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67. 原因

誰かが荒々しくドアを破壊して押し入り、すべてをめちゃくちゃにひっくり返して消えた痕跡が、そのまま残されていた。血痕が見当たらないところからすると、エダンとアンはどこかへ連れ去られたか、自分で逃げたようだった。


「なんてことだ、ルメンティア、これは一体……」


胸の中に冷たい恐怖が染み入り、心臓が一瞬止まったような衝撃が押し寄せた。


『まさか……』


暗い予感が黒い霧のように立ち上るように胸を締めつけた。


「セイラ! 船着き場の方へ行ってみよう」


昨夜、二人が並んで歩いたあの道を思い浮かべ、彼は素早く足を速めて船着き場近くの倉庫に向かった。


昨日、エダンを追って入ったあの古びた倉庫が目の前に現れると、彼は本能的に足を止めた。


「くそっ……」


倉庫の周りはすでに兵士たちで厳重に囲まれており、ドアの外からは密輸団の荷物と思われる箱が絶え間なく運び出されていた。


鎧姿の兵士たちは倉庫の内外をくまなく探し回る様子で、周辺にはその荷物を積むための馬車が長く待機していた。


イヒョンは路地の隅に身を低くし、息を潜めて状況をうかがった。密輸団の隠れ家が露見したという事実以外に、他の説明が浮かばなかった。


『まさか、ベルティモまで巻き込まれたのか?』


息が詰まるような圧迫感が胸を押しつぶした。


イヒョンは慎重に体をひねって、そこを離れようとした。


ちょうどその時、彼の肩越しにか細い声が聞こえてきた。


「イヒョン様、セイラさん!」


イヒョンは驚いて顔を上げた。


兵士たちの視線を避け、こっそりと近づいてくる女性が視界に入った。スカーフで肩と顔を覆っていたが、イヒョンは一目で彼女がアンだとわかった。


「アン?」


彼女は袋に包んだ赤ん坊を胸にしっかり抱きしめ、恐怖に囚われた蒼白な顔で近づいてきた。


服は埃と土で汚れだらけで、顔のあちこちに擦り傷ができていた。


“アン、無事でよかった。エダンはどこに?”


アンはじっと首を振った。


「エダンは兵士たちに捕まってしまいました。明け方に突然押し入ってきて…… エダンがドアを押さえて時間を稼いでくれる間に、私は後ろの壁の隙間から抜け出しました。赤ん坊を抱えて……」


彼女の目尻に涙が溜まり、透明な露のようにきらめいた。


「イヒョン様、エダンに本当に何も起きないでしょうか? どうか、そう言ってください……」


イヒョンは唇を噛みしめて黙っていた。


彼女に安心の言葉をかけられない現実が、鋭い刃のように胸を抉った。


「今はとにかく安全な場所に避難しましょう。宿に戻りましょう。ここはあまりに露骨です」


アンは頷いた。


宿に着いてドアが閉まるやいなや、アンはまるで張り詰めた弓の弦が解けるように膝をついて床に崩れ落ちた。イヒョンは素早く彼女を起こして椅子に座らせ、抱いていた赤ん坊を優しく受け取ってベッドに寝かせた。


部屋の中に重い沈黙が降り注いだ、嵐の前の静けさのように。


リセラが温かいお茶を持って入ってくると、セイラはすぐに毛布を持ってきてアンの肩に掛けた。


イヒョンは無言で椅子を引き寄せ、彼女の前に座った。


「今は安心してください。ここは安全です。一体何が起きたんですか? ゆっくり話してみてください」


アンは落ち着いた声で口を開いたが、その中に染み込んだ恐怖がまだ感じられた。


「明け方でした。私は子供と一緒にぐっすり眠っていたんです。突然ドアを蹴る轟音が聞こえてきて、私は慌てて夫を揺り起こしました」


「エダンはドアの隙間から外を覗くと、私にすぐに逃げろと叫びました。子供を抱きかかえて…… 私は後ろにあった狭い通路から子供と一緒に逃げました。恐怖で頭の中が真っ白になって、何も考えられませんでした」


