第六二話 囚われたミルフィ
眩い閃光とともに、謁見の間の天井を突き破るような光が広がった。
ジウイの叫びとともに暴走した創造の力は、純白の輝きを放ちながら周囲を呑み込み、あらゆる黒ずみを一瞬で焼き払った。闇をもたらした黒ずみの波は、白き想像の光によって飲み込まれ、まるで何もなかったかのように掻き消えていく。
呻き声を上げて倒れていた騎士たち、そして黒ずみによって変貌した使節団の面々も、光の中で次々と焼かれるように動きを止め、その場に崩れ落ちていった。
「……ジウイ?」
王子が声をかけるよりも早く、リューンが駆け寄る。
中心にいたジウイの身体からは、なおもほのかな光が漏れ続けていた。しかし、それはすぐに細く、かすれていき──次の瞬間、ジウイは糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「ジウイ!」
リューンが膝をついてジウイを支える。額に手を当てると、熱い。まるで高熱を発しているかのような発熱だった。息はある。だが、その表情には苦痛と疲労の色が濃く、明らかに普通の気絶ではない。
「くそっ……これは」
カイルが駆け寄り、迷わずジウイの身体を抱きかかえる。軽い。少女の身体は想像以上に軽く、そして今はあまりにも力が抜けていた。
「ジウイ、しっかりしろ……! ミルフィが……さらわれたんだ。お前が倒れてる場合じゃ……!」
だが、ジウイの意識は戻らない。額から滴る汗。胸はかすかに上下しているが、反応は一切なかった。
「高熱です、殿下……これはただの疲労じゃありません」
リューンが険しい表情で告げる。
「創造の力を……制御せずに解放した代償か……」
王子が振り返ると、騎士たちが謁見の間へと殺到し、倒れている使節団の確認と遺体の搬送を開始していた。王の身は、すでに数人の近衛によって別室へと移されている。謁見の間は戦場だった。黒ずみに操られた者たちは一人も生き残ってはいなかった。
「……誰一人、生き残っていないか。やはり、これは……」
リューンは唇を噛む。もはや言葉は不要だった。これは明確な攻撃だった。そして──その目的は、ジウイだったに違いない。
「ミルフィは……?」
王子が問いかけると、リューンは首を横に振る。
「行方不明です。ジウイくんに向けられた転移の魔法で、代わりに連れ去られてしまったのでしょう。」
「ジウイの身代わりにミルフィがか」
王子は低く、唸るように呟くと、顔を上げた。
「カイル、ジウイを安全な場所へ運んでくれ。休ませる部屋は確保してある。リューン、城内の防衛と、脱出経路の封鎖。あらゆる可能性を洗い出してくれ」
「はっ!」
リューンが答えると、すぐにその場を後にする。カイルも、ジウイの身体をしっかりと抱え、走り出した。
場面は変わり──王都、大聖堂。
荘厳な回廊に満ちる光が一瞬、ゆがんだ。空間が軋むような音を立て、中心に蒼白い光の渦が現れる。次の瞬間、空間の裂け目から、一人の少女が床に投げ出されるように現れた。
「……これは」
周囲にいた修道騎士たちが一斉に動き、光の渦の収束を確認すると、緊張を孕んだまま少女の周囲を固めた。
気を失ったまま倒れているのは、青いローブをまとった少女。浅く息をし、額には冷や汗が浮かぶ。
「転移陣が発動した痕跡は、確かに“創造の子”を指していたはず……」
静かに歩み寄ってきた二人の大司教が、少女の顔を覗き込んだ。金と紫の刺繍をまとった法衣の裾が、床をすべるように揺れる。
「……違うな。これは“器”ではない」
低く、老人の声がつぶやく。
「姿形は似ているが……創造の力が感じられん。こんな、ただの子ども……!」
大司教バレノスが苦々しく顔を歪める。
「まさか、外したのか? あの老いぼれめ……」
「最後の最後で取り逃がすとは、我々の期待をどこまでも裏切ってくれる」
「いや──いや。これはむしろ、価値があるかもしれん」
「……ほう?」
大司教オルヴァンが、倒れた少女──ミルフィを見下ろしながら、わずかに目を細めた。
「転移術式は、“創造の子”に向けて発動された。だが、干渉を受けた。意図的な割り込みか、あるいは偶然の代償か……この少女は“身代わり”にされたのだ」
「つまり、“創造の子”の近くにいた、と」
「ああ。しかも、無傷で転移を受けたということは、それ相応の魔力耐性、あるいは別種の祝福を持っている可能性がある」
床に崩れたミルフィの指先がわずかに動いた。だが、意識は戻らない。転移魔法の副作用だ。肉体には問題ないが、精神に深い靄がかかっている。
「……あのおいぼれも、せめて贖罪の機会くらい果たしてみせろというのだ。滑稽にもほどがある」
「我々は“創造の子”を取り逃がしたのではない。真なる道筋を見つけただけだ」
「そのための捧げ物なら──悪くない」
再び、大司教たちの視線がミルフィの上に落ちた。
ただの少女ではない。力を持たぬ者など、転送の副作用で肉体が崩れていたはずだ。この少女は、それに耐えてここに届いた。
つまり、“何か”を持っている。
「準備を進めろ。この娘の記憶を調べる。創造の子と接触していたならば、痕跡があるはずだ」
「ふん。まさかとは思うが、“同類”であったなら──それはそれで面白い」
言葉と共に、静かに結界が張られる。ミルフィの身体は淡い光に包まれ、台座の上へと浮かび上がった。
その瞳はまだ閉じられていたが──その奥で、夢とも現ともつかぬ混濁の中、うっすらと何かを視ていた。
「……光……?」
唇が、かすかに動く。
だが、誰もその声を聞くことはなかった。
大聖堂の中に、再び静寂が戻る。
彼らの知らぬところで、ジウイの放った“創造の光”の残滓が、ミルフィの意識の奥底に、淡く──しかし確かに、刻まれていた。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク・評価・感想いただけますと大変励みになります。
---------------------------------------
毎日3回程度投稿しています。
最後まで書ききっておりますので、是非更新にお付き合いください。




