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第3話 魔王の娘を助けたら懐かれた件

「余の名はメル。命を救ってくれたぬし様に改めて礼を言わせてもらう。本当に感謝する」


 結局あの後、ドラゴンのシャドウを倒されたことで戦意を失ったのか、兵士たちは気絶した仲間を抱え、恐れおののくように逃げていった。

 今はメルと名乗った魔族の女の子に深々と頭を下げられている。


「足、大丈夫か?」

「ああ。ぬし様がくれた回復薬のおかげで今は何とも無い。それにしてもあんなに高価な回復薬を……。貴重な品だったじゃろうに」

「気にするな。傷ついた女の子を放っておけないさ」

「……ふふ。人族の中にもぬし様のような人間がおるとはな。どうやら相当なお人好しのようじゃ」


 メルは柔らかく微笑んで目を細めた。


「メルは俺のこと、怖くないのか?」

「あんな状況で助けてくれたぬし様を怖がる必要があるものか。それに、ぬし様は優しい人だとレネも言っているしの」

「ポヨポヨ!」


 メルは元のスライムのサイズに戻ったレネを手の中に抱えていた。


「メルは、レネの言葉がわかるのか?」

「ああ、魔族じゃからな」

「そうか……」


 メルはレネの体を優しく撫でる。

 レネもなんだか嬉しそうで、早くも懐いているらしい。


 それにしても、改めて見ると不思議な雰囲気を持った子だと思う。


 赤く燃えるような髪から少しだけ覗く角。そして妖精のように端麗な顔立ち。

 その特徴的な外見を除けば少女と言っていいほどなのに、老獪な話し方もあってかやけに大人びた印象を受ける。


「それにしても、ぬし様はどうしてこのような所に?」

「ああ、それは本当に偶然でね。屋敷を追い出されて隣町に行こうとしていたところだったんだよ」

「……どういうことじゃ?」


 俺は賢者の家系、カーベルト家を追放された経緯についてメルに説明する。


 話すにつれてメルの表情はどんどん険しくなっていって……、


「……何じゃそれは!」


 いきなり爆発した。


「そんなくだらない理由で実の息子を追い出すなどとは何と愚かな! どのような理由があるにせよ子を守るのが親の役目であろう!」

「ま、まあ落ち着け」

「その弟も弟じゃ! こんな可愛らしいスライムを傷つけるなど」

「ポヨ……」


 言って、メルはレネを抱きしめている。


 やっぱり変わった子だ。

 本来、魔族と人族は敵対関係にあるはず。

 それに、ついさっきまで人間から非道な仕打ちを受けていたというのに。

 会って間もない人族である俺の身の内を聞いて本気で怒ってくれるとは……。


 罵詈雑言を並べているメルに、俺はどこか感謝していた。

 きっと……、いや間違いなく良い奴だ。


「第一、ぬし様の魔法が役に立たない魔法じゃと? まったく無知も大概に――」


 ふと、俺は憤慨し続けているメルの言葉に引っかかるものを感じ、尋ねてみることにした。


「そういえば、メルは俺の魔法について何か知ってるのか?」

「ん? ああ。まさか人族の中でその魔法を会得した者がいるとは思わなかったが……」


 メルは一度言葉を切って、そして続ける。


「その魔法はな。我らが魔族の王となるべき者、魔王が扱う伝説の禁呪じゃ」

「は?」


 魔王? 魔王ってあの?


「いや、ぬし様が授かったそれは先代の魔王が授かった魔法よりも更に強力だろうよ。まさに――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の会得したのは魔王が扱う魔法だってのか? それに、そんなことを知ってるなんて、メルは一体……」

「むぅ、いいところじゃったのに」


 メルはなぜか頬を膨らませている。

 いいところって、何がだ?


「まあよい」


 メルは妖艶な笑みを浮かべながら続けた。


「先代の魔王というのは、余の父に当たる」


 ということは……。


「つまり、余は魔王の娘というわけじゃな」


 メルの発言に俺は呆然とする。


 奴隷になりそうな魔族を助けたらその子は魔王の娘でした、と?


 何だそれは。

 あまりに衝撃的すぎる。


「しかし……、そんな魔王の娘さんがどうしてあんなことに?」

「それは、ほれ。コレよ」


 ちょいちょいと、メルは自分の首元を指差した。

 そこには黒い金属製の首輪、奴隷錠が取り付けられている。

 

「魔族領に攻め入った人族に同胞の命を見逃すよう頼んだらこの通りじゃ。まったく忌々しい」


 なるほど。

 奴隷錠により力を封じられて、メルはここまで連行されてきたというわけか。

 どうやら仲間を庇ったのが原因らしい。


 ……やっぱり良い奴じゃないか。


 俺はふと父上に焼かれた左腕を見やる。


 ――それこそ、人族よりもよほど……。


 奴隷錠のこと、何とかしてやりたいが……


「ぬし様よ。もし余のことを助けようと思うならでよい。この奴隷錠を解いてくれんか?」

「それは助けたいと思うけど……」

「ふふ。ありがと」

「でも、どうすれば?」

「魔力を注ぎ込むイメージでこの首輪に触れてくれればよい」


 メルは赤い髪を掻き上げ、首元を俺の手の届く範囲に突き出してきた。

 俺はメルの首元に手を伸ばす。


「あ、優しく触っておくれ?」


 何だか悪戯っぽい笑みが含まれているのは気のせいだろうか?

 ご所望通り、俺は優しく奴隷錠に触れる。


「んっ――」


 わざとなのか、妙に艶めかしい声を出すメル。


 そして、


 ――ボロリ。


 メルの首元に取り付けられていた奴隷錠は跡形もなく崩れ落ちてしまった。


「壊せちゃったんだけど……」

「くっく。やはりな」

「どういうことなんだ?」

「恐らく一定以上の魔力を注ぐと壊れるんじゃろうな。余の父もこの首輪を外せたのよ。といっても、ここまでボロボロにはならんかったが」


 メルはくつくつと笑うと、姿勢を正すようにして俺に向き直り、そして言った。


「ぬし様は見込んだ通りのお人じゃった。まさに――」

「え?」


 何だ?

 メルの顔がやけに近く……、っておい、ちょっと待っ――。


「まさに余の伴侶としてふさわしい」

「んぐっ……!」


 突然のことに理解が追いつかなかった。

 いきなりメルに唇を塞がれたのだ。


「これからよろしくの、ぬし様よ」


 メルは口を離すと、俺の胸元に頭をグリグリと押し付けてくる。


 どうやらレネの他にももう一匹、魔族に懐かれてしまったようだった――。


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