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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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太照語訳・レパートと鏡の魔女

 野外ホールから少し離れ、僕達は公園の中心に移動した。

 大きな通りに面して、幾つもの露店が並び、人々が行き交っている。

 いい天気だし、芝生にレジャーシートを敷いて、そこで食べている家族連れやカップルがいくつも見られた。

「なんかこの旅、食べてばかりのような気がするな」

 露店の通りを歩きながら呟くと、ケイも頷いてきた。

「おそらく気のせい……と言いたい所じゃが、言われてみれば確かに言えてるのう」

「……あれだけ痛い目に遭って、なお食を求めるお前の食い意地に、僕はちょっとした感動すら憶えるよ」

「ふ、妾も学習能力はあるのじゃ。食べ物を持っている時には、動物に近付かない! 食べられる量だけ買う! どうじゃ!」

「うん、えらい。えらいけど、多分それ当たり前の事だと思うんだ」

 頭でも撫でてやろうかと思ったが、手で叩かれそうだからやめておく。

「むむむぅ……そういうモノかや」

 さて、と僕達は足を止めた。

 これだけ露店が多いと、正直困る。

 フランクフルト、ホットドッグ、ポップコーン、色とりどりのドライフルーツ、フルーツを搾った生のジュース等々。

「しかしそうなると、迷うのう。結構、よい露店が出ておるではないか」

「行列で判断するのも何だけどさ、多分長蛇の列が出来てる店が、味のいい店なんだろうな。もしくは有名な店か」

 そんな店がいくつか見受けられる。

 看板も洒落ていて、屋台専門の有名処なのかもしれない。

「であろうのう。妾としてはあの()()()というのに興味津々なのじゃが……今回は諦めた方がよさそうじゃの」

 看板だけは見えるけど、うん、人の数がザッと百人は超えている。

 空腹は最大の調味料と言うけれど、状況にもよるだろう。

「これは僕の想像だけど、あの連中は劇じゃなくてこの屋台そのモノが目的だと思う。あれ並んでたら普通に開始時間に間に合わないぞ」

「言われてみればこれは、屋台のイベントじゃの。向こうに大きな看板があるのじゃ」

 ケイが指した先にはなるほど、アーチ状の入場口があった。

 僕達は野外ホールの方から来た訳だけれど、こっちは裏手側だったようだ。まあ、こちらから入っちゃ駄目という決まりもないようだけれど。

 混雑している理由は分かったとして、そうなるとどこに行くかは絞れてくる。

「……じゃあ、まあなるべく混んでない店を選ぼう。ドリンクは最悪、自販機でいい」

「うむ。あ、炭酸入りの水は駄目じゃぞ。タダの泡のくせにあれ、何であんなにまずいんじゃろうの?」

 なお、作中これまで言及はしていなかったけれど、割と初日からケイはこれを主張していたりする。

「……舌を刺激する何かなのかなあ。まあ、僕達の味覚には合わないけど、こっちじゃむしろあれがスタンダードだっていう」

 正直僕も苦手だけれど、こういうのは国の味という奴だろう。ずっと炭酸抜きの水を飲み続けてきた僕らなので、違和感を覚えてもしょうがない。

「うむ」


 数分後。

「……そして結局、無難なポップコーンとソフトドリンクに落ち着いたのであった。まる」

 まったく待たずにそれらを買い、僕達は野外ホールの指定の席に座っていた。

 ちなみに入場口の横には劇団員がやっていた売店もあり、そこでパンフレットも購入済みである。

 それにしても……ソアラさん、すごくいい席をくれたモンだ。前から五番目、ほぼど真ん中だ。

「ポップコーンというのは、匂いも控え目、食べても音があまりならないという、正にこうした劇場にはうってつけの食べ物なのじゃ」

