱に包まれ始めた。


逃げる者たち、リセラの言葉を疑って躊躇しながら状況を見守る者たち。


広場の騒ぎが次第に大きくなっていった。


その時、ルカエルの目から霧のように流れ出ていた黒い煙が一瞬にして彼の体を覆った。


伯爵の護衛兵たちは伯爵を守りながら壇上から降り、壇上にいた人々も慌てた様子で散り始めていた。


ただ一人だけがその場に残った。


エスベロだった。


今は宿敵として果てしない摩擦を起こしていたルカエルだったが、過去に兄弟のように過ごした彼が崩れゆく姿をただ見ているわけにはいかなかったからだ。


エスベロは黒い煙を貫いて彼に近づき始めた。


その瞬間、光が薄れ、広場がもう一つの巨大な黒い霧に包まれ始めた。


『これは……』


イヒョンの頭の中に、共同墓地でイアンを包んでいたあの黒い霧がよぎった。


「ちょっと、これはおかしいわよ。リセラ、早く避けて。」


「あなたは?」


「このまま終わらせたら、二度とチャンスがないわよ。」


イヒョンは隣で驚いた目でその光景を眺めているベルティモに叫んだ。


「これは単純なコルディウム暴走じゃないわ! 何か他のものが混じってるのよ。」


ベルティモはぼんやりとした表情でイヒョンを眺めた。


目の前の奇怪な場面に完全に圧倒されたようだった。


『何かおかしい。』


イヒョンは突然体を振り向かせ、ベルティモの傍に立っていた男に近づいた。


彼の眼差しに不吉な予感がよぎった。


「今、状況がおかしいわ。戦闘準備をしなくちゃ!」


広場は人々のざわめきで乱れていたが、イヒョンの声に込められた危機感は周囲を目覚めさせるのに十分だった。


その男は一瞬戸惑った様子でイヒョンを見たが、すぐに気を取り直し、彼の目と向き合った。


「私も何か怪しい気配を感じていたよ。」


彼は腰元から剣を抜き、周囲を警戒した。


風一つないのに、旗がゆっくりと一方向に揺れているようだった。


そして、まさにその瞬間だった。


広場をゆっくりと包み込んでいた黒い霧。


下水溝の隙間から立ち上る蒸気のように始まったそれは、いつの間にか形を成し始め、人々の足元から、壇上の端を這い、絞首台の下に集まってきた。


影が覆う場所から、長く暗い形体一つが浮かび上がった。


黒いマントが床を擦りながら柔らかく揺れ、霧がその周りを回りながらうねった。


その姿はイヒョンが墓地で見たそれと同じだった。


顔を覆った黒いマスクの中から、大きく赤い目が揺らめくように輝いた。


彼は音もなく滑るように広場を横切り、壇上のルカエルに向かって進んだ。


その姿を見た誰かが悲鳴を上げようとしたが、声が喉に詰まり、数人の兵士たちはその形体をまともに認識できないまま凍りついていた。


感覚自体が麻痺したような状態だった。


「ルカエル! ルカエル! しっかりして!!」


席から飛び起きて駆け寄ったエスベロはルカエルの肩を揺さぶったが、彼はすでに意識を失った状態だった。


「ちょっと、起きて! 早く! 危ないわよ、ルカエル!」


しかし、ルカエルはぐったりと垂れ下がっており、彼の体からは黒い霧のような気配が流れ出るだけだった。


カルヌスはルカエルの前に立ち、エスベロなどお構いなしに、一方の手で彼を掴み上げて地面に叩きつけた。そして腰元から刀を抜き出した。


その動作は苛立つほど静かで優雅に見えた。


そして、まるで古い儀式のように重く正確に、ルカエルの胸を刺した。


ルカエルの胸を貫いた刀は、最初は何の反応も示さなかった。


しかし、すぐに彼の体周りから溢れていた黒い煙が吸い出され始めた。


それは血ではなかった。


彼から流れ出ていた黒い煙が、カルヌスの刀の中に吸収され始めた。


続いて青、深紅、金色、ピンク色の煙のような気配がすべて刀を通じて吸い込まれていった。


「くそ……だめだ、ルカエル! これは!」


その場面を見たエスベロは絶叫した。


剣を抜いた男とイヒョンは同時に動いた。


壇上の手すりを踏んで体を飛ばし、イヒョンはそれを追って腰からバルカを抜き出した。


男は素早く体を飛ばしてカルヌスに向かって剣を振り下ろしたが、その剣撃は霧の中を切り裂くように虚空を掠めた。


ルカエルの感情をすべて吸い取ったカルヌスは、後を追ってくるイヒョンをちらりと見た。そして彼の姿は霧が散るように影となって消えてしまった。


彼が消えた場所には、空虚な目で虚空を凝視するルカエルだけが残っていた。


彼の目は依然として開いたままだったが、そこにはもうどんな感情も、認識も、『自分自身』という存在感さえ残っていなかった。


唇が少し開いており、かすかに、非常にかすかに、無意識の中を探るような囁きが漏れ出た。


「……師匠……」


しかし、その声は誰にも届かず、自分自身にさえ届かなかった。




読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


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