第5話 父親(元転生者)の回想(生きてる)
回想!
幼いころから俺は父に憧れていた。
かつて、剣技に関して言えば並ぶ者が居ないとまで言われた最強の剣士。
だが若い頃の戦いで膝に矢を受けてしまい、前線から退いたのだと言う。
引退後は細々と剣を兵士たちに教えることで暮らしていた。
そして紆余曲折あり、母さんと結婚。
(当時の母さんはその美しさからトキオの白百合と呼ばれ、数多の男が母さんに交際を申し込んでいたらしい。ホントかよ)
俺を生まれてからしばらくは3人で仲良く暮らしていたが、
ある日、思い立ったように戦場へと向かい、
そのまま命を落としたそうだ。
父さんの亡骸は戦地からは戻らず、
俺と母さんは遺体の無い葬式を行った。
俺には父さんの記憶が殆どない。
5歳までは一緒に居たはずだが、
なぜかストンと記憶が抜け落ちてる。
思い出せるのは父さんの優しい笑顔だけ。
だが俺にはそれで十分だった。
何故ならば俺には、死んだ父の分まで俺を必死で愛してくれる、
母さんがいたから。
もしも父さんが生きていたとしたら、こう言ってやりたい。
――――――父さんが居なくても、全然寂しいなんて思わなかったよ。
・・・
・・
・
『おはよう』
『おはよう、カロ。ごめんなさい、私寝てしまったみたいで・・・』
ヒナタが申し訳なさそうに言う。
『いいんだよ。疲れてたんだろ。むしろ眠れて良かったな』
『う、うん。ありがとう。たしかにこんなにぐっすり眠れたのは、久しぶり』
ヒナタは言う。
自分の知らない場所に突如放り出されたのだ、当たり前だろう。
『母さんが、ヒナタに服を用意してくれたよ。それに着替えたら朝飯でも食べよう』
『ありがとう』
俺たちは朝の身支度を整えた。
「あらあら、おはようヒナタちゃん。似合ってるわよ!」
朝食を作っていた母さんが、振り返り言う。
目の前には母さんが用意した服を着るヒナタ。
たしかに可愛い。
昨日まで着ていた、たしか「制服」とかって服も可愛かったけど、
これはこれでいいな。
『似合ってるってさ』
『そ、そうかな・・・』
母さんの言葉を伝えると、
ヒナタは嬉しそうに顔を赤くした。
「カロ。あんた、今日はヒナタちゃんに街を案内してあげなさい」
朝食を終えたのち、母さんが言った。
「いや、でも今日も仕事探さないとだし、そんな暇は・・・」
俺は答える。
「いいから!一日くらい仕事探しサボっても文句言わないわよ!それよりヒナタちゃんの方が大事だわ」
母さんはそう言った。
そのやり取りを、ヒナタは心配そうに見ている。
俺は【翻訳】を発動させ、言った。
『・・・街を案内してやれってさ』
『・・・いいの?』
ヒナタは答える。
『母さんがここまで言うのも珍しいからな。俺でよければ街を案内するよ』
俺の言葉にヒナタの表情が明るくなった。
回想終わり!
街へ。事件の予感。