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340. 難民

ランプの芯がぱちぱちと音を立てて揺れると、じめついた土壁に落ちた影が揺らめいた。


商人は縄に縛られて凝り固まった肩をよじって座り直すと、話を続けた。


「領主が皆、市民のことを考えているわけではない。凶作になろうが災難が降りかかろうが、税を減らすどころか、自分の富を保つために、情け容赦なく市民の血膿を搾り取る場合も珍しくないのさ」


商人が舌でからからに乾いた唇を湿らせた。


諦念の染みついた顔の上に、暗い影が濃く降りた。


「その収奪に耐えかねた村の人間が、結局は夜逃げに踏み切る。たいていは大きな都市へ流れ込んで、新たに身を落ち着ける場合が多いが……」


商人は板の扉のほうを顎でしゃくり、声を一段と冷ややかに沈めた。


「あの凶悪な連中は、おそらく故郷から逃げ出す過程で事を起こして、すでに手配令が出ている者たちである可能性が、きわめて高い」


その断固とした推測に、イヒョンの目つきが細くなった。


「なぜそう確信なさるんです?」


「なぜあいつらが、こんな場所に集まって暮らしていると思う? 都市に入れんからさ。城門ごとに手配書が貼り出されて、都市の検問所は絶対に通れんからな」


商人が低い声で言葉を継いだ。


「検問所に入った瞬間に首が飛ぶという有様で、どうやって都市の中へ入り、土地の一片、仕事の一つを得られるというんだ? 結局、そんな追っ手を逃れて、こんな森の中に隠れ住むか、通りがかりの人間を狙って略奪しながら、その日その日を食いつなぐ、獣のような暮らしをするほかないのさ」


商人は爛れた手首を包む太い紐を床に擦りつけながら、血走った目をぎらりと光らせた。


悔しさと憎しみの絡み合った、刺々しい毒気が噴き出してくるようだった。


「我々は運が悪くて、あの飢えた狼どもの餌食になったわけだ。だがな……」


商人は嘲りを含んで、口角を残酷に吊り上げた。


「今でこそ、あいつらが我々をこの穴ぐらに閉じ込めているが、こんな根なしの盗賊の群れは、決して長くは持たん。我々ほどの商団が襲撃されたという知らせが広まった瞬間、遠からず近隣の領主が送り込んだ重武装の討伐隊が、この森に押し寄せてくるんだからな!」


血なまぐさい復讐と虐殺を確信する商人の荒い息遣いが、狭い古木の内部を満たした。


しばし沈黙を守っていたイヒョンが、ゆっくりと顔を上げて口を開いた。


「でしたら……もしこの人たちが寛容な領主から正式に赦免と許しを得て、合法的に定着し、農作をしたり、労役に就いたりする土地を手に入れられたなら、平和に暮らしていけるのではありませんか?」


落ち着いたイヒョンの問い。


瞬間、商人はぽかんと口をぱくぱくさせると、呆れ返ったように荒い鼻息で笑い飛ばした。


「は! 許し? 定住地だと?」


商人の眼差しに、皮肉と嘲りが広がっていった。


彼は縛られた上体をぐいと前へ突き出し、説教するように言い放った。


「旦那、人を殺して略奪ばかりを事としていた凶悪な強盗の群れを、自分の領地にそっくり受け入れてやる気違いの領主が、この大陸のどこにいるというんだ? 世間知らずなことを言うものではないぞ!」


商人の刺々しい嘲りと皮肉が湿った空気の中に散ったが、イヒョンは少しの動揺も見せなかった。


相手の反発にいちいち言い争うのは、無用な感情の消耗にすぎなかった。イヒョンはランプの明かりの下、落ち着いて沈んだ瞳で商人を見つめながら、静かに頷いた。


「……分かりました。あの人たちが北部から逃げてきた避難民だという事実を知れただけでも、十分に大きな収穫です」


イヒョンの唇の間から流れ出た声は、冷ややかなほど穏やかだった。


「頭目と交渉してみます」


少しのためらいもない平然とした口調に、かえって商人の顔色が呆けたように強張った。


命が風前の灯である地下牢に閉じ込められながら、刀の柄を握る盗賊の頭目と談判をつけるという薬草採り。


商人はイヒョンの腹の内をまるで測りかねるというように口をぱくぱくさせていたが、やがて狂人でも見るように舌打ちをして、背を向けて横になった。


その様子を見守っていたライルが、そろりと尻をずらしてイヒョンのそばへ近づいてきた。


ライルは目をぱちぱちさせながら、鳥の巣のようになった頭を掻いた。


理解できない状況へのもどかしさが、たっぷりと滲んだ顔だった。ライルがイヒョンの肩に耳元をぴたりと寄せ、慎重に囁いた。


「ってか、あいつらが避難民だろうが何だろうが……そんなことを知って、いったいどうするつもりなんだ? 俺たちはあの変わり者の爺さんと、ここに閉じ込められてる連中だけを、野営地の連中の目を盗んでうまく丸め込んで、夜が明けたら無事に外へ抜け出しゃ、それで上がりじゃないのか?」