彼女は子供を見つめる眼差しに切ない想いを込めて言葉を続けた。


「彼がいつも言っていたんです。自分に危険が迫ったら、船着き場の倉庫の隠し扉を開けてそちらへ行けって。だからその秘密の場所に向かったんですけど、着いた時にはすでに兵士たちがそこを占拠していました」


彼女は手の甲で涙を拭った。


「ばれないように路地の隅に身を縮めて隠れていました。エダンがもしかしたら現れるかもしれないという、わずかな希望にすがって。周辺を警戒しながら、サルエルが音を立てないようにずっとあやして…… そうしたら、イヒョン様とセイラさんが通りかかるのを偶然目撃したんです」


言葉を終えたアンは静かに頭を垂れた、まるで重い荷物を下ろしたかのように。


イヒョンは無言で彼女を見つめていた。


リセラはアンの傍に近づいて座り、彼女の手を温かく包み込んだ。


「本当に辛かったでしょうね。何も召し上がれなかったんですよね? 子供のためにも何か食べないと。体が持たなくなりますよ。私が簡単な料理を準備しますね」


アンは涙で湿った目でリセラを見上げ、苦しげに頷いた。


イヒョンはしばらく彼女を眺めていたが、窓辺に近づいて外を眺めた。


ようやく糸口が解けかけたと思ったら、また新たな障害が立ちはだかり、それを乗り越えた途端に巨大な壁が待ち構えているような感覚だった、まるで果てしない迷宮を彷徨う気分のように。


エダンは今、どんな状況に置かれているのだろうか?


