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27. 鏡

朝焼けの光が窓から柔らかく差し込み始めた。


カーテンの隙間から波のように流れ込む優しい陽光が、ベッドに横たわるカレンの顔を温かく包み込んだ。


イヒョンはいつものように早起きし、静かな朝を迎えていた。


灯りの光が次第に窓から差し込む陽光に押されて薄れゆく時間、イヒョンはカレンのそばに座り、彼の状態を丁寧に観察していた。


カレンの手首に指先を当てると、昨日よりも力強く、はっきりとした心臓の鼓動が伝わってきた。脈拍は安定したリズムを刻んでいる。


「呼吸もかなり安定してきたし、脈もずいぶん良くなった。よかった、ペニシリンがちゃんと効いてるみたいだね。」


イヒョンは小さく独り言をつぶやいた。


カレンの熱はまだ完全に引いていないものの、危機的な状況は確実に乗り越えたようだった。彼の体から徐々に蘇る生気がはっきりと感じられた。


イヒョンは点滴を交換しようと席を立った。


その瞬間だった。


「マ… マリエン…」


弱々しい声が静かな部屋の空気を繊細に切り裂き、イヒョンの耳にそっと染み込んだ。

間違いなかった。


微かで小さかったが、確かにマリエンを呼ぶカレンの声だった。


イヒョンはすぐに首を振り返り、カレンの顔を見つめた。カレンのまぶたがわずかに震えたかと思うと、ゆっくりと目を開け始めた。


重たく瞬くまぶたの下で、きらめく瞳がぼんやりと天井を眺めた。


「カレンさん、意識が戻ったんですか?」


イヒョンは席を立とうとした動きを止め、再びベッド脇の椅子に腰を下ろし、カレンに向かって身を乗り出した。彼の肩を軽く叩きながら、低い声でもう一度尋ねた。


「ここがどこか、わかりますか?」


カレンのまぶたが震えるように何度か瞬き、ゆっくりとイヒョンに顔を向けた。


「ここは… どこだ… マ… マリエンは… ゴホッ! ゴホッ!」


痰に絡んだかすれた声が、カレンの口から苦しげに漏れ出た。彼の声はひどく擦れ、言葉を続けるのに苦労していた彼は、すぐに激しい咳を吐き出した。


イヒョンはカレンを落ち着かせた後、柔らかく微笑みながら言った。


「少し待っててください。」


イヒョンは椅子から立ち上がり、作業場に併設されたキッチンへと足を運んだ。


しばらくして、慌ただしい足音が響き始め、マリエンが部屋に入るより先に、彼女の叫び声が家中にガンガンと響き渡った。


「カレン! カレン!!」


すぐにドアが乱暴に開き、マリエンが部屋に飛び込んできた。


彼女はカレンのそばにドサッと座り込み、彼の手を力強く握りしめた。


「カレン! カレン… 目を開けて。わたしよ、マリエンよ。」


カレンはゆっくりと目を開け、マリエンに顔を向けた。


彼の瞳がマリエンの目に映った瞬間、彼女は両手でカレンの顔を包み込み、優しく撫でながら涙を流した。


「ぁぁ、アモリス様! ありがとう… 本当に目を開けてくれた…」


マリエンの肩がヒクヒクと震えた。


彼女の声は泣き声に混ざって聞き取りにくく、顔は涙でびしょ濡れだった。


自分を抱きしめて涙を流すマリエンを見たカレンは、細く開いた目で微笑もうとして一瞬動きを止めた。


「ゴホッ、ゴホッ。」


彼は再び痰が絡んだ荒々しい咳を吐き出した。


マリエンと一緒に駆けつけたセイラは、素早くテーブルの上のタオルを手に取り、カレンの口元に付いた痰を慎重に拭き取った。


「大丈夫… マリエン、泣かないで…」


カレンの声は弱々しかったが、優しい慰めが込められていた。


そのそばで静かにその光景を見守っていたドランは、ベッドの足元に膝をついて座り、手の甲で涙を拭った。


「ぁぁ、神様… ありがとう。君の声をまた聞けるなんて…」


ドランは涙を隠そうと顔を背けたが、震える声は感情を隠せなかった。


「これからは幸せな日々だけが待ってるのに、このまま死んじゃダメだよ。」


ドランの声は笑いと涙が混ざり合い、響いた。


イヒョンはドアにもたれて静かに立っていた。


彼の顔には、長い戦闘の末に勝利を目前にした将軍のような、満足感と温かさが混ざり合った表情が一瞬よぎった。


カレンの妻であり魂の伴侶であるマリエン、兄弟のようにそばを守り続けたドラン、いつも彼の顔に笑顔を浮かべさせた友人アンジェロ、そしてセベールまで。この全ての人々の力が、イヒョンの知識と献身、燃えるような情熱と一つに溶け合い、この奇跡のような瞬間を生み出した。