「何より、あまり腹が膨れないのがいいね。ちゃんと晩飯も食べられる」

「基本、ほとんど空気じゃからのう」

 はむはむと、ケイの小さな手が大きなカップに盛られたポップコーンを掴んでは、口に運んでいく。

「……いや、まだ食うなよ。始まる前に無くす気か」

 しかも塩味のポップコーンは喉が渇き、つまりドリンクも進む。

 ……トイレに行きたくなったらどうするのだ。

「で、ひとまず落ち着いた所で、一つ大きな問題が存在する」

「うむ、言うてみるがよい」

「今更だけど、言葉が分からない」

 本当に今更というか、まあもはや言わずと知れた事実である。

「うむ。じゃが劇の最中に通訳しては、周りに迷惑極まりないの」

「という訳で、筋だけでも予習しておきたいと思う。そうすりゃ言葉分からなくても、多少は楽しめると思うんだ」

 幸いな事に、内容に関してはパンフレットに概要が書かれている。いや、書いてなきゃパンフレットの意義が問われるんだけど。

 ケイはパンフレットを開き、内容に目を通してくれた……読むの早いなあ、コイツ。

「大劇場のように、翻訳機があればのう。まあよい。今回の『レパートと鏡の魔女』は名前の通り、主役はレパートじゃ。敵役は銀の魔女。さらにその黒幕として青き翼のチルミーがおる。もっとも、伝承によればチルミーはレパートと本格的に絡む前に、既に旅立っておるそうじゃから、この辺りが創作じゃの」

 読み終わり、ケイはパンフレットを閉じた。

 説明は以下の通りだ。


 話の筋としては鏡の城でのメインヒロインが鏡の魔女ミラ。彼女にとって至高の存在であり立場的には愛人であるチルミーは常に憂鬱で、これに娯楽を与えようと音楽や踊りで楽しませようとする。

 そんな彼が珍しく興味を抱いた存在、それがレパートだ。

 ミラはレパートに嫉妬を覚え、暗殺を試みる。

 一方城の外でのメインヒロイン、レパートは有翼人達の仕打ちに耐えながらも健気に生きている龍の娘。

 ミラが与える過酷な試練を乗り越え、追っ手の手から逃れ、『約束の友』の来訪を待ち続ける。

 山場となるのは宴のあったあの森で、ついに追い詰められる。

 しかしそこで『約束の友』が仲間と共に現れ、レパートの命は助かる。

 ミラと有翼人を相手に、龍人レパートとその仲間の反撃が始める。

 そして、レパートとミラは討たれ、空からチルミーが降臨。倒れたミラを抱え、空へと昇っていく。

 一方レパートは翼を持たない仲間達と、地を歩んでいく……というのが、大筋らしい。


 ……うん、我ながら説明が下手だ。

 ケイから聞いた時は、なかなか面白そうだと思ったんだけどなあ。

 あ、もちろんさっきも断った通り、多くの伝承に伝わってるチルミーやレパートの逸話とは時系列が大幅に異なっていますので、ご注意下さい。ケイも言った通り、創作です。

 ともあれ、内容は大体把握出来た。

「で、このレパート役がソアラさんと。何というか、すごい複雑な気分だ」

「午前中の案内人(ガイド)さんじゃからのう」

 僕達が話している内に、周りの席は全部埋まっていた。

 すぐ近くで同じ劇をやっているのに……という心配はまるで杞憂に終わった、満席ではないのだろうかこれ。

 そして、スピーカーからブザーが鳴った。

「お、そろそろ始まるか」

「うむ、集中集中。芝居の最中は妾に話し掛けるでないぞ」

 緞帳が上り、舞台が現れる。


 内容に関しては、上に述べた通り。

 主演のソアラさんを始めとした皆の熱演に、僕達二人としては、大変満足出来た一時間半だった。

 多くを語るのは野暮というモノなので、もしもこの本を読んでガストノーセンに興味を持ち、訪れる方がいれば、テンニン劇団の公演スケジュールを事前に調べておく事をオススメします。

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