よりによってこのタイミングでこんな災厄が襲いかかってくるなんて、運命の残酷な悪戯のように感じられた。


伯爵代理の兵士たちに捕らえられたなら、間違いなく牢獄に閉じ込められているはずだった。


ベルティモと彼の仲間たちは……。


考えが波のように押し寄せては引くのを繰り返した、まるで激しい波が岩を削り取るように。


________________________________________


深い夜の幕がゆっくりと開き、明け方の光が染み入ってきたが、イヒョンの心の中は依然として濃密な霧に包まれたままだった。


闇が退く中、都市の通りには奇妙な静けさが漂っていた。


人々の往来がまばらになり、兵士たちが大通りを闊歩する光景は、普段の活気ある風景とは全く異なり、異様な緊張感を生み出していた。


静かな明け方の中に、かすかな不安が染み込むその瞬間、イヒョンは窓の外を凝視しながら深い思索に沈んでいた。


窓の向こうで太陽がゆっくりと顔を覗かせていたが、彼の頭の中は依然として夜の重みに押しつぶされたように重かった。


エダンも、ベルティモも、もしかしたらすでに逮捕されているかもしれない。


しかも毒草のように都市を蝕む二つの商会の果てしない対立。


この絡み合った糸の根源は、結局その二つの商会から来ているに違いなかった。


「結局、頼れるのはレンだけか……」


イヒョンは低い声で囁くように呟きながら、外套を羽織った。


挨拶代わりにレンへの贈り物を用意した後、彼は馬の背に体を預けた。


レンならフルベラの昔の出来事についてよく知っているだろうという期待が湧いた。


街を抜けた土の道は濃い霧に覆われていた。季節のせいか、明け方の空気は冷たく染み入り、軽い寒気が体を撫でた。


半日中馬を走らせ、川沿いに下っていった。


太陽が空の真ん中に掛かる頃、右側の山裾を曲がった道の先で、森へ続く狭い小道が現れた。


緩やかな丘の中腹に位置するレンの質素な小屋が視界に入った。


小屋の周りは少し前と変わらず静寂に包まれ、空気中には温かな食事の匂いがほのかに漂っていた。


イヒョンは慎重にドアを叩いた。


―トン、トン、トン―


少し後、ドアが開き、馴染みの明るい顔がイヒョンを迎えた。


「おじさん! どうしてここまで来てくれたの?」


「元気だったか?」


相変わらず元気いっぱいのテオが、明るい笑顔を浮かべて答えた。


「もちろん。ちょっと退屈なのを除けば全部いいよ。最近は森で一人遊びばっかりしてるよ」


奥の台所からフロラの声が聞こえてきた。


「誰か来たの?」


「イヒョンおじさんだよ!」


「あら! イヒョンさん、どうしてこんな遠いところまで来てくれたの」


フロラがエプロンで手を拭きながら出てきて、嬉しそうに挨拶した。


「変わりないですか?」


イヒョンは軽い微笑みで答えながら尋ねた。


「ええ、変わりないわ。あの人がいつものようにおかしなことさえしなければね。早く入って、寒いでしょう」


「レンさんはいるかな?」


「明け方に出かけてまだ帰ってきてないわ。通常お昼頃に戻るから、すぐ来るはずよ。途中で寄り道しなければね。待ってる間、お昼でも一緒にどう? 私が簡単に用意するわ」


「ありがとうございます。また迷惑をかけてしまって」


昼食時を少し過ぎた頃、罠の設置を終えたレンが小屋に入ってきて、帽子を脱いで壁に掛けた。


イヒョンを発見したレンはとても喜んで彼を迎えてくれた。


イヒョンは彼が蒸留したアルコールとノートに記したレシピを基に製造した薬を贈り物としてレンに渡した。そしてイヒョンはノートで確認した内容と実際に作った薬について、レンと深い話を交わした。


レンはイヒョンの努力に深く感動したようで、目尻にしっとりとした露が浮かぶようだった。


「私が残した記録でここまでやってのけるとは…… むしろ私が感謝する番だよ。でも今日訪ねてきたのはこのことだけじゃないみたいだね。何の用で来たんだい?」


「実は、訪ねてきた理由があります」


イヒョンはフルベラで起きた二つの商会の激しい衝突、そして密輸団のアジトが兵士たちに急襲された一連の事態を、自分が知る限り詳細に語り出した。


その話を最後までじっくり聞き終えたレンは、まず湯沸かしから湯気がもくもくと立ち上るお茶を注いでテーブルに置き、深いため息をついた。まるで長い歳月の埃を払い落とすような、そのため息だった。


「ふん、あの呪われた街の奴らは相変わらずだな」


「もしかして、そのすべての混乱がなぜ起きているのか、ご存じのことがおありですか? いったい二つの商会がなぜそんなに激しく争うのか、伯爵代理のニルバスという男はなぜその対立を傍観するだけなのか。それに商会たちの争いに、唯一の供給源である密輸団をよりによってそのタイミングで襲うのか…… 本当に、解けない謎だらけですよ」


レンは湯呑みを手に取り、ゆっくりと一口味わった。熱いお茶の香りが部屋いっぱいに広がり、彼の口元に淡い苦笑いが浮かんだ。


「昔の話さ」


「私がまだあの街に住んでいた頃の話だよ」


レンは視線を転じて、薪が燃える暖炉の方に向けた。炎が踊るように揺らめくその場所から、まるで忘れられた記憶の火種を蘇らせるような気配が感じられた。


薪がパチパチと音を立てて時折部屋を響かせ、それ以外は静かな静寂が室内を包んでいた。風一つなく、時間さえ止まったようなその沈黙の中で。


レンはようやく口を開き、低い声で物語を語り始めた。


「あの出来事は…… もう15年も昔のことだろうな……」


イヒョンは静かにレンの顔を凝視した。彼の眼差しには歳月の風雨が刻まれたような陰が差しており、まるで古い樹皮の下に隠された傷のように、数多くの経緯を暗示する影だった。


「あの頃のフルベラには、今のように二つの商会が権力争いを繰り広げるようなことはなかったよ。港湾から倉庫、輸送と荷役、さらには対外貿易まで、すべてを一つの商会が担っていたんだ。オルディン商会だったね。街の広場の真ん中にオルディンの銅像が立っているの、君も見たことがあるだろう」


レンは記憶の糸を解きほぐすように、虚空をじっと見つめながら髭を撫でた。彼の手つきは、まるで遠い昔の残像を辿るように柔らかく、寂しげだった。


「オルディン。エフェリア戦争が終わった直後、フルベラの混乱を正し、この街を繁栄した港湾都市に再建した張本人さ」


「本当にすごい方ですね」


「そうだよ。本当に立派で善い人物だった。炎のように情熱的で、天秤のように公正だったよ。もっとすごいのは、無用な貪欲を遠ざけ、人々が心から信頼し従ったことさ。当時の商人たちの中で、そんな風に商売をする者は、私の知る限りオルディンだけだったね。おそらくあの頃、市民たちの中で彼を恨む者は指で数えられるほど少なかったはずだ。私もあの時代、しばらく彼の下で働いたことがあるんだ」