カレンの命が徐々に蘇り始め、イヒョンが正しかったという証拠が今、目の前に広がっていた。


カレンはマリエンの後ろに立つイヒョンとセイラを見つめた。


「あなたが… 私を助けてくれたのか?」


彼の声は依然として痰に濡れて荒々しく擦れていた。


イヒョンは無言で軽く頷いた。


セイラは手に持ったノートに素早く記録を残していた。


『ペニシリン投与後28時間経過。脈拍安定、血圧正常、発熱減少、呼吸安定、意識回復。』


そして一瞬立ち止まり、短い一文を付け加えた。


『我々に必要なのは神の奇跡ではない。』


ドランは顔から笑みをどうしても消せなかった。


数日前まで死の淵に立っていた友人が、妻の名前を呼びながら目を開けたという事実は、ドランにとってどんな華やかな獲物を捕らえた喜びや、山のような金貨よりも貴重な瞬間だった。


「アンジェロにすぐに知らせなきゃ。遅れたらまた大騒ぎして興奮するぞ、あいつ。」


ドランは外套を羽織り、アンジェロのガラス工房へと大股で駆けていった。


彼がドアを開けて出て行く瞬間、家の外からその後ろ姿を静かに目で追う者がいた。


ルカスだった。ドランが去った後、セルカインは自然に彼の家へと足を向けた。


口元にはいつものように柔らかく温かい微笑みが浮かんでいたが、その瞳には暗い影が濃く宿っていた。


家のドアを軽くノックすると、中から慌ただしい物音が聞こえ、セイラがドアを開けた。


「あ、ルカスさんですね。」


セイラは顔に明るい笑みを浮かべて彼を迎えた。


「本当にいいタイミングで来ましたね。」


「いいタイミングって?」


セイラは喜びに溢れてどうしようもない顔でルカスを見つめた。


「いい知らせがあるんです! カレンおじさんがついに意識を取り戻したんです!」


ルカスの眉間が一瞬わずかに歪んだが、すぐに明るい笑みに変わった。


彼はカレンが生き返った事実だけでなく、イヒョンの常識外れの方法が効果を上げたことに内心不快感を抱いていたが、表面上は驚きと喜びを装った表情が自然だった。周囲の人が彼の刹那の表情を誤解するのに十分だった。