ライルの狭い視野では、目の前の脱出と生存だけが唯一の問題だった。


だが、イヒョンの頭の中に描かれたチェス盤は、それよりも遥かに広く、複雑だった。


「そんなに単純な問題じゃない、ライル」


イヒョンが低く呟いた。


その深い視線が、湿った苔に覆われた巨木の切り株の内壁を貫き、その向こうの漆黒の闇に沈んだ野営地全体へと向けられた。


「相手を屈服させるか、望むものを丸ごと手に入れるには、彼らが握っている刃だけを見るのではなく、その刃を握らせた原因を突き止めねばならない。あの一団がなぜ血を流しながらここまで流れ着いたのか、何に飢えて獣のように牙を剝いているのかを正確に把握してこそ……血を見ずに盤をひっくり返す、交渉の決定的な糸口を掴めるんだ」


外科医が患部の表皮ではなく、病の根源を抉り取るように、イヒョンの思考は本質を正確に照準した。


「……?」


ライルは相変わらず訳が分からないというように眉間に皺を寄せ、首をひねった。だが、イヒョンの気配に圧倒されたのか、それ以上は口を挟めず、唇を尖らせたまま床の土をとんとんと蹴るだけだった。


イヒョンもまた、それ以上の説明は付け足さず、壁面に背をもたせかけ、ゆっくりと目を閉じた。


明日の朝、野営地の頭目と繰り広げる熾烈な心理戦。傷ついた子どもと負傷者たち、そして避難民との交渉と、彼らの身の振り方。プルベラへ連れていかねばならない変わり者の職人ディオニシウスの抱き込み。


糸束のように複雑に絡み合っていた数多の変数が、イヒョンの冷たい頭の中で、一寸の狂いもない精密な順序に沿って、次々と整列していった。


———


古木の切り株の隙間から、青みがかった夜明けの霧が、じわじわと這い込んできた。


じめついて腐りかけた木の皮の匂いの上に、冷ややかな朝の空気が混じり込みはじめる頃、固く閉ざされていた木の扉の向こうで、荒い足音が響いた。


がちゃん、じゃらん!


一晩じゅう固く掛かっていた重い鎖が、鈍い摩擦音を立てて外された。ぎいっという蝶番の悲鳴とともに、重厚な板の扉が大きく押し開かれると、目を刺す透明な朝の陽射しが、地下倉庫の中へどっと流れ込んできた。


「出ろ」


野営地の男たちは約束を違えなかった。


昨夜、剣呑な目で閂を掛けた、顎に傷跡の刻まれた男が、戸口に構えて立っていた。毛皮のチュニックの間からのぞく男の顔の上に、重々しい殺気が漂っていた。


男はゆっくりと階段を踏んで上がってくるイヒョンの前に、ぬっと立ちはだかり、腰の刀の柄を握ったまま、低く唸った。


「夜が明けた。今度はおまえが約束を守る番だ」


だがイヒョンは眉一つ動かさなかった。彼は一晩で皺になった裾を軽く払いながら、静かな声で淡々と頷いた。


「分かりました」


イヒョンはランプを床に下ろし、腰元の革の鞄の紐をしっかりと締め直した。


コランへ向かって必要な品を手に入れ、この絡まった盤面を整えるための支度だった。


その無駄のない手つきには、一片のためらいも滲んでいなかった。


「……ア、アニキ!」


そのとき、後ろから顔面蒼白になったライルが、慌てて飛び出してきた。


ライルは震える指で、イヒョンの袖口を千切れんばかりに握り締めた。


真っ白に血の気の引いたライルの瞳が、今にも涙をこぼしそうなほど、不安で揺れ動いた。


「アニキ、本当に……本当に俺だけここに置いていくっていうのか?」


ライルの声が無様に裏返り、ぶるぶると震えた。


周囲を取り囲む男たちが、それぞれの武器をもてあそびながら、鋭い目つきで2人を睨みつけていた。


ライルの心臓が肋骨を砕かんばかりに狂ったように打ち鳴っているのか、傍らでその音が聞こえてきそうなほどだった。


イヒョンは自分の袖口を握るライルの手の甲をとんとんと叩くと、淡々とした口調で諭すように言った。


「おまえが妙な真似さえしなければ、何事も起きん」


「そ、それが口で言うほど簡単かよ⁉」


ライルが悔しさと恐慌の入り混じった顔で、泣きべそをかきながらぐずぐず言った。


「あの物騒な連中が目を剝いてるのに、俺がどうやってじっとしてられるんだよ! アニキのいない間に、あの無学な連中が急に気を変えて俺の首を刎ねるか……生きたまま釜に放り込んだらどうするんだって……!」