彼は視線をイヒョンに向け、話を続けた。彼の声には回想の温かさが染み込んでいた。


「オルディンには二人の弟子がいたよ。名前は聞いたことがあるだろう。ルカエルとエスベルだ。性格が天と地ほど違っていたよ。ルカエルは火のように短気な気質だった。でもそれだけ魅力があったというか…… 決定は稲妻のように素早く、仕事の処理は森を駆け抜ける野生馬のように猛烈だったよ。少し変わったところを除けば、悪い奴じゃなかったさ。一方、エスベルは静かで思慮深い性格だった。声を一度も上げたことがなく、オルディンの助言なら石に刻むように心に留めていたよ」


レンは席で少し体を動かして姿勢を正し、暖炉の上に置かれた湯沸かしを下ろした後、フロラにお茶と簡単なお菓子を頼んだ。


「フロラ、お茶をもう少し頼むよ。この奴らの話をしてたら喉が渇いた」


レンは姿勢を正して座り直した後、言葉を続けた。


「時が流れ、オルディンが年老いて商会を譲る頃になったよ。その時から二人の間に亀裂が入り始めたんだ。運営方針から仕入れ品目、労働者の待遇まで、すべての面で意見が鋭くぶつかり合ったよ」


レンは少し息を整え、フロラが持ってきてくれた茶葉を杯に移して熱い湯を注いだ。お茶の香りが部屋を優しく染めた。


「決定打は、ある会議の席だったそうだ。私は直接目撃したわけじゃないが、当時の人々は噂でみんな知っていたよ。ある日、商会の運営を巡ってルカエルとエスベルが激しく争ったんだけど、その場でオルディンが突然倒れたんだって。理由は今も謎のままさ」


イヒョンの瞳が一瞬輝いた。


『心臓の問題だったのか?』


「誰も正確には知らない。記録さえ残っていないし……」


レンは静かに首を振った。彼の表情には歳月の重みが降り積もっていた。


「問題は、その原因を誰も知らないことさ。オルディンは普段から自己管理を徹底していたから、病気があったり異常の兆候があったなんて、周囲で気づいた者は誰もいなかったよ」


「オルディンが世を去った後、事態が爆発したよ。ルカエルはオルディンの娘と結婚した婿として当然後継者の資格を主張した。一方、エスベルはオルディンが直接副団長に任命したのだから、実質的な継承者は自分だと対抗した。二人ともそれぞれの正当性を掲げたわけさ」


レンは低いトーンで落ち着いて語り出したが、その中に染み込んだ事件の重みがイヒョンに生々しく伝わってきた、まるで重い鉄鎖が胸を締めつけるように。


「二人は互いに師の死をなすりつけ合い、仇敵となったよ。それからフルベラ全体が軋み始めたんだ。商会は粉々に砕け、港と街は二つに割れた。港湾の統制から貿易船の管理、資本の流れまで…… あの日の後、この街は今のように分断されたまま耐えているんだよ」


彼は手に火かき棒を握り、暖炉の薪を突ついた。


薪がパチパチと音を立てて火花を散らすたび、タンタンという音が部屋に響いた、まるで忘れられた悲劇の反響のように。


「その後、些細なことでも対立が爆発したよ。区域の争奪戦、互いへの告発、ニルバスの兵士たちまで巻き込んで…… 皮肉なのは、その被害がそのまま市民たちに返ってくることさ。傷つき、時には命を失う者も出る。それなのに二つの商会は決して妥協しない」


「むしろ悪化の一途ですね。恨みの谷が深くなるほど」


「今回の事態もその後遺症に違いない。密輸団であれ商会であれ…… どこかで誰かが故意に火種を煽っているんじゃないか、そんな疑いがするよ」


イヒョンは頷いた。


その対立の根源は単なる利権争いではなく、裏切りの刃と歳月が積み上げた傷の塔だった。



読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


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