キャベツ
「キャベツについて語ろうぜ」
聖ディアール学院高等部、読書部部長の安夏先輩は真面目に読書をしていた僕にそう言った。
「え、なんで」
「幽霊部員多すぎでつまんねーから。ていうか、この小説がマジでつまらん」
途中まで読んだらしいハードカバーの新書を長テーブルに放り投げる。仮にも読書部部長が本を雑に扱わないでほしいんだけどなぁ。
呆れ顔で本を閉じた僕は眉を寄せた。
「だからってキャベツ? なんで?」
謎過ぎる。
「じゃあ、調理方法についてな。美味しい食べ方をこのあたしに教えろ」
僕の疑問は華麗にスルーされた。突拍子もないことを口走るのはいつものこと
「ええー……?」
確かに今は春キャベツが美味しい時期だけども。
「生でも良いよな。味噌とかマヨとか付けてさ。豚カツに乗ってる千切りの奴はソースで食べんのがマナーだ」
「そんなマナーありません。僕としてはドレッシング派ですし」
「ほう? なら焼きそばのキャベツはどうだ」
「それはソースですよ。食べ方は調理方法によるでしょう」
「優柔不断なやつめ。あ、芯は好きか?」
優柔不断?
「……固いし、苦手ですね」
「キャベツの芯はな、こう薄く切って漬け物にするんだ」
「なんかもうどうでも良くなってきました」
何の話に付き合わされているんだろう。
「ロールキャベツについてどう思う?」
「まったく、何も思うことはありませんね。食べたことないですし」
「トマト煮派とコンソメスープ派がいるんだぞ?」
「知りませんて」
僕がそう言うと、安夏先輩は二つの弁当の包みを取り出した。
「ロールキャベツ作ってきたんだ。あたしの手作り。さぁ、どっちにする?」
「えっ」
先輩の手作りロールキャベツは、トマト煮が美味しかった。
回りくどい前振りだった、らしい。