今にも床に寝転んで手足をばたつかせかねない勢いだった。


背後では、傷跡を持つ男が鼻で笑い、威圧的な気迫を放っていた。


風に流された冷たい夜明けの霧が、野営地の地面を低く撫でて通り過ぎていった。


イヒョンはすでに夜のうちに、切り株の倉庫の中であらゆる計算を終えていた。


イヒョンは、顎に傷跡を深く刻み、腕を組んで立っていた野営地の頭目の前へ、大股で歩み寄った。


2人の間に冷ややかな沈黙が漂った。イヒョンは男の耳元に触れんばかりに声を落とし、波紋ひとつ立たない重々しい口調で口を開いた。


「私の仲間は……たいそう特異で危険なコルディウムを宿しています」


イヒョンの唇の間から流れ出た警告は、断固としていた。


「あいつは極度の恐怖に怯え、恐れが理性を完全に蝕んでしまうと、敵味方をまったく見分けられない狂乱状態に陥ります。ですから、私が席を外しているあいだ、あの男に刃を突きつけて怖がらせたり、脅したりすることは、決してあってはなりません」


「……何だと?」


イヒョンの言葉を聞いた頭目の眉間が、歪んだ。


頭目は鼻で笑いながら毛皮の衣をめくり、腰に提げていた斧をあらわにした。


「それはいったい何の戯言だ。あのひょろひょろした青二才が妙な小細工を弄するか、逃げ出そうとすれば、その場で即座に首を落としてやる。貴様は約束のほうにでも気を配っているのがよかろう」


剣呑な恫喝だった。


だがイヒョンは眉一つ動かさなかった。彼は逃げることなく、頭目の両の目をまっすぐに見据えた。


これは生半可な妥協や虚勢で済ませられる問題ではなかった。引き金が引かれた瞬間に起きる惨劇を、誰よりもよく知っていたからこそ、イヒョンは言葉の一つひとつに重みを込めて、もう一度言った。


「私が懸念しているのは、その逆です。恐怖に怯えて恐慌に陥った、まさにその瞬間、あいつの眠っているコルディウムが、強制的に爆発するように発動するんです」


イヒョンの低く落とした声が、凍てついた夜明けの空気を、冷ややかに切り裂くようだった。


「その状態になれば……あいつは食卓の上に転がっているフォーク1本、庭に転がっている木切れ1つを握っているだけでも、瞬きする間にこの野営地の武装人員を、ことごとく屠り尽くすでしょう」


イヒョンの黒い瞳が、残酷なまでに冷たく沈んだ。


「そして一度そのコルディウムが発動すれば……私ですら止められません」


完璧な静寂が刹那を満たしたかと思うと、


「ぶわっはっはっはっ!」


野営地を取り囲んでいた屈強な男たちの間から、雷のような爆笑が弾け出た。


男たちは自分の膝を叩き、刀の柄を打ち鳴らしながら、腹を抱えて転げ回らんばかりに笑い声をぶちまけた。


「聞いたか、頭⁉ フォーク1本で、俺たちの首を全部掻っ切るんだとよ!」


「くはは! あの小便でも垂らしそうなひょろひょろが、俺たちを皆殺しにするってか⁉ 顔に毛も生えてねえ青二才がよ⁉」


「法螺も程々に吹かねえと騙されてやれねえぞ! 薬草を食いすぎて頭がおかしくなったんじゃねえのか⁉」


嘲りと野次が、霧の立ちこめる空き地に反響した。


だが、イヒョンと正面から目を合わせていた頭目の男だけは、笑わなかった。


「……」


イヒョンの目をまっすぐに見ていた頭目は、背筋を伝って冷たい汗が一筋下りていくのを感じた。


イヒョンの表情と眼差し、そしてその言葉には、いかなる誇張も脅しも、微塵も混じっていないということを、頭目は本能的に察することができた。


長い逃亡生活と、死の敷居を行き来してきた野獣のような勘が、男の首筋を荒々しく締めつけてきた。


あれは明白な『真実』だった。


頭目が重々しい、たこのできた手を、宙へさっと掲げた。


その場を満たしていた男たちの荒々しい笑い声が一息にぷつりと途切れ、冷たい沈黙が野営地の上に降りた。


頭目は生唾をごくりと呑み込んだ。そして一段と沈んだ声で、イヒョンをまっすぐに見据えた。


「……分かった。あんたの面構えを見るに、偽りをほざいているようには見えんな」


男の傷跡の刻まれた顔の上に、濃い緊張が垂れこめた。


「……それならば、いったいどうすれば、その化け物は目を覚まさずに済むのだ?」



読んでくれてありがとうございます。


本業の都合により、小説の投稿時間が不規則となっております。

ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。


お読みいただき、楽しんでいただけましたら、ブックマークやコメントをお願いいたします。


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