「え、本当ですか? なんて嬉しい知らせでしょう! これ以上驚くべきで感動的な出来事があるでしょうか? イヒョンさんの能力は本当に… 感嘆せざるを得ませんね。」


彼の言葉に、セイラは誇らしさを隠せず、力強く頷いた。


「そうでしょう! 私はいつもルメンティアを固く信じてましたよ!」


その時、セイラの後ろでリセラが静かに姿を現した。


リセラはルカスの話し方や表情の裏に隠された本心を見抜こうとするかのように、鋭い眼差しで彼をまっすぐに見つめた。


「いらっしゃい。本当に驚くべきことですよね。一晩でこんなに急に良くなるなんて思わなかった。」


「もし… よろしければ、カレンさんに少しお会いできますか?」


ルカスがセイラに柔らかく温かい声で尋ねたその瞬間、部屋からイヒョンが出てきたところだった。ちょうど彼はカレンの点滴を交換し終えたところだった。


「大丈夫だと思いますよ。マリエンさんが許可してくれるなら。」


イヒョンの言葉に、マリエンは一瞬ためらった後、すぐに頷いた。


「今なら大丈夫そうです。さっきまでは疲れたように目を閉じていましたが、状態はかなり安定しているみたいです。」


ルカスはイヒョンとマリエンに軽く頭を下げて礼を示し、柔らかな微笑みを浮かべて部屋に入った。


ベッドに横たわるカレンはまだ力なく見え、顔色も完全に明るくはなかった。それでも彼の顔には微かな生気が漂い始め、深い穏やかさが滲み出ていた。


鼻にはイヒョンが話していた革製の管が挿入されており、腕にはルカスが初めて見る透明なチューブの先に繋がれた銀色の針が刺さっていた。


ベッド脇のテーブルには、イヒョンが使った銀の針をはじめ、さまざまな医療器具や空の点滴ボトルが整然と並べられていた。


ルカスの瞳が一瞬揺らいだ。


『これは操作や嘘じゃない。本物だ。』


イヒョンの功績を最初に耳にした時、彼は漠然とした違和感と脅威を感じただけだった。しかし今、イヒョンの手によって生み出された奇跡の現場と、生き生きと息をするカレンをこの目で直接見た瞬間、セルカインの背筋に冷ややかな恐怖と怯えが走った。


ベルダックがイヒョンを生け捕りにできなければ必ず排除しなければならないと言った理由が、骨の髄まで染み込むように感じられた。


『こんなことが… どこでも起こり得るなら、インテルヌムだけでなくエフェリア全域が危険になる。コルディウムの秩序そのものが崩れるかもしれない。』


彼の眼差しが冷たく固まった。普段は平然と隠してきた彼の暗い本性が、もはや抑えきれないほどに揺れ動き始めた。セルカインは内心深くで蠢く怒りと憎しみ、恐怖が漏れ出すのを完全に制御できなかった。


その瞬間、ルカスの後ろで彼を静かに観察していたリセラの眼差しが鋭く光った。しかし、彼女を除いて誰もルカスの変化に気づかなかった。


リセラは昔から、ルカスの話し方と表情が一致しない奇妙な気配を感じ、絶えず違和感を抱いてきた。一時は自分の直感が間違っているのかもしれないと思ったこともあった。しかし今、この決定的な瞬間を目撃し、彼女は確信に達した。


『このルカスという男は普通の人間じゃない。あの外見は偽りの殻にすぎない。その中には黒く冷たい気配が渦巻いている。危険な人物だ。』


「本当に驚くべきことです。奇跡という言葉でも足りないくらいです。イヒョンさんはこの時代を超えた人物ですよ。」


ルカスはやや大げさな身振りや表情で振り返り、イヒョンに向けて賛辞を浴せかけた。彼はしばらく派手にイヒョンの功績を称賛した後、ふと懐に手を入れて銀色に輝く小さな手鏡を取り出した。


「旅の途中で手に入れたものです。売ろうとしたんですが… なぜか新しい持ち主が見つからなかったんです。今日のような日のために私のそばに残っていたようです。これはイヒョンさんに差し上げるのがふさわしいと思いました。」


彼は丁寧な態度で手鏡をイヒョンに差し出した。


「受け取っていただければ、これ以上の名誉はありません。」


楕円形の手鏡は手のひらほどの大きさで、銀で精巧に装飾された縁が光を放っていた。裏側には鳥と蛇が絡み合う文様が華やかかつ繊細に刻まれていた。


イヒョンは慎重に手鏡を受け取り、自分の顔を一瞬映してみた。鏡や装飾品に全く慣れていないイヒョンの目にも、この品が一目で高級かつ精巧な宝物であることは明らかだった。


「思いがけない贈り物ですね。ありがとう。」


「こちらこそ、この奇跡のような瞬間を直接目撃させてくれて感謝しています。」


ルカスはもう一度イヒョンに丁寧に頭を下げた。


「今、食事の準備をしていたところなんですが、せっかくお越しいただいたので、一緒にご飯はいかがですか?」


マリエンはカレンの回復を喜びながら、ルカスを親しげに食事に誘った。


「ありがたい申し出ですが、今日は必要な物を買いに出てきたので…」


ルカスは脱いでいた帽子を被り直し、丁寧に断った。


「またお会いできるのを心から楽しみにしています。」


「ええ、私もここにいつまでいるかわかりませんが、機会があればまたお会いしましょう。」


「こんな大きな街に来て、もうお帰りになるなんて残念です。」


マリエンが少し名残惜しそうに言った。


「流れ者の旅人の宿命ですよ。次に会った時には… きっともっと驚くべきことを見聞きするでしょう。本当に楽しみです。」


ルカスは微笑みながらゆっくり後ろに下がり、ドランの家を出た。



読んでくれてありがとうございます。


読者の皆さまの温かい称賛や鋭いご批評は、今後さらに面白い小説を書くための大きな力となります。

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